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第14話「廃人プレイヤー、遥か彼方の地でもある種の伝説を紡ぐ」

え、ちょ長い…!?

―????の視点―


寒い…。おじい様が言っていた以上に寒い。

ここはヴァルナという古の神様の加護を受けた

「肥沃にして豊水なる地」では無かったのですか?

ここには見渡す限り雪か凍りついた水たまりしかないですよ…。


「早く…家に…………ッ?!」


聞きたくない遠吠えが聞こえてきた…嗚呼…どうして今日に限って晴れているの?

どうせ寒いなら吹雪でも吹いてくれればいいのに…視界が悪ければ…

わ…ボクだってこのまままっすぐ歩いていられるのに…あの声が…

あの遠吠えが聞こえたよ…


「隠れなきゃ…遠吠えが近づく前に隠れなきゃ…」



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・法衣貴族区画>>


不毛地帯ことフェンリル地方で文字通り不毛な結果になると思われた

前回の調査は思いのほか実りのある結果となった日々からまた数日…

結局『インテルエボルト』の残り三回分を何に使おうか考えて

一日で飽きたサドラスはこの数日をニート以上に無駄に過ごしていた。

なにしろここは異世界、現実世界のようにYo☆Tu☆eも無ければ

Ni☆oN☆coもYah☆o!もGo☆gleも無い。

というかネットワークと呼べるものがポータルのBBSくらいだ。

以前に制圧…いやカネの力で無双…じゃなくてオーナー契約した

『機神艦ヴェノゲリオス』艦長の早川透はやかわとおることスピリバとは

根本的に生産への考えが違うが故に話も合わないし、

各ギルドマスターの知り合いもツヴェル以外はロクに話をしたことも無い…

かと言って話ばかりするなんて行動はサドラスの行動パターンに余りにもそぐわない。

女子メンバーとの交流も最近はどういうわけか少ないので

桃色展開ハニトラもヘッタクレも無い。


「………」


暇すぎて全体MAPを開いて各地方の情報を手打ち更新するほどだった。


「………俺の居る大陸はグラン大陸と言う名前だったんだな…」


サドラスは自分が最初に現れた地点…『トライブ島』ことミッドガルド地方を

意味もなくタッチ&スライドしていた。


「……そういえばここはロティの実家があるらしいな…」


この際だから本人に無許可で本人の実家に突撃!

…的な隣の晩御飯以上に無礼千万な行動でもしてやろうかとも思ったが、


「人の古傷に障る結果になっては目も当てられん…」


サドラスはソファに寝転がった。力いっぱい飛び込めないのが悲しい。

以前も溜まったストレスを少しでも発散させたくて勢いよく飛び込んだら

半径数百メートルが吹っ飛んだのだ。自分のステータスが相当にデタラメだということを

その時本当に理解した時、彼の中で良心的な何かが成長したのだと思いたい。


「グラン…トライブ…アドヴェント…………………アドヴェント……ん?」


サドラスは起き上がって再び全体MAPを展開した。

目の前には自分の所在地でもあるグラン大陸、最初に現れたトライブ島、

そしてもう一つの大陸がそこに記されていた。


「…(・∀・)」


実際の表情は邪神級の微笑みである。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・帝城来賓室>>


本来待ち合わせの場として乱用するべき部屋ではないが、

今のサドラスはルーンテール帝国の最大侯爵アークマルキスでKATUMIは

『天の御遣い』なルーンテール帝国の伯爵の一人である。

何気にKATUMIが爵位を子爵から伯爵にランクアップさせているみたいだが、

サドラスは敢えて何も言わないことにした。


「少しばかり釈然としないのだが、まぁいいのである。

というかアドヴェント大陸に注目してくれたのは渡りに船なのだな」

「…あぁ?」


微妙にドヤ顔が見え隠れするKATUMIにイラッとしたのか、

サドラスは数日ぶりに煙草を吸い始めた。


「この間のアドミニストレータ騎士団との接触で、一つ実験をしてみたいのだ」

「ほう」


ドヤ顔になったKATUMIの話は面倒くさいので

要約すれば「超長距離転移」スキルの実験をしたいとのことだ。


「そうか、あえて机上の座標でも上手くいくかどうかを試したいんだな」

「うむ! そこでアドヴェント大陸は持って来いというわけなのでな、

一応何回か向こうに無人鎧機兵を送っているから、あとは人間だけなのだよ」

「で、事故率は?」

「0.0001パーセントなのだよ!(ドヤァ」

「……チッ」

「相変わらずお前は嫌な奴なのだな…」

「お前のドヤ顔がイラッとしただけだ」



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国近郊>>


サドラスとKATUMIの目の前には、人間どころか巨人も余裕で潜れるほどに、

巨大な輪の形をした機械が何個か並んでいる。


「で、これが要となる転移スキルの発動体となるわけか」

「ご名答なのだ。ではもう一度説明するぞ? まず自分がお前に

AGL超倍増化でお馴染みの忍術スキルXXX(Lv30)の『響転界』をかける…

そしてお前はあの発動体の中心を潜るように真横にジャンプするのだ。

発動体はお前の通過を察知して転移スキルXXXの『ディメンションジャンプ』を上掛け…

無論完全に発動する前に発動体すべてを潜る必要があるが…お前なら

問題ないだろうからその辺は言わないでおくのだ…まぁともかく実践してみないと

何とも言えんな…ああ、そうそう…事故予防のために防御障壁系のスキルは

全掛けしておいてほしいのだ。無人機の時は障壁スキルXX『ディストシオンシールド』で

事足りたが…一応お前は生身なのでこれ以上のスキルをかけておいてほしいな」

「あぁ、言われるまでもない」


サドラスは久しぶりに障壁スキルMMM(Lv3000)の『干渉不可世界ノンインターフェアレンス』を発動させた。

すると、彼の周囲1m程度が仄暗い球体に覆われた。

何気に球体に触れている地面がジリジリと細かく削れ始めている。


「…いくらなんでもソレはえげつない気がするのだが…?」

「俺の防御系では最強だぞ? 攻防一体なのがまた素晴らしい」

「お前ならそれをかけた状態で体当たりするだけでもレイドモンスターを

何体も葬り去れそうなのだな…」

「………………あぁ…だが今となっては最高につまらんやり方だ…」


数分間沈黙したのち、お互い違う意味でため息をついた。


「…とりあえず実験を開始しようか」

「あぁ」


KATUMIはサドラスに忍術スキルXXXの『響転界』を付与する。

するとサドラスの姿が陽炎に覆われたように歪んで見えるようになった。


「後はあの輪っかの中央目がけて水平に飛べば良いんだな?」

「…ちゃんと飛ぶのだぞ? うっかり発動体そのものにぶつかったら

色々とシャレにならん事態が起きそうなのでな…」

「大丈夫だ。ヘマはしない」


サドラスは軽く飛び上がったかと思うと、空中を蹴った。

普通は空振るが、鍛え上げられたSTRとAGLがその常識を覆す。

彼の足の裏にあった空間は超圧縮され荷電粒子噴射プラズマジェット音速衝撃波ソニックブームが発生し、

サドラスは見事に巨大なリングの中央目がけて真横に弾丸の如く飛行したのだ。

サドラスがリング状発動体の中心を通るたびに

転移スキルXXXの『ディメンションジャンプ』が上掛けされ、

サドラスは発動体を全て通過し終えるころには、彼の姿は忽然と消え去っていた。


「もしも前のゲーム世界だったとしても出鱈目なのである…」


KATUMIはステータス画面に内蔵されている時計機能を一瞥し

サドラスが立っていたと思われる抉れきった地面を見つめながらそんなことを呟いた。


…。


気が付けばミッドガルド地方を通過していたことに、サドラスも驚いていた。


「ほう、これは便利だな…」


遠くに見える鳥や船、そして風景や天候さえもが

何故か「逆再生のように」動いて見えているが、

サドラスはそんなものをこれっぽっちも気にすることなく、

只々自分一人の力で走った時と現在の速度の差に感心するばかりだ。



<<フィールド:ヴァルナ地方(?) 現在地:凍てついた豊水地帯・南部(?)>>


かつては水の神ヴァルナの加護で肥沃な大地に豊かな水に恵まれた

大いなる可能性を孕んだ土地だったが、ここは古の天地聖魔大戦時代に

天空要塞アールヴヘイムからの無差別攻撃によって加護もろとも破壊しつくされ、

今では豊水の残滓ともいえる凍土と凍結した湖ばかりの土地である。


「はぁ…はぁ…はぁ…酷いよぉ…」


ローブを身にまとった子供が必死に走っていた。

子供の後ろには巨大な地中龍グランドワーム

地を這ってゆっくりと子供を追いかけてくる。


「来るなぁ…! 来るなよぉ…!」


子供は地中龍の頭上を一瞥し、すでに膝が笑い始めている足に鞭打ちながら走った。

子供が見た地中龍の名前は「?????????????」…十中八九詰みだろう。


「うあ…っ…!!」


転んだ子供の周りを、今までの鈍行は何だったのかと思えるほどに

素早くその長い体で囲む地中龍。ねらねらと光る唾液だらけの大口を開けて

ゆっくりと子供を一飲みにしようとして…


―――おっと、これは避けられん」


何処からともなく飛んできた仄暗い球体にその頭を木端微塵に粉砕された。

仄暗い球体はその反動なのかどうかは不明だが、硬さに定評のある地中龍に

とてつもない速度で激突したにもかかわらずふわりと空中を漂ったかと思ったら、

口をあけて呆然としている子供のそばにこれまたふわりと降りた。

何気に地面をジリジリと削るのが子供の恐怖を余計に掻き立てる。


「あ…う…あ…」

「ん…?」


仄暗い球体が掻き消えたかと思ったら、そこから全身紫づくめの人型が現れる。

人型の名前も「????」だった。子供は意識を手放しそうになる。


「ابنة كريشنا طفل من فارناأحد أسود…? 読めん…」

「ふぇ…?! 喋った…!?」

「失礼な…俺は一応人間だぞ? まぁ『存在進化』してるが」


紫づくめの男ことサドラスは目の前の子供の名前が読めないので、

何と呼んだらいいのか困惑していたが、

子供が寒そうにしていたのでエリクシルを渡すことにした。


「飲め、偽装も何もしていない本物のエリクシルだ」

「え…? え…? あ…え、完全回復薬エリクシル…?」

「………」


面倒くさいのでローブを剥いで子供の頭にもう一本のエリクシルをぶっかけた。


「ひゃあああ!? つめ…! …たく、ない…?!」


とりあえず子供の体力は全快したようなので、

サドラスは開口一番。


「種族はダークエルフのようだが、お前の名前が読めん…名前は?」

「え…? あ…はい…わt…ボクの名前はクリスナ…

クリスナ・ヴァルナ・スヴァルトソールです…日乃本神語にほんごでは、そう発音します…」

「…あぁ?」


サドラスは自分のコメカミ辺りを軽く指で小突いた。自動翻訳機能は正常だ。

というか翻訳の設定はコメカミではなくステータス画面のコンフィグを

弄らなければ変更はできない仕様だ。


「クリスナ。お前は複数の言葉を解するのか?」

「あ…はい。一応は根幹神語いんぐりっしゅと日乃本神語、

それと名前や文字を記すのに使った亜剌比亜神語べあらびーあを…」

「そうか…梵字表記じゃないんだな…にしても

翻訳言語エンジンが未対応…まぁそれは今さら言っても仕方ないか」


ほかにも色々考えたいこともあったのだが、サドラスはとりあえず目の前でまだ

何か呆けたような顔をしているクリスナの眼前にパーティ登録申請の画面を展開した。


「………あの、これは?」

「お前…もしかして話せるだけで読み書きは無理だったりするのか?」

「あ…いえ…その……ごめんなさい…読み書きは根幹神語と亜剌比亜神語だけです」


サドラスはゲスの一種ではあるが、怯える弱者に追い打ちをかける真似はしない。


「Yesの部分をタッチしろ。そうすればお前の命を俺が保障してやれるようになる」


クリスナは寒さではない理由からくる震えを何とか抑えようとしながら、

サドラスの眼を見た。紫尽くめの見た目によく合う

腐ったドブ色のような濁った瞳だが、芯に宿る光は燦々と輝く太陽のように見えた。


「あの…これを触ったら本当にボクの命を…?」

「あぁ…おま――


クリスナの質問に答えようとしたサドラスの腹の虫が盛大に鳴く。


―――とりあえず俺は飯が食いたいのだ。だが俺はここの土地勘が薄い。

だからお前の命の保障と引き換えに俺をお前が知る町とか集落とかの

道しるべになってもらおう。パーティ登録はそのためにも必要だ」


何となくサドラスの頬が赤いような気がするが誰得なのかわからないので無視したい。


…。


高速で走るサドラスの背中におんぶされているクリスナは、サドラスのMAPや

すれ違うと見せかけて体当たりで出会うモンスターを片っ端から

木端微塵に粉砕していく様子に驚愕の色を隠せないながらも、

自分の暮らす村落への方向をサドラスに教えていた。


「あの…どうして…」

「お前のステータスを見させてもらったが、よくもまぁレベル1でこの平均レベル236の

モンスターが跋扈する地帯で生き延びられたものだな?」

「それは…貴方が先ほど『解体はぎとり』した地中龍のお蔭というか…何というか…」

「あぁ…あの経験値500万……ゴミめ」


経験値500万…クリスナが獲得すれば間違いなくレベルが一気に40は上がるであろう

莫大な量の経験値を以って『ゴミ』と称するサドラスの言動で、

折角温まってきた体にまたも寒さとは違う震えが止まらなくなった。


「まぁお前の暮らす村に着くころにはお前も余裕の一人歩きくらい出来るようになる」

「え…? それはどういう意味で…?」

「村に着いたら自分のステータスを見ておくんだな」


そう言うとサドラスはクリスナを降ろした。目の前にはクリスナにとって

安堵の息が漏れる見慣れた村の風景がそこにあった。



<<フィールド:ヴァルナ地方(?) 現在地:過疎に向かう村アスラー(?)>>


村の門番は何から突っ込んでいいのかわからなかった。

門の前には全身紫尽くめの得体のしれない「????」と頭上に表記された人型と、

顔も雰囲気もよく知るはずなのに頭上の名前が?表記になっている…

自分の能力を確認して絶句して固まっているクリスナが現れたのだから。


「お、お前…クリスナなのか…?」

「うん…たぶん…」

「こいつは俺と行動を共にしていたらレベルが上がっただけだ」

「ヒィ!? 人の言葉を喋った?!」

「………」

「マッダーフ…落ち着いてよ…この人…サドラスさんもアンスロ族だよ」

「いやいやいやいや…! 俺らでも頭上の名前が見えない人なんて…

あ、いやまぁ居るっちゃ居るけどさ…」

「で、俺はここに入っていいのか駄目なのかが知りたいんだが?」


サドラスが一歩進むと門番たちが一歩引いたのでクリスナを見た。


「あの…この人はボクの命は元より色々な意味で恩人なので…」

「いや、まぁ何だ…俺らも門番としての矜持というか…」

「でも名前が見えない人アンノウンランカー相手にケンカを売るほど俺らも馬鹿じゃないし…」


しかし彼らの目は相変わらず怯えが消えない。

それは町の中に入っても変わらなかった。というか活気のある商店街が

サドラスの登場で一気に静まり返ったのにはほんのり悲しさも感じたようだ。



<<フィールド:ヴァルナ地方(?) 現在地:アスラー・町長宅(?)>>


沈黙の商店街にいても無駄に注目されるだけなので、サドラスは

クリスナの案内で町長の家にお邪魔することになった。


「この度は私の孫むすm…孫を助けて頂いたうえ…さらなる加護を

与えて頂いたことを感謝いたしまする…」

「気にするな。目の前で死なれても寝覚めが悪いだけだからな」


深々と頭を下げる初老の男(名前がやはりアラビア語表記)に対する

サドラスの態度は存外素っ気ない。

しかしサドラスが気になったのは家の内装だ、

町長なのだからそれなりに潤った生活をしている(故に食事に期待してた)

かと思ったのだが、内装がまるで廃墟のようで

とても町長とは思えない生活水準だった。


「よほど外のモンスター相手に苦労しているんだな」

「いやはやお恥ずかしい…この地がそもそも極限環境に成りつつありますゆえ…

そこに輪を掛けて大乗生物レイドモンスターが跋扈と…

大戦の傷跡さえ碌に癒えないまま大事件の連続でしたからな…」


初老の男ことクリスナの祖父――名前を聞いたらアサード――の話を聞けば、

いつぞやサドラスがポータルのBBSで見た内容の状況から

この地では一向に改善が進まないとのこと。


「……騎士団の連中…いや、あいつらは運営との接触で頭が一杯だったな」

「騎士団…?」

「気にするな。こっちの話だ……で、だ。話の腰を折るんだが、

俺は腹が減っててな…情けないことにFOOD系アイテム…食料をロクに持ってないんだ。

空腹でステータス半減はあまりにも笑えないからな。

差支えなければ飯を貰いたいんだが」

「おお。これは申し訳ない。クリスナの恩人に何もないままお話ばかりで…」


アサードは懐から鈴を取り出して鳴らすと、家の奥から

赤いローブを身に纏った蛇人リザードマンだのエルフだの多種多様な

異種族たちがドーム状の銀の蓋ことクロッシュでフタをされた銀食器を

沢山運んできた。


「おい…大丈夫なのか?」

「色々切り詰めて生活しておりますが、日々の食事だけはその日その日を

生きぬく為に惜しみませんからな」


その言葉に色々と重い物を感じたが、蓋の隙間から漂う香ばしい匂いに

サドラスの腹の虫が観念したようだ。

並ぶ料理はやはりアラブっぽかった。パンに相当するものはハモス風だし

それに合わせるおかずも油や調味料に香辛料をふんだんに使っていた。

お茶チャイが砂糖たっぷりなのは少し閉口してしまったが

文化の違いだと割り切って舌鼓を打つことにした。


…。


空…ではなくほんの一口程度の料理を自分の皿に残して

サドラスは御馳走様をした。


「日乃本神語圏の方にはお会いするのは初めてですが、

ご満足いただけたようで何よりですな」

「そうか。いやまあ俺も亜剌比亜神語を喋る人間に会うのは

随分久しぶりだったからな、作法が間違ってないかと内心ヒヤヒヤしていたよ。

…ところで、あんたとクリスナ以外の連中は皆大概赤いローブを羽織ってるんだが…

それはどういう文化なんだ?」

「あぁ…労役者ラキークたちの事ですな。余所の国では大概が

悪行から転じる者達が多いようですが、少なくともここでは

移民が正式な市民権を得るための通過点に過ぎないものですな。

ちなみに橙色のローブが以前は悪人であったラキークなので

無用の事とは思いますが、接触の際はお気を付け下さい」


橙色にはPK前科のあるPCことオレンジプレイヤーの存在があるので

何だか少しだけ妙な懐かしさを感じたサドラス。


「さて、と…」


サドラスはアイテムストレージからGrTrAd有料…いや優良プレイヤーだけが

持てるスペシャルアイテム「GrTrAdオールコンプ図鑑」を取り出して広げた。

サドラスの目の前で画面が展開し(それを見たアサード達が驚愕していたが軽く無視)

モンスター図鑑の項目を開いた。


「聞きたいんだが、この辺で古の時代に討伐されたはずのレイドモンスターを

見たとかそういう情報は無いか?」

「ふへ? ほわぁ?! ああ…そうですな…

兵役者フェダイーンを兼任する者が何人かいますので聞いてみますかな」


アサードは傍に控えるラキーク達を手招きすると、帯剣している数人が歩み寄ってくる。


「噂が七件で、目撃情報が四件。遭遇が一件ですご主人」

「どの件からお聞きになりたいですかな?」

「無論遭遇の件だ」


サドラスの一言にエルフのラキークが一歩前に進み出る。


「アスラーギルドランクBのレイラと申します。情報としては古いのですが、

私がまだランクDの頃…まだレイドモンスター相手に十分な討伐部隊が編成できた

十数年前のことです…」


レイラの話を要約すると、アスラーから北北西に十数キロ向かった旧開拓地で

嘗て天地聖魔大戦以前に数多くの冒険者エクスプローラー超人エトランゼ

死に戻りリスポーンさせたグランドキャンペーンモンスターと非常によく似た

超大型のモンスターと遭遇してしまい、自分以外の仲間を

悉く全滅させられたことがあったそうだ。以降ギルドに報告して

何度か討伐部隊を出してもらったが結果は壊滅に次ぐ壊滅で、

結局ギルドにあった虎の子の魔道文明マギテック級の

魔除けアーティファクトを設置してどうにかその設置点以降の侵入を防いだそうだ。


「名前の?の文字数は覚えているか?」

「さすがにそこまでは…」

「大体で良い」

「そうですね……十三文字くらいだったと思います」

「! …それで十分だ(☆ー☆)」

「?!」


サドラスはゆっくりと席を立つ。


「こんな時間にどちらへ…?」

「そのレイドモンスターを“ちょっと一狩り”してくるんだが?」

「はぃ?」

「ふぇえ?!」


アサード達が気づいた時にはサドラスの姿は忽然と消えていた。


「………やはり…やはりあのお方は…」

「ご、ご…ごごごご主人! ご主人!!」

「何ですかな?」

「おj…クリスナ様の姿も消えました!」

「何ですと!?」



<<フィールド:ヴァルナ地方(?)現在地:凍てついた豊水地帯・北端>>


どこぞのサスペンスのクライマックスにありがちな岬でようやく立ち止まったサドラス。

なぜか小脇にクリスナを抱えていた。


「な…何…え…!? お外ぉ?!」

「ああ、レイラの話に出てきた地帯だ」

「ふぇえええぇ!?」


激動過ぎて最早目すら回す余裕もないクリスナを尻目にサドラスは周辺のMAPを展開。


「赤点が…一つ…ほう…やはりか」

「何ですか?! 何が“やはり”なんですか?!」

「まぁ見ていろ」


サドラスが指を刺した方向から何やら赤い靄がゆっくりとこちらに向かってくる。

嫌な予感しかしないクリスナだったが、とりあえずサドラスに聞いてみた。


「あの…サドラスさん…」

「あの赤い靄はグランドキャンペーン第七弾…レベル1890の

『赤靄のアストロンデスワーム』の出現を意味している」

「せんはっぴゃ…ッ?!」


案の定口がパクパクしてしまうクリスナにサドラスは見向きもしない。

そうこうしているうちに赤い靄はサドラスの前でグニョグニョと形を変え

気持ち悪いくらいの赤い光沢をした地中龍の姿へと変貌した。


「OGYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


地中龍の叫び声はあらゆるものを揺さぶりつつ、周囲を薙ぎ払うブレスともなる。

吹き飛ばされそうになったクリスナはまたもサドラスの小脇に抱えられた。


「ひゃひぃ!?」

「大丈夫だ、お前のレベルなら行動不能には陥らん」

「あ…ああああ足がぁ…震えてぇぇええ…!」


やれやれだと肩を竦めたサドラスは愛用の銃剣で間違いなく重たそうな数発を

地中龍にブチかました。地中龍はそれを恐るべき速度で避けた…

…まではよかったのだが、その後至近距離まで接近したサドラスの愛用の大斧で

先ほどまでの回避が無意味だったとばかりにブツ切りにされる地中龍。


「……取得経験値たったの1620万…これでは俺の取得分は1にしかならんな…

まぁいいそんなことより素材だ」


などと文句を言いながら地中龍のブツ切りをさらに丁寧に解体していくサドラス。

クリスナはもう気絶したくて仕方がなかったが、小脇に抱えられたままなうえに

パーティ効果による怒涛の連続レベルアップによる『存在進化』現象で

体が熱発しているためそれもできなかった。


「え、高祖漆黒亜神族エルデストダークエルフ…!?

ぼ、ボク…ただのダークエルフじゃ無くなっちゃったの?!」


自分のステータス画面を見て開いた口がふさがらないクリスナを一瞥して

サドラスは再び剥ぎ取りを再開しつつこんなことを言った。


「折角だから何日か俺がお前の“パワーレベリング”をしてやろうか?」

「ひゃひぃ?!」


クリスナはこちらを向かないで話しかけてくるサドラスの表情が

「絶対これ悪い笑顔だよね?」と何故か確信できた。



―クリスナの視点―


正直な話…あれが本当に数日間の出来事だったのかどうか疑いたくなる展開でした。

というのもサドラスさんが討伐したあの赤い地中龍は前哨戦に過ぎず、

二日後くらい後に今度は多種多様な色合いをした地中龍の大群が

アスラーに土石流の如く向かってきたのです。


「そうそう、これだこれ…神々うんえいの悪意としか言いようのない

平均レベル1000越えのグランドワーム群。もしもデスゲーム中に

発生していたら百パーセント全滅は必須だった糞イベント…

俺が参加する前に他の廃人ギルド連中に総取りされた時はレッドPC認定覚悟で

連中のギルドに殴り込みを掛けたかったが…まぁいいレッツパーリィだ」


サドラスさんの言っていることの過半数が理解できませんでした。

だからお爺様に聞いて初めてその内容が天地聖魔大戦以前の遥か古の時代の話だと

知って、漸くサドラスさんがこの世ならざる大いなるお方だったことも知りました。


「…あぁ? 俺が廃人じゃなかったら

それこそ世界中がクソ面白いことになってしまうじゃないか」


サドラスさんの笑顔が怖かったですが、

ボクなら間違いなく戦意を失うであろう地中龍の大群相手に無双していく様子は…

………ちょっと格好良いなと思っちゃいました。

おかげさまでボクのレベルがあっという間に1000を超えて

アスラーの周辺は以前より平和になったような気もしましたし。


「せっかくだからダークエルフらしく(?)なるように高位暗黒神術や『極大魔法』も

何点か伝承させてやろう。何より俺のパーティメンバーに雑魚がいるのは許せんからな。

ともすればお前が覚えることになる高位暗黒神術で同士討ちフレンドリィファイアしないように

お前に後々仕えるだろうフェダイーン精鋭候補も見繕ってやるか…

となればそれに必要な修練場に砦なども…ククク…何だか楽しくなってきたぞ…?」


正直ロストスキルの数々を伝承させて頂いたこと等も驚きませんでした。

何というか…こう…それが当たり前なのだと。サドラスさn…

サドラス様にそうして頂けることは無上の幸運なのではないのかと…。

だからこそ…ボk…私ももう少し素直になったほうが良いのではないかと…

…なぜか…そう、思えるのです。



<<フィールド:ヴァルナ地方 現在地:過疎に向かう村アスラー>>


サドラスがアスラーにやってきてから数週間が経過したが、

町の様相が以前に比べて随分と変わっていた。

以前は町の外装はすぐに修繕が効くように干し煉瓦で成形するだけの

簡素な家が多かったのだが、今では外側に向かえば向かうほど

強固な金属板などで補強…早い話が要塞化しているのである。

そしてローブを身に付けるのはラキーク出身者が殆どだったが、

今ではフェダイーンになったものが必ず紫のローブを身に纏っている。

だが最も気にしなければならない点は、フェダイーンが漏れなく

見るからに凶悪そうな武器を必ず携帯しているという事だろう。

『見た目だけなら』普通の武器を携帯しているものもいるが、

それは諜報スパイ活動に特化した違う意味でヤバい連中だ。

ちなみに街の住人のほとんどがサドラスを見る~目が合う…等で

深々とお辞儀~礼拝…等してから自分の用事等を済ませにいく…。


「……さて、どうしてこうなったんだろうか…?」

「全てはサドラス様が私たちを導いてくださった結果ですよ?」


傍らにいるどういうわけか全身自分と同じ色遣いの紫で統一された魔導兵装になっている

クリスナの口調とか雰囲気うんぬんの変化も色々オカシイ気がしたが、

文句も言わずに自分の指導や土地開発云々に何故か嬉しそうに付き合ってくれるので、

サドラスはサドラスで己の嗜好とゲス根性がままにアスラーとその住人達に

自分のヤリコミプレイスタイルを『叩きこめそうなものは全部叩きこんだ』

…その結果がコレだと言う事をイマイチ理解できないのがサドラスなのかもしれない。

何にせよ深く考えるのが面倒くさくなったのでサドラスは煙草を吸おうとしたら、


「火は此方ですな。盟主サドラス殿」


と、普通に…いやちょっと何故か畏まって名前を呼んでいるはずだが

何かが引っかかる雰囲気を放ちながら、わざわざ煙草に火を灯してくれるのはアサード。

流石に彼はフェダイーンの恰好はしていなかったが、

頭にこれまた自分と同じ色遣いの真紫のターバンを着用していた。


「…一応ヴァルナ地方全体の都市国家間の同盟はどうなってるか聞きたいんだが」


ついついノリで色々進めていたらアスラーは、

一つの都市国家として十分機能するようになってしまっていたので

コレはそろそろ面倒くさいことになってんじゃね? と思うサドラスだったが

手を付けた分だけはきっちりヤリ込めるだけヤリ込まねばならない

ヤリコミ野郎気質が許さないので投げ出すに投げ出せない。


「ヴァルナ地方でサドラス様の同盟を良しとしない連中など

居 る は ず が 無 い じゃないですか♪」


……クリスナのその返答に何かが確実にヤバイ方向に向かっている気がした。

だが一々追求するのは面d…ポリシーじゃないサドラスは


「今日ちょっと”独り”で狩りでもしてこようと思うんだが…?」

「はい♪ 仰せのままに…それでは”共に”向かいましょう♪」

「(駄目だ逃げられん…! そんな満面の笑みを浮かべるんじゃないクリスナ)…あぁ」


サドラスはゲスだが、こんな相手には強く出れない…誰得なので突っ込まないが。



<<フィールド:ヴァルナ地方 現在地:凍てついた豊水地帯・北端>>


当り前だがこのあたり一帯もフェダイーンを教育するために狩り荒らしたので

普通のモンスターは愚かレイドモンスターの影も形も無い。


「敵のリスポーンに…期待なんて…してはダメだと言うのか…!?」

「どうかしたのですか? サドラス様?」


サドラスはアイテムストレージを開く…すると文字チャットが起動した。


<何か大変そうだね~サドラッさ~ん>

「アルシエルか…」

<盟主様。時には自重する事も大事也>

「わかっている、反省しているんだSfzx…」

<ポイント違いは失点だと思うがね>

「ルリエニエル…お前は誰かみたいなことを言うんだな」

<ご主人たまー…こえからどーすんのー?>

「それが思いつかんからストレージを開いたんだ七天圧倒…」

<盟主様に如何にも成らぬ事我らが如何出来ようか>


サドラスは頭を掻き毟った。ちなみにクリスナはサドラスが

何かをしていることに一切突っ込みを入れない。というか真剣な眼差しだ。


<………ね~ね~サドラッさ~ん…おいらを遠くにブン投げてくれない?>

「……何をする気だ」

<良~から~良~から~おいらを信じて~♪>


サドラスは魔王処刑剣アルシエル+1210を取り出し、遠くにブン投げた。

投げられながらアルシエルが『人化』していたみたいだが、それがわかるのは

サドラス以外にいない。


「あの…サドラス様…今一体何を…?」

「……俺も良く分からん」

「…ふぇ?」


とりあえずサドラスはその場に座り込んだ。

傍らのクリスナもちょこんと座りこんだ。


…。


体感で十数分経っただろうか、サドラスがアルシエルをブン投げた方向から

砂煙が舞い上がり、何かが此方に向かってきているようだった。


「……あいつ…何がしたいんだ…? トレインなど………!? そうか!!」


MAPを見ていたサドラスは何かを確信し立ち上がった。

傍らのクリスナもハッとして立ち上がった。


「サドラス様! 前方から多くの……レイド級…?!」


サドラスは仰々しく深呼吸した。


「……どうやらアレは俺を追いかけてきた異形のようだ。クリスナ、お前は今から

アスラーに戻って出来うる限りの防御をしろ」

「何を仰るのですかサドラス様! 私も…いえ私たちも戦えます!」


食い下がろうとするクリスナに対してサドラスは首を振る。


「お前の…お前たちのレベルではどうにもならん…あいつ等は俺がどうにかする」


クリスナの両肩に手を置く真顔のサドラス。


「!?」

「良いかクリスナ。アスラーに戻ったら俺の言う三つの事を守れ…

一つ目…今進めていることは全て完遂しろ。足踏みは許さん。

二つ目…アスラーを含め、同盟国の情報は絶対に外部に漏らすな。

最後に…俺がアスラーに戻るかお前と再会するまで絶対に先の二つを守り通せ…

…そして死ぬな。これは命令であり約束だ…お前なら出来ると俺は信じている…!」


そのままクリスナをアスラーのある方に向け、軽く背中を押すサドラス。


「さ…サドラス様ッ…!」

「行けッ!! 俺を失望させるなッ!」


一端振り返ったクリスナは目尻に涙を溜めていたが、

何かを言いたげな顔のままアスラーまで走り去っていった。


「………行ったか」


きちんとMAPの索敵範囲からクリスナの反応が消えたことを確認したサドラスは、

クリスナと自分のパーティ編成を解除した。

その後モンスターの大軍を文字通りぶった切ってど真ん中をサドラス目がけて

飛んできた魔王処刑剣アルシエル+1210をナイスキャッチする。


<やり方がゲスいね~サドラッさ~ん>

「戻ってきたか、アルシエル……ゲスいのはお互い様だろうが」

<そだね~、おいらも名前に恥じないゲス魔剣だもんね~>

「わざわざ自分の先天属性である闇属性のレイド級をトレインするセンスとかな」


とか言いながら魔王処刑剣アルシエル+1210を普通に装備するサドラス。

空いている手には愛用の大斧を装備した。先ほどのアルシエルの不意打ちで怒りに満ち溢れ、

怒涛の如く迫るモンスターの大軍を前に超涼しそうな顔をしているのは…何も言わない。


「属性の相克を考えれば遅くても10分弱だな」

<楽しく一狩り行こうぜ~!>


サドラスは地面を蹴った。そしてモンスターたちの眼前にいきなり現れて

両手の武器を振り下ろす。違う意味でモンスターの大軍が割れたのは言うまでもない。


……。


…。


あらかた解体し尽くされ、素材にされなかったモンスターの残骸が粒子になって

消えていくのを眺めながら、サドラスは何か考え事をしていた。


「『干渉不可世界』と『響転界』で…

確か八連続で『ディメンションジャンプ』…で良かった筈だったな」


最初は普通に海上を走ってルーンテールに帰ろうと思っていたサドラスだったが、

あのワープの感覚をもう一度味わってみたいと思ったので

グラン大陸からアドヴェント大陸までのワープ用の連続スキル発動の順序を

何気に録画した映像で再確認していた。


「…まずは『干渉不可世界』」


サドラスの周囲半径1mを仄暗い球体が覆う。


「次に『響転界』」


仄暗い球体が陽炎のようなものに覆われる。


「で、水平飛び……ッと!」


あの時同様サドラスの足の裏にあった空間は超圧縮され荷電粒子噴射と

音速衝撃波が発生し、またしてもサドラスは見事、真横に弾丸の如く飛行した。


「おっと…8連続で『ディメンションジャンプ』」


前回のようにリング状の発動体が存在しないので微妙にタイミングがずれたが、

失敗することなくサドラスに『ディメンションジャンプ』が重ねがけされる。

前回と違うのはルーンテール帝国近郊の転移を開始した「間違いなく存在する座標」を

しっかり設定している事ぐらいだろう。

この様子を見ているものが居れば、仄暗い球体が見事な水平飛行をしたと思った

その瞬間に忽然と姿を消していることが確認できただろう。


「ふむ…今度は背景の動きが普通なのか」


遠くに見える鳥や船、そして風景や天候さえもが

今度は何故か「倍速再生のように」動いて見えているが、

大してリアクションをしないサドラスだった。


………。


……。


…。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国近郊>>


夕暮れに染まるKATUMIとリング状の発動体。


「遅いのである…保険の強制帰還転移が発動してここまで時間が掛かるなんて…

計算違いにしても不可解なのだ」


とか何とか言っているKATUMIの横を仄暗い球体が通過して

遠くの地面に激突して大粉塵を撒き散らした。


「……………あ、あと2メートル右だったら……!?」


直撃してお陀仏だっただろう、主にKATUMIが。

口をパクパクさせているKATUMIを余所に『干渉不可世界』を解除して

微妙に疲れた顔をしたサドラスが歩み寄ってくる。


「悪い、遅くなった」

「遅いとか言う前に何か言う事があるような気がしないのではないのだろうか!?!?」

「あ、すまんな。微調整が存外難しいんだ」


肩を震わせるKATUMIを軽く無視したサドラス。


「やれやれ…思った以上に疲れたな」

「そりゃあ8時間以上も油を売ってたのだろうから疲れるのも当然なのだろうな!」

「…………あぁ?」


KATUMIの言っていることに何かが引っかかったサドラスだったが、

面倒なので明日にしようと思い、まだ何かをまくし立ててくるKATUMIに

気絶するレベルの当て身を食らわせて担いでルーンテールに帰ることにした。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・法衣貴族区画>>


小鳥の囀りが気持ちの良い朝を教えてくれる中で、サドラスは

たまには大広間で一人朝飯でもしようかと自分の席に着いた途端だった。


「おいサドラス! お前いったい何をしでかしたのだ!?」

「急にどうしたKATUMI」


とりあえずコーヒーでも飲むかと思ったら大広間にKATUMIが現れる。


「どうしたもこうしたも…! アドヴェント大陸から気持ち悪いレベルで

お前と同じ色遣いの真紫のカラーリングに統一された魔導戦艦の艦隊が

……いや大艦隊がルーンテールの領海に続々と侵入してきたのだぞ!?」

「…あぁ?」



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・国防軍港>>


陸に帝国竜戦車隊、空に飛行戦艦隊、海上に魔導軍艦隊…すわ全面戦争かと

思われるほどに海港は物々しい面子が並んでいた。


「ヴェッテンダス帝王陛下は兎も角…

何故ゼクスローティア聖王猊下までいらっしゃるのですか…?」

「まあ良いじゃないかヴァルタースキルヒェン伯爵」

「実際アレだけの規模ですから、奥に引っ込むより

前線近くに出てた方が返って安全でしょう?」


額を抑えるKATUMIを前にルーンテール帝国の二王はちょっと呑気な気がする。

まぁこの二人も何だかんだでレベルが200越えなので

そんな余裕を見せるのかもしれないが…『天の御使い』という称号が

どこかの紫の誰かさんのせいで形骸化しつつあるKATUMIとしては全く頂けない。


「スピリバさん…あの艦隊の性能とか分かりますか…?」

「うーん…俺のヴェノたんに比べれば一隻の性能は大したことないんだが…

あの陣形といい配置と言い…俺の艦隊愛を擽らせてくれるお」

「あの艦隊から一斉射撃されたとして~…すべてをギリ避けとは言わないとしてだな~

…ん~~~~~~お姉さん燃えてきたかも~!」

「久しぶり過ぎて突っ込むのも忘れてただろうが」

「何気に物騒だからガチ自重してくんねぇ?」


久しぶりに姿を見た『機神艦ヴェノゲリオス』自称:提督アドミラル早川透はやかわとおることスピリバに

何か良いアドバイスが貰えないかと話を聞いているスイゲツ達。


「色遣い…良いセンス」

「そうかのぅ…流石にちと悪趣味が過ぎる気がするのぅ」

「会話に花を咲かせるのは結構だが俺の腕に絡まるのは割と本気で勘弁してくれないか…

っておいロティ。今日はどうしてお前まで俺に引っ付いてくるんだ…?」

「たまには…たまには良いじゃないですか…!」

「ぐぬぬ…我が君! 我が君! 椅子が欲しくなったら何時でも言いたりければ…!」

「う…出遅れた…」

「今からでも遅くないぞ、魔王様に抱きつく好機を逃すことが愚行だろう?」

「海戦…私の本領を発揮してマスターに良いところを見せるチャンスでス…!」

「ムリはしてもムチャをするべきではないとワタシは思うよ」


なんかもう色々な意味で是非爆発してほしいレベルで

多種多様な女子たちに密着云々されているサドラス。


「……アレが旗艦か?」


真紫の艦隊から一際大きくて派手な黒金装飾を施された旗艦と思われる戦艦が

最も軍港に近い距離に進んできて停船する。

停船から数分ほどで甲板に程よく派手な装飾をした

紫色のローブを被った女らしき人物が現れる。

女は何も無いところからもの凄く極悪な印象を受ける錫杖を取り出し、

末端の部分で足元をカツンと打ち鳴らし、一呼吸おいてから叫んだ。


「الكثير لبطل غرب القارة، والفائز من الشرق الأقصى من القارة هو نسأل!

! ما كنت في صحة جيدة

(遥か東の大陸の覇者に、遥か西の大陸の覇者が問う! 恙無つつがなきや!)」


自動翻訳機能があるサドラス達には普通に母国語に聞こえたが、

それ以外の人族たちには聞いたことのない異国語に聞こえたようで、どよめいてしまう。


「伯爵…宣戦布告だろうか?」

「違います陛下。単純にお元気ですかと聞いてきただけなのです」

「あらあら…大軍を率いてきた割には随分と丁寧なご挨拶なのね…?」


素っ頓狂に聞いてくる割には目が笑ってない帝王と

綺麗な笑顔にはあまりにも似合わないレベルで凄い青筋を浮かべる聖王。


「猊下落ち着いてください…あれは対等さをアピールしたいだけで

別に上下関係をハッキリしたいわけじゃないのです」


きっとKATUMIの胃はストレスでもんどりうっているに違いない。

実際「液体キャ★ジン」のボトルを何本も空にしている。


「ところでよー…返答は誰がやるんだ? 相手の口上者の立場もサッパリな状況だしよ?」

「相手は対等な関係で話がしたいと言ってる割に立場を明かしてないんですよね?」

「にゃはは~いきなり試されてたりする~~~?

…と言うことでお返しにBAブチかましてやっても怒らないよね?」

「wktkしながら言うセリフじゃないだろうが…」


―じゃあいつものとおりKATUMIで―

―何がいつもどおりなのだ! さすがに本気で怒るのだぞ?!―

―じゃあ王様たちを出すのかよ~?―

―うぐ…!? 痛いのである!!―


「やれやれ…」


何か喧々諤々始まった文官(?)面子の会話に飽k…ついて行けなくなったサドラスは

爆発しろ密着リア充状態から見事にすり抜けて(だが百は離れない…!)

スイゲツとユスタリシアを小脇に抱えて真紫の艦隊の旗艦まで一っ跳びした。


「ちょ! せんぱうわぁあぁあぁあぁあああああ!?」

「セッカチじゃのぅ…まぁ嫌いではないぞぇ♪」

「シュウ。一言言ってくれれば、しっかり当たるようにしがみついた」

「……………何を当てる気だったのかは一切聞かんぞ」


スイゲツが叫んだ頃には既に甲板に着地していた。

ちなみにサドラスの顔には背中にしがみ付いた百の手が回ってて何気に前が見えない。


「………」


何気にローブの女と目が合ってしまったスイゲツはどう釈明すべきなのか悩んだ。


「…驚きましたわ。まさか生身でここまで跳躍してみせるなど…

“あのお方”と同じ格好をしているだけのことはありますわね?」

「“あのお方”が何者かはサッパリ知らんが、とりあえず俺たちが

そちらの要件を聞きに参上した。ちなみに俺たちが暮らす国の王は

二人とも元気と殺気に満ち満ちていたぞ?」


正直サドラスの物言いに色々突っ込みたかったのだが、ユスタリシアも百も

ローブの女が表情こそ見えないが不快感を示しているのを感じ取ったので

大人しくしていることにしたようだ。


「あの、先輩…あの女の人の名前…」

「亜剌比亜神語表記だな、故にに読めん。とはいえ?表記ではないので

そこまでの脅威はないだろうな」

「先輩は本当に…先輩ですね」

「どういう意味だ」

「…とりあえず僕を降ろしてもらえませんか」


言われてみれば小脇に抱えたままだったので、スイゲツたちを降ろすサドラス。

降りてすぐ、何気にサドラスを先頭にトライシフト陣形を採るのは

デスゲーム時代で培われた技術の賜物だろう。

その様相にローブの女も少しだけ目の色を変えた…というか

百が降りて腕がどけられた段階でサドラスの顔を何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も疲れたので一旦休憩して何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も見返したのだ。

女の突発的なその行動には誰もが動揺を禁じ得なかったのは言うまでもない。


「………俺の顔に何か問題でもあるのか?」

「め…めめめ…」

「目…? もしかしてこの『バグベアエンペラーの片眼鏡モノクル』か?」

「めめめめめめめめめめめめめめめめめ滅相もございません!

真紫の導神ウジャヤマナルスウォーミィ サ ド ラ ス 様 !!」

「む…!」(百)

「へ?」(スイゲツ)

「ふぉお!?」(ユスタリシア)

「………………………………………………………………………………………あぁ?」


……。


…。


スカウトX『大望遠』でサドラスたちが突っ込んでいった

仮想敵旗艦の甲板の様子を伺うKATUMI。


「………」


その両脇でルーンテール帝国の二王がまだかまだかとKATUMIの言動を待っている。


「…………………」

「…うおっほん」

「……コホン」


普通なら帝国最高権力者たる二王の咳払いに多くの家臣たちは慌てるが、

KATUMIは無視しているかの如き集中力で甲板を無言で見つめている。


「…………………………」

「……KATUMIよ」

「………カツミくん」


どんだけ待ちきれないんだこの二王ェ…と思う厳蔵ら居残りPCメンバー。


「ええいもう辛抱堪らん! 早く余にもどんな会話が行われているのか教えるのだ!」

「私たちを差し置いて何かお楽しみなのね?! そうなのですねカツミくんッ!」

「………いや、もうお楽しみは終わりのようなのです両陛下」


KATUMIは『大望遠』を解除して、見ていた方を指差す。

すると例の真紫の旗艦がゆっくりとこちらに単騎で向かってくる。

近づくにつれ、二王の肉眼(能力が高いので普通の人より視力が高い)でも

甲板の様子が視認できる距離にまで近づいたとき、二王はその上の光景に

個人差はあれども少しばかり目を丸くした。


「KATUMIよ…サドラス侯にあのローブの女が」

「…それ以上は仰らないで頂きたいのである」

「あらあらあら?! 出会って数秒で新たなロマンスなのですか?

寄り添う紫同士の統一感がある種の感動を呼びますよねっ?! ねっねっ!?」

「猊下ェ…猊下は自分の脳内を余程スパークさせたいのですな!!」



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・帝城来賓室>>


円卓に集うサドラス一行とローブの女。

ちなみに女はサドラスの片腕をがっちりホールドしたままだ。

その他女性メンバーの生温かいor零下の視線が超痛いサドラスざまあ。


「…んで、話を纏めっと…そこの紫のお姉さんは…その昔、

サドラスに命を救われたほかに、故郷であるシン=サドアスラース神法国を一大国家へと

上り詰めるための礎を気づいてくれた…ってことでおk?」

「ええ、おおまかに纏めると大体そんな感じですわ。本当はサドラス様の偉業を

そのように纏め上げることは我が法国では軽犯罪モノですが、

ご面倒を嫌うサドラス様の為にも不問としておきますわ」

「そりゃどーも…」

「え…と…それでクリシュナ…何でしたっけ?」

「クリシュネーア・ヴァルナーニ・スヴァルトソールですわ小娘スイゲツさん。

サドラス様に出会ったときは男性名であるクリスナと名乗ってましたが…

まぁこの際仕方がないのでクリスナと呼ぶことを許して差し上げますわ」

「……いや…僕、男なんですけど…」

「この地上に何処からどう見ても女の顔と声をした男が存在して堪るものですかわッ!」

「ゲツくん。引っ込んで。最早ゲツくんに勝ち目は無い」

「うひ~♪ 乳も態度も私よりデカいだけあって~

………色々とブチ殺し甲斐のある女朗だなぁゴルァ~♪」

「笑顔全体に青筋浮かべるのは不気味だからやめろってアタシいつも言ってるだろうが…」


ガチで怖い笑顔を浮かべるしえりゃんの言うとおり、

クリシュネーアは半端じゃない双丘をお持ちだった。全く露出の無いローブで

逆にエロさが爆発しているというのはどういうチートかと疑いたくなるレベルだ。


「本当に…本当にお前はあのクリスナなんだな?」

「はい♪ サドラス様♪ 聖別おわかれする前に打ち明けるべきだったと

507年ずっと後悔しておりましたが………結果的に良しとしますわ♪」


そのクリシュネーアの発言に色々な意味で頭を抱えるKATUMI。


「いくらサドラスがデタラメなステータスの持ち主であるとはいえ…

ファンタジー成分マシマシな異世界でさらにタイムスリップとか…

それ何処のテイ☆ズなんだよって感じなのだ…!」

「しかし時を越えられるのだから世界も越えられるヒントに繋がるはずだろう?

結果的に良しとしようじゃないか………………今は」


多分今に限ってはサドラスとKATUMIは同じ気持ちでため息をついたはずだ。


「それにしても…」


クリシュネーアはサドラスのパーティメンバーを見回す。


「そこの小娘さんと機甲人のおちびさんは十分使えるとして…

以下は有象無象の雑魚ばかりですわね? その程度の実力では

サドラス様のクソの役にすら立ちませんわよ?」

「む…何かイラッと来た」

「…流石にわらわも腹が立ってきたのぅ…? ならばその雑魚の実力…

その身を以って味あわせてやろうかぇ…?」

「だから…僕は男だってb――

「上等だゴルァ♪ …テメーの神術全部避けながら矢束を活け活けにしてやんよ~♪」

「落ち着けってしえりゃん…! 最近のアンタちょっと感情的に

なり過ぎな気がするだろうが!?」

「ぬっコロして殺りましょウ…今すぐニ!!」

「メドラ先輩ここは是非とも落着きにけり!!」

「魔王様の側近の私を雑魚か…エルフごときが調子に乗ったな…!」

「うわぁ…なんかもう色々と大変ですねぇ…とりあえず皆さん一旦落ち着きましょうよぉ?」

「ロティ殿…落ち着きましょうとか言いつつどうしてメイスの素振りを…!?」

「あるじ様…イモウトたちに群がられてるとき以上に辛そうだよ…」


美人揃いとはいえ、歴戦の猛者でもある女たちが

本気ガチンコでメンチを切りあう光景なんて見たくないものである。

サドラス、厳蔵、KATUMIはお互い目で「生き延びれたら、一杯やろうぜ」と

アイコンタクトを交し合ったのであった。


第15話に続く…はず…。


長すぎました…気を付けます。

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