異見聞録Ⅱ「夏休み的な…?」
注意:所々で割とガチでゲスかもしれない表現が出てるかもしれません。
―サドラスの視点―
<205☓年8月29日>
そろそろルーンテール帝国の貴族としての社交界デビュー云々とかを
両陛下から打診され始めてきた…が、正直面倒くさい。
国防だの領地管理だの運営だのと適当に色々言ってはその話をさせないように
行動してきてはいたのだが、やはり有耶無耶にはさせてくれないようだ。
なので俺は最後にバカンス的な事をやってから真面目に両陛下からの
命を受けようと思い…
「で、どうして俺のヴェノたんを使わなくちゃならねーんだよ?」
「何分大所帯だからな、ダンジョンだの剥ぎ取りだの適当なクエスト系は
ついてくる連中とついてこない連中がハッキリ別れるが、
今回の海水浴は間違いなく主要メンバーは全員誘っておかないと後が面倒だからな」
俺はストレージから1TYD白金貨をジャラジャラと吐き出す。
「……も…もうその手には乗らんぞ…! 維持費なら7EYDでお釣りが出るんだ!」
「がんばれぇ先生ぇ!」
「負けるなー! 先生ッ!」
「もうアクマのユウワクに乗っちゃらめぇ!」
「ほう…?」
なんだか外野が五月蠅い…だが俺は1TYD白金貨吐き出させる手を止めない。
スピリバよ…俺の現金資産912ZYDを舐めるなよ?
「か…金だけあったってぇ…!」
「ほほう…?」
俺は金貨の吐き出しを少し緩めつつ、ストレージから
と り あ え ず 幻想級の素材を積んでみた。
「うぐぐッ!?」
「あ…あの素材艦砲に使え…」
「バカやめろ! あの悪魔を調子に乗せるだけだッ!」
じゃあ次は伝説級でいいか。
「ふぬおぉおぉおおぉおをををををををッ!?」
「ちくしょー! キタナイぞ悪魔ぁー! センセー駄目だよ?!
センセー前に言ってたじゃん!?
“俺は物欲センサーに引っかからない”とか自慢してたじゃん!?」
さて、古代級の出番かな?
「にゅやぁああぁぁぁああああッ!?」
「あ…主砲の弾頭の素材…」
「く…糞が…! 何て悪魔だ…!」
「うぅぅうぅぅう…! 汚いぞぉゲスやろぅ…!」
よし、トドメの魔導文明級…!
「はいおk! 特別ボーナスもらうお!」
「しょうがないよね先生? ボーナスなんだから貰っとかなきゃ損だものね?!」
「ヴェノゲリオス最強計画ってのは小さなことから始めるだけじゃ駄目だもんな!?」
クックック…どいつもこいつも亡者の目だ…
超越者級や神話級を出すまでもなかったな。
…ん? だったら最初から創世級を出した方が何気に安上がりな気が…
いや、下手に創世級を出していたら俺の虎の子である
究極級や無限級を出さざるを得なくなる。
だから良しとしよう。魔導文明級以下ならそこそこ剥げるしな。
<205☓年8月30日>
PCメンバーを除いて泳げない連中はいないと思っていたら居た。
キュクルとメドラとクリスナ以外の人族メンバーは
半分以上が潜水スキルを取得していない…だと?
巣の視力はPCメンバーを軽く超えているのにも関らず…なの、に…?!
「水に関わるとしてもお風呂くらいですからねぇ……あの、ところでサドラスさん…?
なんでそんなに衝撃を受けた表情を…?」
「ミギに同じく水カンケイはカラッキシだよ」
「我が君…私はそもそも妖花精なのでありけり…海水は不得手でございまする」
「暗殺業に潜水スキルはあまり必要なかったので覚えていない」
馬鹿な…! 潜水スキルを覚えないでいるなんて…! 海底ダンジョンの深層とかで
水責めトラップに遭ったらどう対処するつもりなのだ…?!
「いやいや先輩…別に無理して潜水スキルなくても何とかなるじゃないですか」
「そりゃそうだ。バリア張ってもいいし、風属性スキルで酸素供給もどうにかなるしよー」
「ま~真面目に水中戦やるなら欲しいんだけどね~♪」
「しえりゃんの言うとおりだぞ貴様ら…! クラーケンや
スキュラ系の敵と水中で遭遇した時を想定してだな…」
「いや、そもそもアンタみたいに水中でイカ系を初めとした触手モンスターと
まともに殺し合うとかが正気の沙汰じゃないだろうが」
美学の分からん連中め…自分の独壇場だと思い込んでいるモンスター共の
鼻っ柱を跡形もなく圧し折る楽しみがまだ理解できていないようだな…。
「シュウ。怒ってる?」
「いや別に」
「ところでシュウよ。コレを見てどう思うか聞きたいのじゃが」
そう言ってユウことユスタリシアが俺に見せてきたのは
「何だそのヒモは。命綱にしては頼りなさすぎるだろう」
「認識すらされておらん…!」
たぶん水着だ。だが相手にするのが俺の理性的にヤバ…
…紳士なコメントが面dいや難しいので無視することにした。
「シュウ。これ」
「テント用のヒモは後にしろ」
モモこと百が見せてきた水着も無視した。
年齢不相応なお前のおっp…大双丘に間違いなく似合うだろうが
何故ほぼユウ同様紐状のものをチョイスするんだ?
ちなみに海水浴は初めてだという人族メンバーたちを盗み見るのだが、
連中は当然だが水着というものに戸惑いの表情しか見せない。
それはそうか…防具としてのステータスを調べても
その高ステータスに見合うとは思えない低面積な下着としての用途さえもが
無さそうなものばかりだからな…バカ超人生産職どもめ…!
「隠 す こ と で 倍 増 す る エ ロ」の美学が分からんとは愚かの極みだ…!
クリスナを見ろ…一見エロさの欠片も感じない競泳水着風なモノにも関らず…
どうしてあんなに思わず直立を躊躇うレベルでエロいのかを説明するとだn――
「あのー…先輩…」
――おいスイゲツ。
何故カーテンの向こう側から顔と手だけを出し剰え手招きをする。
「女の子たちは勿論ですけど…色々な意味で先輩ぐらいしか相談できそうにないので…」
本気で向こう側に入りたくない。
如何に奴が見た目どころか第一印象はパーフェクト女子にしか見えないとしてもだ。
何が悲しくて男の水着姿を寄りによって半ば密室じみたカーテンルームの中で
二人きりで見なければならんのだ?
「………チィッ!」
俺はカーテンを引っぺがした。
「うわあああああああ!?」
「ゲファッ?!」
しえりゃんと思わしき奴が起こしたカメラフラッシュで我に返った。
「…何故貴様ガ上ニモ水着ヲ装着シテイルッ?! …似合いすぎて殺意を覚えたぞ?!」
「だ…だってしえりゃんさんが恐ろしい形相で……」
「隠すな! 頬を染めるな! 余計に殺意が湧k――
「はいは~いんダメよ~ダメダメ~♪
そういうのはNGなんだよサドラスさ~ん♪ 夢は夢のままが良いのですぞ~♪」
無難なパレオ付水着姿のしえりゃんのカメラフラッシュが今だけは鬱陶しい。
後ろでさりげなくRECしてやがるアリカは…サロペットか。
むう…絵にはなるがエロさが全く引き立っていないな。
下がホルターネックビキニであるならアリかも知れんが。
「………………………………が、まぁ悪くないいやむしろ良い」
「にゃッ!? …こ…こっこここっち見んな…っ!」
バレたか? いや、単に慣れが足りないだけか。
「まぁ何はともあれ、スイゲツ。着替えろ今すぐ」
「せ、先輩…!」
その顔+上目遣いで眼を輝かすな馬鹿野郎…!
本気で殺意の波動に覚醒めるぞ…?!
「ぶーぶー! サドラスさん夢が無いよ~!」
「お前を含めた一部限定の夢には付き合いきれん」
色々と問題が発生しそうなのでスイゲツにはこの世界に来る前の
RMTの片手間についついポチッてしまった予備の海用パーカーと
ハーフパンツタイプの海パンをくれてやった。
<205☓年8月31日>
ルーンテール近郊の海岸こと「ゴルト海岸」に俺たちはやってきた。
テント設営とか面倒なことはマジで省くことにする。
……。
…。
「なぁ…サドラスさんよ」
調達するものを調達し、バカンスの為にやることをやって
砂浜に座って一息つこうとした俺に青いふんどs…オェ…
…クラシックパンツタイプの水着を着た褐色ガチムチな…オェ…
…姿の厳蔵が俺の目の前に広がる光景を見ながら話しかけてきた。
条件反射で殴りそうになったが自重して寸止めした。
風圧で奴の顔が凄いことになったが無視した。
だが奴は俺に殴られそうになったことに一切何も言わず、
俺が見ている方向と同じ方向を見ながら話しかけてきた。
「お前さんが何か無茶をやらかすたびに爆発しろって思って悪かったな」
「そうか、文字通り貴様もろとも何回か爆発してやろうか?」
「今はやめようぜ…それよりもあの向こう側に広がる楽園…
考えてみたら俺さ…デスゲーム時代どころかそれ以前のゲーム時代でも
こういうイベント遭遇したことなかったんだ…」
慣れない手つきでアタ☆ク№1じみたビーチバレーに勤しむ水着女子たち…
だがそんなアニメな動きは…輝く太陽の弾ける波の傍で…ボールとともに跳ねる…
そう、たわわに実った大中小重厚軽微様々にして縦横無尽な揺れを俺たちに齎し賜うた。
時々痛そうな表情に俺の中の108柱の不浄王どもが騒ぎ出しそうな光景だ。
「………みんな違って、みんな良いな」
「………あぁ」
紳士はRECなどと言う無粋な真似はしない。全神経を集中させて
脳 内 に 右 ク リ 保 存 こ そ マ イ ジ ャ ス テ ィ ス。
「サドラスさんよ…少し冷たい強風を起こすスキルとか持ってねぇのか?」
「もうやっている( ・`ω・´)」
「Très bien(^ρ^)」
(゜∀゜)pq(゜∀゜)
俺たちは顔を合わせることなく拳を打ち合わせた。
冷たい風が何だって? 少し肌寒いということが水着女子に何を齎すのか…
同じゲス野郎な貴様らならわかるはずだ…ッ!
「見えた…ッ! 鳥肌からのWポイントがアップリフトしたぜ…ッ!」
「そうか、英国限定ステレオタイプなフランス人の反応ありがとう」
ちなみにまだ俺も厳蔵もアルコールは摂取していない。
故に言い訳もできない…が、まぁ細かいことはどうでもいい。
「さっきから先輩たちは一体何の話をしてるんですか?」
スイゲツ…フッ…お前にはまだ早い…というかお前は俺や厳蔵のように
心の底に不浄王が巣食っている気配がしないから教えられないな…。
「スイゲツ…お前も男ならそのうち分かるって」
「あぁ」
「ちょ…! 何ですか二人とも大人ぶって…!」
「だって俺来年三十路だしーぃ」
「俺も成人式は二年前の話だ」
「な…何かムカつくんですけど…!」
こうして男が三人並んでビーチバレーに興じる水着女子を延々と眺め続けることに
何か嫌な予感を感じ取った+腹が減ってきた俺は
海鮮BBQの材料を現地調達でもして追加しようかと思い立ち、行動に移すことにした。
「ちょ、何処行くんだよ?」
その場から離れて海パン一丁で独り海に潜ろうとした俺に最初に声を掛けてきたのは、
何気に普段着(この場合デスゲーム時代からの兵装)に着替えていたアリカだった。
「材料調達だが?」
「いや、十分あるだろうが…っていうかアンタのその海パンに紫マフラーっていうコーデ――」
首にマフラーを巻くのはクリティカルヒット除けの防具としてだ。
別に某歌ロイドの青いマフラーが本体と噂されるアイス兄さんとはほとんど関連が無い。
「何より新鮮なモノを敢えてBBQにする贅沢と言うのがあってだな…」
「ああ…まぁ確かに鮮度の良いフォアグラとかも敢えて軽く焼いて食べた方が
香ばしさに加えて程よく油も抜けてサッパリした後口になるから美味しいだろうがさ…」
さりげなく高級珍味の小話を言いやがったなブルジョワJKめ…!
お前が酒に酔った時の痴態をRECした動画をチラつかせてやろうか…?!
「まだビーチバレーは白熱しているようだが…良いのか?」
「アタシだっていつもあの弾幕厨にツッコんでばかりいられないっての…
で、アンタ何処まで潜ってくる気なの?」
そう言えばアリカとはまだ単独でパワーレベリングをしたことが無かったな。
それを言ったらしえりゃんや厳蔵を始め、人族メンバーの過半数ともまだだが、
まぁ細かいことはどうでもいい。
「一応俺の魔導鉄甲船を使って沖合まで行く程度だ」
「アンタにしては珍しく消極的な気がする」
一応バカンスだ。
俺とて無尽蔵の体力と精神力(手に入るなら勿論欲しいが)など無い。
「たまには太公望の真似事をしてみるのも悪くないだろう?」
「その段階でアンタ道具使って釣る気毛頭ないだろw」
ほう、お前の笑顔は中々に可愛いな。
「な…なんだよ急に」
ん? もしかして口に出てたか? これはイカンな、
知的聖魔武器化した魔剣共と会話をしすぎている弊害かも知れん。
「で、お前もついてくるか? 運が良ければレイドモンスターとの海中戦の
実践レクチャーもしてやれるかもしれんぞ」
「…そのレクチャーは兎も角…やっぱアタシは剣振ってる方が落ち着くからなぁ…」
ということで俺はアリカとパワーレベリングを兼ねた海鮮BBQの材料現地調達を
行うべく、スピリバに整備させておいた俺の魔導鉄甲船で沖合へ。
いざ乗り込もうとしたらモモが不意に現れて少しだけ驚いたのは内緒だ。
「へぇ~…これでトライヴ島からグラン大陸に渡ってきたのか…」
「少数で和気藹々の渡航…私もしてみたかった」
「にしてもモモ。アンタもいつの間にかレベル2000越えてるんだよね…
アタシとの差がますます開いててもう何て言っていいかわからなくなるだろうが」
「『天元至高時空間』で育んだ愛の差…?」
「愛は育んでいないぞ、愛は」
「むぅ…シュウ、最近は夜以外も優しくない」
「誤解を招く捏造発言連発は慎め」
実際モモは俺が本当に油断して眠っているときにベッドに侵入してくることがあるので
釘を刺せる限り刺しておかないと本当に(ゲスに負けた俺が)間違いを犯しかねない。
まぁそれはそれでおいおい対策を練るとして……そろそろ網と釣り糸を海にぶち込むか。
エサは…とりあえず伝説級の奴をテキトーに付けておけばいいだろう。
「ここ最近はアンタの私兵団の気の合う連中としょっちゅう郊外で
レイド狩りしてるんだけど、最近レベルが四日に一つ上がればいいって状況なんだよな」
「ルーンテール帝国周辺ではあまり実りが良くないだろう?」
いかにここがゲーム世界と酷似しているとはいえ、
敵とのエンカウントまでは忠実じゃない。ギルドに入り浸っているときも
三桁弱レベルの連中が四桁レベルのレイドモンスターに遭遇して
ほぼ全員がお陀仏になったという話はよく聞く。
……喉が渇いたな、何か飲むか。
「もしかするとアンタの私兵団が強すぎるのが原因かもしれないんだろうけどさ」
「連中は連中で未だに至らぬところはあると思うがな」
「いやいやいや…レイドモンスター相手に大怪我する奴が一人も居ないって段階で
かなりの化け物揃いだろうが…」
「連れて行くメンツを、減らすのも手。単独チャレンジも可」
「……………モモ…アンタもガッツリサドラス色に染まったね…」
「どうせなら、全身余すことなく染め上げてほしい」
#$%&?! ぐを?! 鼻から熱々のコーヒーが…!
…というかこれでもダメージを受けるのか…チッ…落ち着いて飲めやしない。
「………」
「よくよく考えたら、アタシってリアルでさえ釣りの経験値ゼロだろうが…」
「ふ、私は外にすら出たことがない」
「そこは威張るところじゃないだろうが」
海中のモンスターを引き寄せる伝説級のネタアイテムなんぞ使うべきではなかったな…
まさか二人のリアルな釣りスキルがゼロとは…!
恐るべし、ブルジョワ娘とガチニート娘…!
「………二人とも、いつでもBAを発動しておけるように準備しておけ」
「えっ」
「ん。わかった」
俺は何かを聞きたそうだったアリカを無視して海中に飛び込んだ。
生身だったら不可能な事も俺の潜水術+1078をもってすれば
水面下12,400mくらいは余裕だ。
リアル世界ならマリアナ海溝の底とされている所まで潜れんことも無い。
行けたところで誰得かはさておきだ。
「………復活していればこの辺りだったはずだが…?」
俺はMAPを展開し、周囲の点の動きを見る。
そして、目的の赤点どもが現れたことを確認し、大きく息を吐きながら上昇を始める。
普通にやったら死んでいるんだろうが、
ここでの俺の体は常軌を逸しているから気にしない。
とはいえ急激な気圧差に眩暈だの肺の負担が無いわけではないだろうから、
それはそれなりに考えて息を吐きながら上昇をするんだが、
おっと、海面から飛び出してしまった。飛沫でアリカとモモがずぶ濡れじゃないか…
むむむッ…!! …とても良い光景を見させてもらったぞ…ッ!
「うわ、ちょ! 今更だけどちゃんと説明しろよっ!」
「レイド狙いのトレインだ」
「え、ちょアンタ…!」
「極大魔法の属性は雷が良いの?」
「一応炎も頼む」
「ん。了解」
「あっさり通じ合うな! アタシの対応がまだだろうが!」
しかしアリカの対応を俺の追跡者たちは待ってくれない。
俺が魔導鉄甲船に障壁スキルMMMの『干渉不可世界』を
掛け終わるか掛け終わらないかのタイミングで続々と船に飛び込んできた。
「うぇッ…?! 深き者ども…ッ?!」
「ん。ざっと見て平均レベル1800くらい…?」
「それアタシだけが間違いなく死ぬコースだろうが?!」
アリカやモモの言う通りこいつ等は少し昔に外海で本拠地を消滅させた経緯のある
ディープワンズ系の深海魚人どもだ。当時は平均250だったが…あの時は
ベータテスト終了から間もないバージョンだったなあ…。
うむ、700年間しっかり勢力を伸ばしているようで何よりだ。
「感心してる場合かッ!? 船が沈められるだろうがッ?!」
「でも、船の耐久力は、一ミリも変動してないよ?」
船底がガタガタうるさいのは知っている。
だがたかが1800レベル程度の連中が俺の『干渉不可世界』を
そう易々と破壊できるとは思えん。無論破壊してくれるのなら望むところだがな。
「とはいえ…今回は専守防衛に努めるべきか…なッ…! っと………おや?」
アリカの背後に忍び寄ろうとしていた魚たちを数匹、船の外に
『弾き飛ばし』するつもりで横薙ぎにしたのだが、
……うぅむ…まさか一撃で周囲の十数匹諸共に跡形も無く蒸発するとは…
聖剣カルマーグニ+1587に内蔵されている属性が弱点だったのだろうか…?
じゃあ次は魔剣ヴァルナルダー+1658にでも換装してやってみるか…?
「シュウ。敵が泡喰って逃げるよ」
「あぁ?」
「それだけー魚たちがーチョー賢いってーこったろうがー(棒)」
なぜか尻餅ついてるアリカの眼が死にかけている気がするんだが、まあ良い。
逃げるなら追い打ちするだけだ…さて、どの極大魔法で決着をつけてやろうか…?
『迫撃迅雷伏龍破』…は駄目だな。
これは比較的オーソドックスな皇位魔術だが誤爆の危険性がある。
『シャイニングフレアスター』…待て待てこれだと素材ごと消し炭だ。
仕方ない…ここは『コキュートス・アンティノーラ』にしておくか。
一応万能属性と氷属性の複合だから何とかなるだろう。
「アリカ」
「ん…? え、何でバリア張ってん…のぉおぉを?!」
「ナイスだモモ。うっかり味方にバリアを張り忘れていた」
「さっきアタシの背後をいきなり横薙ぎしたときもそうだったろうが…ッ!
そ ん な あ っ け ら か ん な レ ベ ル で 済 む
問 題 じ ゃ あ な い だ ろ う が ッ ッ ッ ツ ツ ツ ???!!!」
ほう、さっきまで死んでいた眼が活き活きしているじゃないか。
ウンウン、ヨカッタヨカッタ実ニ良カッタネー。
「ちっくしょうレベルが近かったらぁ…! レベルさえ近かったらぁ…!」
「アリカ。シュウは何も悪くない。
悪いのはアリカを後ろから手籠めにしようとした半魚人たち」
さて、悪ふざけも程々にアイスキャンデー化している魚たちから素材を頂こうかな。
―アリカの視点―
スイゲツこと和真くん(いいだろ脳内でくらい!)がサドラスと
『天元至高時空間』で本人曰く「地獄の黙示録な日々」を
過ごして帰ってきた時は少し驚いた。初めて会ったころの弱弱しい和真くんだったら
いざ知らず、幾百幾千の仲間たちの死を乗り越えて…すごk…結構カッコよくなったはずの
和真くんが半死半生とか、どんだけヤバいこと(け、決して変な意味ではなく…!)を
されたりやらされたりしたんだろうと思ってたが…ありえないだろうが?!
レベル2000超えのモモの魔法も数発は喰らわないと倒れないような
レベル1800超えな邪神の眷属深き者どもをまるで
子供が砂の柱を叩き壊すように何匹も一撃必殺したかと思ったら…
逃げ惑う連中を今度はアタシたちの存在を忘れて極大魔法で全滅とか…
アタシらのデスゲーム時代を鼻で笑うような超必殺仕事人を連発ってどうなの?
あいつ課金厨廃人とか自称してるけど…どう考えてもその域を
遥か彼方に置き去りにして超えてるよね?
「おい、アリカ。口が開きっぱなしだぞ?」
「誰のせいだと思ってるのか是非とも知りたいだろうが!?」
「いや、俺も連中があそこまで脆いとは思わなくてな」
「いやいやそもそもアンタが脆くないって感じるのは
どう考えてもアタシらのパーフェクト死亡フラグだろうが!」
なんか最近「だろうが」を連発しすぎだろうが…。
もうヤダほんとマジで現実世界帰りたくなってきたかも…。
っていうかVRMMO舐めなきゃよかったなぁ…せめて連中並みに
課金もしておけば良かったかな…? そういえば
「せっかく持ってるゴールドカードを使わなすぎるのも逆にもったいない」
ってお母様も兄さんも言ってたっけ…。
だって月々のお小遣いで十分欲しいもの買えたし…
といって普段のアタシでいられるのはGrTrAdだけだったわけだし…
「アリカ…!」
体動かすこと以外の楽しみなんてゲツくんとレンきゅんフォルダの画像見て
悦に浸ったり萌えたりするかあの弾幕厨にバレたら死ぬしかないレベルの夢小説とか
ゲツ×レンのコラージュとかちょこちょこ書いてみたりするが関の山だし…
「アリカ!」
というかアタシってお酒弱かったんだなぁ…
あの時ラッパ飲みせざるを得なかったとはいえ…
結構度数の低い若い葡萄酒っぽかったし…
今更モノづくりなんてのも柄じゃないっていうか…
「汚嬢様、戻ってこい」
「誰が汚れ攻め好きなお嬢様だ!」
「そういう意味なの? 戻ってきたなら私の後ろに居た方が良いよ」
モモ…! ぐぬぬ…あの弾幕厨め…! っていうか後ろに下がれって…?
「!?」
何あれ?! え、ちょ海面から何か馬鹿でかい青柱…うげ、ちょ触手みたいなのも…!?
っていうか頭上の名前がこいつも?表記…!
「シュウ曰く『名前は大闇海邪神の御子』だって」
「名前からしてヤバい香りがぷんぷんするだろうが?!」
「シュウ曰く『レベル3823…まぁそこそこ楽しめそうだ』だって」
「どう考えてもヤバそうなヤツ相手にして楽しめるのはアンタだけだろうがッ?!」
うわ…タコとイカとシャコに一時期ブームになった大王具足虫…
とにかくもう何だか海の生き物の気持ち悪いぜセレクション大盛りな姿をした
緑青なバケモノ…! おまけに何そのインフレ高レベル…!
単純計算したステータスでもモモさえ十分倒せる強さじゃん…!
「アリカ。水属性の防御スキルはあるの?」
「一応『ウェイブシールドX』なら」
「…シュウが念のために『干渉不可世界』とかいうスキルを私たちにかけてくれたけど…
これはレベル3000の障壁スキルらしいから危ないかもって言ってた。
だから私の障壁スキルMMの『通常物理法則不干渉空間』の中にも入ってた方が良い」
もう何から突っ込めばいいのかわからないだろうが…!
あぁ…なんかもうデスゲーム時代が懐かしいなぁ…
あの時はアタシと和真くんと厳蔵と三人で前衛組んで、
やかましい中衛の弾幕厨の茶々を軽く流しながら
まだまだ人見知りが激しかったモモとかの
魔法系後衛メンバーたちの大魔法に期待する…とか
今以上に命掛かってるから当時は言い出せなかったけど…楽しかったなぁ…
あはは…何だよサドラス…アンタってば自分のレベル半分程度の
クルなんちゃら相手に微塵も容赦ないね…
見なよ…触手を全部切り刻まれて涙目(?)じゃん…。
「ウオォオォォオォォオオォォォオオン…!」
「今更魔法攻撃をするくらいなら最初から波状攻撃を仕掛けろ愚か者が」
にゃはは…相手はモンスターだろうがw
そこまで知性的な戦術練れるわけねーだろwww
「アリカ。エリクシルあるけど飲む?」
「うん。飲むわ」
こんなの飲まなきゃやってらんねーだろうが。
「チッ…もう残り2割か、DEFを10万くらい上げて出直してこい」
なんかあのタコっぽい巨人可哀かも…
サドラスなんかに出会わなければ、今でも外海の支配者だったろうが…
「オォオオオォォォオォォォォオォン…!」
「ん?」
―『最期の大海嘯』―
ぷふぅっ?! 最悪…! こいつ自爆攻撃持ちかよっ…!
ちょ、まだ準備が終わってな待っ―――
………。
……。
…。
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール近郊・ゴルト海岸>>
宙づりにされて大折檻を受ける厳蔵が沖合で起きた竜巻状の津波を発見し、
間違いなくそこでサドラスが何かをやらかしたと察知したメンバーたち。
とはいえまずは半端じゃない津波が押し寄せてきたのでそれを打ち返すために
全員大慌てしつつも兵装に着替えてそれぞれの最大攻撃手段をもって津波をかき消す。
なぜかスピリバだけは意気揚々としていたが、戦艦バカなので気にしないほうがいい。
「アっちゃんが一緒っぽかったから大丈夫かな~とか思ってたけど~
やっぱ無理でしたねわかりますw」
「いや、笑いごとじゃないような…」
「なんにせよ全身鞭打ちの刑に処せられずに済んで助かったぜ」
「言っておきますけど中断しただけですよ?」
「今後一切下心満載の目で見たりしませんどうかご勘弁を」
ふんどし一丁の厳蔵のスライディング土下座なんて誰が得するんだろうか。
「見えましタ! あの船でス!」
「とはいえ我が君があの程度でどうにかなるとも思えなしにけり」
「まぁアンガイのんびりしてそうな気はしないでもないよ」
「その点にのみ関しては私も同意いたしますわ」
ヴェノゲリオスの甲板から魔導鉄甲船が視認できたことを確認しながら
サドラスの異世界人外系パーティメンバーはそんなことを話していたが、
「大変ッ! シュウが…! シュウが…ッ!」
しがみつくアリカをよそに血相変えて甲板に降りてきた百の
言葉に一同は騒然とした。
第15話に続く。




