第二話「勧善懲悪(?)と現状理解」
腹が減っては何とやら…腹いっぱいの飯のために
シルドラントを目指すサドラスとロティ。
果たしてそこには何が待っているやら…
<<フィールド:ミズガルズ平原(?) 現在地:シルドラント近郊(?)>>
相変わらず語尾の(?)表記に微妙にイラつくが、それで一つ思い出したサドラス。
「そうだ、ポータルでMAP等の最新情報を得ればいいじゃないか…!」
「ポータルって何ですか?」
「ハァ…お前の事だから多分知らんとは思っていたが…なぁ…?」
「うぐっ…。そんなあからさまに落胆しなくても良いじゃないですか…」
ここでのポータルとは街ならば必ず設置されている
「冒険者」専用のアクセスポイントの一つで、嘗ては此処から現実世界のサイトや
ゲーム内BBSが閲覧できた場所でもある。他にもアップデート中にログインしていた
冒険者達がMAPの最新版を手に入れる機能も搭載されている。
余談だがポータルは「冒険者」にしか触れないどころか見えもしないので
見えない何か(無論ポータル越しにBBS等)に罵詈雑言をブチかます
冒険者等を見て不気味がる一般のNPCが後を絶たなかったそうだ。
「シルドラントにあったかどうかが定かではないのだが…」
ゲーム時代ですら一度訪れたきりの場所だった故に、ただでさえゲーム世界と
微妙に異なる点が多いこのフィールドにあるシルドラント集落が
自分の知っているシルドラント集落なのか甚だ疑問である。
「ポータルとやらに関しては私もお力添えは出来ませんが…
シルドラントには冒険者ギルドとシルドラント騎士団がありますから、
結構な情報が得られると思いますし、隣国周辺の最新の地図等も買えるはずですよ?」
「ふむ…」
ギルドはあったと思うが、あの辺鄙な集落に騎士団が設立されたのは初耳だ。
とはいえサドラスはデスゲーム首謀者の【電界皇】撃破に一枚噛む直前までは
朝昼晩と運営力作の深層ダンジョン三昧っていうかもうダンジョン生活だったので、
碌にBBSもチェックせず、ゲーム世界の現状把握もβ版から正式Var1.22までで
デスゲーム化したVar3.227以降の詳細な世界情勢には殆ど無頓着である。
「後はですね…え? な、何でぇええええええ?!」
ロティがそのまま此方を見たまま絶句しているので振り返るとあの時サドラスが
ギロチンでカタをつけたのと同じ種類のドラゴンが中距離にまで迫っていたのである。
それも三体ほど。
「チッ…! ロティ、お前は敵引き寄せの呪いでも持っているのか?」
「滅相も無いですよぉ! さっきのだって生まれて初めての地獄ですからっ!!」
あの三体に完全接近されてはロティを守りきれずに瞬殺されかねない。
仕方が無いのでサドラスは装備を戦闘機にそのまま装着できそうなっていうか
元々戦闘機についてる機関銃ベースの武器「紫電改40㎜機関銃+2550」を装備して
三体の【バイオレットドラゴン】を迎え撃つことにした。
―ロティ視点―
正直ツイてるんだかツイてないんだか良く分からない一日です。
最初の一体だけでももう人生が詰んじゃったなって思ってたのに、
今度は三体ですよ?! 滅多に遭わないってギルマスさんも言ってたじゃないですか!
サドラスさんが強いのはステータスで気絶しかけるほど理解しましたけど、
数の暴力は無いでしょう!? どう考えても私巻き添えで死亡じゃないですか!
「とりあえず俺を盾代わりにしろ。流石に防護魔壁を出している余裕が無いからな」
またまたサラッととんでもない事を言うサドラスさん。いくらサドラスさんでも
一撃数万ダメージを受けるというドラゴンのブレスを三体から食らわされたら
唯じゃすまないと思うんですよ…。 まず余波で私死ねますから…。
「兎に角命中させて撃ち落す。切り刻むのはそれからだ」
そういうや否やサドラスさんは装備している武器
(ウワサでしか聞いた事のない『魔導機関銃』…!)が
あの三体のドラゴンに途轍もない爆音ごと弾丸を叩きつけます。
一発一発の威力が強いのでしょう。ドラゴンたちのHPゲージが見る見る赤く…
「ってぇ?! 全滅したぁッ!?!?」
「チッ…あのドラゴンは波動属性耐性を持っていなかったのか」
ちょ?! 波動属性って!? 使える人が数えるほどしかいないって言う
万能属性に並ぶ二大強属性じゃないですかっ!? っていうか舌打ちの意味は何?!
あれ…? そう言えばサドラスさんって波動属性にすら耐性持ってたような…?
駄目よロティ。気にしたらまた意識が飛んじゃうから。
あ、何か背中が熱い…そっか、私のレベルが凄い勢いで上昇してるから…
それもそうよね…あのドラゴンってレベル180はあるんだし…。
ちょっとステータス確認…。
―<ディティール・ステータス 1/3>―
フルネーム:ロティ・ベルクーリ
年齢:20
性別:女
種族:半精霊<存在進化>
職業:薬剤士
段位【最大Lv】:97
生命【最大HP】:4580
魔動力【最大MP】:4106
闘気【最大SP】:967
BURST ATTACK【BA】:0%
基礎攻撃力【STR】:1068(限界突破)
基礎耐久力【VIT】:411
基礎精神力【MAG】:2118(限界突破)
基礎抵抗力【RES】:2327(限界突破)
基礎敏捷性【AGL】:952
総合運【LUC】:1082(限界突破)
ダメージ修正【ALT】:266
属性耐性:火33 水25 風50 土80
異常耐性:毒50 痺25
所持金:3680YD
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「のえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ!!?」
「どうした?」
「れべえべべべるあががあがあががががが!?」
顎がぁ! 顎が外れたぁ!?
白魔…ってコレに白魔効くの?!
「………ほぅ、俺が【成長限界突破】持ちだとパーティメンバーにも影響があるのか…
これは気付かなかったな…ん? お前存在進化もしたのか。運がいいな」
え?! どういう事ですか?! ってホントだ! 私、半精霊になってる!?
なにか変わったとかそんな実感…ああああああああ!? 背中に三対の羽が生えてる!?
うわ…! 背中丸出し…!! お気に入りの服だったのにぃ…!!!
「あが…! が…あ…!」
「…仕方の無いやつだ…ほれ」
サドラスさんが回復薬らしきものをくれました。
でも回復薬って顎外れたのに効くのかな…?
まあともかく厚意を無碍にしてはベルクーリ家の恥です…!
「んぐ…あぐ…ん…ンン?!」
治った?!
「完全生命薬だからだろうな」
「ぶほッ!? ごふごふッ!! ぜぇ…ぜぇ…! か、かかか
完全生命薬ぅ!!? 王族とか大貴族が有事に備える為の一級品じゃないですか!!
そんなあっさり顎外れたレベルで渡していいもんじゃないですよぉ!?」
「たかが完全生命薬一本だろう」
お前は何を言っているんだ? みたいな顔で言うセリフじゃないですよ!!
ああもうホントにサドラスさんって一々色々と常識を飛び越える人だなぁ!
「やれやれ、そんな調子では何回でも顎を外しそうだな…」
誰のせいですか! 誰の!
「…ロティ。確かお前は調合術と錬金術を持っていたな?」
「はい? ええ…錬金術Ⅰと調合術Ⅱ…会得しましたけど?」
「ならば少し待ってろ」
そういうとサドラスさんは見えないところに手を突っ込んで………?!
「俺が冒険者だと分かっているならアイテムストレージごときで驚くなよ?」
うぐっ…わかってはいるんですけど…ほぼ無限にアイテムを溜め込める能力なんて
反則じゃないですか…! 私も魔法のポーチは持ってますけど…これポーションが
10本くらいしか入りませんし…。
「と、言いますか何をなさっているのですか?」
「スキル伝承スクロールだ。調合術と錬金術のレベルⅦの…」
「 レ ベ ル Ⅶ ッ ! ? 」
「…いきなり叫ぶな。またドラゴンが来たらどうするんだ」
「いや、あの、でも、だって…700年前に失われた『ロストスキル』…!」
「何を訳の分からんことを言っているんだお前は………ほら、出来たぞ。
今のお前のレベルなら問題なく覚えられるはずだ。さあ使え」
サドラスさんがポンと投げてきた巻物を手に取って見ればなるほど確かに
調合術Ⅶと錬金術Ⅶ……の…スキル、伝承…スクロール…!
「(◎Д◎)………」
「またか…」
………。
……。
…。
<<フィールド:ミズガルズ平原(?) 現在地:シルドラント周辺(?)>>
声をかけるのも面倒だったので、とりあえずロティを背負いながら
何だかやたらと出会う【バイオレットドラゴン】相手に
逆弾幕シューティングゲームをしていたサドラス。
「そろそろいいか…? おい、ロティ」
「はわっ?! ってぇ!? 何で私背負われてるのッ!?」
「気付いたんなら降りろ、片手だと銃身が安定しない」
ロティを降ろしたサドラスは最後の一体となった【バイオレットドラゴン】を
今度は全弾命中させて仕留める。
「…つかぬ事をお聞きしますが…あのドラゴンは…」
「合計で34体目だな。やはり俺とお前のLUCが
合計で8000越えしてるだけの事はあるな」
流石にロティも乾いた笑い声を上げるだけで大して驚かないようだ。
「多分お前のレベルも相当上がっているはずだ。見てみろ」
「………(詳細ステータス、確認)」
―<ディティール・ステータス 1/3>―
フルネーム:ロティ・ベルクーリ
年齢:20
性別:女
種族:半精霊<存在進化>
職業:薬剤士
段位【最大Lv】:178
生命【最大HP】:8225
魔動力【最大MP】:11558(限界突破)
闘気【最大SP】:5341
BURST ATTACK【BA】:0%
基礎攻撃力【STR】:1918(限界突破)
基礎耐久力【VIT】:1059(限界突破)
基礎精神力【MAG】:4953(限界突破)
基礎抵抗力【RES】:6823(限界突破)
基礎敏捷性【AGL】:2167(限界突破)
総合運【LUC】:1325(限界突破)
ダメージ修正【ALT】:428
属性耐性:火33 水25 風50 土80
異常耐性:毒50 痺25
所持金:3680YD
<<次のページ>>
次のページを見ることなく、ロティはステータス画面をそっ閉じ…。
「ふ、ふふふ…なんかもう…どうでもいいです」
「? ………ほう、殆どのステータスが限界突破したのか。凄いじゃないか」
「なんていうかもう…サドラスさんに言われても嬉しくないんですが…」
「順応が早いな。最初の頃は俺だって狂喜乱舞したものだぞ?」
それから数分か十数分ほど、ロティは黙ったまま歩くので、
何となく暇になってしまったサドラスは、とりあえず空腹を紛らわすために
何本か完全生命薬をがぶ飲みしていた。
…実はロティが突っ込んでくれることを密かに期待していたのは内緒である。
<<フィールド:ミズガルズ平原(?) 現在地:シルドラント集落(?)>>
……。
…。
「おい」
「何ですか?」
「ここは、シルドラントだよな?」
サディアスとロティの目の前には、どう見ても城下町が広がっている。
まかり間違っても此処は集落などと言うレベルの土地ではない。
「はい、シルドラント『王国』ですよ?」
「待て…俺はここに訪れたのは(現実の時間で)三ヶ月前だぞ…?
一体全体三ヶ月の間に集落がどうしてこうなった?」
「? …集落? ああ、確かに700年くらい前は辺境の集落だったらしいですねぇ。
でも『天地聖魔大戦争』の後に初代シルドラント国王がここに王国を建国してからは
ここはそのまま都市国家になったらしいですよ」
「………あぁ?」
こいつは何を電波飛ばしてんだ? と口走りそうになったサドラスだったが、
思い出したかのように腹の虫がリアルに泣き喚くので余計なことを考えるのをやめた。
「まぁいい…とりあえずメシだ…が…」
「あ、折角ですから出入り口通行の手続きを私が一緒に済ませてきますね!」
深く考えると腹の虫がまた騒ぎ出しそうなのでサドラスは考えるのやめた。
…。
城下町に入ってみればいよいよもって此処がシルドラント集落では無いと分かる。
何しろ集落時代はしょぼいギルドと民家十軒に道具屋一軒程度のモノだったが、
今では中央通などの大通りが整備され、遥か向こうには誰がどう見ても
王城としか言いようの無い大きな城が建っていた。
「何だこれは…? 俺が把握していないグランドクエストでも始まったのか?」
「大いなる神の試練? 伝説の時代じゃあるまいし…
やっぱりサドラスさんは一々常識を吹き飛ばしてきますねぇ?」
気付け薬代わりにエリクシルをがぶ飲みするも、ロティが「もう驚きませんよ?」と
言うのでちっともこちらの気付けにならなかった。
<<フィールド名:ミズガルズ平原(?) 現在地:シルドラント集落(?)>>
〈『大衆食堂ヴァッティヴェッティ』〉………
どうにも脳裏に引っかかる名前の食堂だな、とサドラスは思ったのだが。
「何だこれは! 何だこれは! 何なんだこの料理は!」
「…サドラスさん?」
「俺は今までダンジョン生活だったからカ★リーメイトだのウィ☆ーインゼリーだの
果ては通販でイギ☆ス製パスタ缶やシ●ールス○レミングなんぞを喰ってきたよ…!
無論ふざけて高価なフォワグラやキャビア等の珍味だって食ったこともある…!
だが、だが此処のメシに匹敵は愚か足元にも及ばなかった! 手作りの料理は美味い!
なんて幻想は寝て言えといっていた時期が俺にはあった…が、間違いだ!
この世に美味い料理がまだまだあるんだと…! 俺は知れた…!
美食もまた、やり込みの一つなんだと…俺は知ることが出来た…!」
そう言って恥も外聞もかなぐり捨ててフォーク一本で目の前の料理を貪るサドラス。
困惑するのはロティだけではなかった。
―相当長いこと旅してたのかねぇあの冒険者…。
―いや、ホラ見ろよ。泣いてるんだぜ?
―装備に金かけて食事をおろそかにしてたんだねぇ…
―まあ冒険者なんだ、命のほうが大事だろ?
「あのー…サドラスさん?」
「おい定員さん!」
「あ、はい? 何でしょうか?」
「この『スライムゼリー・ザ・キングスウィート』も頂きたいのだが」
「あ、これ本日は後一品だけの限定デザートですよ」
「おお! 折角だからそれも頂こう!」
「はい、少々お待ちくださいませ」
ちなみにサドラスの傍には十数枚の嘗ては料理が盛られていたであろう
空の皿が積まれている。
「サドラスさん!」
「何だロティ。YDならM単位で請求されても何の問題も無いぞ?」
「いえ、それは別に良いんですけど…」
ロティからしてみればありふれた家庭料理ばかりで
逆にここまで喜ぶのはどうなのかと思ったのだが、
サドラスはそんなもんこれっぽっちも感じちゃいなかった。
「お待たせいたしました、本日ラスト一品の
『スライムゼリー・ザ・キングスウィート』です」
「うむ。待ちわびていたぞ! とりあえずそこに置いててくれ」
「はい、では伝票も此方に置いておきますね。どうぞごゆっくり」
何だかんだでサドラスの前にはまだ何品か大盛りの肉料理が残っている。
「うむ…ふぁりはとう」
「サドラスさん…行儀悪いです」
…。
「いらっしゃいま…げっ…!」
「おう兄ちゃん。お客様に向かって"げっ"は無ぇだろ"げっ"は…なぁオイ?」
「俺らが冒険者だって分かってての"げっ"ってんなら…良い度胸だよなぁ?」
「ゲャハハハハハハ!」
続々と店内に入ってくる十数人のゴロツキ達。
ゴロツキ達が席に座るのを見届けた何人かの人々はテーブルに御代を置いて
皆足早に食堂から去っていった。
「うわぁ…最悪…」
ロティはあからさまに嫌そうな顔でゴロツキ達を一瞥する。
「何時の時代も…というわけでは無いだろうが。
連中も他に生きがいを見つけるべきだと俺は思うが…
うむ、口の中でスライムが蕩ける…何とも言えぬ官能的な食感…」
正直どうでも良さそうなサドラスは『スライムゼリー・ザ・キングスウィート』を
今度はどの辺りから攻めてやろうかと迷い箸ならぬ迷いスプーンをしている。
「っていうかサドラスさん…ああいう手合いは放置したら駄目じゃないですか!」
「殴る価値もないぞあんな連中…注視してみれば分かるが、連中の平均レベルは60…
平然とコップを磨いているマスターのレベルより20以下なんだぞ」
「いやいや何を言ってるんですかサドラスさん! マスターは…
確かにレベル83ですけど…数の暴力って言うものが…」
さらに続けて何かを言おうとしていたロティだったが、ちょうど二人のテーブルに
ウェイターらしき男が吹っ飛んできたので絶句する。
「ヒャッハー! レベル20程度で俺ら冒険者様に歯向かうなんぞ百年早ぇんだよ!」
「俺らが高Lv冒険者だって分かって挑んで来やがったなぁ…良い度胸だよなぁ?」
「ゲャハハハハハハ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
ロティはウェイターらしき男に声をかける。
「も、申し訳ありませんお客様…」
ウェイターらしき男のHPゲージは半分以下になっている…
恐らく骨折は免れないかに思われたが…
「…飲め、完全生命薬だ」
サドラスが有無を言わさず男に完全生命薬を飲ませたので、まず死ぬことは無い。
それどころか数秒後には何事も無かったかのように起き上がるだろう。
「………おのれ…」
「あ…『スライムゼリー・ザ・キングスウィート』…の、残骸」
―ロティ視点―
正直サドラスさんの動きが見えませんでした。
「万死に値する…! と言いたい所だが…! 手足一本ずつで勘弁してやろう…!」
あと静止しているサドラスさんの周りの空気がすごく揺れて見えました。
「あぁ?! んだテメェは?!」
「名前が【????】とか調子に乗ってんじゃねーぞぉ?」
「ゲャハハハハハハ! …っておい名前が【????】って事は…!」
ゴロツキさん達はきっとLUCが低いんだろうなって思いました。
さもなくば「ビンタ」や「デコピン」一発で、
手足を本当に一本ずつ圧し折られるなんて事態には普通陥らないと思うんです。
<<フィールド:ミズガルズ平原(?) 現在地:シルドラント集落(?)>>
とりあえず食堂の支配人から「御代はゴロツキ所属のギルドに回しとくから」
と言われたのでタダ飯にありつけた事にして食堂を後にしたサドラスとロティは、
ついでに泊まる所でおススメな場所も聞いてそこに向かうことにした。
…。
<『王立ホテル:フォン=シルドラント』>
今度は王立という言葉に何か引っかかりを覚えるサドラスではあったが。
「一泊したいんだが」
「はい、有難うございます。現在は貴族様のご宿泊もありませんので、
大公級以下の全ての客室が空いております」
「じゃあ大公級で」
「えええええ!? ちょ、普通の部屋で良いじゃないですか!
と言いますかなぜ普通に言われるがままに高級ホテルに直行とか――
ロティは驚いて色々まくし立ててきたのだが、サドラスはあえて無視した。
「よ、宜しいのですか…? 一泊でも金剛石貨六枚…6M(六百万)YDですよ…?」
「エリクシル以下の値段なら安いものだな…っと…すまん、
今一番細かいのが1T(一兆)YD純白金貨しか無いんだが」
そう言ってサドラスはカウンターにポンと純白金貨を一枚。
後ろで「ぶっ!?」と驚愕するロティの反応が面白かったが、
サドラスはまたしても敢えて無視を決め込む。
「ええ?! じゅ、純白金貨…! し、支配人?! 支配人~ッ?!」
ホテルマンはダッシュで奥に引っ込んだと思ったら、
いかにも支配人らしき男を連れて戻ってくる。
「と、当ホテルご利用いただき真に有難うございます…ですが…
生憎当ホテルにはお客様のお支払い頂いた純白金貨のお釣りとしての
白金貨は現在持ち合わせておりませんでして…」
「そうか。ならば聖級は空いているのか?」
「せ!? 聖級でございますか?!」
「さらに上のクラスがあるんですか!?」
これには流石にロティも口を挟んでしまう。というかそもそも貴族級の部屋に
普通に泊まろうとするサドラスがどうかしているのだろうが。
「は、はい…当ホテルは他国の皇、帝、王族もご利用なさることがありますので…
王室、帝室、皇室もございます…
が…まさかその上の聖級をご存知とは…」
「釣りが払えないのなら釣りが出ないか最小に抑えられると踏んだだけだが?」
「は、はぁ…確かに聖級にご宿泊するのでしたら…二名様ですから12TYDで
お見積もりさせていただきたいとは思いますが…?」
「よし、じゃあそれで頼む」
サドラスはカウンターに何の遠慮も無く純白金貨12枚を出した。
「「ええええええええええええええ!?」」
なぜ最後はロティと支配人がハモッたのかは、
面倒くさいので聞かないことにしたサドラスであった。
<<フィールド:ミズガルズ平原(?) 現在地:ギルド・シルドラント支部(?)>>
ギルドの場所は同じなのかと突っ込みを入れたサドラスだが、
もう無反応を決め込もうと決意したロティがその誘いに乗るはずもなかった。
「物価が相当に下落しているとは聞いたが、聖級ゲストルームに
12TYDでチェックインできるとは流石に冗談だと思ってたんだぞ?」
「じゃあ幾らだったらチェックインできると…おっとその手にはもう乗りませんよ!?」
「チッ…」
「あからさま過ぎてもう突っ込むのも億劫ですよ?!」
だだっ広いが人の数は疎ら…いやだだっ広いが故にそう見えるだけで、
実際はこの場に屯している冒険者だけでも100人は下らないだろう。
「いらっしゃいませ。シルドラント支部へようこそ。本日は照会でしょうか?
それとも新規登録…おや、ベルクーリさんでしたか。コレは失礼」
「むぅぅ…もう私はあの時の私じゃないんですからね…!」
じゃあどの時の私だったら新規登録なのだろうかと
馬鹿馬鹿しいこと考えたサドラスではあったが。
「ちょっと知りたいことがあってな」
「情報提供ですね…申し訳ございませんが、一度ギルドカードを拝見させてください」
「これで頼めるか?」
サドラスは自分のギルドカードをほんのり自信なさげに受付に渡す。
「……………………」
「……………………」
「…………………」
「…………………」
「………………」
「………………」
「……………」
「……………」
「…………」
「…………」
「………」
「………」
実は受付が数行読み進めた段階で絶句していたのだが、
サドラスはあえて何も突っ込まないで成り行きを見守っていた。
「おい」
「はっ!? しょ、少々お待ちくだしぁ…!」
受付はなるべく動揺していない風を装ってサドラスのギルドカード片手に
奥のほうへ消えていった。
「さて、何が起こるのやら…」
「さ、サドラスさん…顔が…」
流石にその笑顔は不気味ですとは言えなかったロティ。
………。
……。
…。
受付前のソファで船を漕ぎそうになっているサドラスと
段々不安で顔色が悪くなり始めたロティ。
「お、遅くなってすまぬッ!!」
「あ! ギルマスさんじゃないですか!」
「おおぅ! ベルクーリの嬢ちゃんじゃないか! 久しぶりだのぅ…って
それどころでは無くてだな…」
ロティがギルマスと呼んだ男はドワーフらしく。身長はロティとドッコイドッコイだが
横幅はロティが二人半くらいいけそうな程の良い恰幅である。
「………誰だ貴様は」
「いや、無理も無いだろうが…ワシを注視してみぃ」
「………」
サドラスがロティ曰くギルドマスターであるドワーフを注視すると、彼の名前が見え…
「馬鹿な…いや、同性同名と言うことも…」
「早々あってたまるかぃ! ツヴェルなどと言う捻りすぎて
返ってシンプルに落ち着いた名はそう簡単に被るもんでもないわ!」
ギルドマスター【ツヴェル】はどうやらサドラスの知り合いらしいが…
「だとしても最後に会った時はお前はヒゲどころか
ロティの半分程度の身長しかなかっただろう…? 少し見ない間にどうやって
そんな白髪ヒゲもじゃになれるんだ…?」
「たまにお主は本気でボケておるのか真面目なのか分からんことがあるが…
7 0 1 年 も 音 信 不 通 に な っ て お い て
ワ シ へ の 最 初 の 言 葉 が そ れ か よ !」
「…………………………………………………………………………………………あぁ?」
<<フィールド:ミズガルズ平原 現在地:冒険者ギルド・シルドラ国支部>>
サドラスの探していたポータルはギルドマスターの部屋に移動していたようで、
ようやくサドラスは自分のMAPデータなどの更新をすることができた。
「……何と言うか、俺達のデスゲーム時代がそんな事になっていたのか」
「おう、そう言えばお前さん達は死の遊戯と呼んでおったの…
確かに昔のお前さんらには『死』など無かったからなぁ…」
「ほええ…?」
「というか、此処が未だにあの戦いから701年も経った世界なんて俺には
到底信じられんのだが…?」
「ワシとて当時を生き延びた当事者側の古人達に聞きかじっただけの話じゃ」
ツヴェルの聞きかじっただけと言うにはやたらと伝奇めいた話を敢えて要約すると…
デスゲーム首謀者【電界皇】は確かに冒険者達に討ち取られた。
その際生き残った冒険者達は皆神々の世界へと帰っていった…
そしてその僅か一刻程度の時間の後、空が裂け、黒い光が世界全体を包み込む。
当時の住民が気付いた時、そこには冒険者達の姿は一人も見当たらず、
まるで何事も無かったかのように数日…数週間…数ヶ月と時が過ぎた…
だが、一年経っても十年経っても冒険者は誰も戻っては来なかった。
それだけならばまだ良かったが、神々の加護を受けし『アドミニストレータ騎士団』
『神々の化身マネジアズ』さえも忽然と姿を消し、城壁に守られていない市町村は
瞬く間に魔物や盗賊たちに蹂躙されるようになってしまった。
何より恐ろしい事は『大いなる試練』で討伐されたはずの
超大集団戦闘級モンスター達が次々と現れだし、
生き延びるためには急いで各市町村や小国が纏まって
大きな国を作らなければ全人族は全滅してしまう事態に陥った。
どうにか超大集団戦闘級モンスターとは住み分けにまで持ち込めたが、
今度は乱立した大国同士での生活物資の奪い合いによる戦争問題が発生した。
その戦争も数百年経った現在ではどうにか停戦で済んだが、未だに危ういバランスで
保たれており、人心が本当に安らぐ暇が無い…というのが現状だそうだ。
「おお…新人類史創成期のお話ですね!」
「………あぁ? が、まあとりあえず納得した…ことにしておく」
「ええい何だかんだでお主はやはりワシより年上か! 頭が固いのう!」
「いや、納得してないわけでは無いんだが…」
「お主が納得するしないはもうこの際どうでもええんじゃ…それよりも
701年ぶりに会えたからこそお主に言わんとならんことがある」
先程まで苦笑とはいえ笑顔を混ぜていたツヴェルだったが、その一言で
思わずサドラスが身構えそうになるほどの真顔に切り替わる。
「俺に言わなければならないことだと?」
「海魔のお嬢ちゃんを覚えておるか?」
「メドラのことか?」
「その人もサドラスさんのお知り合いですか?」
「知り合いも何もサドラスが作った女子じゃ」
「ええええ!? ど、どういうことですかサドラスさん?」
要するにゲーム時代…といってもGrTrAd以前のゲームで作成した
特殊NPCパーティメンバーなのだが…その通りに話しても彼らには通じないので
仕方なくサドラスは答える。
「厳密に言えばクエストで偶然助けたスキュラの少女を預かりついでに
折角だから名前を与えて育てただけなんだが…」
さらに正しく言えば十年以上今作までコンバートにコンバートを重ねて育て上げた
生半可なPCより格段に使える超NPCである。当時からそのAIの成長ぶりには
やり込み野朗としては燃えるものがあったわけだが。
「そうじゃ、そのメド姉ちゃんがお前さんが行方を眩ましてから
とんでもなく"どえらい"事になってるんじゃ」
正直詳しく話を聞きたくないサドラス。この世界が701年も時が経っている
GrTrAd世界だというのなら、当時13歳のスキュラとはいえ可憐な少女が
714歳になっているというわけで…。
「聞くだけ聞こう」
「お前さんはやはり相変わらずじゃな」
第三話に続く
明日というか朝には仕事だというのに
私は何をやってるんでしょうか…と、言うことで今回の更新です。
今回も楽しんでいただければ幸いです。