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第19.5話「天使たちが最後に見たモノ」

スランプ脱出したい…!

<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・近郊の海岸>>


魔鋼人タゥフェルメタノイド族の少年、十八とうやとその妹、

三十三みつみの兄妹は、目の前で起きていることに理解が及ばず立ち尽くしていた。


「待て、俺はまだ何もしていn――ボコォォォォン!


海の異形物まみれの紫づくめの男ことサドラスの開いた口に、

そもそも人の口にブチ込んじゃいけないマイクロミサイルがブチ込まれ、爆散する。

しかしサドラスは頭が吹っ飛ぶどころか頭上のHPゲージが1ミリも減ってない。


「これ以上幼い命を失ってたまるものか!!」

「だから待てというに、俺はこいつ等に飯y――バシュゥゥゥウン!


装着するだけでレベル800以上相当の廃人じみた超高能力を得られる

人間が装甲戦車の重火器等の武装パーツを装備したような姿の

魔鋼兵装タウフェルシュタルラスタング」を身に纏う兄妹の同族たちは

サドラスがちゃんと人族の言葉を喋っているにも関わらず、

人型モンスターは大概が急所である頭部を狙って極太レーザーやプラズマキャノンを

ぶち込んでいるのだが、やはりステータス差が圧倒的なのか、

サドラスにはクリティカルどころかダメージすら通ってない。


「………(^_^#)」

「おのれ…! 深海邪神眷属ディープワンズめ…!」

「属性が悪いのか?! 波動属性の攻撃に切り替えろ!!」


完全武装した魔鋼人族の戦士たちはサドラスのシンボルカラーと同じ

シンボルカラーを持つ属性…波動属性のスキル攻撃をこれでもかとブチかましまくる。

気のせいかサドラスのHPが2ミリくらい減ったような気がする。


「………(^_^###)」

「万能属性のBAを使える奴はいるのか!?」

「今しばらくお待ちを…! 40秒持たせてくださ――」


サドラスは怒涛の連続弾幕射撃ヘルファイアー攻撃に晒されているにもかかわらず、

ゆっくり両手を構えたかと思えば、そこから全ての射撃をパリングした。

レーザー攻撃を手で歪曲パリングしちゃうのにはもう突っ込まない。


「俺の話を聞けぇぇええい!!」

「うぐ!?」

「ごぇ?!」

「ぷべしッ?!」

「う゛あ゛ぬ゛しッ?!」


サドラスは残像した。残像して驚愕に瞠目する武装魔鋼人たちの脳天に

軽くこするように拳骨を落としていく。途中の何人かはそれだけで致命傷に

なりそうだったので殴り直後にエリクシルをぶっかけた。


……。


…。


ロティとハンドレッドがサドラスの姿を捕捉して彼の元に参じたときには

彼の周囲には見事なタンコブを頭から生やした魔鋼人の戦士たちが

全員ぐるっとサドラスの周囲に綺麗に正座させられていた。


「えー、とぉ…?」

「ふわ…同族が一杯…!」


正座させられていた連中はロティと百の姿にもギョッとしたが、

サドラスの眼光が鋭かったのであまり大きなリアクションができなかった。


「俺がこいつら(※十八とうや三十三みつみ)に何かしようと思ったら

とっくの昔にブチ殺すなり何かしているという事がよ~~~~く解っただろう?」


サドラスは魔鋼人族の武装集団の中で司令官と思われる散切り頭の男…

頭上の名前は五十六いそろく…にガン飛ばしながら念を押した。


「はい…身に染みました…そして貴方様が間違いなく只者ではないことも

深く、深く理解いたしました」


五十六は深く頭を下げている。それを見たほかのタンコブ戦士たちも

いそいそと同様に深く頭を下げた。


「で、だ。貴様らはこの辺で飯屋とかは知らないか?」

「あのぅサドラスさん…? まず聞くべきことはそこじゃないような気が…」

「シュウ。この人たち、みんな私の同族…それも魔鋼人タウフェルメタノイド族!」

「それがどうしt――「あっ!」――どうしたロティ」

「どうしたもこうしたも…魔鋼人族といえば天地聖魔大戦時代に

天魔王ディンケーオ側についた悪徳種族じゃないですか!」


「………」


ロティの言に五十六たちは渋い顔をした。


「あぁ…で? それがどうした?」

「えぇー……」


サドラスには正直どうでも良かったようだ。

五十六たちも意外そうにしている。


「ん。ここではもう700年以上前だよ?」

「そうだな。ずっと昔の事だ。今現在も何か悪いことをしてるならともかく。

勘 違 い と は い え 俺 の 話 を 聞 か ず 

問 答 無 用 で 殺 す 気 で は あ っ た が …

自分の幼い同胞を必死で守ろうとする連中だ。だから俺も即、反撃ころしはしなかった」

「まぁ、そうですよね…私もそんな伝説の時代を持ち出すとか無粋なことをする

人たちが存在するとは思いませんし…」


残念ながらサドラスたちの住む世界には

そんな連中が腐るほどいるが、今それはどうでもいい。

気にするべきはサドラスと百をほんのり目を輝かせながら

五十六たちが見ていることだ。


「…不躾ではございますが…貴女様のお名前を教えていただけないでしょうか?」

「ん…? 私…? …あぁ、そう…レベル差…」


百はサドラスをチラ見する。

首を傾げるサドラス。

「むぅ」とふくれっ面になる百。


「私の名はハンドレッド…!

天空を支配する至高の大艦魔術士アルマディストとは、この私の事…!」


五十六たちの前でジ○ジ○立ちしてドヤ顔で自己紹介する百。


「さりげなく名乗りに追加盛りが入ってるな」

「シュウ。大事なところ。水差さないで」


百の自己紹介に絶句している五十六たち。

括目して彼女を直視し、目を瞑って五体投地をするかの如く彼女の前で祈った。


「やはり…やはり噂は本当だった…!」

「我らが同祖にして三桁の名を持つ唯一聖女…!」

百神機兵装姫ジ・ハンドレッド様…!」

「靖国神機の皇女みこよ…!」


「………」


目を見開いたまま百はフリーズした。

どうやら彼女自身が思っていた以上の斜め上の反応でもされたのかもしれない。


「そういえば、疾風怒濤魔女団の魔女たちに自己紹介した時もこんな感じだったな」

「やっぱり百さんも伝説の時代を生きてきた人なんですねぇ」


きっと脳内テンパイな百を他所にサドラスとロティは長閑のどかだった。



<<フィールド:ワーユ地方 現在地:憤怒超兵団ヴェートコープス・穏健派本部>>


聖合衆国から離れ、東海岸沿いにあるアロフネス風な軍事建造物。

それが憤怒超兵団・穏健派の本部である。


「さあどうぞこちらへ」

「足元にご注意ください」

「おい何してるんださっさと玉露くらい淹れろ!」

「皆、幼いころから…いえこの世に生を受けた頃から貴女ハンドレッド様の武勇伝説を伝記や、

大戦当時を知る古人アルトマの方々に読み聞きしているのです」


本部の奥っていうかVIPルームに推されまくって案内されたのは

百を先頭にしたサドラス達。


百が席に着くや否や蓋付きのお茶と

軍艦や戦闘機を模した形のお菓子が「どうぞ」「遠慮せずに」

「脂質・糖質は控えてます」「足りなければもっとお持ちします」

「それとも小鉢などのお通しが良かったでしょうか?」

等と言われながら次々に出されていく。


「…シュウぅ…」

「懐かしいな。俺もそんな感じでジル=ルミルたちに色々もてなされたよ」

「百さんの戸惑う姿って新鮮ですねぇ」


存外忘れられているが、百は人見知りをする。

デスゲーム時代はそれで最悪に苦労して、

見ず知らずの人間の悪意は仲間の存在や自己暗示云々でどうにか克服できたが、

見ず知らずの人間の掛け値なしの善意には耐性が付いていなかったようだ。


「三桁さまのお連れの…いえ…考えてみれば貴方様が三桁さまの明主ハイロードなのですか?」

「いや、俺は別にモモの――

 ――「大正解。彼は私の未来のおっt――

  ――「おっとー手が滑っちゃいましたぁー」


五十六の何気ない質問に何時もの調子を取り戻してサドラスに抱き付いて

平静を取り戻そうとした百より先にロティがわざとらしくサドラスにくっついた。


「…む…ぐ…!」


珍しく悔しそうな表情を見せる百。


「ロティ、俺はまぁ構わんが…本当に自分の行動が最適だと思ったのか?」

「…あ…! はゃあわぁあ~~~~~~~~ッ!!/////////////////////」


ロティは愛用のバトルメイス「ドラゴン殺し」で並の者が食らったら

間違いなくミンチ以下になりそうなスイングでサドラスの顎を殴打するも、

そんなに力が入っていないようで、サドラスのHPゲージは減っていないようだ。


「何と言いますか…本当に貴方様方は只者ではないのですね」

「まぁその辺の雑魚とは違うのは確かだな」


とか言いつつ何気に顎をさすっているサドラスに五十六たちは改めて土下座した。


「どうか我々のお話を聞いていただきたい…!」

「……あぁ…? ほれはへつひはははんが」

「サドラスさん…口の中のモノを飲み込んでからにしましょうよ」


いったん間を置いて自分たちも席についた五十六たちは彼を中心に

今現在魔鋼人族と聖合衆国の人族たちの関係を話し始める。


「憤怒超兵団の強さは間違いなく聖合衆国の連合軍を遥かに上回っております…」


しかしながら数の差は圧倒的に兵団のほうが下だ。

さらに要約していけば聖合衆国には力を扱えない魔鋼人たちが

今まで以上に苛烈な扱いをうけ、このままでは「事実上の勝利。ただし同胞壊滅」

という名の大惨事にしかならないのは穏健派たちは誰もが理解している。

しかし止めようにも兵団の長にして最初に天使たちに力を与えられた

最初の戦士で当然ながら過激派の意見を尊重する過激思想の持ち主である

三十八さどはちは、そういった先のことを考えていないのか自分たちの勝利を

妄執しているのか五十六の話に聞く耳を貸さないのだそうだ。


「そうか、つまり俺たちが過激派もろとも聖合衆国連合軍を

叩き潰してしまえばいいんだな。"歴史を忘れた者に未来は無い"とか、そんな感じで」

「きょ、極端な話はそうですが…」

「やっぱり極端すぎますよねぇ」

「シュウは間違えて一般人も大量破壊しそう」

「それは流石に笑えませんよ百さん」

「…お前ら俺をなんだと…いや、それはいいか」


この後も色々話し合ったが、『話を聞かない相手はぶん殴って止めなきゃ

話を聞かない…とお釈迦様も言ってる(※釈迦は悪鬼等を説法するとき

荒事担当の明王たちに話を聞こうともしない彼らを力ずくで押さえ込ませてから

ゆっくり説法するという諸説がある)』とかいう話になり、

妥協して聖合衆国と憤怒超兵団それぞれの過激派のみ滅殺して

両勢力の穏健派たちに後は任せるという調停っぽい方向で行くこととなった。



<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・近郊西部>>


今現在最も戦闘が激しい最前線である西部では、数こそ圧倒的に少ないが

それを感じさせない火力で聖合衆国連合軍の兵士たちをレーザー攻撃で薙ぎ払うのは

憤怒超兵団の過激派にしてリーダーである三十八が率いる本隊。


「ここさえ突破すれば後は有象無象のゴミだけだ! 死力を尽くせぇ!」

「「「オォオォオオオオォォオオオオ!!!」」」

「覚悟しろよクソ人族どもォオオ!」

「虐げられ続けた700年の恨みを今こそ晴らしてくれるッ!」


「魔鋼兵装」を身に纏う魔鋼人たちはその全員が血走った眼を爛々とさせながら

向かってくる者も逃げ出す者も情け容赦なく攻撃して討ち取っていく。


「あの忌々しい装甲さえ突破すればれる! 各戦闘スキルの

波状攻撃は死んでも緩めるな! 奴ら如き悪徳種族に我等の故郷の土を踏ませるな!!」

「「「ヤァアアアアアァアァァアァ!!!」」」

「お前たちさえいなければ俺は純潔の亜神エルフ族でいられたんだ…!

貴様らの汚れた血を引くこともなかった…!」

「天魔王が斃れて尚も俺たちの平穏を乱す貴様らはこの世に不要なんだよぉおおお!!」


『C✝B✝E』のロゴを模した紋章がど真ん中に据えられた国旗を翻させながら、

魔鋼人たちの装甲を突破するべく小隊を組んで波状攻撃を仕掛けて

彼らを押し戻さんとする連合軍。



<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・近郊>>


「行けぇい! 刺し違えてでも魔鋼の悪魔どもを殺すのだぁあああ!」


そう叫びながら最後列の本陣で構えているのは小太りで

顔が少し脂ぎっているような聖合衆国連合軍司令官。

人は見かけで判断してはいけない。


「質だけで戦局を覆せるとは思うなよぉ…?

彼奴らさえ如何にかできればさらに貧弱でか弱い女子供のみ…グヒヒ…

オラの魔鋼人娘ハーレムはあと少しなのだぁ…!」


と思ったがこいつはどうやら見た目通りの奴だった。

前線では祖国の為に必死に戦っている兵士たちがいるというのに

この司令官はもう勝った気でいるようだ。


「………こいつみたいなのが少なければ…反乱など起きなかったかもしれない」


司令官を冷たい目で見ているのは副司令官と思われる女。

奴隷制度そのものには意を唱える気はなかったが、奴隷の扱いについては

彼女はもう少し寛大な方向を考えるべきだと提唱していたのだが

司令官のような連中が多かったせいで、結局この状況まで事態は進んでしまった。


「魔鋼人の裏で暗躍する"天使"とやらも…

何故今になって彼らに失われし力を与えたのか…」


副司令官が考えを巡らせようとしたとき、肩で息をしながら伝令がやってくる。


「ご、ご報告いたします!」

「んん? 連中の戦線を崩せたのかぁ?」

「残念ながらそうではなさそうです」


呼吸を整えるよう副司令官が促すと、伝令は数秒深呼吸をした後


「…空から飛来した"紫色の何か"によって両戦線が崩壊いたしました!」

「「……は?」」



<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・近郊西部>>


乱戦のど真ん中に高高度からドッゴォォオォオォンと着地して粉塵どころか

両陣営の者たちをも巻き上げたのはサドラス。後からロティと百もゆっくり着地。


「…ん? ちょっと着地点を間違えたか?」

「ちょっとどころでは無いような気がしますよサドラスさん」

「ん。今のだけで数百人単位の死傷者が出てる」


突如空から現れた文字通りアンノウン表示な三人の乱入者に連合軍も兵団も

戦うのさえやめて三人を注視する。


「で、だ。貴様ら双方には一切合財の恨みは無いんだが――」


サドラスは巨大な刀剣「星断巨塔十拳刀剣ヴィシュナバリ+237」を装備し、

大上段に構えて連合軍と兵団を見据え、


「穏健派の平和のための犠牲になってくれると有難い」


双方の軍団が「は?」と口を揃えそうになった時、すでにサドラスは最初に

立っていた地点から消え、両陣営の手前にいた連中を大量にぶった切っていた。


「うどゃ?!」

「オェエ゛?!」

「装甲ぶゅッ?!」


剣の刃ではなく腹で殴る。それが良いのか悪いのか、

レッツ挽肉パーティにはならなかったが…

人体としてありえない変形をしながら連合軍と兵団の戦士たちが

サドラス一人にゴミのようにブッ飛ばされて天に召されていく。


「………む、惨い…」

「ん。シュウは戦争の空しさの縮図を体現してるかもしれない」

「はぁ…この光景に慣れてしまっている私も末期なんでしょうねぇ…」


ようやく追いついた五十六率いる兵団の穏健派たちは

サドラスの戦場無双を目にして絶句している。


「敵と分かっていても、こんな殺され方は…」

「やはり穏健派しんちょうで良かったのだな我々は…」

「見てくれ、あの方にはまるでダメージが通ってない」

「というか偶にダメージを受けたら喜んでないか?」


喜んでいるのかどうかはともかく。サドラスは楽しそうだ。

装備を聖魔剣の二刀流に切り替えたかと思えば、連合軍に突っ込んで、

愛用の銃剣と大斧に切り替えたかと思えば兵団に突っ込んで、

死体の山を作っている…しかしそれでも連合も兵団も引くつもりがないようだ。

というか目の前のサドラスにまず攻撃を集中させ始めてきている。


「死力を尽くさんとする相手との戦いは良いな…

俺との戦力差も気合で如何にかしようとする連中の血走った眼は良いな…

全部懐かしくて堪らない…」


装備を重火器二挺に切り替えて連合も兵団も無差別に撃ち倒しまくるサドラス。


「ん…今回も出番なさそう」

「出番なんて無いほうがいいと思いますよ…出番が来るってことは…

あの血風と殺意が渦巻く真っ只中へれっつらごー…うぅ…ドラゴンなんて大嫌いです…」


少しつまらなそうな百と遠い目をしているロティ。

そんな二人を見て五十六たちは違う意味で絶句している。


「…そろそろ飽きてきたな…あぁ?」


サドラスが何かに気付いて上空を見上げた時、サドラスを中心に無差別絨毯爆撃。


「うわ、ちょ…!?」

「あ、危ない」


ロティは慌てつつも、百は素っ頓狂と思いきや冷静に自分たちの周囲に

障壁L「歪曲空間ディストーションスペース」と波動魔術LXV「真壁トゥルーウォール」を張って

無差別絨毯爆撃をどうにか防いだ。威力の凄まじさは

超々高レベルの二人が張ったシールドがヒビだらけであることからも

爆撃の威力が相当なものであると伺える。事実サドラスの周囲にいた連合軍と

兵団はそのほとんどが爆撃で跡形も残らず滅ぼされてしまった。


「むふふ…!! うまい具合に魂魄リソースゲットゲットぉ(^^♪」

「これだけの爆撃を以ってすれば、いかに我らが同胞を傷つけた

あの紫の異形も滅ぶべくして滅ぶべし」


目視可能なレベルでの高度から爆撃した地域を見下ろしながら喋るのは

全身真っ白な兵装に身を包む「天使」…頭上の名前は純白ホワイト・ワンのルチーフェロ…と

金色の兵装に身を包む天使…頭上の名前は白金プラティナムのミヒャエル…の二体。

他にも「白銅ブランキュイーブラのウリエル」「黒風シュヴァルツヴィントのハニエル」「白氷ブランネイジュのフルーレティ」に

黒炎シュヴァルツフランメのグザファン」など無言だった天使たちの後に現れ、


「ここで油断したからギーヴリュエル達は敗れたんだよぅ…」


と気弱そうに喋る「黒紫シュヴァルツリーラのベールゼビュート」たち。


「む…? がはあッ?!」


ウリエルの言葉はそれで最後だった。

何故なら彼はサドラスが持つ魔王処刑剣アルシエル+1722に串刺しにされ、

アシーエルよろしく吸収されてしまったからだ。


「うん…? 闇が弱点属性だったのかこいつ」

致命的モータルクリティカルも込み込みっぽいね~サドラッっさ~ん♪>


肩透かしを食らった顔をしつつ旧ウィンドウでアルシエルとチャットするサドラス。

しかし視線は天使たちを捉えている。


「「「?!」」」

「思っていた以上にはやいよぅ!!」


ベールゼヴュートは全身を紫色の球体で覆い尽くしたかと思うと

さらに上空に猛スピードで逃げ出した。そしてそれは正しかっただろう。

サドラスは基本「去る者は追わず」で敵と相対するのだ。

ふつうは増援云々で逃がすべきじゃないが、

逆レイド戦万歳なサドラスは多分それも狙っているのだ。


「臆したかベールゼヴュート!!」


黄金の剣二刀流となったミヒャエルは剣を構えなおす前のサドラスに肉薄して

残像しか見えない高速剣を浴びせてくる。


「いい動きだ。HPを確実に削ってくる…万能属性だな」


まともに斬撃を受けていたのは最初だけで、一分と経たないうちに

サドラスはミヒャエルの剣捌きに追いつき、やがて彼の一撃一撃が

一太刀、また一太刀とパリングされ始めていく。


「馬鹿な…! 私の…私の剣が…!」

「お前の連撃はアイリスの足元に届けば良いほうだ。

俺程度に捌かれるようでは話にならんな」


そう言って真顔になったサドラスは確実にミヒャエルを押していくが

サドラスの背に大量の魔法攻撃やら銃撃が浴びせられる。


「無策だと思ってんじゃねえぞ! こちとら天命主アウゴエイデス様の

秘術で用意した兵隊たちがいるんだ!」


サドラスは一旦ミヒャエルを弾き飛ばす。

振り返ってみれば、サドラスにとってどこかで見たことがある連中が

空を飛びながらサドラスに顔同様に何の感情もこめず

重火器や魔法スキル攻撃を叩き込んでいく。


「質より量…!! 古典的だけどやっぱり実用的だね(#^.^#)」

「仮にも陰謀の名士の名を頂いてんだ。まぁ急ごしらえだから手札が少ねえけどな」


「それは困る。もっとたくさん罠を用意してくれ」


「「え?」」


ルチーフェロとグザファンがそう返したとき、サドラスは自分に怒涛の連続攻撃を

ぶちかましていた連中の最後の一人の頭をカチ割ったところだった。


「見たことがある連中だと思ったら、何のことはない。

昔俺がPKKした連中じゃないか…揃いも揃って悪意を微塵も感じられないから

倒す瞬間まで連中が何処の誰だか忘れていたぞ」


サドラスが蹴散らしたのはかつてデスゲーム時代に名を馳せ、

そして消えていった自然なPKが当然の危険レッドプレイヤーたちに酷似していた。

これが「C✝B✝E」以下の比較的マトモなPCメンバーだったら

多少の混乱はあったかもしれないが、相手が悪かった。


「クソが!」


グザファンは体を強張らせた。サドラスと天使たちの間の中空に

天を灼く大火グロスブランネッデアヘンメル」と表示されるや否や

サドラスの下方からどす黒い炎が巻き上がり、サドラスを包み込んだ。

までは良かったが、火炎の中から数秒でふつうにサドラスが飛び出してきた。


「ウソだろ?!」


グザファンは魔術スキルと思われる攻撃を繰り出す。

一見小さな黒い粒に見えるその物体はサドラスに近づくにつれて

大きくなり、それがブラックホール状の物体であることを体現するかのように

ものすごい勢いで周りのあらゆるものを吸引しようとする。


「……大闇魔術Ⅸ『大黒天体クリシュナヴァタール』か?」


サドラスは聖剣カルマーグニ+1587を両手装備し、

少しだけ表情を力ませながら繰り出された黒い物体をぶった切って蒸発させた。


「……!!!!!」

「切り札くらい腐るほど用意しておけ、馬鹿者め」


サドラスは装備をストレージにしまいこむと同時に、グザファンに連続パンチ。

まるでどこぞの百裂拳みたく見える攻撃でグザファンは…粉々に砕け散った。


「っち! こうなったら…!」


そう喋ったフルーレティは、地上を素早く見渡し、こちらを見ている五十六たちを

捕捉するや否や猛スピードで飛び込――


「少しばかり判断が遅いな」


もうとしてサドラスが投げつけた大量の波動手裏剣の嵐に飲み込まれる。

全身に手裏剣が刺さった痛々しい姿でも尚、「た、だでは死ねない…!」と言って

ひらひらと力なく飛びながら前進をやめなかったので

今度は次元斬破鎌ルリエニエル+785が回転しながら飛んできて首を刎ね飛ばす。


「ちょ…待て…何が…「お前はどうするんだ」…ぎゃあああ!!?」


目の前の現実を即座に受け入れられなかったハニエルは

サドラスが眼前に立っていることに気づかなかったのだ。


「た、助けてくれ! 降参する!!」


天使が空中で土下座とか、いろいろな意味でレアな光景だろう。

つまらなそうな顔をしてサドラスはハニエルに武器を向けるのをやめた。

そしてサドラスは視線をルチーフェロに移したのだが。


「(●^o^●)」

「……あぁ?」


妙に余裕そうな笑顔だったので訝しげに睨むが、

その瞬間サドラスの胸からハニエルの拳が出てくるのはさすがに衝撃的な光景だ。


「バァカが…! 如何に化け物な貴様とてこの一撃はクリティカ……

…る…して、……え?」

「嘘…! だって心臓一突き…?! (゜Д゜)」


心臓ごと貫かれているはずのサドラスのHPゲージは一割も減っていない。

サドラスは溜息を付いた。


「古典的だが、心臓を貫けば死ぬ…という常識がこの世界で確実に通じるのかを

まず検証しておくべきだと思うぞ?」

「な、え…なん…!?」


ハニエルはそれ以上言葉が続かない。なぜなら人化した爪弾刹那を初めとした

人化可能な(革新皇帝剣イノセント+3289以外の)インテリジェンスウェポンたちが

恐ろしい形相でハニエルをサドラスから引き剥がすや否や羽交い絞めにしているからだ。


「心優しき修様の慈悲を仇で返す糞が…肉片残らず滅してくれる!!」

「あ、あ、あぁぁ…?! ああぁあぁああぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁああぁぁあ!!!」


まずルリエニエルに主人サドラスの胸を貫いた腕を切り落とされ、

残った手足を殺戮拳銃ヴァリアントSfzx+658がハチの巣にし、

魔改造アリサカライフル『七天圧倒』+987がわざと急所を外して全身に銃撃、

イノスを握りしめた瞬起弾指マタタキダンシに一太刀加えられ、最後に

全身から夥しい数の波動の刀身を生やした刹那になぶり殺しにされるハニエル。


「ひいいい…!! (((((((( ;゜Д゜)))))))」


なぶり殺しにされているハニエルを見て

ガタガタ震えるルチーフェロを一瞥したサドラスはため息をつく。


「まだだぁ!! まだ終わらんぞぉ!!」

「あぁああ! ミヒャエルぅーーーーっ! 。゜( ゜^∀^゜)゜。」


憤怒の形相でこちらに突進してくるミヒャエル。サドラスは最低ゲスな笑顔を浮かべた。


「そうだな。まだ終わりじゃない」


ボロ雑巾になったハニエルが落ちていくのを確認して

サドラスの元に戻ってきたインテリジェンスウェポンたちの中から

弾指とイノスを選んでミヒャエルに相対するサドラス。


「使いたくはなかったが…! 貴様に手傷一つ負わせずして冥府に落ちた

仲間たちには顔向けできん!!」


ミヒャエルの全身が鈍色に発光したかと思えば、

彼の姿は多重になってサドラスに襲い掛かる。


多元分神ディーティブリンク…! 我が奥義で無に帰れ!」


この攻撃にはサドラスもパリングしきれないようで、少しずつだが

サドラスのHPゲージが削れていく。


「ねーねーこのままだとご主人たまが負けちゃうぞー?」

「大丈夫だ問題無い。明主様は享楽中也」

「本当に楽しんでいるかは怪しい気がするがね」

「本当に危なければ修様は戦闘中に笑ったりしませんもの…ね♪」

「ひぃ!! (((((((( ;゜Д゜)))))))」


まだ全身から夥しい数の刀身をむき出しにしたままの刹那がルチーフェロに

気心の知れた友人のように語りかける。


「お逃げになるの? それとも修様と遊んでくださるの?」

「め…!? 滅相もございませぇぇん!! 。・゜・(/Д`)・゜・。」


ルチーフェロは転移スキルらしきもので逃走した。


「うん…やはり万能属性だけは食らいたくないものだ」


少し傷が目立って地味に血だらけな割にスッキリした顔のサドラス。

相対していたはずのミヒャエルの姿はそこにはない。


「ずるいぞアルシエル…」


剣状態のイノスを肩に乗せてムッとした表情の弾指。


<ま~ま~細かいことは気にしちゃ~ダメよダメダメ~ってか~?

……ゲプっ! おっと失礼失礼~♪>


何気に睨まれつつも飄々とした風を崩さない魔王処刑剣アルシエル+2717。


「食い尽くした結果大幅に能力が上昇したようだなアルシエル」


アルシエルの刀身に着いた血糊的な何かを振り払うサドラス。


<状態異常耐性カンストも夢じゃ~ね~って~♪>

「999の先に限界突破があればカンストは夢のまた夢だな」

<夢のまた夢って~ことは~ロマンがあるって~コトさ~♪ …ゲェェップ!

ごめんちゃいマジ失礼でした~♪>

「色々な意味で今日は本当に汚いぞアルシエル…!」


上空での出来事なので五十六たちはサドラスが何を話しているのかはわからない。

だが聞いたら正気を保てそうな気がしないのはその場の誰もがわかっていた。


「む。そろそろ日が暮れそう」

「じゃあ帰りますか。周りも静かになったことですしねぇ」


ロティ達のそんな会話に五十六たちは色々な意味でギョッとした。



<<フィールド:??????? 現在地:???????・???????>>


数こそ多いが親指ほどの小さな明かりのようなものが散りばめられた

仄暗い空間で円卓と思わしきモノを囲む人影達がいた。だが数は少ないようだ。


「み、皆殺し…? 嘘だと言ってよぅ純白ぅ!!」

「嘘なんか…嘘なんか…!! 吐けるわけないよぉぉぉぉ!! 。・゜・(/Д`)・゜・。」


顔面蒼白なベールゼヴュートとわんわん泣くルチーフェロと思わしき人影。


「天命主様…どうか私に報復の機会を!」

「アシーエル…ミヒャエル…グザファン…フルーレティ…ウリエル…ハニエル…

その全てが冥府へ落ち…シドナイは消息不明…」

「あっという間に過半数の欠員が出てしまったよぅ…」

『あの恐ろしい紫の怪物…これまでも地上を徘徊するのみ…

不可解なのは徘徊する目的が全く一貫性がないこと…』


「宜しい…汝らの語る紫の怪物は我の明確な敵手と認定した…

現時点を以て秘術『Systemhack』の施工を行う」


「おお!」

『もっと早く天命主様に事の重大性を伝えるべきだったと反省』

「あのー…私の報復とかの件は…?」

幾黒オールダーク…背中を三回斬られた奴のセリフじゃない」

「ぼく達も少しでもいいから確実にレベルを上げとかなきゃダメだよぅ」


円卓が輝く。中央付近にいた人影…おそらく天命主と思われる人影の前に

雑多で膨大なプログラミング言語のソースが記述されたウィンドウが展開される。


「天命主様…次は如何なる者を復元させるのですか…?」

「自らを王と名乗った魔人だ」


天命主が語り終える前に円卓が激しい輝きに包まれる。

僅かな時間だったが、激しい輝きの中心が僅かに黒ずんだ。


黒ずんだところから 極彩色の鎧を着たロボット騎士風の男と

思われる人物の輪郭が浮かび上がったが、すぐにまた輝きに包まれて

そこからは天使たちさえも判別できなくなった。


第20話に続く

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