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第20話「March of replication corps」

大変長らくお待たせいたしました。

<<フィールド:白亜神天上宮ヴァイスアールヴヘイム 現在地:中天セクト・ナク=メガロ区中央広場>>


前回アールヴヘイムを目指そうとして失敗したものの、白亜神天上宮に辿り着けたので

そこから再びアールヴヘイムを目指すことにしたサドラス達。


「何を今更な話だがよ。あっちこっちでレイドモンスターが軒並み復活してっから…」


芳しくない表情を浮かべる厳蔵を遮ろうとしたアリカを遮ったのはしえりゃん。


「この間の突入した時の糞●☆※電界皇のレイドモンスター軍団+ゲスモンスターαも

復活マジふざくんな電×■△皇が~…! っ的なヤツ~?」


目は笑ってないしえりゃんに諦めの表情を浮かべながらも突っ込むのを忘れないアリカ。


「根に持つのは勝手だけどさ…彼方此方に毒を吐き散らすの

マジ自重しろって言ってるだろうが…」


肩を竦めながらも何か得意げに返したのはKATUMI。


「まぁ初期配置分ばかりは自分のデバッグ専用スキルを以ってしても

対処のしようがないのであるからな」


「ほう、わかっていて尚俺を単独で行かせたのだな貴様は」

「うをっ?! ちょ待て話せばわかルぅtヴぃchッ?!」


サドラスはちょっと本気でKATUMIにワンパンをぶち込んだ。

KATUMIのHPゲージは四割失われ、

本人は「く」の字になって垂直に三メートル浮き上がった。

クリティカルが入っていたら即死していた可能性をあえて考慮しないのは

サドラスという男のゲスっぷりを鑑みれば仕方の無い(では済まない)ことだ。


「え…エリクシルの浪費なのである…!」


時々咽ながらもエリクシルを数本飲み干し終えたのを見計らってスイゲツが

KATUMIに切り出す。


「あの。KATUMIさん…突入のことなんですが…」

「ごふっごふっ…! …焦る気持ちは分かるのだが…白亜神ヴァイスアールヴ族達の

協力で超特急ピッチで準備を進めているが…少し待ってて欲しいのだよ」

「…それ、いつまで?」


サドラスの背後からぬるりと顔を出してきたのはハンドレッド

ぬるりと顔を出しつつむにりとサドラスの体に腕を這わせ絡ませるのはもうデフォだ。

クソ忌々しそうな表情を浮かべつつも実は堪能しているサドラスも安定のゲス野郎だ。


「はっきり答えられないくらい進捗はよろしくないのである」

「使えぬ運営じゃのう」


初めてKATUMIに毒づいたような気がするのはユスタリシア。

もちろん彼女もサドラスに腕を這わせ絡ませているがもう何も言わぬ。


「ま、門外漢な俺らが喧々諤々しててもショウガネーっと。

ってことで俺らはなんか時間余ったっぽいけどおk?」


厳蔵のその一言を聞いて顎に手をやるサドラス。


「ロティ」

「は、はいッ!?」


いつもなら頭に一発ご愛用のメイス「ドラゴン殺し+121」…

いや今はランクアップして「ドラゴン滅し+136」を

フルスイングされていても何らおかしくない状況だったが、

全然そんな感じがしなかったので気になって声をかけたら

どうやらロティは何かに緊張しているようだった。


「らしくないな。いつもなら俺の頭に一発良いのをくれるじゃないか」

「常識のために何度でも言うておくが普通じゃったら今のロティが振るうと

ノーマルレイド級のドラゴンの頭が木端微塵に粉砕されてても

全然おかしくない威力じゃからな?」

「シュウ…ロティの素のSTR、女子メンの上から数えて二番目…人族アンスロ最強?」

「そうですね。ロティ殿の素のSTRは七万…上位超人ハイエトランゼの領域に達しましたから…」


さりげなく会話に入ってきたキュクルの存在にカッと目を開くロティ。


「な…なんでみなさんはんなりっぽく普通にしてられるんですかッ?!

っここ!! ここがどこだかわかってますぅ?! ここは白き亜神の天の上の宮!!

神代の時代から伝説の土地と語られてきたヴァイスアールヴヘイムですよ?!

神々の化身マネジアズの領域であり神に最も近いとされる種族!!

白亜神族さんたちの住まう領域なんですよ!? 今まで何とか黙ってましたけど?!

やっぱりみなさんちょっと常軌を逸してるんじゃないですかねぇ?!」


よく観察してみるとロティは緊張というより興奮しているようだった。

そしてその手の反応は人族サイドの反応として普通のようだ。

実際スピナは野次馬の白亜神族一人一人の動向を冷や汗垂らしながら伺ってるし、

サドラスと共にいた時間の長さが故に自らを天上級に超える

高レベルの者への耐性があるメドラやクリシュネーアはともかく

ララリリルが普通に黙ったまま白亜神族と目が合わないよう何気にサドラスの裾を

幼子みたいに端っこを掴みながら根を張る草木の如く傍から動こうとしないし

例外的に何かを懐かしむような表情を浮かべる竜の姿のグウェンダの元には

ジル=ルミルを筆頭にした疾風怒濤魔女団シュティミュンドロングの幼魔女たちがくっ付いたまま離れないし

サリナは「何もかもが夢…? いや、これは現実!」とか言って小刻みに震えながら

感動しててシルビィはシルビィで目の前の現実に脳がついてこないせいか

目の前でむしろ一切のブレがないセクハラ行為に及ぼうとした

神官アズヴェルを条件反射スタン攻撃からの目を白黒させながら殆ど無心無想無常で

連続踏付スタンピングにダメ押し連続鞭打スパンキングしているのだ。


「まぁ隠しステージなんてのは今に始まったことじゃないからな」

「隠しっていうか本当は原則立ち入り禁止の運営ステージだろうが?」

「しかし白エルフさんたちは見た目が中性的すぎるから

どストライク美男子だと思ったら実はそう見えるだけのガチ同性だったりで

でもそれはそれでもしかしたらイケるかもしれないと思ったなう~♪」

「ベクトルがおかしい方向に入ってるぞ、しえちゃん…」

「あ、ボクが聞いた話だと白亜神族さん達はみんな“亜神眷属霊獣アールヴキプファー”っていう

専用召喚スキルが使えるらしいんだよね…片っ端から頼み込んだら

誰か一人くらいは伝承スクロールとかくれるんじゃ…?」

「最悪白エルフ流の剣術スキルのラーニングだけでもさせてもらえると有難いかなっ?」


それでいてPCメンツは存外淡泊なのだ。こればかりは人族とPCの運営かみがみ

白亜神族といった上位種族に対する認識の違いの差なので難しい問題である。


「話を戻すがKATUMI、数日中にどうにかできるレベルではないんだな?」

「いくらここでは魔法が使えるとしてもこちらでも普通のようである

物理法則はそう易々と越えられるものではないのである……………………………………

……………………………………………………………一か月くらい時間くださいm(__)m」


サドラスは再び顎に手をやったかと思うと一瞬ゲス顔になってベタな閃きポーズ。


「ロティ、折 角 だ か ら シルドラントに里帰りしてみるのはどうだ?」

「はいぃ?! いやあのどの辺りが折角なのか意味がわからないんですけどぉ!?」



<<フィールド:ミズガルズ地方 現在地:シルドラント王国・ベルクーリ邸>>


ルーンテールやアロフネス、グライデルダムントなどの大国に比べると

どうしても都市国家ゆえの小国観が浮き彫りになってしまうが、

ここはアペリウス壊滅や竜帝国皇帝と一対一で普通に勝てると噂の

暴虐廃人ティラニスマグナウスザドゥルオウスないしルーンテール帝国最強最大侯爵ライヒスタークステンアークマルキスことサドラスが

最初に訪れて一悶着をおこしまくった国として最近は多くの冒険者や観光客に

シン=サドアスラース神法国の巡礼者とかがゾロゾロ来るようになったのである。

シルドラント王族をはじめとした各統治者たちは

そのことに色々と複雑な気持ちを抱いてはいたが冒険者も観光客も

神法国からの聖地巡礼者も惜しみなく沢山のお金を落としていくので

「色々思うところはあるけどとりま、おk」で日和ひよっていた。大丈夫か。


「毎度有難うございます。竜帝国グライデルダムント早竜便でございます」


と、見た目からは想像つかないほど流暢な人族の言葉を話す竜人ドラグナー族が

ある家を訪ねてきた。使用人らしき猫耳の人族がその声にいそいそと現れる。


「いつもお疲れ様です。お嬢様のお手紙ですか?」

「はい。ご息女様のお手紙を数点お預かりしております。

ベルクーリ様からの御返信はありますか?」

「あ、はい。こちらです」


随分と慣れているようで、お互い封筒の束を整然と交換し合う竜人と使用人。

支払いの方も合わせて行っているようだ。


「では、確かにお預かりいたしました。それではまた」

「お気をつけて~」


外に出て颯爽と飛び去る竜人をやはり慣れた様子で見送る使用人。


「旦那様~? 奥様~? お嬢様からのお手紙が届きましたよ~?」


ここはロティの実家で何気にシルドラント王家に縁戚関係を持つ名家ベルクーリ。

現当主にしてロティの実父である壮年の人間族の男ユベロン・ベルクーリは

できるだけ急いで走り寄る使用人の姿を見て椅子から立ち上がった。


「今日の手紙は随分と早い時分に来たのだな」

「いつもなら二日は間隔がありましたものぉ」


今でこそ光妖精ウィルオウィスプ族の妻レーツァと共にまったりと対応できるが、

ユベロンがそこに至るまでには様々な懊悩おうのうがあった。


「今日は手紙も少ないな…」

「少しは落ち着いたと考えて良いのでしょうかぁ?」


ロティはベルクーリ家4男5女の三女で下に弟一人、妹二人がいる。

女子としてもほぼ真ん中なので親に甘え過ぎず、

上の兄姉に余計な反目もしない人物に特筆するほどの可もなく不可もなく育った。

それ故なのか、これといった特徴が無い…ユベロンはそう思っていた。


「お手紙の内容はこの間の続きみたいですねぇ、あなた」

「うむ…」


だから見合い話を持ち掛けた途端に「ちょっと冒険者やってみますねぇ」と一言残して

飛び出していったかと思えば王家の(放蕩者とはいえ)公爵閣下を救助するという

偉業を成すや否や青緑赤エールケーベー海へ行ってそこからさらに


西の大国ルーンテール帝国にさくっと定住を始める。


軍隊級レイドモンスターを単体で屠りハイランカーの一員となる。


アペリウス連盟国壊滅に関与。


生ける伝説アドミニストレータ天譴騎士団ロードオブロードスに接触する。


同様の生ける伝説である「廃人マグナウス」をぶん殴って無事。


等と聞けば聞くほど心配+眉唾でモヤモヤしていた。

まぁ手紙を届けてくれるのが南の新興大国

グライデルダムントの竜郵便りゅうびん局員だらけなので

内容が完全なる眉唾ではなく多少大袈裟なのだろうと思ってはいるのだが。


「あらあらぁ…今度は天使様に魔鋼人タゥフェルメタノイド族ですってねぇ…

大都会はやっぱり違うのですねぇ」

「そうだな…」


もしかするとロティはルーンテールで作家でもやってるのかもしれない。

自分の出版した本が売れに売れて売れっ子になってしまって手紙を送るだけが

精一杯なのかもしれない。そう思うほどに彼女の手紙の内容は

まるで 見 て 聴 い て 体 感 し た かのような迫力があるのだ。

時々涙らしき水滴が付いた跡があったりするが、

それは流石に過剰演出ではなかろうかと実の娘を勘繰ってしまう。


「何にしても、一度は顔を見たいものだ」

「そうですねぇ……あらぁ? 今回もサドラス様が主軸のお話なのですねぇ…

あらまぁすごい…天使様を退治してドラゴンを救っちゃうなんて型破りねぇ…

あらぁ、向こうでは海水浴が流行っているようですよぅ?」


今ルーンテールで描いている物語の主人公

(おそらくモチーフは娘の奉公先の主人だろう)の活躍のネタ晴らしを交えての

実生活報告もそれはそれで趣があって良いが、ちょっと現実と幻想が混同するほどに

忙しくなっているのではないのだろうかとユベロンは心配が募ってきた。


「む……次の手紙は陛下の実印入りの招集状でも添えて帰省を促すべきかもしれん」

「招集状はやり過ぎですよぉ」


妻はふんわりと受け止めるので本気で信じているのかどうかわからない時がある。

怒るときは「歯ぁ食い縛れやぁッ!」と鬼神の如く恐ろしいが…それは置いておく。


「そろそろ詳しい実生活の話が出てきても良い気がするな」

王国シルドラント帝国ルーンテールの文化の違いをきちんと考慮しましょうねぇ…

あなたは相変わらず頑固ですものぅ」

「いやしかしだな、レーツァよ…」


今日もこんな感じでベルクーリ夫妻は微妙にまったりした雰囲気で、

遠い異国に暮らす娘に思いを募らせる……


「だ…だ、だだだ旦那さまぁ~~~~~~ッ!?」


かと思ったのだが、使用人が大きな口を空けながら走ってきたので中断された。


「騒々しいな、どうしたのだ?」

「あらぁ…顎が外れそうじゃないですかぁ…少し落ち着きましょうねぇ」


肩で息をする使用人に優しく声を掛けるベルクーリ夫妻だったが、


「た…只今戻りましたぁ…」


「「!?」」


久しぶりに聞く母親似の声音が使用人の後ろから聞こえてきたので、

夫妻は思わず口角を上げてその方向を見たのだが…


「………えーと…?」

「あらぁ…?」


「うぅ…だから帰りづらいって手紙でも言ったじゃないですかぁ…!」


声以外は色々と変わりまくったロティ


「頭上の名前も???ですし…」

「背中に六対の光の羽と、竜をも滅する合成棍棒ヴァリアブルメイスを数本も携えにけり…」

「ましてレベル四桁&存在進化EXの四半神霊クウォーターデウスだ。

実の子に高位アナライズを掛けねばならないなどという状況はそうそうあるまい」


小柄であどけなさを感じる印象だが何気に眼光鋭い戦鬼オーガスの魔術師と、少し癖があるが

流暢に人族の言葉を話す妖花精バンシーに全身紫づくめの装備に身を包み、

頭上にやはり???表示の見るからにヤバそうな面子と共に立ってたのだから。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:旧魔族領・アペリウス自治区>>


旧魔族領の旧アペリウス連盟国改めアペリウス自治区。

とある廃人が率いた怒れる疾風怒濤の如き魔女団によって半壊させられた都心も

彼らによって許され、様々な国から復興支援を受けて立ち上がった

旧アペリウス国民たちによってようやく町らしい程度にまで復興が進んでいた。


「酒は飲んでも飲まれるな!」

「飲んだら乗るな、飲まずに呼ぼう!」

「自治区鎧機兵アルマパラトセリ操縦代行組!」


とか言いながらアロフネスから輸入された「直し」と呼ばれる焼酎の味醂割り…

すなわちアルコール×アルコールという誰得なカップリング酒を

軽く引っかけながら昼休みをするアペリウス人たち。


「今月は事故件数が一ケタで終わるよう努力しろって自治区政府も言ってるだろ…」


溜息をつきながら昼休みをする彼らを見守っているのは旧魔族領を統治する

城塞都市ダエモンシュタットより派遣されてきた魔人ディアブル族の兵士。

だが呑兵衛が酒飲みを自重するのはよほどのことが無い限りありえないことだ。

復興のために一度は没収した鎧機兵だが、それが無いとアペリウス人は

基本フィジカル系が貧弱なテンプレ魔術師のステータスしか持たないものがほとんどだ。

なるべく自力で復興させるためには使えるものは使えと言うコトで、

戦闘用の兵器を一切合財取り外して彼らに鎧機兵を返したのだが、

戦う必要が無くなった彼らは酒好きのダメな部分が良く出るようになり、

此方でいうところの交通事故みたいなのをガンガンやらかす……しかも飲酒運転。

回復魔法やポーション、即死でなければどうにかなるエリクシル類が無かったら

現代のKY且つDQNないし自棄ドランカーの殆どがしょうもない理由をキッカケに

呑んでやらかす最低最悪な危険運転云々より悲惨なことになっていただろう。


―ズゥゥゥン…!―

 ―うわぁあぁあぁぁ!?―

  ―だ、誰かーッ!! 誰か来てくれ―ッ!!―


「…………またか…今度は多少マトモな言い訳をして…」


軽い地響きにやれやれと肩を竦めつつ、その方向を見た兵士の表情は固まった。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・謁見の間>>


サドラスがロティと初期メンバー(キュクル、ララリリル、メドラ)を連れて

ミズガルズ地方のシルドラント王国に出立してから二日ほどのことだ。

今度こそはと意気込んで宇宙船製造の準備をガッチリ進めていたKATUMIだったが

いきなり招集がかかる。こんな時に限って何なのだ! と思いながら行ってみれば、


「旧魔領を中心に空から大量のモンスターが降り注いで来たぁ…!?

ちょっと流石に耳を疑う報告なのでは?!」


と帝国内では未だ伯爵でしかない分際で帝国の

ヴェッテンダス帝王陛下とゼクスローティア聖王猊下に

不敬罪で処罰されても文句を言えない言を発したKATUMI。


「これを見ても同じセリフが言えるのか?」


帝王はスマホに酷似した板のようなもの(名前は立像板というらしい)を取り出すと、

そこから立体映像が現れる。映像には間違いなく

旧魔領上空から降り立ったモンスター達が

手当たり次第に破壊活動を行う様子が映っている。


「古の時代の遺物の力まで疑うなんてことはないだろう?」

「まさかKATUMIは私たちが捏造できるなんて本気で思ってる?」

「………それこそまさかなのである」

「命からがらこれを持って落ち延びてきたアペリウス人の言を信じぬわけにもいかん」

「でも少しだけ奇妙と言えば、この幻影に映っているモンスターの中に、

人族こちら側に味方しているようなのが一体いるのよね?」


運営側でもあるKATUMIは映像のモンスターに見覚えがありまくった。

どう見てもグランドクエスト用の龍脈レイポイント守護者のレイドモンスターなのだ。


「スーパーイレギュラーすぎるのである!」


KATUMIは慌ててチャットメールを起動しようとしたのだが、


「も、申し上げます! ルーンテール近郊北東部上空からも

同様と思われる魔物の群れがッ…!?」

「「「!?」」」


血相変えて謁見の間に飛び込んでくるルーンテール帝国兵に遮られた。



<<フィールド:ミズガルズ地方 現在地:シルドラント王国・ベルクーリ邸>>


一方その頃、サドラスは…


「………」

「あらぁあらぁ、連絡さえ入れてくれればお出迎えしたのですよぉ?」

「あぅ…その…ごめんなさいお母様…っていうか私が私だって良くわかりましたねぇ?」

「上の名前だけで自分の子供を判断する母親なんて居ないのですよぅ?」

「……お、お母様…」

「よく帰ってきてくれましたねぇ」


何だか泣きそうになっているロティを柔らかく抱きしめるレーツァ。


「………似ているな」

「かつてのロティ殿がそのまま大きくなったらあんな感じだったんでしょうね」

「妖精の血は水より濃いと聞きしにけり」

「もう少し早く来ていれば、また別の意味で

面白い光景が見れたかもしれませんネ、マスター?」


顎が外れそうな顔をしたロティの実父ユベロンをそっちのけで

レーツァとロティの母娘のやり取りになんやかんや言っていた。


「どれ、俺は俺でちょっとツヴェルを冷やかしに言ってくるか」

「ちょ…サドラス殿?」

「置いて行かれなしにけり我が君ぃ!!」


色々と状況が飲み込めずに茫然としているユベロンに

ロティを残してサドラス達はルーンテールのお土産とかを渡せるだけ渡して

スタスタとシルドラントの冒険者ギルドへ向って行った。


「………ハッ?!」


ユベロンが漸く状況をある程度整理した頃には苦笑するロティ

軽くため息をつきながらこれまでの経緯を話しだそうとするところだった。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール近郊北東部>>


進軍してくるモンスターの軍勢を迎撃すべくルーンテール軍に交じって行動するのは

「C✝B✝E」のメンバー+αたち。モンスターの中にはアナライズしないと

詳細が分からないモノ達も混ざっているようで、そのため迂闊な接敵ができず

迎撃も中距離以上の距離を保った攻撃以外できないようだ。

とはいえルーンテール陣には超々高レベルの廃人ないし

廃人級の強さを持つPCメンバーがいるためモンスター軍も攻めあぐねているようだが。


(やっぱり気に入らないな…)


隠蔽スキルを駆使してモンスター軍の中を潜行しているスイゲツは

出発前のやり取りを思い出していた。



―スイゲツ視点―


ルーンテール帝国軍地上部隊の本陣の天幕でMAPを見る彼らの中で

「気に入らないな…」と口火を切った僕に頷くC✝B✝Eメンバー+αの皆。


「スイゲツとモモちゃんを初めアイリスちゃんとかカナンちゃんみたいな

超々高レベルの連中がいるってのに、地上の状況があまり好転しねえ…!」

「む~~ん? 何て言うかさ~? あいつらレイド戦に慣れてる気がしね~?」

「ん。詠唱を始めた術師系を優先的に狙ってくる」

「アタシら前衛を相手する時は必ずタンクっぽいのが出て来るのもそうだろうな」

「御丁寧に追加効果を持ったスキル攻撃を多段で仕掛けてきたりもしたのぅ」


普通のモンスター群はある程度はボスクラスのモンスターの指示に従って

それなりのチームプレイを見せたりするものだが、今回のモンスター達の動きは

僕たちみたいなレイド戦じみていることはメンバーの誰もが感じていたようだ。


「KATUMIさんのほうからは変わった事は連絡来てないし…」


念の為もう一度KATUMIさんにはチャットメールを送る………うん。

やっぱり空は少しずつ数を減らせているみたいだ。

ちなみにスピリバさんは自分の戦艦から離れたくないみたいなので

適材適所ということでルーンテール海軍と海上の警備をしてもらっている。


<やっほー。地上のボスっぽい反応発見したよっ>

<右…? に同じくボクも確認したよ>


「マジで? やっぱアイリスちゃんパネェわ。流石はサドラスの師匠的存在だな」


僕以上の高レベルステータスを誇るアイリスさんとカナンが同行する先行部隊で

件のモンスター軍のボスらしきものを補足してくれたようだ。


「っぽいってことはさ~? まだ断言はできないってヤツ~?」


<ボクもアイリスさんも何だかんだで白兵戦に特化したステータスだから…

…隠蔽スキル充実して無いんだ…>


「「「………」」」


皆が僕を見るのは当然と言えば当然か。じゃあ限界までバフをよろしく。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール近郊北東部>>


スイゲツは時折モンスターと視線が合ったりしてヒヤリとするが、そこは潜入前に

術師系の面々からこれでもかと隠蔽系のスキルをかけまくってもらってたから

そこを信じて突き進むしかない。何しろモンスター達はスイゲツ達とは対照的に

何だかんだで積極的に今もルーンテールを攻めようとしているのだ。


(件のボスっぽい反応はともかく…他にも見ただけで分かる指揮官系の

能力を持ったボスモンスターも数多くいる…しかも悉く人間の軍隊みたいな陣を…?)


益々このモンスターの軍勢に対して妙な不信が湧いてくるスイゲツ。


(仮にカナン級またはそれ以上のテイム能力を持つモンスターなんて

それこそデスゲーム時代以前から出会った事が無い…

…それが異世界ならではっていうなら…色々と嫌になるな)


スイゲツは退路を確認しながら少しずつ敵本陣らしきところへ歩を進め、

ついにアイリス達が発見した大ボスらしき反応を目視できる距離までやってきた時、

スイゲツの目には信じられないモノが映った。


「な…!?」


思わず声を出してしまい慌てて口をふさぐスイゲツ。

彼の眼には極彩色の鎧を着たロボット騎士風の男性が何処となく虚ろな目で

プレイヤーにはお馴染みのシステムコンソール画面をいじっているのが見える。


(馬鹿な…! あいつは確かに僕が…僕がこの手で…!)


気付けばスイゲツは愛用の銃を握る手を固く握りしめていた。

そうなるのも無理はなかった。彼が手を握りしめながら視線を外すことのできない者…


それはかつてのデスゲーム首謀者にして、あの決死の最終決戦で

スイゲツが確かに眉間に銃口を押し当ててのゼロ距離ヘッドショットで

間違いなくトドメを刺して倒したはずの【電界皇】であった。


第21話に続く

何かもう色々とすみませんm(_ _)m

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