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第15話「細かい事はやっぱりメシ食って考える」

書いているうちに大長編の予感がしたので上げますた。

<<フィールド:デヤウス地方 現在地:アラニヤ伯爵領・首都オンコット>>


幼いころからオンコットの教会チャルチで立派な司祭ブラフミンを目指し、

十年以上の努力が認められ、『三級神術師サーシアリー・マギ』の職も得て

さあ前途洋々の出世街道の幕開けだ…! とつい先ほどまでハイテンションだった

狼人ライカンスロ族の少女エリニュスは自分の暮らすオンコット第三区教会の

医務室にてどうしたらいいものか困っていた。


「えーと…つまり貴方様は自分が何処の誰で…

というかココがそもそもドコなのか皆目見当がつかないと…?」

「ぶっちゃけてしまえばそうなりますねえ。

いやはや申し訳ない…ついつい細かく話さなければいけないような、

そんな感覚にとらわれてしまって…」


いわゆる記憶喪失というやつなのだろうが、

如何せんベッドに腰掛けるこの全身紫尽くめの男の頭上の名前が????表記で

自身の鑑定スキルⅥ『ハイ・アナライズ』を以てしても男の名前すら看破できないので

彼のステータスも当然見ることができず、こうして彼の変に丁寧な話を伺いながら

彼が何処の誰なのかを必死に推測するのだが…さっぱりだった。

なのでエリニュスは失礼を承知で男に一言尋ねる。


「ご自分でステータスを確認してみては如何でしょーか?」

「ステータス?」

詳細ディティールステータス参照とでも念じてみてください」

「あぁ…? …はあ…それじゃあ、やってみましょうか」


エリニュスは男の眼前でウィンドウが展開されたことで一先ず安堵した。

これでもしウィンドウが展開されなかったらそれこそこの男はこの世ならざる者だろう。

全身紫尽くめの見るからに怪しい印象ではあるが、少なくとも

この男は間違いなくこの世に暮らすアンスロ族であることはハッキリしたのだ。


「あのう…」

「どーかしましたか?」

「いろいろな情報が一気に出てきて何処から読み解けばいいのかサッパリなんですが」

「え?」


男は自分の前に展開するステータスウィンドウを自分に見てほしいと言うのだ。

自分のステータスをホイホイと他人に見せるなんて…!?

…あぁ記憶喪失だから仕方ないのか…

などと思いながらもやはり人の個人情報の塊であるステータスを

いくら本人が半ば同意している形態とはいえ本当に見ても良いものなのかと

彼女は小一時間ほど悩みそうになったが、人助けのためだと

必死に自分に言い聞かせ、さらに男に念を押すように


「なるべく忘れるよーに努めますのでご容赦くださいね?」

「あぁ…? はぁ、よくわかりませんが容赦しましょうか」


なんだかんだで異性の個人情報にほんのりドキドキしながら

エリニュスは男のステータスを横から見させてもらい――


―<ディティール・ステータス>―

フルネーム:サドラス

年齢:21

性別:男

種族:神人権現イローアヴァターラ<存在進化EX>

職業:魔神機殲士マギアンスレイター聖魔拳大帝アーマットカエサル復讐鬼大公タキシムデューク

段位【最大Lv】:6530 (限界突破OD)

生命【最大HP】:107989275 (限界突破OD)

魔動力【最大MP】:9777265 (限界突破UL)

闘気【最大SP】:99126547 (限界突破OD)

BURST ATTACKゲージ:9599%

基礎攻撃力【STR】:282821 (限界突破UL)

基礎耐久力【VIT】:150659 (限界突破UL) 

基礎精神力【MAG】:202537 (限界突破UL)

基礎抵抗力【RES】:107219 (限界突破UL)

基礎敏捷性【AGL】:699923 (限界突破UL)

総合運  【LUC】:19893  (限界突破S)

ダメージ修正【ALT】:82237 (限界突破EX)

属性耐性:火512 水257 風654 土785 雷154 光777 闇456 波動72 万能48

異常耐性:毒530 眠584 混521 痺658 凍256 石712 死899

所持金:912012542150994095300215YD


―<装備>―   

  頭:バグベアエンペラーの単眼鏡モノクル

 右手:魔女銃大剣『Hexen Nacht』+1999    

サブ1:機甲竜槍ナーガラージャ+1415

 左手:黒金の大斧『Skull Braker』+2351

サブ2:紫電改40㎜機関銃+2550

  腕:宿木手甲ミスティルテイン+3999

SG1:絶対光輝盾バルドル+999

 身体:魔導機械鎧ステルストゥエルヴ

SG2:百眼巨人(アルゴス)の全身鎧

  足:スカンダの疾走具足

SG3:タナトスの蹂躙具足

装飾1:爆撃機翼襟巻デヤウス

SA1:魔導バイクのキーZZZ2199

装飾2:深紅日輪のガンベルト

SA2:黄昏の護法輪

装飾3:ヴァナルガンドの指輪

SA3:暁の護法輪

 専用:無間波動刀『爪弾刹那(ツマビキセツナ)』+6530


―<取得スキル>―

徒手空拳+1058

柔術+652

忍術+772

剣術+1011

太刀術+856

長柄術+703

射撃術+612

詠唱短縮+407

潜水術+1078

飛行術+887

聖剣技Ⅹ

魔剣技Ⅹ

超忍法Ⅹ

刀奥義Ⅹ

太刀奥義Ⅹ

長柄奥義Ⅹ

聖魔拳技Ⅹ

HP強化+9994

MP強化+5821

SP強化+9993

STR強化+2548

VIT強化+1054

MAG強化+1852

RES強化+991

AGL強化+4589

黒魔術+3999

白魔術Ⅴ

精霊術Ⅹ

神術+1033

召喚術Ⅹ

錬金術Ⅹ

調理術Ⅹ

調合術Ⅹ

片手武器特典XCIX

両手武器特典XCIX

大型重火器特典XCIX

精密射撃XCIX

魔法クリティカルⅩ

自己再生Ⅶ

闘気充填Ⅹ

真正竜討者ドラゴンスレイヤー+255

剛魔迫撃者デビルバスター+255

不死斬滅者アンデッドキラー+255

機人粉砕者ゴーレムブレイク+255

水蛭子潰者スライムマッシャー+255

仏明天圧倒デーヴァジットXCIX

至高神殺者デイチーダXCIX

星界破壊者ゼタデストロイア

成長限界突破

成長限界突破S

成長限界突破EX

成長限界突破UL

成長限界突破OD

>>全て表示<<


「……ふわんっ」


そのまま30分ほど気絶した。


…。


紫尽くめの男…というかどうにも記憶喪失っぽいサドラスは

まるで動作停止フリーズしたかのように気絶したエリニュスを黙って見つめていた。


「あのう…」

「………」


エリニュスの目の前に手をかざしてみる。


「………」


ピンと立ったまま動かないケモ耳を触ってみる。


「………」


そろそろセクハラになるんじゃないかと脳裏に浮かんだがすぐ霧散して

やはりピンと立ったまま動かないフサフサの尻尾をモフってみる。


「はわゃぁッッッッッッッ!? 何するんですかぁーッ!!」


杖で思いっきりフルスイングしてコメカミをブン殴られたが、

圧倒的にも程があるDEF差があるため当然サドラスにはダメージは通らない。


「あぁ…いや失礼いたしました。さっきから全然反応がなかったものでねえ」


そして殴られたショックで記憶が戻ったりもしなかった。

そしてエリニュスはエリニュスでバケモn…超天上級高ステータスの彼を

仕方ないとはいえブン殴ってしまった事に報復の恐怖を覚えてガタガタ震えだしていた。


「あわわわわわわ…!」

「? …どうかしましたか」(スッと手を出す)

「ひぃやぁああああああご勘弁をぉおぉおおお!?」(2mほど飛び退いて土下座)

「……あぁ?」


出した手を引っ込めるのも何だったので

とりあえず殴られた部分を掻くことにしたサドラス。


「あのう…エリニュスさん…? で、良いんですよねえ?」

「すみませんサーセンごめんなさい女の子の尻尾をいきなり触るとか普通はブン殴って当然のクソセクハラ行為ですけど私は身の程も弁えず貴方様の頭を情け容赦なく思い切り殴打してしまいました条件反射です出来心でも魔が差したわけでもなく単純に防衛本能を制御しきれなかっただけなのです害意は無いのですお許しください命だけはお助け下さいご勘弁ください何卒何卒ぉッッッ!!」


額をガッツンガッツンバギンバギンと床に打ち付けながら土下座する

エリニュスの行動に胸の奥が少し痛んだサドラスは


「あのう…ちょっと一息入れませんか?」


と、流れるような動作で何処からともなく(アイテムストレージから)

お茶を淹れるための道具一式と御茶菓子とか

思いつく限りのフード系アイテムをテーブルの上に広げた。


……。


…。


「先ほどはー取り乱して申し訳ないです」

「いいええ…私も軽率な行動で貴女を怖がらせてしまったのが発端ですから」


今迄見たことも無い朗らかな笑顔のサドラスに、エリニュスはやはり落ち着けない。


「(頑張れ私…ッ! 超天上級高ステータスなんてまるで神話の廃人マグナウスをも余裕で何柱も葬り去る創世ジェネシス級レイドモンスターのようだからといって目の前のサドラス氏が心まで獰猛なレイドモンスターではない事はこれまでのやり取りでわかっているはずッ! ……だけど、だけどどうして私の震えが止まらないのッ?! これが圧倒的にも程があるレベル差と言うものなのーッ?!)」


実際サドラスに手ずから淹れてもらった抹茶オーレなる不思議な飲み物には

色々と興味を引かれないわけではないのだが、精神がこんな状態で

カップを持つ手が半端じゃないバイブレーションを止めてくれないので

きっと美味しいであろう抹茶オーレの味もヘッタクレも無かった。


「しかしまぁアレですよ。エリニュスさん」

「はいーぃ!?」

「ステータス参照なるもののお蔭で私自身がサドラスと言う名の

21歳“住所不定無職”の男性であることはわかって何よりなのですが…

やっぱり住所不定無職って段階でかなり問題がある気がするんですよ」

「そーですねッ! 私も神職就いてますし住居ありますしッ!」


とにかくエリュニスはサドラスを怒りの方向以外でも刺激しないように

どう対応したらいいのかで一杯一杯だった。なにしろ相手は此方のSTRを

高次元レベルで上回るのだ。ふとしたボディタッチ(相手はそのつもりであっても)で

今、その瞬間にも木端微塵になりかねないのだ。

まぁ冷静になって考えてみれば尻尾をモフられた時点でサドラスがちゃんと

手加減できることは頭では理解しているのだろうが、

心と体がそう簡単に同調できるのならば誰も人生につまづいたりはしないものだ。


「とはいえ一つだけ確実にわかっていることがあるんですよ」

「何でしょーかッ!」


-グォオォルグァアアアアア…!―


「な、何事ッ!?」

「私が空腹ってことですよw」


何だかさっきまでの緊張感が不意に抜けた。


「……あぁ、そーですか」



<<フィールド:デヤウス地方 現在地:アラニヤ伯爵領・冒険者ギルドオンコット支部>>


考えてみればサドラスほどの高ステータス持ちが無職と言うのは世の理的にありえないと

抹茶オーレを八杯くらいお代わりしてから気付いたエリニュスは、

世界の理ワールドシステムの力を以って創造された冒険者ギルドなら

食事と一緒にどうにかなるだろうと思い、街並みの様々なモノに目を輝かせるサドラスを

ギルド内に連れてきた…までは良かったのだが。


「いやあ、美味しいですねえ♪」


たまに食べたくなるレベルの愛着が湧く程度のギルド食堂の黒パンとブイヤベースを

七人前ほどお代わりしまくるサドラスを見つつも、周囲が静まり返っていることに

冷や汗的なモノがダッラダラなエリニュス。


―あの紫…一体何者だ…?

 ―あ、『アナライズ』で看破出来ねぇだと…!? 俺97レベルあるのに…?!

  ―とりあえずあの狼娘ちゃん可愛いな

   ―やめとけ、教会のシスターちゃんだぞ

    ―だからこそ燃えるんだけど…にしても不気味過ぎだろあの紫の男…!


正直今すぐ逃げ出せるものならいろいろな意味で逃げ出したかった。

しかし薄情な行動は神官として既にアウトだし、今こそご機嫌なサドラスも

何かの拍子に「よくも逃げたな」と地の果てまで追いかけられるのはもっとアウトだと

様々な脳内会議で今にもパンクしそうなエリニュスは

サドラスに視線を投げつつギルドカウンターの最近ちょっと気になる

格好良い受付のお兄さんに必死に目で訴えるしかなかった。


「さて、お腹も膨れたことですし…あぁこれお食事代です」


サドラスは実に自然な動作でエリニュスに1TYD純白金貨をポンと渡そうとして


「ぶふゅっ!?」


甘茶を飲んでいたエリニュスに飛沫をぶっかけられる。

BGSは「ざわ…ざわ…」なのは言うまでもない。


「……ぉのぉれぇ…!」


サドラスの笑顔が懐かしい青筋満載の邪神級の笑みになりかける。


「あわわわわ! ごめんなさいごめんなさい命だけはぁッ!」


もうガチで泣きそうな顔のエリニュス。


「……いえ、よく考えてみたら私がまた非常識なことをしてしまったんですよね?」

「は、はい…! だって純白金貨ですよ…!?」


ものすごく今更だが、メガ(M)は百万でギガ(G)は十億、

テラ(T)に至っては一兆を意味する。日本円に単純換算しても恐ろしいことを

サドラスはそれが普通であるかのように振る舞ったのである。


「あぁ…それは申し訳ないですねえ…何分こればっかり大量にあるんですよ」


サドラスは袖の下から1TYD金貨をジャラジャラと出す。

ざわざわレベルが半端じゃないことになった。


「あがが…!」


顎が外れそうになったエリニュスにこれまたサドラスがごく当たり前のように

完全生命薬フルポーションを取り出そうとして、それが何なのかを

その場の誰よりも察知したエリニュスが顎をガッチリ固定すると同時に

サドラスの完全生命薬を拒否した。


「ぜぇー…はぁー…私、正直貴方様の正体を知りたくなくなってきましたよ…」

「それは困りますねえ…というか私って奴は

記憶を失う前はかなり非常識な存在だったんですかねえ…?」


Of courseもちろんいやIt's a great answer!(大正解)

しかしそんなことを知る連中はここには誰一人いない。


「まぁ言うに事欠いて私自身の事は未だにモヤモヤしておりますが…

私にも友人と仲間と仲魔と家来に下僕っぽいのが居たような気がするんですよねえ」

「そーでしょうねー」


正直このままサドラスの記憶が戻らないで欲しいと思ってしまったエリニュスだが、

それはそれで神職の者としての矜持や決意が許さないので、一つ深呼吸をして

エリニュスはギルドカウンターのお兄さんに目配せをする。一ミリも通じなかった。

何かが切れたエリニュスはサドラスの手を引いてずんずんとギルドカウンターに向かう。


「い、いらっしゃいませ…本日は御依頼ですか? 成果報告ですか?」

「サドラス氏。ギルドカード的なモノはあったりしますか?」

「ちょっと待って下さいねえ…」


サドラスが目の前の中空を指でスライドさせたかと思うと

サドラスの目の前というか目の前全体に巨大なウィンドウが展開される。


「ま…まさか…これは…!」


受付のお兄さんが目を回しそうだった。

それだけでなくとも神職の基本として古典を学ぶエリニュスにも何かが分かった。

古の時代、本物の「冒険者エクスプローラー」は誰もが手足の如く使い、

それ以外は極々限られた古人アルトマかそれに準じた存在しか使えないという

「縦横無尽万能法具保存空間アイテムストレージ」だ。

この世界でも普通は物理的に持てるだけしか物品を持てない。

しかし「魔法のポーチ」「仙人の鞄」「悪魔の大財布」「勇者の道具袋」といった

特殊な収納アイテムがあれば物理的な限度数を遥かに超えて物品を持てる。

だがそれにも限界はある。しかしアイテムストレージにはそれが無いと言われている。

古の伝説に出てくる「廃人商人V4姉妹」が何種類何個まで入れられるのか試して

「同じモノは大体999~9999個まで入るが、

種類は派生種亜種含めて二十八万二千種類くらいで心が折れたばい」

という逸話があるくらいだ。


「少なくとも…貴方様はー…種族的にとんでもないお方だっていう事がわかりましたよー…」


とか言ってたらサドラスは金枠に黒字の超高級感あふれるカードを取り出した。


「ギルドカードで検索かけてみたらコレが出てきたんですけど」


受付のお兄さんに見せたら脂汗をたっぷり掻いた後で奥に引っ込んだ。


「もう嫌な予感しかしないですねー…」

「またやらかしましたねえ、私ってヤツは…」


あんまり悪びれる様子が見えないのがエリニュスの心をさらに掻き毟るのだが、

神職者としての心構えがどうにかそれを抑えてくれているようだ。

そうこうしているうちに奥から恐る恐る受付に向かって歩いてくる

岩石巨人ロックゴーレム族のギルマスっぽい人が現れた。


「ぎるどかーどヲ改メテ拝見サセテ貰ッテモ宜シイダロウカ?」

「どうぞ」


朗らかな笑顔でサドラスはカードをギルマスっぽい人に見せる。

食い入るように眺めたギルマスっぽい人はサドラスの頭上とカードを交互に見やる。


「コレハ間違イナク貴方ガオ持チニナッテイタモノダロウカ?」

「そう言われると困るんですよねえ…何分記憶が飛んでまして」

一応いちおーその点は私が保障しますが…」

「教会ノ神官殿モ嘘ヲ付ク理由モ無ケレバめりっとモ無イデスナ…」

「正直嘘ならどれ程楽だったでしょーか…」

「………」


ガックリするエリニュスの表情を注意深く眺めているギルマスっぽい人は

改めてサドラスを見つめ、言を発した。


「かーどノ情報ニハ一切ノ嘘偽リガ無イ事ハ私ノすきるデモ確認ガ取レタ。

シカシナガラ、マサカ本当ニ実在スルトハ思イモヨラナカッタ…SSSSSランク…

………失礼ヲ承知デ申シ上ゲル…貴方ノ能力ステータスヲ見ミセテモラッテモ宜シイダロウカ?」

「はあ、こんなもので良ければ」


サドラスはギルマスに見えるよう背中を向けてステータスウィンドウを展開する。

一字一句ジックリとステータスを観察するギルマス。


「此処ノぎるどますたーニナッテ早200年…今日ホド自分ガ古人アルトマデアレバト、

思ッタ事ハ無イ…ソウカ…貴方ガアノ暴虐廃人ティラニスマグナウスザドゥr…」

「やめましょうギルマス。我々の正気が保てなくなります」


顔面蒼白な受付のお兄さんに止められてギルマスはハッとして居直った。

しかし今更な気がする。ざわざわ感はもっと半端ないことになっていた。


「落ち着きたまえ君たち! 700年以上昔に古の超人エトランゼ達同様に

消え去った廃人マグナウスが今更現れるなんて非現実的にも程があるじゃないか!」


丁度サドラス達の後ろ側にいた群衆が割れたかと思うと、そこから

色とりどりだが統一感のある配色の高性能そうな防具に身を包む十数人の一団が

ゆっくりと行進するかのように整然と歩み寄ってくる。


「?」

「きょ…今日に限ってーぇ…」


記憶がぶっ飛んでいるサドラスは兎も角、エリニュスの冷や汗が

そろそろ一人の女子的にヤバいレベルで噴き出してきた。


「『あれふがるつ』カ…イヤ、アル意味丁度良イノカモ知レンナ…」

「アレフガルツ?」

「サドラス氏はまぁ記憶が記憶ですからご存じないでしょうけどー…」


エリニュスの説明を簡単に纏めれば過去にレイドモンスターを今目の前に居る

人数だけで討伐したこともあるデヤウス地方の最強クラスな平均レベル170越えの

Aランクギルドメンバーたち…それが『アレフガルツ』である。


「ふむ…確かに僕の『ハイ・アナライズ』でもステータスを看破できないようだね」

「隊長…しかしながら奴の身のこなしは油断ならないものがありますよ」

「防具は全て紫一色…波動属性耐性を備えているのも気になります」


ちなみにサドラスと冒険者ギルド職員以外の傍観者からは『アレフガルツ』の

頭上の名前は全員?表記だ。故に場のほとんどが何気に息を呑んでいる。


「初めましてと言っておこう。僕は『アレフガルツ』のリーダーを務めている

ヴィシュヴァク・アーリアントリシェーラ三世だ」

「はあ、どうも。私はサドラスって言う者らしいです…おや?」


一人前に進み出てきたヴィシュヴァクと丁寧に握手をして、

サドラスはふと彼の頭上の名前を見て首を傾げた。


「ミドルネームはどうして名乗らないのです?」

「!?」


ヴィシュヴァクは素早く数歩退いた。


「た、隊長…?!」

「……すまない。僕としたことが…成程…

君は僕の名前を素で看破できるだけのロストスキル持ちなんだね」

「スキル?」

「サドラス氏…それも説明しなきゃーダメなのですか…?」


膝が笑っているのでせめて椅子に座りたいなと思うエリニュスを余所に

ヴィシュヴァクはサドラスに対して警戒心を露わにしていた。


「僕はどうしてもこの目で見たものしか信用できない性質でね…

伝説のアドミニストレータ騎士団の存在だってフェンリル地方への遠征時に

偶然出会っていなければ一生信じることはなかったんだ…

だからこそ君が僕たちを越える超高ランク冒険者と言われても信じられない…!

ギルドマスター殿! 一撃決着での試合許可を願いたいのだが!」


ヴィシュヴァクの言葉にギルマスは肩を竦めながら


「オ奨メハシナイガ…オ前達ニハ良イノダロウナ…」


と呟き、ウィンドウを展開してそれを弄る。するとサドラスとヴィシュヴァクの

眼の前にもウィンドウが展開された。


「エリニュスさん?」

「うぅー…これもですか…?」

「サドラス…と言ったね。君が本当にギルマスも認める

僕たち以上の高ランク冒険者であるかどうかを確かめさせてもらいたい。

だからYesの部分をタッチしてくれるととても有難いんだが」

「はあ」

「え、ちょサドラス氏――」


サドラスは言われるがままにYesをタッチした。

エリニュスの顔面は蒼白だ。


「君の度胸だけは今すぐ認めてあげよう」

「言ッテオクガ決闘デュエルハ外ノ広場ダゾ」

「流石に其処は僕も弁えているよ」


ヴィシュヴァクは爽やかな笑顔だった。



<<フィールド:デヤウス地方 現在地:アラニヤ伯爵領・首都オンコット>>


オンコットの中央広場は久々の大賑わいだった。何しろ地方最強とも謳われる

Aランクギルド『アレフガルツ』のリーダーであるヴィシュヴァクが

正体不明のスーパーハイランカーと噂される流れ者と決闘をするのだ。

しかもそれを見届ける役目を冒険者ギルドのギルマス自らがやるとなれば、

言うまでもなく続々と広場に人々が集い、これに乗じて各地から露店を開いたり

流し売りする商人もぞろぞろとやってくる。オンコットの経済効果も上がるだろう。


「僕は昔は注目されるのが嫌いだったが…最近はこういうのも嫌いじゃないんだよ」

「はあ」


ヴィシュヴァクは武器を構える。ちなみに冒険者ギルドが関わる決闘では

世界の理ワールドシステムが作用して致命的なダメージは入らないようになっている。


「…君は武器を構えないのか?」

「いえ、なんとなく拳だけでも行けそうな気がしたもので」


あっけらかんと答えるサドラスにヴィシュヴァクのこめかみに青筋が一筋走り

目元が醜く歪んだが素早く冷静さを取戻し、鋭く射抜くようにサドラスを見つめ直した。


「双方準備ハ宜シイカ」

「勿論だともッ!」

「あぁ…ええ、多分」


気付け薬代わりにサドラスから何気なく貰った完全魔動薬フルマギヒールを片手に

ギルマスの隣で椅子に座って固唾を飲んで見守るエリニュス。

誰を心配しているかは言うまでもないだろう。


「ソレデハ…試合開始ッ!」

「念のため言っておくがクリーンヒット以外は決着として認められないぞッ!」

「はあ」


ヴィシュヴァクは腰の剣を抜くや否や急降下する鷹の如き速度でサドラスに剣戟一閃…


「(左に…いや、右に避けましょうかねえ)」


…することはなく、サドラスは一瞬残像したかのように見えたかと思うと

ヴィシュヴァクの剣閃をヒョイっと避ける。


「?!」


つんのめってしまいそうなヴィシュヴァクもそうだが周囲のざわつきが増す。


「(初撃から僕の動きを読んだとでも言うのか…?)」

「もう一回聞きますけど、相手にクリーンヒットすれば勝ちなんですよねえ?」

「え――?!」


いつの間にかヴィシュヴァクの目の前に立っていたサドラス。

飛び退こうとしたヴィシュヴァクは腹に強烈な衝撃を受け、群衆手前まで吹っ飛ぶ。


「なnぶどぅはッ!?」


世界の理の力で致命的なダメージが入らない…しかしながら

それは死なないレベルでの大ダメージなら入るということなので、

ヴィシュヴァクは地面に叩きつけられると同時に気絶してしまう。


「決着ダ。勝者サドラス」

「これが一撃決着………物足りんな……はて?

どうしてそんなことを思っちゃうんでしょうかねえ」


あまりにもアッサリしすぎていて『アレフガルツ』のメンバーですら絶句していた。

大きく深呼吸してエリニュスは完全魔動薬をラッパ飲みした。


第15.5話に続く

前後編っぽくなっちゃってスミマセンm(_ _)m

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