第11話「新ダンジョン? …潜って潜って潜るべしィ!」
大変長らくお待たせいたしました!
今回の更新です! 筆が遅くてすみません!
また長くてすみません!
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:冒険者ギルド・神帝国支部>>
適当に商店街で買ったと思われるポーション類をゴクゴク飲みながら、サドラスは
ギルドの面々をジロジロ見ている。
「あの…大侯爵様…その…落ち着かないのですが」
「じゃあ何か“面白そうなクエスト”を俺に寄越せ」
無茶を言うなという話である。
というのもサドラスはギルドランクSSSSSというギルド創立以来の歴代五人
(内二人は運営PC)しかいない超弩級バケモノランカーなのだ。
しかも神帝国最大侯爵なもんだから
そんな彼が“面白そうな”なんていうものは、クソ面倒臭い性格の食通が言う
“何でも良い”と言うのと同義なのである。
「目下他国ギルドにも問い合わせておりますが…その…本日はこの辺りにして、
また後日お伺いしていただくというのは…?」
「だが、断る。竜帝からの次回手合わせまで結局俺がやるべきことが無いから
暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇過ぎて、
思 わ ず 全 世 界 支 配 を 目 論 み た く な る 程に暇なんだ」
「えぇぇえぇ…」
正直洒落にならないことを言うなという話である。
というのもサドラスの私兵団である平均レベル300越えの疾風怒濤魔女団や
改造鎧機兵たちの六道式士団(平均レベル800相当)の強さだけでも
都市国家の一つや二つを楽勝で攻め落とせる。何よりサドラス本人個人の強さが
鎧機兵で世界の覇権を握ろうと企んだアペリウス共産連邦を
ほんの数日で壊滅させるレベルだ。
彼にとっては冗談なのだろうがギルドにとっては冗談じゃない。
「あの…帝国貴族としてのご公務とか無いんですか?」
「帝王陛下や法王聖下の勅命以外は基本大公や公爵相手でも下らん貴族公務は断れる。
実際レイドモンスター討伐なんてモノは何時もやっていることだから
いちいち言われるまでも無いことだし、かといって今さら恒久クエストの薬草集めは
頼まなくても魔女たちが薬草の栽培管理に品種改良とかしてくれるから
そもそもやる意味が無い。同様の素材提供などは言語道断だ。
で、“面白そうなクエスト”は無いのか? 新しいクエスト要請があったら一つ残らず
俺にも見せてくれ。無論先に目を通すのはお前達で良い…
…今日から何日かここに泊り込むからな」
「か、勘弁して下さい!」
何時の間にか来ていたギルマスも頭を下げている。
「………チッ」
酷い男だ。
「………あぁ?」
!? 馬鹿な!? 聞こえただと?! と思ったらサドラスの顔前には
旧式の文字式チャットの画面が映っていただけだった。
<出してくれ! 痛い痛いヤメロ! おいサドラス! オレを出すか
瞬起弾指を出してくれ!>
「………ハァ」
サドラスはアイテムストレージから革新皇帝剣イノセント+3289ことイノスと
大烈風妖刀『瞬起弾指』+3854を取り出す。
するとサドラスを挟むように一本の宝剣と風を纏った刀が現れる。
<何だよチクショウめ! オレが刹那ちゃんを想って独り刃合わせしてただけだろ!?
お前だってどうせ刹那ちゃん想って痛てててててて!?>
ガツンガツンギャリンギャリンと火花が散るほど瞬起弾指にどつかれるイノス。
そんな光景にギルド職員を初めとした全人員が呆然とする。
「瞬起弾指…それくらい許してやれ、イノスも男なんだ。
お前だって思い当たる事はあるだろう?」
サドラスのその言葉に反応した瞬起弾指は大人しくサドラスの手に収まった。
ちなみに瞬起弾指はイノス曰く
「刹那ちゃんより弱いくせに刹那ちゃんのナイト気取り」な純朴イモ男らしい。
<そーだぞクソが! オレよりレベル高いからって調子に乗んな!!
…って刹那ちゃん…やめてオレをそんな目で見ないで…! 変な世界に目覚めるから!>
実はサドラスはイノスと愛用にして専用装備である刹那こと
無間波動刀『爪弾刹那』がどんな感じでイノスと会話しているのか少し気になっている。
「なあイノス」
<ん? 何だよサドラス?>
「爪弾刹那はどんな感じの刀なんだ?」
<あ、そっか…サドラスは刹那ちゃんと直接会話できねえんだっけ?>
「意志はありそうな気はするとお前と出会う前から思ってはいたが…
実際如何なのか確かめる術はなかったからな」
<ふーん…んじゃ、聞いてみるわ…ねーねー刹那ちゃん。キミはサドラスの事、
ぶっちゃけどう思…あ、ソウデスカ…ソウナンデスネ…>
「どうしたイノス」
<サドラス死ねばいいのに>
「おい」
サドラスはイノスを鷲掴みしてど真ん中にある宝石…
イノスの神核を連続本気デコピン。
<痛てててててててて!? ごめんなさいごめんなさい!
言うよ! 言えば良いんだろ?!>
「最初からそうしろ」
<………他の誰よりも骨の髄まで愛してるってさ、しかも即答で>
イノスのその言葉に何故か瞬起弾指もサドラスの手から勝手に滑り落ちた。
何も言わず拾って今度は固く握り締めるサドラス。
「続けろ」
<えっ…?! 何で他にもあると思うんだよ?!>
「パーティメンバーに当てはめれば一番付き合いの長い存在だからな、爪弾刹那は。
もし人間だったら 間 違 い な く 俺 の 嫁 だ」
サドラスの腰の爪弾刹那が何だか物凄くカタカタ震えている。
<なあ瞬起弾指くんよ…オレらは親友になれる気がするんだ…>
イノスの言葉に反応した瞬起弾指は力無かったが鍔を打ち鳴らした。
「どうしたイノス。まだ俺は爪弾刹那…いや刹那の愛のメッセージを聞いていないぞ?」
サドラスは邪悪な笑みを浮かべながらイノスに問う。
<………世界なんて大嫌いだ…!>
「ほら、早く言え」
「あ、あの…大侯爵様…?」
実際剣に気持ち悪い笑みを浮かべて話しかけているサドラスに
誰も近付きたくなかっただろうが、一枚の紙を持ったギルド職員が恐る恐る近付く。
「ん? どうした?」
まるで何事も無かったかのようにイノスと瞬起弾指を
アイテムストレージに収納して職員を見るサドラス。
「これなんかどうですか…アペリウス自治区支部から届いた最新のクエストですが…?」
ギルド職員はサドラスにクエスト要請が書かれた紙を渡してくる。
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新暦701年6月13日
アペリウス自治区支部ならびに全冒険者ギルド様へ
最近我らが領地「城塞都市ダエモンシュタット」近郊にて、ダンジョンと思わしき
地下大墳墓への入口が確認された。我ら縁の調査員だけでは全容を中々解明できない。
故に少しだけでも構わないので協力してくれる人員を募集している。
尚、最大の功労者には通常報酬の他に幾許かの魔導文明級アイテムや
それなりの礼金を進呈しよう…そういうわけなので、よろしく頼む。
魔氏族二十四魔公議会 二十四魔公主 魔族筆頭ベルウグラント七世
追伸:協力者に二大国縁の者がいた場合は人数に応じてギルドに礼金も払うぞ?
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「ほほう…連日連泊せずに済みそうじゃないか…」
本当にそうであって欲しいと思うギルド職員一同であった。
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:旧魔族領・城塞都市ダエモンシュタット>>
例によって神帝国二王に渡航許可証等を発行してもらい、魔氏族に連絡を
した後職権濫用…もとい最大侯爵権限でKATUMIに邸宅の留守番を押し付け、
疾風怒濤魔女団や六道式士団も含めた大所帯な
サドラス一行が神帝国の飛行戦艦からゾロゾロと降りてくる。
「流石に大空悪竜は貸してくれなかったな」
「いやいやサドラスさんよ…そりゃそうだって。俺もあんな仕事押し付けられたら
それくらいの抵抗はするっつーかストライキするし」
サドラスのぼやきに真っ先に反応したのはフランス侍こと厳蔵。
「魔族領かぁ…そういえば僕のホームポータルがあったんだっけ…」
「私のもあるぜよ~♪」
続いて男の娘…もといデビルハンター忍者なスイゲツと胸がワールドカップな
大弓使いしえりゃん。魔族領にホームポータル云々というこの二人は
ゲーム時代に魔族扱いの魔人族と鬼人族を選んでいるためだ。
「…解放軍の拠点は…決戦前に爆撃されたからもう無かった…?」
「うむ。確かわらわも小さいころに見ていたから間違いないな」
珍しくサドラスに引っ付いていない機甲人族の魔砲少女の百と
童顔なアロフネス皇国の姫士で、神人族のユスタリシア。
「久しぶりにけり…族長は元気であるるか…?」
「そう言えばララリリルさんは旧魔族領出身でしたねぇ」
「あ…ここには背の低い戦鬼族も居るんだ…!」
「おや? 同族もちらほら居ますネ…?」
「!? 魔女もいる…! まさか他の姉さま…は、サスガにいなかったよ…」
半聖霊族のロティ、半戦鬼族のキュクル、妖花精変異種のララリリル、
海魔スキュラのメドラ、蟲人族のジル=ルミルといった
異世界女子メンバーたちも姦しく降りてくる。
「種族的にアウェーだろうが…」
最後に降りてきたのはゲーム時代に半天使を選んだ大剣二刀流剣豪のアリカ。
「さて、魔氏族の代表者連中とコンタクトしようじゃないか」
流石に注目されるのも慣れたのか、サドラス一行はずんずんと城下街を進んでいく。
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:城塞都市ダエモンシュタット・城塞議場>>
魔族たちにとっての国会議事堂の役割も果たしている城塞議場の会議室にて
魔氏族を取り仕切る魔族筆頭と二十四魔公の代表らと円卓を囲むサドラス、
スイゲツ、ユスタリシアの三名。
何故この三名かと言うと、サドラスは一行の代表者兼神帝国最大侯爵であり
スイゲツはサドラスの食客扱いとはいえ元デスゲーム解放軍筆頭チーム
(ややこしくなるので此方ではハイランカー賞金稼ぎパーティとして再登録)
「C†B†E」のリーダーだ。ユスタリシアは忘れている方も居るかもしれないが、
アロフネス皇国の皇女(しかも皇位継承権第二位)である。
何だかんだで魔氏族は格式を重んじるという話+KATUMIに口すっぱく
「ただでさえ目立つのだから少しは自重しろ」と言われたので素直に彼らの流儀に
則って相対するとなると、この三人に搾られてしまうのだ。
しかしながら二十五人もの高レベル魔族(平均レベル1536)の面子を前にしては
スイゲツとユスタリシアは緊張を隠せない。
しかもその二十五人全員がサドラスに対して警戒モードバリバリとくれば尚の事だ。
「いやはや…二大国縁のものを切望したらとんでもない連中が来たものだ」
「聞けばサドラス殿…貴殿はあの跳ねっ返り戦狂い竜帝を片手で張り倒したそうだな?」
「ああ、アレは中々楽しかったよ。再戦と手合わせの約束もしたからな」
「レベル6527と言うのは聊か信じ難いが…言質は取れている…」
「筆頭…? 如何ですか?」
魔族筆頭ベルウグラント七世はサドラスに『レイド・アナライズ』をかける。
「何より『レイド・アナライズ』を欺けるようなスキルは存在しないはずだ…
だとすれば、少なくともサドラス殿はレベル4400以上あることは間違いないだろう」
「面倒だから俺とパーティ登録したほうが良いだろう」
そう言ってサドラスはベルウグラント七世にパーティ登録申請画面を飛ばす。
ざわつく会議室。
「……これは…!? …なんと懐かしい…どれ………………………………!?!?!?」
サドラスとパーティ登録して、彼のステータスを見たベルウグラント七世は
思わず立ち上がってしまう。ざわめきが更に大きくなる会議室。
「ご理解いただけたか?」
「ああ…700年ぶりに怖気が走ったよ…しかし本当にレベル6000越えだとは…
レベル800越えの廃人集団に襲われたときも恐ろしかったが…
彼ほどに恐ろしい存在に相対するとは思わなかったぞ…」
「ベルウグラント七世閣下は大戦時代からの古人だったのですか?」
「うむ…可憐にして精強な我らが同族の少女よ…私は当時新兵だったが…」
「成程…あとちなみに僕はおと――もが!?」
「それ以上は話をややこしくするだけじゃから止すのじゃ」
スイゲツの口を存外力強く塞ぐユスタリシア。ちゃんと鼻の穴は避けている。
「ちなみにそちら側の先遣隊の結果はどうなっているんだ?」
「死者はゼロだが、負傷者が相次いでいる。最後に帰還したパーティの情報では
地下大墳墓の怪物たちの平均レベルは700以上だそうだ。情けない話だが、
最深部にも到達していないので全何階層あるのかは不明だ」
「最終到達階層は何階だ?」
ベルウグラント七世は壁際に立っている魔族に目配せし、その魔族から
数枚の書類を受け取って目を通す。
「少し待て…………ふむ…報告では七階層までだ。一階一階の広さは
おおよそ小規模村落一つ分から中規模の町半分といったところだな。
古の冒険者のサドラス殿はMAPが使えるようだから、広さは承知か否かは
あまり関係ないかもしれんが」
「構成するモンスターの種類などはどうだ?」
「……アンデッドが多いな、我々の先遣隊が低階層で撤退を余儀無くされたのも
これが主な原因だ」
「確かに、魔族とアンデッドは属性的に相性が悪いことが多々あるからな」
残りの書類を見るのやめて手元から少し離したベルウグラント七世。
「で、我々のクエストは」
「無論受けよう…ククク…平均レベルが四桁じゃないのはまあ仕方ないが…
アンデッドだ…そうそう簡単には死なんだろう…ククク…」
サドラスの邪悪な笑みに動揺を隠せない二十四魔公たち。
しかし一番動揺を隠せないのはスイゲツとユスタリシアだ。
何しろサドラスが遠慮なく魔族筆頭とタメでベラベラと喋っているのを見て
こめかみをヒクつかせている二十四魔公の顔色を見なくてはならなかったうえに
先の情況だ。寿命が縮んだと言っても過言じゃないだろう。
「頼もしくも恐ろしいな…さて、快諾も受けたことだ、準備が出来次第
早速地下大墳墓の調査を開始してもらおう………で、だ…
サドラス殿の陣営にはこちら側からの案内役を一人加えさせてほしいのだが…?」
「別に構わん。信用は大事だからな」
「話が早くて助かる…では入って来い」
「御意」
一言と共にベルウグラント七世の後ろ側からするりと音も無く現れた魔人族の女。
格好は銃士のようだ。
「姓はペシュメルガ。名はスピナ。職業は万魔法銃士。
趣味は狙げk…特に無い。得意な事は…暗さt…何も無い」
スピナはサドラスへ向ける怪訝な表情を崩さない。
「クフフ…中々面白そうな奴だ」
「まあ、何と言うか…素直な子だ。色々誤解を招く発言が多々あるかも知れんが
彼女は真面目に色々なことをこなせる高レベルスキルホルダーでもある」
「ほう…レベルも1300越えか…流石だな」
「!! …私の隠蔽スキルが見破…何でも無い…!」
「……うん。この子は素直なんだよ……本当に素直で……はぁ…」
「そうか…」
サドラスはニヤニヤしてしまう。
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:地下大墳墓・入口>>
湿っぽくカビ臭いうえに血生臭い香りが漂う地下大墳墓入口にて、
パーティ編成をしているサドラス一行。
「サドラス…お前さん幾らなんでも独りで先行ってのは無茶すぎじゃね?」
「そうですよ先輩! 先行するなら僕もいたほうが効率が良いですって!」
「探知、索敵スキルなら私も自身あるよ~♪ 緊急弾幕回避もね~♪」
「……お前達は何もわかっていない…」
サドラスはこれ見よがしに一歩前に進む。するとサドラスが踏んだ床の色が変わり、
サドラスは空中に投げ出された挙句どこからとも無く飛んできた
おどろおどろしい色合いの凶器の数々に滅多刺しにされる。
「……こういう墓場系のダンジョンではこのような回避が困難を極めるトラップが
妙なところに仕掛けられていることがある。そして墓場系である以上
確実に毒と即死の効果が付与されている。先行するのが俺で無ければ、
それだけで全滅のリスクが高まるんだぞ? しかもトラップは
その殆どが解除しない限り永続で発動するモノばかりだ…
…それでも俺の代わりに先行するつもりか?」
急所こそ外しているが、それでも滅多刺しにも関わらず何事も無かったかのように
地面に降りて平然と此方に説明しながらスタスタ歩いてくるサドラス。
「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」
「ば、バケモn…何も言っていない」
殆どのメンバーが口を開けたまま絶句している。
そしてスピナはどうやら思ったことがそのまま口に出てしまうタイプのようだ。
「おい、サドラスさんよ…お前さん、どんだけダメージ喰らったの?」
「…クリティカル込みで90000弱だな。即死判定は無いな…これは超過ダメージで
即死させる系の性質の悪いトラップだろう」
その場に居た殆どのメンバーが「一番性質が悪いのはアンタだろう」と
いう言葉が喉元まで出掛かっていた。
スピナは殆ど出ていたが。
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:地下大墳墓・第三階層>>
正直サドラスの後ろをついていくだけのメンバーたち。
というのも先行するサドラスが数々のトラップや数多くのモンスターを
諸共に破壊していくので、ぶっちゃけ暇だった。
「楽しそうですねぇ、サドラスさん」
「ん。動きに着いていけないから一緒に戦えない…」
「今回は打ち漏らしも無いようですね」
「やっぱり平均レベル700だからじゃないかな? 考えてみたら僕以外で
レベル700を越えている面子はユスタリシアとメドラだけだし」
「や~相変わらず半端ないですね~サドラスさん~♪」
「見ていて惚れ惚れするのぅ❤」
「アンデッド相手では私の即死ハウリングも全く役に立てなりにけり…」
「やっぱりスゴいな、あるじ様」
「むふぅ~♪ マスターに倒せぬモノ無しなのでス♪」
「無双されたら光属性重視のアタシの立場が微妙だろうが…!」
「あ、俺レベル5つ上がったわ…同盟効果でも相当な数の経験値来てんなコレ」
「?! 私、真天魔人に<存在進化>している…!」
たまにバックアタックがあったりもするが、平均レベル536の12人+
魔女団+鎧機兵団のスーパーレイドパーティなサドラス一行の敵じゃない。
情報どおり敵はその殆どが再生能力を備え、痛覚も恐怖も持たない
厄介なアンデッド系だったが、大物はサドラスが速攻で撃破するし、
スピナも加わってより一層遠距離爆撃に特化した一行の前では白兵戦は滅多に起きない。
「おい、スイゲツ。俺ら前衛職が半端じゃなく暇じゃね?」
「え? 僕中衛職ですよ?」
「さり気なくアタシを無視するんじゃないよカフェオレ侍…!」
「ふぅむ…しかし暇なのは事実かもしれん…んむ? MAPにやたらと赤点が…
……ぬお?! この速度はまさか…!
ぐぬ! …誰でもいいから今直ぐサーチ系のスキルを使うのじゃ!」
「あ、はい…じゃあ『フィールドサーチ』を…………!?!?!?」
ユスタリシアの一言でキュクルを筆頭にサーチスキル持ちが
続々サーチを始めていく。
「あ~ん…? この大量の赤点…って大量の!?」
「ん。一番近い赤点モンスターのサーチ成功
【タキシムウォーロード:レベル755】って出た」
「ねぇ…アタシが思うに、そいつヤバイ気がするんだけど…?」
そうアリカが言うのは仕方ないのかもしれない。
というのもタキシムというモンスターは一見すると唯の非ブードゥゾンビなのだが、
基本本能で動いている彼らと違って、タキシムは常軌を逸するレベルの復讐心で
襲い掛かってくるのだ。それ故なのか、彼らは普通のゾンビ系と違って
多少の部位損壊程度では決して止まらない。しかもタキシムの恐ろしい所は
生前の知識と技量がそのまま残っているので、雑魚でも何かしらの武器を持ち、
戦略的に此方を殺しつくそうとしてくるのだ。
「あの…ウォーロードって言ってませんでしたかぁ…?」
「私はそう聞きえたり…」
「しかも~一体でレベル700越えって~…いやマジでシャレになってなくね~?」
「一方通行なのがスクいなのかサイナンなのか私は何とも言えないよ」
「私は連中と出会って即座に緊急脱出スキルを使用した…死んだら元も子も無い」
「つまり、バラバラになっても粉々にならない限り襲い掛かってくるんだな?」
全員がサドラスを見た。正直邪悪にも程がある邪神レベルの笑顔だった。
「お、おう……?!」
「せ、先輩…?」
「お~…サドラスさん…マジ怖ぇ~…」
「アタシは今ここが異世界だということに感謝したよ」
「ん。シュウすごく嬉しそう」
「いやいや流石に若干引くじゃろアレは…」
「うわぁ…何かもう色々と酷いですねぇ…」
「サドラス殿…今は別に恐怖系スキルとか使ってないんですよね?」
「おお…我が死の皇…!」
「マスターのあの笑顔…700年ぶりですネ…」
「ムジヒなる魔女皇…でも、それが私達のあるじ様なんだよ」
「それが、私の、魔王さま………………!? 今私は何を言ったんだ?!」
「………来たようだな」
サドラスが見据える方向からは無数の光点…恐らく先程のタキシム達の眼光が
縦に激しく揺れながら此方へ迫ってくる。
「ククク…走ってくる大量のゾンビ…あの走ってくる死の大群相手に…
ククク…ハハハ…グワ~ッハッハッハッハッハ!!」
笑いながら闘気充填を発動させたサドラスは
まず【極大魔法:メギドストライク】を発動する。
サドラスが翳した手から極太レーザーが迫り来るタキシムの大群に派手にぶち込まれた。
だがタキシムの大群は大半が何処かしらの部位を欠損しているにも関わらず、
突進をやめない。むしろ怖気の走る叫び声を上げながらどんどん此方に向かってくる。
これに恐怖しないのは相当死線を潜ってきた老兵でも中々いないものだ。
死を恐れない特攻ほど厄介なものは無い。そんな言葉もある。
まあ、そんな名言もサドラスには知ったことじゃないだろうが。
「よし、貴様らには敢えて銃火器だ!」
サドラスはそう言うと紫電改40㎜機関銃+2550と
連射式グレネードランチャー『ジョマンス』+1724を装備し、
夥しい数の弾丸の豪雨をばら撒いた。次から次へと倒れていく者達をお構い無しに
こちらへ尚も進撃を続けるタキシムたち。
「そうかそうか…やはり肉薄したいんだな貴様ら」
サドラスは装備をいつもの魔女銃大剣『Hexen Nacht』+1945と
黒金の大斧『Skull Braker』+2215に装備しなおす。
と、同時に地面を蹴ってタキシムの群れに突っ込んでいく。
「無茶しやがる…」
「普通なら、ですよ厳蔵さん」
「お~…粉々になってるなってる~……もちろんタキシム達が~」
「亜種や変異種相手にもキチンと弱点属性で攻撃してるってのが
やっぱ廃人だって嫌でも思わされるだろうが」
「ん。十数万のダメージに物怖じしない点ではどっちがタキシムかわからない」
「そ、そういえばサドラスさんって三次職業に復讐鬼大公って職業が…」
「な、何と…我が君はタキシムの技能も得ていると言う事なりけるか…?」
「マスターは魔物の能力を得られるのは神人の特典と言ってましたネ」
「なるほど…サドラス殿の強さの秘訣の一つは神人への<存在進化>と…φ(. .)」
「しかしシュウのやつ、嬉しそうじゃのぅ…」
「そう言えば、あるじ様はアペリウスをジュウリンしたときも
サイショはタノしそうだったよ」
「正に魔王となるために生まれた……?! 違う違う! 私は何を言っている!?」
いかに恐怖を感じないタキシム達も、ここまで自分達が撃破されていくのには
戸惑いを隠せなくなってきていた。
「どうした? 物怖じなどお前達らしくないな?」
実際サドラスはダメージを少なからず受け、急所こそガードするが
何度かはクリティカルも入っている。にも関わらず一切ノックバックも無く、
表情も張り付いたが如く邪悪な笑みを浮かべたままでタキシムたちを蹂躙していく。
もしかするとタキシム達の生前の恐怖の記憶を回帰させたのかもしれない。
「随分と数が減ってきたな…ほう、陣形も変えてスイッチまで…こんなことなら、
もっとお前達と死闘しておけば良かったな?」
サドラスの笑顔がもう笑顔じゃなくなっていた。
その顔には復讐の権化であるタキシム達さえもを怯えさせた。
しかしその瞬間サドラスの表情は消える。
「……何だ、お前らもその程度か」
サドラスは虫でも追い払うかのように魔剣技Ⅹ『モータルサークル』を発動。
サドラスが回転するごとにタキシム達目掛けて夥しい数の八つ裂き光輪が飛んでいく。
光輪は対象に当った瞬間斬ると言うより削るように敵を粉々にしていく。
「えげつねぇ…」
「あの技は相当訓練して無いと凄く酔うって聞いてましたが…」
「うひ~…何にしても喰らいたくね~」
「高レベルアンデッドモンスターさえもゴミ扱いしたのかよサドラス…
アタシとの訓練も相当手を抜いてたんだな…」
「突っ込んでから十分少々…軽く見積もっても70体くらい居たような…
それがもう…全滅…ふええぇ…?!」
「はぁぁ…サドラス殿の全力を想像したら眠れなくなりそうです」
「我が君は正に死の権化を統べる皇なり…!」
「マスター最高でス!!」
「ん。赤点も軒並み消滅した…残りはタキシムじゃないみたい」
「この遠ざかり方を見れば、もしかしなくとも逃げておるのぅ」
「うん…あるじ様をあるじ様とサダめて良かったよ」
「………私も……?!?!?! …浮つくな私!!」
愛用の武器を軽く振って血糊払いをするサドラスだったが、
「しまった…! こんな粉々では剥ぎ取れん…! ぬぅ…! 俺としたことが…!!」
「「「「「「「「「「「「………えぇ~……」」」」」」」」」」」」
そういうところでブレないので、結局メンバー達の
サドラスへの感情はあまり変わらないのであった。
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:地下大墳墓・第七階層>>
以下略と言いたくなる位単純行動の繰り返しといえる展開で、サドラス一行は
一、二時間程度で魔氏族の調査隊が到達した第七階層へあっさり着いた。
「皆さん、そろそろお腹空きませんかぁ?」
「時間的には正午に近いです…凄いですねロティ殿の体内時計…」
「そういえばお腹空いたね」
「あ~、そういえば私朝ごはんあんまり食べてなかったわ~」
「朝食は美容と健康の基本だろうが」
「まあ何だかんだで歩きっぱなしだしよ? ここらで一服も良いんじゃね?
あ、六道式士団の連中も鎧機兵から出て来いよ?」
「ふっふっふ…こんな事もあろうかと、
今回わらわはシュウに食わせる弁当を作ってきたぞ!」
「む…考える事は一緒だった…!」
「さて…久しぶりに我が君専用奴隷椅子にでもなろうか…」
「時と場所を選びなさイ」
「さあ、イモウトたち。イコいのバのための結界をハるよ?」
「「「うぃ。ぐらんすぅーる!」」」
「………私達の苦労は何だったのか…」
ロティの提案で周辺のモンスターを駆逐して拓いた場所で、休憩を取る一行。
その際「不意打ちされても飯が不味くなるから」という理由でサドラスが
自分とほぼ同じレベルのサモンモンスターを召喚してメンバーを大いに驚かせる。
「こいつは俺のサモンキャラクターではレベルが一番高い
爆撃翼魔神機だ。ガ☆ォーク形態には成れるが
バ☆ロイド形態には成れんそうだ」
「成って堪るか! オールドマク☆スファンがキレるっつーの!」
「ちなみにコイツのレベルは6520で、VITは俺の倍。
素のAGLであれば俺も何とか拮抗する」
「ぶふぅっ!?」(注:キュクル)
「はいキュクルさん。おしぼりどうぞ」
「すみませんロティ殿…」
「うひょ~♪ ステルス爆撃機型モンスターとか私得じゃ~ん♪」
「出たよ弾幕ゲーム厨…アタシにはあの世界は理解しかねるわ」
「先輩は最大何体サモンできるんですか?」
「レベル6000クラスだと爆撃翼魔神機含めて最大108体だな…
…考えたら俺のパーティにはいらない子がいるかもしれんな」
「ぶはぉ!?」(注:ララリリル)
「……顔に掛かったぞ妖花ァァァァァ…!!」
「わざとでは無しにけり!!」
「なるほどのぅ…それだけ召喚できれば確かにシュウの召喚術は
まさしくバランスブレイカーじゃのぅ」
「ん。でも羨ましい」
「あの強さをもつカイブツたちを100体もヨべるのか、あるじ様…ハンパないよ!!」
「百柱魔神の盟主…私の…私の…魔王さま…」
「しかし…不思議と見覚えのあるMAPな気がするな…」
ぬるめに淹れたお茶を一啜りして一言呟いたサドラス。
「あちこちのダンジョンを荒らしまわったお前さんのことだ…
どうせ過去に潜ったことのあるダンジョンだってオチだろ? 案外ベータとかの――
「あ、そうだここβ時代~Ver1.24に遊んだ地下大墳墓ヴェルモントそっくりだ」
――古いタイプの忘れられたダンジョって当っちゃった!?」
「しかしこのダンジョンは当時のゲームバランスとしてあまりにもクソ過ぎるから
俺 以 外 の β テ ス タ ー 達 の猛反発でVer1.25以降は
完全削除されたらしいのだが…」
「運営仕事してなかった?」
「だろーな…なにせ善悪の陣営がいるって囁かれてたぐらいだ…どうせ入口部分を
単純に埋めただけだったんだろ?」
「そうか…それで強欲な地底探査ロールプレイヤーギルドを罠にかけてブチ殺そうと
画策したんだろうな…ふっ…運営め…」
「そんな斜め上に考えるのはアンタだけだろうが…」
「まあしかしこの色々と勝手の違う異世界で700年も経てば
何かの弾みで入口が出てきてもおかしくは無ぇな」
「ククク…運営に感謝してやるさ…お陰で中々楽しいことがありそうだからな…」
「「「「「「「「「「「「???」」」」」」」」」」」」
サドラスの邪悪な微笑みに何かよからぬ予感がするものの、はっきりとは
断言できなかった他の面子は首を傾げるしかなかった。
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:地下大墳墓・最深99階層>>
もはやルーチンワークな調査がまさかここまで続くなど、
サドラス以外誰も思わなかったはずだ。しかも休憩後は強行軍だったので、
「やっぱ頭おかしいわ運営ェ…!」
「や~…この平均レベルモンスターで五十階層でβ版からとか…
マジ頭おかしい死ねよ運営~♪」
「アンタ目が笑ってないだろうが…?!」
「ふぇぇ…足がぁ…痙攣してぇ…」
「サドラス殿がここで最深階と言ってくれなければ心が折れそうでした…」
「シュウ…事前に言う…コレは想定外…!」
「ああ、すまない。すっかり忘れていたな、お前達の基礎体力等を」
「イモウトたち…よくガンバったよ!」
「「「うぃ……。ぐらんすぅーる…」」」
元々がモンスターであるメドラやララリリル、パーティ内でも高レベルを誇る
スイゲツやユスタリシアにスピナなどは例外として、
サドラス一行の大半が体力的に限界が近かった。
「最深部もあと数十メートルですね先輩」
「今までが単調だったから最深部には期待だのぅ!」
「アンデッドだらけのダンジョンゆえに…ヌシがどんなモノはおおよそわかりえるが…」
「何にせよマスターが苦戦する事は無いでしょウ」
「半日で…到達してしまった…」
「ふむ…まあこれだけ残っていれば大丈夫か」
サドラスはへたばっている残りの面子に先程も召喚した爆撃翼魔神機を護衛につけて
隅っこで大人しくするように言った後、最深部の扉を開けた。
…。
「豪奢な棺…ですね…空の」
「間違いなく中身は空なりけり」
「肩透かしですカ?」
「何じゃ…ボスはおらんのかぇ…?」
「それにしては…妙だ…」
「スピナの言うとおりだ。ちゃんと居るぞ、このダンジョンのボスが」
サドラスが天井を指差せば、そこには妙な霧状のモノが蠢いていた。
霧を注視していたかと思えば武器を構える五人。
「ふむ…レベルが2497か…俺無しでは辛いか」
「ちょ、先輩僕らだけで戦わせる気だったんですか?!」
「ユスタリシアとスピナにメドラと軒並みレベル1000越えが三人も居るからな、
最悪ララリリルを盾にでもしてやればと思ったが…これでは無駄死にだろうし」
「無駄死にで無ければ私を使い捨てる心算だったのですか我が君ぃ?!
ぐはッ…我が君の責めでは初めて気持ち良くなかったッ!?」
「微妙に緊張感が崩れた…」
―よくぞここまで辿り着いた! 人の子らよ!―
明らかに何かの間違いだと思われるBGMが部屋に響いたと同時に、
天井で蠢いていた霧状のモノがゆっくりと棺の上でモゾモゾと人の形をとっていく。
「うん…? あの時と口上が違うな…?」
―だが悠久の時を生きて力を練り上げた我に勝てるかな…?―
「いいからさっさと出て来い」
サドラスは魔法スキル「エネルギーショックバースト」をまだモゾモゾしている
人型の霧にブチかました。
―うわ、ちょ貴様! おのれこの状態でもダメージを与えられる魔法か…小癪な!―
人型の霧は、どう見ても中世ヨーロッパでお馴染みの不死者…
ほぼ典型的な吸血鬼の姿に変化した。御丁寧に金髪碧眼である。
「ウザさが増しているな、ライヒデルナハト…Ⅱ世? ん? んん?」
「貴様偉大なる我が初代を知っている…そうか貴様は古人か!
古人は許せん! 偉大なる初代に屈辱を与えた古人は!!」
ライヒデルナハトⅡ世なる吸血鬼はサドラスに襲い掛かってくるのだが、
「ふんッ!」
「おべし?!」
サドラスに縦に真っ二つにされた。
「はァ?! 一撃!?」
「ちょ…あの吸血鬼さんってこのダンジョンのボスなんですよね?」
「はい…ロティ殿の言う通りです…。アナライズの結果、レベル2497の
スーパーレイドモンスターだと出たのですが…」
「「「「「「「「「?!」」」」」」」」」
平均レベル700のモンスターが出るダンジョンのボスのレベルが桁違いすぎて
誰もが創造の神々はやっぱり頭オカシイと思ったはずだ。
「心配するな、ヤツがライヒデルナハトの名を冠するなら
この程度で死ぬほどヤワじゃない」
そうサドラスが言うように、ライヒデルナハトⅡ世は再び霧状になって
何事も無かったかのように元通りの人の姿になる。
「ぐぬぬ…! 我が防御を容易く突破しただと…!? 自己再生Ⅹが無かったら
本当に即死していたではないか…!!」
「ほう…良いスキルを持っているな、だがお前は
最大HPがレベルに相応していないと見える」
「むぐぐ…! 貴様の攻撃力が出鱈目すぎるだけだ! どんなトリックだ古人め!」
「俺は古人じゃない、廃人だ」
消えたかと思ったサドラスはライヒデルナハトⅡ世の顔を鷲掴みして
そのまま地面に思い切り叩きつける。床に凄まじくめり込んだのは言うまでも無い。
しかしライヒデルナハトⅡ世もその攻撃で死にはしなかったようで、
再び距離を取って霧状→人型と元に戻る。
「廃人…! ぐぐぐ…! よりにもよって最悪な奴等が…!?!?!?」
ライヒデルナハトⅡ世はサドラスの後ろに居る面子に目を瞠る。
「貴様ァァァァ! いたいけな淑女たちを侍らすなど言語道断!!
今度こそ我が全力で貴様を屠りいたいけな淑女たちを開放してみせる!!!」
ライヒデルナハトⅡ世は体を鈍く光らせた。
「受けてみよ!! 必殺『我が血は我が盟友』!」
そう叫んだライヒデルナハトⅡ世は真っ赤な霧状になったかと思えば、その霧が
細かな無数の刃と化してサドラスに襲い掛かる。
「吸血鬼の固有スキルか…初代は持ってなかったな」
何故か防御結界を張らないサドラス。
「おいサドラス!? 格好つけて良いレベルの攻撃じゃねえと思うぞそれは!!」
「幾ら先輩でも連続ヒットはスーパークリティカルの危険性が…!」
「大丈夫。シュウは…多分無詠唱スキルを発動させてる」
「え?」
サドラスは何も言わずに神術スキル「サン・オブ・フレア」を発動させた。
「おわ!?」
「ちょ! 先輩!!」
「結界! 結界張り忘れたら死ぬだろうが!!」
「ひゃあああ!! キュクルさん急いで!!」
「あわわわわわ…!」
「マスターったら…もウ」
「我が君ぃぃぃぃ! 我は炎属性が弱点でありまするぅ!!」
「こんなこともあろうかとスデに結界をハっていたワタシタチ
魔女団に死角は無かった!」
「や~や~距離があっても油断ならね~ぜ、サドラスさんは~♪」
「随分と余裕じゃのぅ、しえりゃん」
「ん。シュウの超々高レベルサモンモンスターも盾になってくれている。
みんな焦りすぎ」
「冒険者として緊急回避行動は当然だと思うが…もう何も言わないぞ」
ちなみに霧状だったライヒデルナハトⅡ世は灰になっていた。
「………」
その灰に完全回復薬を投げつけるサドラス。
「ちょ!? 何してんだよサドラス!! お前さん正気かよ?!」
「どの道吸血鬼系モンスターは何度も灰にして隠しパラメーターである
LPをゼロにしないと完全には死なん」
完全回復薬を受けてむくむくと復活するライヒデルナハトⅡ世。
「きょ…狂気の者か貴様…!?」
「初代は五十八回くらいで命乞いをしてきたが…貴様はどうなのだろうな?」
「ヒィッ!?」
ライヒデルナハトⅡ世にしか見えてないだろうが、その場に居た誰もが
サドラスの表情が邪神じみた邪悪な笑顔だろうと容易に想像できた。
「ま、待ってくれ! 小生はまだLPが二桁になったばかりなんだ!
あんなことを何度もされては本当に死ぬ!! お主らとは出会わなかった事にする!」
「俺は女を侍らすほど堕ちてはいないのだがなぁ…?」
「うわあああああああ?! 来るな来るな来るな来るな来るな来るなッ!!!」
最早吸血鬼の尊厳もクソも無く尻餅ついたまま後ずさるライヒデルナハトⅡ世が
哀れに思えたのか、
「先輩。流石に酷すぎる気がするんですけど…」
スイゲツがサドラスの前に立った。
「………チッ…まあ良い、依頼は地下大墳墓の全容解明だ。ボスの討伐じゃない」
サドラスは舌打ちして武装を解除した。
「――だ、そうですよ? 良かったですねライヒデルナハトさ――」
言いかけたスイゲツが絶句するのは彼が片手をがっしりと
ライヒデルナハトⅡ世に握り締められたからだ。
「小生の名はソルベウル! 偉大なる初代闇夜の覇公爵の位を受け継ぐ
ソルベウル・フォン・ヘァツォーク・ライヒデルナハトⅡ世だ!
ああ! 可憐なる少女よ! いや我が聖女よ! 感謝する!!」
何時の間にかスイゲツの手の甲にキスしているライヒデルナハトⅡ世ことソルベウル。
「キタキタキタキタキタ━━━━━\(☆ω☆)人(☆ω☆)/━━━━━イヤッホオォォォォウ!!!」
それを逃さず見ていたしえりゃんとアリカがハイタッチを交わした。
「ハァ!? ちょ!? 何してんですか気持ち悪い!!」
「たった今決めたぞ!! 小生は君を守ろう!! あの男の魔の手から
可憐な君をこの命に代えても守り抜くことをこの場で誓おう!」
「ば、僕は男だってばッ!!」
「こんな可愛い子が男の子のはずがない!」
「ひやあぁぁぁぁ?! ふ、ふざけんにゃぁぁぁあーッ!!」
スイゲツはソルベウルを空いている片手でボコボコ殴るのだが、
こうか は いまひとつ の ようだ…。
「スイ×ソルかソル×スイか…それが命題だ!」
「まずはリバなしで逝きたい…ゆえに最初が肝心ですわ!」
「そこかしこで腐ってやがる…遅すぎたんだ!」
「あの…サドラスさん? どうしてしえりゃんさんとアリカさんは…」
「直視するな、お前も腐るぞ」
「あ、はい…???」
「あの吸血鬼の人はスイゲツ殿が男性だと認識できていないようですが…」
「放置しろキュクル。お前とモモは特に直視してはいけないモノだ」
「ん。私はア゛ッチの世界は興味ない」
「おぉ、久しぶりに見たのぅ。皇国淑女たちの間でも
出回っておるぞ、アレ系の薄い本が」
「ユウ…お前…まさか」
「わらわにはアッチの世界の良さとやらはよう解らん」
「オトコドウシでバカなことしてるよ…シゼンのセツリに反してはいけないという
オババさまの教えに背いてはダメだよイモウトたち」
「「「うぃ」」」
「我が君もそうだが、人というものが時々良く分からないことがありける…」
「人は人、マスターはマスターですヨ」
「何というカオス…だがしかし…これは…」
「面倒だ、ソルベウルをあの棺に閉じ込めて帰るぞ」
「ちょっと待ってください先輩! 何か僕に
"ライヒデルナハトⅡ世が仲間になりたそうにこっちを見ている"
とか変なメッセージウィンドウが?!」
「……チッ…」
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:城塞都市ダエモンシュタット・城塞議場>>
スイゲツに悪影響があってもこの先色々と困る気がしたサドラスは、
ソルベウルをサモンモンスターに押さえ込ませて説教という名の強制パーティ登録をし、
ワンパン当て身して気絶させて棺に叩き込んでそれを背負って帰ることにした。
「そうか…此方から仕掛けなければ有害では無いのだな…感謝するぞ。
神帝国の最大侯爵殿…」
「サドラスでいい。正直向こうで呼ばれ慣れ疲れているんだ」
「(出してくれえええええ!! 狭いのは嫌だぁぁぁぁあ!!)」
ガタガタうるさい背中の棺を激しく揺らして大人しくさせたサドラス。
「ではサドラスよ…その、何だ…」
「俺の背中のモノは気にしないでいただけるとありがたい。
仲間のためを思って止むを得ず行動した結果だからな」
「そ、そうか…」
「それは兎も角…依頼を達成したのだから、戴くものを戴きたい」
「う、うむ…そうであったな」
ベルウグラント七世は軽く手を鳴らす。すると会議室の出入り口から
大きな宝箱を何個も積んだ大きなカートを押す数人の魔族が入ってくる。
「ほほう…!」
何となくサドラスの瞳に¥マークが映っている気がするが無視していただきたい。
「聞けばお主は金よりも魔導文明級以上のアイテムのほうが良いと
聞いたのでな。
お主に対しての礼金は金額に見合った分の魔導文明級以上のアイテムを
何点か揃えさせてもらった」
「素晴らしい! 流石魔族筆頭!! だから俺は魔族のクエストが大好きなんだ!!!」
子供みたいな笑顔ではしゃぎ出しそうな様子のサドラスに、
ますますサドラスの実体が掴めないと感じる二十四魔公の面々。
「ククク…これだけのアイテムがあれば…クフフフフ…!
っと、そうだった、あの地下大墳墓ヴェルモントのことだが…
第三十階層以降は時折レベル1000を越えるモンスターが出現することがあるから
支配権獲得してたので封印しておいたぞ?」
何気なくサドラスが言った言葉に二十四魔公の何人かが思わず立ち上がってざわめく。
スイゲツとユスタリシアは「うわ、地雷やらかした!?」と強張ってしまう。
「支配権を獲得…?! サドラスよ…! それは一体…?!」
「…あぁ? あぁ…俺の背中の棺の中にぶち込んであるヤツが
地下大墳墓の前の支配者だったからだ。少しばかり悶着したので
軽くぶっ飛ばして無理やりパーティ登録したら支配権を得たのでな。
ちなみに棺の中身のレベルは2497だったか…?」
開いた口が塞がらない二十四魔公の面々。
「(ユスタリシア…僕、逃げてもいいかな?)」
「(奇遇じゃの…わらわも同じようなことを考えておった…!)」
<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:ダエモンシュタット郊外>>
戴いたお宝の数々を六道式士団に積み込ませるサドラス。
別にアイテムストレージにぶち込んでも良かったのだが、彼らに仕事をさせずに
給料を支払うのもどうかと思ったのでやらせているようだ。
「ククク…数日は退屈せずに済みそうだ…楽しい楽しい錬金・調合の時間だ…ククク…」
「あはは…それはつまり私も連徹覚悟ってことですねぇサドラスさん…」
「……無理に付き合う必要は無いぞ?」
「……そこは何も言わずに私を引っ張っていくべきじゃないんですか…?」
「???」
「もう、いいですッ」
すこし頬を膨らませて先に飛行戦艦に乗り込んでいくロティ。
「サドラス殿は変なところで機微に疎いですよね」
「あぁ…? 何の話だ?」
「…やれやれです」
クスクス笑いながら飛行戦艦に乗り込むキュクル。
「(何だ!? 何か横になってるぞ!? 小生をどうするつもりだッ!?)」
ガタガタうるさい棺を数人がかりの六道式士団が飛行戦艦に運びこむ。
「シュウ。今度は砂漠地帯のダンジョン探索で」
「うむ。悪くない提案だ」
「わらわは熱いところが苦手なのだがのぅ…が、行かぬとは言っておらんぞ?」
目線で火花を散らしながら百とユスタリシアも飛行戦艦に戻っていく。
「いや~…イイモノが見れましたなぁアリカさんや~」
「………」
「おやおやアリカさん~…何を今さらですよ~?」
「迂闊だろうが…アタシとしたことが…」
「ふっふっふ~…そんな時はスウィーツでも食って忘れてしまえば良いのですよ~?
そうは思いませんか厳蔵さ~ん?」
「え…何で俺を見んだよ?」
「傷ついた女子に甘いものとか甘いものとか甘いものを奢るのは
紳 士 の 嗜 み ですよ~?」
「うわ汚え…そう言えば俺が奢らざるを得なくなると解ってる目だな…!」
ステータス画面の現金表示を渋々数える厳蔵をニヤニヤしながら押していく
しえりゃんとまだ何かブツブツ呟きながら歩いて飛行戦艦に戻るアリカたち。
「……先輩」
なんかやつれている気がするスイゲツが現れた。
「おい、ジル=ルミル。スイゲツが可哀想だから遊んでやれ」
「うぃ? あるじ様…それはどういう意味で…?」
「………お前達が試作している新薬を試しまくって良いという意味だ」
ニチャリと笑うサドラスにニヤリと笑って答えるジル=ルミル。
「うぃ。グランソーサー♪」
―…?! な、何?! うわ、ちょどこ触ってアッ―!
―しんやくじっけん♪ しんやくじっけん♪ たまにはやろうよまじょっぽいこと♪
魔女たちに簀巻きにされて飛行戦艦に連れ去られるスイゲツ。
「スイゲツよ。俺なりの労いを貴様にくれてやろう…
(新薬実験とはいえ)女子に触りまくられる有り難味をな…!」
ゲスはどこまで行ってもゲスだった。
「マスター。お疲れ様でしタ」
「まあ、確かにそこそこいい汗かいた気がするな」
「我が君…今度は砂漠地帯に行くとか行かないとか申されていませんでしたかな…?」
「ああ、暇を持て余したら今度は砂漠地帯で油田でも探してやろうかと考えている」
「油なんか見つけてどうするのですかマスター?」
「それは見つけてからのお楽しみだ…産業革命も悪くない…ククク…」
「……よくわかりませぬが、何やら胸が高鳴るのは気のせいでありけるか…?」
「全てはマスターの御意志のままですヨ…」
そう言って、軽くララリリルの手を引いて飛行戦艦に戻っていくメドラ。
「…積み込みも終ったか…さて…まったり帰――」
ろうと思ったサドラスの眼の前に、沢山の荷物の山と共に
見覚えのある万魔法銃士の女…スピナが跪いていた。
「あぁ…?」
「一度家に帰って深く考えた結果…ここにいるよりお前の…いや貴方様の
傍に居たほうが己をより高められると結論付けた…そういうわけなので…
お 仕 え さ せ て く だ さ い 私 の 魔 王 さ ま ! !」
「な…にぃッ!?」
「分不相応ということは無い…私の本名はスピナ・ペシュメルガ・シュテルンドラッヘ…
二十四魔公最有力者にして魔族筆頭の血族でもあるシュテルンドラッヘ公の嫡子女…
過分という事は無いだろうが、間違いなく不足は無い…!
何なら早速その価値を夜からでも披露しても良い…! 大丈夫だ、私は初心じゃない!
それなりの技巧も身につけている!」
「え、な…ちょ、おま……ヘァッ!?」
首の後ろがチリチリすると思って後ろを振り返れば、
飛行戦艦の甲板で見覚えのある女子方の鋭い眼光が此方を射殺す勢いで注がれていた。
無論今後のサドラスは(以下略
第12話に続く…よね?
次回更新は相変わらず未定です…申し訳ない。




