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第九話「伝説に記される第一章の顛末」

遅くなりました。今回の更新です。やらかしました。また長いです。

<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・傭兵宿舎>>


 あの騒動から数日…サドラス一行はルーンテールにて今は殆ど使われなくなった

傭兵の宿舎に厄介になっていた。

 と言うのもユスタリシアが「赤緑青エールケーベー海」にあるサドラスのアジトに

「一度やってみたかったのじゃ! 押しかけ女房!」と乗り込んできた事をキッカケに

どえらい乱闘騒ぎが発生し、アジトが消滅してしまったことが原因だ。


「………ダンジョン…行きたい」


 アジト崩壊もそうだが、魔導文明マギテック級以上の高ランクレア素材の残り四割が

アジト諸共消滅した事は多少の事には動じないサドラスでもかなりのショックだった。

故に趣味でもあるダンジョン潜りをしたくなるのも仕方の無いことなのだが…


「サドラスさん…? まだ寝てるんですか…?」

「いや、流石に昼寝するほど疲れてはいない…」

「それなら私たちの買い物に付き合ってもらえませんか?

KATUMI殿のコネクションで高レベルスキル継承スクロールの

オークションに参加させて頂けるとの事なので…あ、勿論自腹で競り落としますよ」

「オークションは買い物では無いだろう…」

「兎に角サドラスさんは部屋で一人で居るとか駄目です。何故なら――」


「むぐぐぐぐ~ッ!?」


 ロティの脇から簀巻きにされて猿轡を噛まされたララリリルが転がってくる。

一瞬ロティの後ろにタンコブだらけでしかも拘束魔法バインドLv300が付与されて

気絶しているメドラも転がっていたような…?


「……えーと…まあ、こんな感じでサドラス殿に隙あらば近付こうとする方が

来ないとも限りませんし…?」


 半泣きで首を横に振るララリリルだが、ロティが張り付いた笑顔で一瞥すると

眼を逸らして急に大人しくなった。


「……(ここ最近、何かがおかしい…!)」


 事後報告でロティとキュクルはそれぞれクラスチェンジの試験に合格したそうだ。

結果、ロティは大練成術師マグナルケミスト、キュクルは戦争魔術師ウォーマギステルの上位クラスとなり、

各スキルも軒並み限界突破した…レベル的には2ndセカンドどころか

3rdサードクラスも余裕で取れる領域に達したのだ。


「女性だらけのこの宿舎で男の人が一人きりなんて…碌ナコトガ無イデスカラネ…」

「そ、そうだな…」


 おかしい…ロティからは恐怖系スキルの発動を感知していない…

なのに何故戦慄感を覚える…!? などとサドラスは考えていた。


「ま、まあサドラス殿に限ってそんな事はありえないって私は思ってますが…!」

「不意打ちされることがあっても俺は遅れなど取らんさ…」


 あくまで戦闘関係での話だが…サドラスはそう付け加えそうになったのを

どうにか飲み込んだ。


「じゃあ私達は廊下で待ってますから、外出の準備をしてきてくださいね」

「ああ…」


 再び部屋に静寂が戻ってくる。一応ララリリルは簀巻きから開放されていたようだし、

そこまで心配することは無いだろう…そう思ってサドラスが防具を装着した時――


「シュウ。出かけるの?」

「ぬを……………ぎッ!?」


 ベッドの下からぬるりとハンドレッドが現れる。ここで下手に声を上げれば

修羅場にしかならないと咄嗟に判断したサドラスは

舌を噛む覚悟で叫びそうになる口を閉じた。


「………何時から其処にいた」

「………ん。ロティが起きる少し前…具体的には朝の四時頃」


 ロティが相当な時間から早起きしていることにまず驚かされるサドラスだったが


「………俺のベッドの下で四時間近く何をしてたんだ」

「………好意情報キスの上書き…をしたかった。

でも、睡魔に負けた……無念」


 百の根がお子様気質で良かったとサドラスは胸を撫で下ろす。


「しかし現在は覚醒に、至った…ということで、上書きを」


 一気に距離を詰めてきた百の顔を仕方なく鷲掴みにするサドラス。


「むぅ…」

「俺とのステータス差を考えろモモ。仮に成功するとすれば俺が油断しきったところを

狙った不意打ち以外にはありえん…先日のようにな…」


 先日に百とユスタリシアの二人に連続ズッキュウウウウウンされて以来

サドラスは己の中のゲス野朗勢力が最近強まってきていると感じた。


「あむ…れろ、れろ」


 サドラスの掌をペロペロしてくる百。


「おわ!? ララリリルみたいなことをするんじゃない!!」


 思わず手を引っ込めるサドラス。


「ぐぬぬ…! クローゼットの中で眠ってしまうとは…不覚!」


 そう言ってクローゼットの中から出てきたのはユスタリシア。


「なぬ?! ユウ…お前もか…!」

「ふっふっふ…未来の嫁の忍術スキルの凄さを侮るでないぞぇ…?

ぐ、ハンドレッド…?! おのれ先回りされていたか…!」

「ふ、この勝負は既に私の勝ち…すなわち事後」

「にゃにぃ!?」

「何もして無いと言うかむしろ未然に防いだからな」


「くぅ…こうなったら仕方ない…ハンドレッドよ! 正妻戦争(?!)は一時中断して

まずはシュウをわらわ達の身体で篭絡させることを優先させようではないか!」

「なッ…!?」

「む…その妥協を仕方なく飲む…この間キスまでしたのに

殆ど意識されていない、とても屈辱…!」

「待て意識してる! 意識してるからやめろ!」


 どういう理屈かはさておき、百とユスタリシアはサドラスにじりじりと迫ってくる。


「こら! 服を脱ぎながら来るな…!」


 眼のやり場に困ると言おうとしたが後ずさる時に後ろを気にしていなかったため、

ベッドに足を取られてサドラスは尻餅をつく。


「ふふふ…観念するが良いシュウ…いや、この場合堪忍か?」

「細かい事はシュウと合体してから考えるべき」


 にじり寄ってくる百とユスタリシアは気付けば下着一枚になっていた。


「…(こ、これはまずい…)…!」


 もしこの情況をロティたちに見られたら

どんな恐ろしい結果になるかと想像したサドラスは

なりふり構わず窓を突き破って脱兎の如く逃走した。

 道中「C†B†E」メンバーとすれ違い様に厳蔵を弾き飛ばした気がするが

まあ気にしないでおこう。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:旧魔族領周辺>>


 無我夢中で走っていたら、何時の間にか大陸北方まで来ていたサドラス。


「AGL530000ともなるとコンコルド級の速度になってしまうのか…」


 実際全速力で走るサドラスは常識的にはありえない音速衝撃波ソニックブームを発生させて

すれ違うモンスター達を次々と弾き飛ばしていた。

もしかすると冒険者も巻き込んでいたかもしれない。


「…この調子では姦計に嵌った時が面倒だな…耐性を付けねばならん…」


 サドラスはMAPを展開して周辺の情報を探る事にした。


「ふむ、もう数時間東に行けばアペリウス本国で…真北なら……"旧"魔族領か」


 「旧」と付く理由は、まだデスゲーム化する前の時代に

廃人PC集団ギルド『GrTrAd攻略組』が「魔族領レイドモンスター狩猟大会」

と銘打って北方地帯を蹂躙した結果だろう。その副作用で友好的なNPC魔族が激減し、

最初は多くの一般プレイヤーから顰蹙を買ったが、デスゲーム化したときに

どんな情況であろうとも基本プレイヤーに襲い掛かってくる設定の魔族も

居なくなったことが幸いして、デスゲーム解放軍の拠点になったのはある意味皮肉だが。

 時折襲い掛かってくるモンスターをチョップやデコピン一発で葬りながら、サドラスは

のんびり歩いて初めて魔族領に入った頃を懐かしんでいた。


「…あの頃はまだ俺もレベル900代で…PKプレイヤーも其処に拠点を構える奴らも

殆ど居なかったな…ん?」


 少し前方に、多分ゲーム時代に運営が設置したと思われる立て看板が見える。


「ここより魔族領…む? まだ何か書かれているな…」


 運営が作成した看板に刻まれた綺麗な文字とは違い、明らかに人族の手書きと思われる

ちょっと稚拙な文字が書かれていた。


「ココは、魔女のセカイ。イノチがオしくば立ち去れ…?」


 看板の向こうには樹海と言っても差し支えの無い森が広がっていた。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:風止まぬ樹海~魔女界~>>


 名前の通り常に風が頬を撫でる樹海に歩を進めるサドラス。


「魔女か…居るとすれば姦計対策の予行演習にでもなってもらおうか…?」


 樹海の中は不思議なことにモンスターが現れない。


「ゲーム時代ではNPCに付いてしまう呪われた職業カースドクラスの一つだったが…

しかし何故雑魚モンスターが出ない……む?」


 妙な気配を感じたサドラスはMAPを展開する。どうやら数十メートル先で

たくさんの赤点が自分を抜け道なく包囲しているようだ。

 ただのモンスターならば如何に数が多かろうとも此処まで丁寧には包囲してこない。


「そういうことか…となれば少し面倒だな」


 サドラスは愛用の銃剣を構える。ちなみに銃剣も魔女の名が冠されているが

それは偶然だ。


「「「「「何用か、マガマガしき者。ココはワタシタチのセカイ!」」」」」

「? …そのカタコト…上位種ハイロードモンスター…いや魔族か?」


 やがて一体の人型が此方に近づいてくる。


「ん…?!」

「ナマエが見えないお前…ココはお前の在るべき所チガう…!

大人しく立ち去れ…!」


 近付いてきた一体…いや一人はボロボロだがかなりの高ランクなローブを纏い

味わい深い装飾品を装備している特徴的な触覚と瞳が複眼のように見える蟲人バガン族の女だった。

 そこまでは良いのだが、その女はローブの下に何、も…つけて、い、ない…?!

まずい見えなそうでモロに見え…?!


「え、な…何故下着を着けていない!!」

「?! …お前、アンスロ族…!? これほどにマガマガしいケハイをモつ人族なんて…!?」


 サドラスの理性ある突っ込みでローブ一枚の女はサドラスを人族の男と認識したらしく

はだけた部分を隠しながら距離をとった。


「名前は…ジル=ルミル…随分魔族っぽくない名前だな…やはり魔女で良いのか?」

「?! やはり、お前にはワタシのナマエが見えるのか…!?」

「俺はここ最近名前が"?"表記のモンスターや人族に出会ったことが無い」


 ざわざわ… ざわ… ざわざわ…



―ジル=ルミル視点―


 その言葉にこのナマエの見えない人族を囲んでいるイモウトたちは

ドウヨウの色を示さざるをエない。


「シズまれイモウトたち! オドらされるな!!」


 ワタシはイモウトたちをイッカツする。

どうにかイモウトたちはレイセイにテキイを人族に向け直した。


「中々の統率力…172人をその一声で纏められるとはな」

「!? …ナゼ、ワタシたちのカズが分かる…?!」

「古の冒険者ストレンジャー…あるいは魔族領を蹂躙した廃人マグナウス集団…

こう言えばお前は理解できるか?」

「!?!? …ストレンジャー…デンセツのスキル"まっぷ"か!

そして…マグナウス…大いなる人型のカイブツ…! つまりお前は廃人…?!」

「流石にそれは否定できんな」


 それがどうしたと言わんばかりのクチョウでナマエの見えない男は言った…

呪いを発現(魔女化)してから、北方に逃れてきて久しぶりの冷や汗だった。


「もう一度問うぞ…? ナマエが見えないお前…ココはお前の在るべき所チガう…!

立ち去れ…争いはお互いにムエキ…!」


 ナマエが見えない…それだけでワタシとアイツの力の差はレキゼン…

ならばワタシより弱いイモウトたちが百人いたところで、ヒサンなケッカしか

待っていないだろう…見たところ向こうにはハナシが通じている…はずだ。


「そうは言われてもな…俺も俺でレイドモンスターを百匹くらい"一狩り"して

失くしてしまった分のレア素材を補完したいんだが」

「?!?!?!」


 大いなるカイブツレイドモンスターを"百匹くらいヒトカリ"…!?

正気の沙汰ではナい…! こんな奴と事をカマえたくなどないぞ…!

 ワタシは何としてもこの魔女団カヴンを守らねばならない…

先代魔女長オババさまとの約束のためにも!


「どうしてもココから立ち去らないのか…?」

「ん? いや通り抜k――」


 ?! 何だ!? 東から木々がナぎ倒される音がする…!


「アネさま! ヤツらだ! ゴーレムライダーがまた来た!」


 ワタシはイモウトたちの何人かにヨウスを見てくるよう合図を送った。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:風止まぬ樹海~魔女界~>>


 遠くからでもメキメキと木々が音を立てて

薙ぎ倒されているであろう音が聞こえてくる。


「む…?」


 サドラスはMAPを限界にまで拡大表示させる。

するとサドラスの周囲を囲む赤点より更に東に離れた地点から夥しい数の赤点が

此方に向けてゆっくりと迫ってくる。


「何てマのワルい…! ゴーレムライダー共め…!」


 ジル=ルミルは苦虫を噛み潰した顔を浮かべつつ、サドラスを包囲していた

数人の魔女たちに合図を送ると、その数人は音も無く東の方角へ消えていった。


「ゴーレムライダー…? 魔導文明の遺跡あたりに出そうなモンスターだが…

お前達とは敵対しているのか?」

「そうだ! 連中はワタシたちの家であるこの森をいつもいつも削っていく!

ワタシたちは奴らのナワバリに何もしていないのにも拘らず!!」


 しかしジル=ルミルは悔しそうな表情を浮かべている。


「…一つ聞くが…連中はお前たちよりも強いのか?」

「…そうだよ! 奴らは強いよ! 奴らのせいでこの魔女団で

強くて大人な魔女はもうワタシ一人だけだよ! 奴らには物理はオロかワタシたちの

十八番おはこの魔法さえロクに通じない!! ワタシにとってのあねさまも…

かあさまも、先代魔女長さえも! 皆、奴らに討たれ! 時に連れ去られた…!

そんな事がここ何年も続いて! 仕方なく森の奥に行けば、今度は奴ら、森を削り始めた!

森を削られてはワタシたちはいずれ死ぬしかない! …しかし正面からは戦えない…!

かといって策など思いつけるほどワタシたちには学がナいんだよ!

そんなジョウキョウでお前みたいな男が来て…なんだよ…どうしろって言うんだよ…!」


 ジル=ルミルはボロボロと涙を流しながらうずくまった。居たたまれなくなったのか

サドラスを包囲していたほかの魔女(ジル=ルミルが言うように皆幼い風貌だ)たちが

彼女を宥めようと続々近付いてくる。


「アネさま、ナかないで…」

「アネさま、ダイジョウブ?」

「アネさま…アネさま…ひっく…」


 釣られて泣き始めるほかの魔女の子たち。


「…チッ」


 サドラスはジル=ルミルに近付く。すると彼女の周りにいた魔女たちが涙目ながらも

此方を威嚇するように各々の武器(一部箒やデッキブラシも混じってたが)を構える。


「おい、そこの泣虫魔女長」

「…ッ!? 何だ!? 魔女が泣いたら可笑おかしいか!?」

「もう一度聞くが、お前らの言うそのゴーレムライダーってのは

本当にお前らより強いのか?」

「二回も言わせるなよ! 奴らは強いよ! 当時のワタシより強い姉さまも母さまも

オババさまでさえ圧倒するほどだよ! だからソレが何だと言うんだよ!!」

「いや、それほどの強さなら俺の目的が成就すると思ったのでな…ククク…」

「…ッ!?」


 その時のジル=ルミルが見たサドラスの顔は

途轍もなく邪悪な笑顔に見えたかもしれない。思わず眼を背けた彼女が

今一度サドラスを見ようとしたとき、サドラスは忽然と消えていた。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:風止まぬ樹海・東部>>


 木々をなぎ払いながら西進しているのは、アペリウス国の鎧機兵アルマパラトセリ一個中隊だった。


「魔女たん魔女たんどっこにいるぅ~♪」

「こら自重しろwまあ残ってるの確かに魔女たんしか残ってないだろうケドよwww」

「wwwワインうめぇwww」

「酒気帯び運転は厳罰ですよwww」

「飲んでても勝つるwwwうはwww魔女たん捕まえたら思う存分

hshsprprお☆☆こzkzkア☆ルbkbkして

最後はウ☆ルスに俺のマグマを思いっきりdpdpするおwww」

「この糞ゲス野朗wwwマジで自重しろこのカスwww」

「wwwウォッカうめぇwww」


「…南下進攻軍の無様な全滅撃を聞いていないのか…駄目だこいつら…

早く何とかしないと…」


 中隊長は暖めたワインを呷る。ここは悲しくも北方。

ダヴァイウォッカ! (さっさとウォッカを寄越せ)な連中は絶えることがない。

 悲しくもアペリウス人の最大にして唯一の弱点はアルコールのようだ。


「でもよ。お偉いさんは魔女たん集める目的ってハッスるだけじゃ無さそうだよな?」

「あ、それは俺も思った。実際魔女ってかなりの魔力を持ってるし、

噂じゃモンスターみたいに魔石が体内にあるらしいぞ?」

「マジで? え、じゃあ俺らに宛がわれなかった食べごろ~完熟系の魔女って…」

「もしかすると、もしかするかもよ?」

「えー…酔いが醒めそうなんですけど…」

「酒不味くなる話題やめようぜ? ほらよそ見してると樹にぶつか――」


 言いかけて最後にアペリウス兵が乗る鎧機兵が沈黙した理由は一つ、

上半身が中身ごとスッパリと切り裂かれたからだ。


「!?」

「は?!」

「ちょ、何が!?」


「…ぬぅん!!」


 その掛け声と共に星断巨塔十拳刀剣ヴィシュナバリ+153を振り回すサドラスが

次々と鎧機兵をぶった斬りながら走ってくる。


「ぐぇぇ?!」

「な!? 何だ今の!?」

「とにかく撃て! 撃つんだ!」


 鎧機兵の魔導機関銃は確かにサドラスに命中しているのだが


「…ふむ、一発一発のクリティカルでも10ダメージ程度か…

眼に当ると少々痛いが、やはり無視していいな」


 とか恐ろしいことを言いながら今度は愛用の銃剣と大斧の二刀流で

自分を集中砲火した鎧機兵を時に叩きつぶし、時に唐竹割りし、

時に刺し貫いてのゼロ距離射撃や斧をめり込ませつつ即席ハンマーの如く

鎧機兵に鎧機兵をぶつけたりして中身諸共破壊していく。


「うどぅや!?」

「オェエ?!」

「如何したアペリウス人! 南下進攻軍はもっと抵抗してきたぞ!?」


 サドラスは時折自分に命中する(流石に急所はガードしたが)斬撃打撃射撃魔法攻撃を

ものともせず、まるで超高位アンデッド系レイドモンスターが如く

鎧機兵たちをアリの群れを戯れに踏み潰すかのごとく蹂躙していく。


「ヒイイ化物ぉぉぉお!?」

「ふん…捕まえた魔女達に怪しからん事をするお前らが言うな」

「うわああああああ!? コイツ喋ったあああああああ!!」

「クソクソクソクソクソッ!? 何で死なねえんだよこいつッ!?

何だよコレ人じゃねえよぉ?!」

「チッ…一々失礼千万な奴らだ…!」


 イラついたのか、サドラスは魔術スキル『ライトニングバースト』+3999を発動する。

上空一帯が雷雲に包まれ、夥しい数の落雷が鎧機兵を襲う。


「ぎょええええ!!」

「げあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ーッ!!」

「…嫌だ…死゛に゛だぐな゛い゛ィィィィギァアアア…ッ!!」


「до свидания(ダスヴィダーニェ:さようなら)…精々あの世で幸せになれ…

ククク…グワーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」


 今考えてみればサドラスがアペリウスと戦う正当(?)な理由が無い気がするが…

腹に戦闘狂大魔皇を飼っているサドラスがそれを考える事は無かった。


……。


…。


「………こ、これは何なんだよ…?」

「アネさま…ゴーレムライダーみんなバラバラのコゲコゲ…!」


 ジル=ルミル達が落雷音を聞きつけて現場に駆けつけたとき、そこには

自分たちが録に太刀打ちできなかったゴーレムライダーことアペリウス鎧機兵中隊の

見るも無惨な死屍累々とした様がそこにあった。


「ふぅ…結局百機いなかったな………。 !? というか…

これでは機械系素材の回収が出来ん…ああ俺としたことが!?」


 死屍累々など真ん中で煙草を吸っていたかと思いきや頭を抱えて何か

残念そうに唸るサドラス。


「おい…ナマエの見えない男…これは全部お前がやったのか?」

「………あぁ? あぁ、それがどうしたというんだ?」


 事も無げに煙草を握りつぶして消したサドラスの言動に

ジル=ルミルと魔女たちは開いた口が塞がらなかった。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:風止まぬ樹海・魔女の集落>>


 勢いで飛び出してから何も食っていなかったことに今さら気付いたサドラスは

折角なのでそこに居たジル=ルミルを初めとした魔女たちに「何か食うモノは無いか?」

と聞いたら彼女たちの住処に何故か恐る恐る(当たり前だろ!)案内された。


「ふむ…」


 そこは集落と言うよりは巣みたいな感じだった。というのも彼女達が家と

呼んでいる所は乱立する木々をそのまま支柱とし、屋根や壁代わりに鎧機兵の残骸と

思われる金属板やどこぞのモンスターの毛皮や骨などで

設えたちょっと豪華なテントにしか見えないし、水道は近くにある清流で代替され、

火に関しては焚き火とかがり火がメインときたものだ。

 とはいえ畑や果樹園はキッチリ作りこまれており、イノシシや鹿、馬といった

動物たちを上手く家畜化している。

 だが現代日本のオートロック式のマンション暮らしで、こちらでも

ちゃんとした家具が揃った寝床で暮らしていたサドラスからすれば、

良くて田舎町の傍にあるキャンプ場にしか見えないレベルだった。


「………ナマエの見えない男…お前は共食いとかしたりするのか?」

「何故そう思う…あと俺の名前はサドラスだ」

「す、すまない…もう頭上に見えてるのは承知だが一応ワタシも名乗っておくよ…

ワタシの名はジル=ルミル・レンストゥ・ドルーウェン…」

「そうか、改めて宜しくな」


 サドラスは手を差し出す。無論ジル=ルミルは訝しむ。


「ん? 何だ? 握手の習慣は無いのか?」

「いや…そういうわけではナいよ…」

「安心しろ。俺は身の程知らず以外には何もしない主義だ」


 恐る恐るサドラスと握手を交わすジル=ルミル。

ちなみに今すぐ傍で火を起こして食事の支度をしている若い、いや幼い魔女たちは

そんな様子を恐々チラ見してくる。


「しかし…何と言うか…ここの集落は…」

「文化的ではナい…か?」

「いや…そういうわけでは」

「ムリもナい…ここに居るイモウトたちは皆幼くして魔女化した者しか居ない…

ワタシですらそうだ。せいぜいイモウトたちとワタシのチガいがあるとすれば

"ヒノモト"神語の"かな"文字と一部の"ヒノモト"象形文字…"漢字"の読み書きが

出来るテイドのチガいくらいだ」

「ほう、俺の母国語が多少は理解できるのか…するとお前の家は

魔術師の家系だったりするのか?」

「今となってはハッキリとは言えないよ…というか今お前はサラッと"ヒノモト"神語を

母国語とか言わなかったか?!」

「そうだが? ちなみに俺の本名は佐渡終さわたりしゅうだ。

まあ、知ってても知らなくてもどうでもいいかもしれんがな」


 何となくヒマだったのでサドラスは地面に「佐渡終」と書いてみせる。

ジル=ルミルがその字をじっくり読み解いている間に何の肉か分からないが

串焼きみたいなものがたくさん運ばれてきた。香りが牛肉のソレに似ているので

サドラスは空腹も手伝って喉を鳴らした。


「…おわりをわたささえる…そして全身紫ずくめ……

!? まさか…まさかお前…! 暴虐廃人ティラニスマグナウスザドゥルオウス…!」

「ぐむ!? ぐが熱ぅんがッ!?」


 齧り付いたと同時にジル=ルミルが叫んだのでサドラスは

焼きたての肉を喉に引っ掛けそうになる。


「ぬぐぐぐ…!」


 サドラスはアイテムストレージから完全生命薬フルポーションを出し

喉に引っかかりかけた肉をそれで流し込む。


「い、今どこからクスリを出したのだよ…?!」

「んぐ…んぐ…ふぅ…俺のプチ黒歴史を知っているならわかるだろう…」


 一応サドラスは自分がどのような経緯でこの世界に来たのかを魔女たちに話す。


「おお…オババさまが見たと言う大量浄化(恐らくデスゲーム末期の独り狩猟大会)は

やはり真実だったよ…!」

「ジョウカのカミさま…!」

「シュウマツのゴンゲン…!」

「ケガレしヨをハカイしてサイセイしてくれるオオいなるモノ…!」


 キラキラした目でサドラスを見つめる魔女一同。中には跪いて祈りを捧げる者達もいる。

そもそもの魔女が唯一神教に弾圧された大自然崇拝者の流れを汲む者なのだから、

ある意味自然な光景なのかもしれないが…


「……メドラがいたら"やはり教団再興しましょウ"とか言い出しそうだな…」

「ああ…ウワサのザドゥルオウス教団…オババさまも何時かは入団したいと

言っていたよ…ヒガンジョウジュしたからカイサンしたと聞いたときには

少しカナしかったが…ヒガンとはアナタの再臨を意味していたからなのよ…?」

「………」


 あれこれなんか面倒くさいことになってんじゃね? とサドラスは思ったので、

どうにか話題を逸らそうと口を開く。


「まあそれは兎も角…この串焼き…美味いは美味いんだが…もう少し塩気が欲しいな」

「あ…申し訳ない…塩は貴重なんだよ…中々近くの国に買い物にも行けないので」

「やはりアペリウスの存在が邪魔なのか…」

「奴らさえいなければ、割と他の国々は魔女に対して存外友好的だから…

特にワタシたちのクスリは高値で買ってくれたり、たくさんの調味料や香辛料と

交換してくれたりするのよ」

「ふむ…」


 そこからジル=ルミルの話を掘り下げるべく質問を繰返していくと、

どうやら魔女たちを眼の敵にしているのは魔術師の国でもあるアペリウスと

その一部の国だけで、影響の無い諸国はむしろ彼女らの身上を案じて

要らない服や余った食料を分けてくれたりもするそうだ。

ならいっそ移民を受け入れてやればとも思うが

それは現実世界の各国の為政者達も容易に判断できない事でもあるので仕方が無い。


「いっそ潰すか、アペリウス。俺も連中に恨みが無いといえば嘘だしな」


 サドラスの場合は唯の逆恨みが殆どだと思うが。


「え? それはどういう…」

「言葉通りだ。どうせこのままだとお前達は最低でもこの森から

出て行かなければならなくなるだろう…? ならば俺がお前たちと共に

あのアペリウスを壊滅ないし滅亡させてやるのも一つの手段だ。

どうせ連中は鎧機兵の戦力に酔って身の程も弁えずに領土領海侵犯を行っているし、

アロフネスの国皇リードムーンや冒険者達の話では既に周辺国を何国も併呑してるようだしな」


 ざわ…ざわざわ…ざわ…


「一理…あるのだよ…このままむざむざホロぼされる理由はナい…」


 ジル=ルミルは喉を鳴らし、堅く拳を握り締めた。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:アペリウス共連邦・首都ペキニスカ>>


 アペリウス最高権力者集団『百人委員会』には青天の霹靂であった。

今まで他国に反撃としての大規模な侵攻を受けた事はあったが、極少数の武装集団による

大規模侵攻など今まで受けたことがなかった。


「主席! 第一総記! 連邦総大将軍閣下から通電です!!」

「手短に話せ」

「敵勢力の正体は?」

『は…敵は魔女です』

「魔女? 唯一神成教の異端者で弱小勢力の?」

「"魔導鎧機兵しんへいき"の生体コア以外で碌な使い道の無いあの魔女どもか?」

『敵は魔女なのですが…魔女どもを率いている者が…』

「何だと言うのだ?」

「その魔女を統率する者…全身紫尽くめの人型の怪物が問題なのです!」

「だから何が問題だと言うのだ?」

『その者は…その者はたった一人で…げっ?! #$%&…! ―――!』


 それきり通電が途絶える。百人委員会の面々は動揺の色が滲み出てきた。


「静まれ、我々がその様では共連邦民に示しがつかぬ」

「主席、無人機化した"魔導鎧機兵マガルマパラトセリ"を導入するか?」

「まずは情報を得てからだ第一総記。大将軍め…何を奇策ごときで慌てているのだ…」



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:アペリウス共連邦・ウラジスリディニ>>


 かつてはアペリウスの文化の都と謳われるほどの中部の都市ウラジスリディニも

今となってはアペリウスの主戦力である鎧機兵、魔導戦車、魔導銃器兵の

残骸や焼け焦げた死体の山である。


「逃げる者や一般人は無視! 命乞い、降伏する連中は一旦放置!

但し嘘を吐いた連中には遠慮は無用! 情け容赦無く怒りをブチかまして良し! 

お前達は俺の討ち漏らしを全力で包囲からの集中放火で息の根を止めろ!」

「「「「「うぃーッ!」」」」」


 単騎で突き進むサドラスはあの大長剣ヴィシュナバリを振り回し、時に魔法、

技にBA、極大魔法をブチかましながらアペリウスの兵隊たちを次々と葬っていく。

 運よくサドラスの怒涛の攻撃から逃れられた、或いは死に損なった兵隊には

サドラスが率いる魔女団ことサドラスが命名した『疾風怒濤魔女団シュティミュンドロング』の

「惨めな降伏or無様な滅殺」の質問が待っている。


「ん? ちょっと待てジル=ルミル」

「何だよ、あるじ様?」

「いや、"あるじ様"って言い方もそうだが、"惨めな降伏or無様な滅殺"ってのは

相手を降伏させる気が全く感じられんのだが」

「ムロンだよ。奴らに下手なジヒなんか与えてもどうせ背中からオソってくるだけだし

下手に生かしても反抗のタネをどうせ育てるだけだよ…

まあハジもガイブンもスててコウフクするなら生かしてやっても良いかもしれないけど…

あと"あるじ様"はもう決まったことだよ。ワタシたちを率いるって言ったんだから」

「そーだ! そーだ!」

「ホカのアネさまもダレヒトリカエってこない!」

「も~っとイタいメをアジあわせてやらなきゃダメ!」

「サドラスさまヤサしすぎ! ううんアマすぎる!」

「ケダモノはイうことキくまでナグってナグってナグってナグりまくる!

イノシシやシカとかもサイゴはそうするとジュウジュンになる!」

「ヤサしくするのはそれから!」

「ふむ…一理ある…のか?」


 あれだけブチ殺しているサドラスに甘い、優しいと言えるのだ。

魔女たちのアペリウスに対する恨みは想像しきれない。


「とはいえ…救いが無さ過ぎるのはな…」


 そこは腐っても一般の日本人なサドラス。どうにも弱いもの苛めは気が引けるのだ。

なので降伏して生き延びたある意味幸運なアペリウス人達とは何かしらの

話し合いをしても良いのでは無いかとサドラスは思う。現に彼は

生き残った南下進攻軍の将軍と煙草を吹かしながら話したことがあるわけなので。


「「「「「「ウララララララララーッ!」」」」」」

「「「「「「ホワタタタタタタターッ!」」」」」」


「あるじ様! まだまだ敵が来るよ!」

「…ふむ…無闇矢鱈に殺すのもな…」


 サドラスは「コキュートス・カイーナ」を発動させる。

すると辺り一帯の足元が一気に凍りつく。無論凍りついたのはアペリウス兵だけだが。


「あいや?! あ、足が全く動かん!? っていうか氷漬け!?」

「うおっHPが減っていく…!」

「さ、寒い…俺ら北方育ちなのに何で…!? もしかしてウォッカが足りなかったか?」

「か、回復しないとガチで凍死する!!」


 アペリウス人達のワヤワヤする様を見て


「やはり無闇な殺生は良くない。お前たち、連中を嘲笑うだけにしてやれ」

「あるじ様がそう言うなら…ブザマなアペリウスのブタどもめ…セイゼイアガけ!」

「ざまーみろー! ばーか! ばーか! クサれ×××ー!」

「コゴえてシね! アネさまたちのウラみをシってシね!」

「……でも、もうしないってゴタイトウチしてヤクソクするなら…

…あったかいエサくらいあげるよ?」


 嘲笑えとは言ったが…みんな存外酷い言い草だな…とサドラスは思った。


―ぐぬおおおおお! メスガキどもがあああああ!

―くそったれがああああ!!

―ぶひいいいいい!

―俺は降伏なんか…降伏なんかああああ…!

―暖かいエサ…? …畜生そのフレーズは何か期待しちゃうだろおおおおおお!?

―舐めんじゃねえぞこのクソガキがあああああああああああああ!


 何か一部変なのが混ざっていた気がするが、

「多分そいつらは救いがある気がするな」と思うサドラスであった。


 ちなみにサドラスの足元にアペリウス連邦総大将軍閣下の死体が転がっているが

サドラスがそんな事に気付くことは無かった。というか無理だろこの情況で。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:アペリウス共連邦・首都ペキニスカ>>


 新たな通電が入った後、百人委員会内で壮絶な一悶着が起こり、

 百人委員会の居た部屋には、もう主席と第一総記とその取り巻き数名しかいなかった。

ちなみに彼らは全員魔導鎧機兵…それも中に乗れる特注品に身を包んでいる。


「……由々しき自体だな、第一総記」

「部屋から逃げきった他の高官どもは我らの把握し切れなかった裏ルートで国外逃亡…

あまつさえ亡命を図ったそうだぞ主席」

「王政の連中と大差のない緩い結束力だったと言うことか…ふ…だから他民族を

安易に信用してはならんのだよ」

「併合を急ぎ過ぎた結果…でも無いな、何もかもが例外過ぎたんだろう」

「だが我ら以下の全魔導鎧機兵400機を出動させた。アレならば刺し違えてでも

敵を殺してくれるだろう。腹立たしくも180人に満たない魔女団なぞな…!」


<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:アペリウス共連邦・ペキニスカ近郊>>


 サドラス率いる『疾風怒濤魔女団』はここで思わぬ苦戦と犠牲を払うことになる。


「む…? 見慣れない形状の鎧機兵がいる…新型か!?」

「あるじ様…! あのゴーレムからはイヤな雰囲気がするよ!」

「あれ…ナニかヒカった――」


 前方に現れた見慣れぬ鎧機兵…魔導鎧機兵は高速破壊閃光魔法『フラッシュカノン』を

こちらに向けて連発する。『フラッシュカノン』は中レベルにも拘らずその実用性から

大多数で使用すると戦略魔法として評価されるほどだ。


「く…防御結界が間に合わん…!」


 敵の『フラッシュカノン』の連発で、魔女団にも初めての犠牲が出てしまった。


「ピリカ!? アーリル!? ラトビニアまで…?! そんな…跡形も無く…!」

「おのれ…! ジル=ルミル! 全力で防御結界を張れ!!

あの攻撃は流石にお前たちを守りながらではどうにもできん!」


 言うや否やサドラスは魔導鎧機兵の軍団に突っ込んでいく。


「あるじ様! …くっ…防御結界を全力で張るぞイモウトたち!」

「「「うぃー!」」」


 後を追いたい気持ちを抑えてジル=ルミルは生き残った魔女団全員で

防御結界を幾重にも張り巡らす。


「……上出来だ…疾風怒濤魔女団…!」


 サドラスは魔剣ヴァルナルダー+1658と聖剣カルマーグニ+1587を

アイテムストレージから取り出して、二刀流で装備する。

 この装備は魔剣には氷、風、土、闇。聖剣には炎、雷、光、波動属性が付与されており

弱点属性などがハッキリしない敵にはコレをサドラスは多用する。

 あの100万よりも深い階層の『天元至高時空間アルフメルトアルト』のモンスターでも無い限り、

全属性に耐性を持っているものは地上にはいないはずだ。


「代償は重いぞ…新型! バーチカルエアレイド!」


 サドラスの全身が鈍く光ったかと思うと

サドラスは魔導鎧機兵たちが立つ地面を思い切り抉り斬りながら高く飛び上がり、

両手の剣に膨大なエネルギー体を集中させ、それを大量の斬撃に乗せて放つ。

剣術スキル『バーチカルエアレイド』対地対空の大技だ。着地後に大きな隙があるが

サドラスほどの脅威的なSTRがあれば、BAでなくとも必殺技と言えるものになる。


 最初の数十秒は流石新型と言える魔導鎧機兵だったが、

数分経つ頃にはその殆どがバラバラになって動かなくなる。


「……? 中に人が乗っていない…チッ…無人機…!」

「あるじ様! 無事かよ!?」

「俺は問題ない! だが迂闊に近寄るな! まだ全滅したわけじゃない!」


 駆け寄ってくる魔女団たちを大声で制止しながら、サドラスは恐れなど微塵も

持ち合わせていない残存の無人機を一機ずつ確実に切り捨てていく。


「あるじ様はすごいよ…」

「うん…ホントウにカてるよ…わたしたち…!」

「サドラスさま…マけないで」


 実際サドラスはダメージより疲労感が心配だった。

戦いを始めてから小休止しかしていないので、そろそろ決着をつけないと

味方の全滅も十分にありえるのだ。


「……技を使うにも…SPは温存せねば…」


 どうにか最後の一体を切り捨てたサドラス。

その際、魔導鎧機兵の動力と思われる部分を外していたのだが、サドラスから

受けたダメージにショックを受けたのか、その部分が突然開放されたのだ。


「……! 何…これ…!」


 そこから出てきたのは、人間の形をした魔石だった。


「何だこれは…………あ…―――――ッ?!?!?!」


 恐る恐る近寄ってそれを観察していたジル=ルミルは、声にならない叫びを上げた。


「………あ、あ…ウソ…だ…そんな…」

「おい、どうしたジル=ルミル? この人型魔石が…!?」

「…アネ、さま…?」

「これ…マーナ、ネエさま…?!」


 どうやらこれはアペリウスに連れ去られたジル=ルミルの"義姉だったもの"らしい。

魔女化した人族は死ぬとモンスターのように魔石を遺すのだが…全身が魔石化するなど

余程のショックを受けて死ななければありえないそうだ。

 そして魔石というのはこの世界では基本的に魔導機械の動力炉に据えられる事が多い。


「ひどい…ひどいよ…!」

「ナンで…? ナンでマーナネエさまが…!」

「アペリウス…マジョを…わたしたちをナンだとオモって…!」

「………そうか…だから魔法生物でもない無人機に出来るのか…!」


 サドラスは無意識のうちに『闘気充填』を発動していた。


「あるじ様………ッ?!」


 サドラスの顔を見たジル=ルミルは顔が恐怖で思わず引きつる。

それほどまでにサドラスは恐ろしい形相をしていたのだ。


「アペリウス…!! 貴様らはただ辱めて殺すだけでは飽き足らないのか…!!」


 眼が恐ろしいまでに血走ったサドラスは、アペリウスの首都がある方向を見据え


「ジル=ルミル…絶対に首都には来るなよ…?」

「え…あるじ様…?」


 そう言葉を交わしたきり、全速力で首都に走り去っていった。



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:アペリウス共連邦・首都ペキニスカ>>


 来るなとは言われたが、主と定めた者を独りにするのは魔女の恥と思った

ジル=ルミル達疾風怒涛魔女団は、首都へ恐る恐る足を踏み入れる。


「え…?」


 大きな門を抜けた先には、ガレキ山が広がっていた。

魔女団達は周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩を進めていく。


「……来るなと言っただろう…!」

「あ、あるじ…さま…?」


 やっと見つけたサドラスの周りには夥しい数のアペリウス兵の死体の山。

皆その転がっている誰もが五体満足ではなかった。

よく見れば顔が酷く苦痛に歪んでいる者や泣きじゃくった者も数多く混じっている。


「う……」


 流石に凄惨過ぎる光景に魔女達は各々目を背けた。


「………つまらない禍根を残すこともないと思ったからな…この主席と第一総記とか

いう2トップが残っていたので、そいつらを倒して終り…となれば良かったんだがな。

どいつもこいつも俺との戦力差を知っても尚特攻するかのごとく攻めて来た…」


 結局全員殺さなければどうにも終らなかった…というのもその攻めて来たアペリウス兵

全てが主席や第一総記の2トップに逆らえない立場に置かれていたためである。

 その事実は主席と第一総記を代わる代わる拷問じみた真似で吐かせて漸く分かったと

サドラスは彼女らに話した。ちなみの先程の二人はとうの昔に息絶えている。

流石に主犯を逃がすほどサドラスも甘くは無かった。


「…ジル=ルミル…結局俺はお前の姉たちが魔石化してコアにされた魔導鎧機兵を

軒並み破壊してしまった…」

「それはいいんだよ、あるじ様…姉さまも母様も…死して尚奴らに利用されるよりは…

一思いにやってくれたほうがウレしいだろうから」


「? …ねえねえ…アレなーに? ニシからおっきなフネがトんでくるよー?」


 魔女の一人がそんな事を言うので、サドラスとジル=ルミルは西を見ると…


「あれは…『大空悪竜フィルマメントブーズンドラッヒェ』…

同形の小型量産機の艦隊も…そうか、アレが帝国空挺部隊か…!」



<<フィールド:ヘルヘイム地方 現在地:旧アペリウス・首都ペキニスカ跡地>>


 帝国軍の天幕にて貧乏ゆすりが止まらないKATUMIの前に座っているサドラス。


「…全く、朝から何処かへ走り去ったと聞いてみれば…

アペリウス壊滅の首謀者になっているとは何事なのだ!」

「すまん。反省はしていますん」

「そうか…ってソレ反省してないのだが!?」


 KATUMIの剣幕にも軽く頭を掻きながらどこ吹く風なサドラス。


「何度でも言いますけど…反省してますか、百さん、ユスタリシアさん…!」

「む…面目ない」

「まさかシュウが全速力で逃げ出すとは思わなかったのじゃ…」

「だいたい貴女達二人がサドラスさんをろ、篭絡とか変なことしようとするから…」


 その近くでどうも朝からずっとロティに怒られっぱなしらしい百とユスタリシア。

 ちなみにロティの後ろでは「さすがにもう良いのでは?」と言いたげなキュクル、

「まったくうらやまけしからん小娘どもめ…!」と憤慨するララリリル、

「マスターの許可さえ頂ければ強烈なお仕置きを出来るものを…」と息巻くメドラ。


「まあ、あの乱痴気騒ぎの後リードムーン皇から打診されて近いうち…

実際今日だったのだが…帝国と皇国で最後通告の後の宣戦布告からの

先制攻撃をするはずだったから良かったものの…

全く関係のない国だったら面倒なことになっていたのだぞ?!」

「そうか…それは悪かったな」

「もう少し申し訳無さそうな顔をしたらどうなのだ? まあ、お前のそんな顔は

気持ち悪い気もするから見たくないのだが」

「どちらにしろ俺はそこまで顔に出ないからやらせ損だろうな」

「お前が言うな!」


「ファッファッファッ…! …まあその辺にしておくが良い」

「その通りです。彼国とは近いうちに天誅を下さなくてはなりませんでしたから」

「へ…陛下に…聖下まで…」


 KATUMIの後ろから何人かの供を連れて天幕に現れた

どう見ても高貴な存在だと思える格好の男女二人。


「おっと、そういえば卿とは初めましてだったかな? 私がルーンテール神帝国帝王

ヴェッテンダス・フィーツァル・ルーンテール14世だ。以後宜しくな」


 全身を赤一式でコーディネイトした男のほうがそう名乗り


「同じくルーンテール神帝国法王の

ゼクスローティア・バルトル・ルーンテール12世です。以後、よしなに」


 全身を銀一式でコーディネイトした女のほうがそう名乗った。

ちなみにこの二人は従兄妹同士だそうだ。


「サドラスだ。多分一期一会な気がするが、宜しく」

「こらこらサドラス! 仮にも日本人ならもう少し礼儀を弁えた挨拶をするのだ!」

「悪いが俺には礼儀なんて高尚な者は最低限しか無い」

「くぬぅ…廃人なんだからネットで暇つぶしに礼儀作法くらい勉強しておけよ!」

「まぁまぁ良かろうに…KATUMI、お前が逆に気にしすぎだ。我は我で

このように砕けた物言いをしてくれたほうがありがたい」

「公の場でしたら礼儀作法も重要でしょうけど、今は私的な部分が強いですからね」


 あまり尊大さを感じさせない二人の王にサドラスは少しだけ戸惑った。


「して…両陛下が何の御用なのですか…?」

「うむ…我が用事を取り付けたいのはサドラス卿だ」

「実は私は付き添ってみただけです、てへ」

「てへ、じゃないのですよ聖下! そんなホイホイ私用で出かけられたら

供の連中が可哀想なのです!」

「もう…KATUMIは一旦堅苦しくなったら全く堅苦しいままなのですね…」

「自分は公私が上手く切り替えられないのを弁えているからこうなのです!」


 なんとも楽しそうだな…とサドラスがボケーッとその様子を眺めていた。


「で、だ…卿への話なのだが…結果として卿がアレだけの戦果を上げてくれた事に関して

我とティア(法王の愛称)からちょっとした褒章を与えたくてな…その為に参じたのだ」

「KATUMIのお仲間で、帝国に居を構える以上はもう帝国民の一員ですからね。

そんな帝国民が結果的に帝国のために成果を上げてくれたのですから、これは

王族として何かしなければと思いましたので…サドラスさま…少しそこに

膝立ちしてもらって宜しいですか?」

「? 別に構わないが…」


 法王に言われるがままにそこに膝立ちするサドラス。


「はい、ありがとうございます…それでは…汝、サドラス。帝国民として、一戦士として

貴殿の帝国に与えし功績は何物にも代え難き崇高な行いである…よって、

貴殿には大侯爵グロセマルキスの爵位と、それに相応しき邸宅を与え…

然る後に更なる褒賞をそなたに与えん…これを帝王は如何に?」

「うむ。我もまた、汝、サドラス。貴殿の帝国への功績のその価値を称え、

貴殿に賜れし爵位、以下多数の褒賞を与えんことを神帝国帝王として認めたし」


 法王が杖をサドラスの肩に何度か当て、口上を述べ、

帝王がそれに続いて口上を述べた後、サドラスの胸に軽く触れる。

すると光とともに勲章らしきものがサドラスの胸にくっついて来た。


〔ルーンテール国王より、勲章アクセサリー【グロセマルキスメダイユ】を取得!〕


 サドラスの眼の前に懐かしいメッセージウィンドウが表示される。


「わあ! 本物の冒険者にやると本当に起こるのですね!」

「ほう…これが『冒険者への勲章付与』という神の現象か! 我も初めて見たぞ!

なるほど…流石に"ヒノモト"神語はさっぱり読めぬが…むむむ…

しかしこれならKATUMIにもやっておけば良かったな!」

「そうねヴェット(帝王の愛称)! 失敗しちゃったわね♪」


 二人の王は子供みたいにはしゃいでいた。


「な…ん…だと…? よりにもよって…一般的に賜れる最高位の爵位を…?

まだ自分だって子爵なのに…! 大空悪竜完成させて…やっと子爵だったのに…」

「だってKATUMIのはお金かけすぎですよ…国家予算の三分の一って

結局私の統括する教会へのお布施からきてるのですよ? もし失敗してたらそれこそ

爵位どころじゃないですからね?」

「ぐむ…!」

「ファッファッファ! こればかりは仕方あるまい! サドラス卿…いやもう

サドラス大侯か! 大侯が立てた功績とKATUMIの立てた功績は

どちらが最終的な世界平和への貢献かと聞かれれば、みだりな領土侵犯を

度々繰返したアペリウスを倒したことのほうが大きいだろう?」


 流石にKATUMIも帝王陛下にそう言われては反論の余地が無いと見たのか

大人しく黙ることにしたようだ。


「…さて、面白いものも見れたのでな。我らはここで御暇させてもらおう。

実は何げに何件かの案件を放置したままなのでな」

「そうですね。山積みにして投げた公務を片付けなきゃ、みんな可哀想ですもの」

「陛下…聖下…二人とも相変わらず仕事をぞんざいに…」

「おっと、くわばらくわばら…ではまた縁があったら会おうサドラス大侯!」

「ふふ…きっと何度か会うことになりますね、それではごきげんようサドラス大侯♪」


 二人の王が去って天幕が一気に静まり返った。


「ペースにすっかり呑まれてしまったな」

「故にあのお二方は王なのだろう…パンピー(死語)な自分らには早々真似できぬのだ」


 ちなみにスイゲツ以下「C†B†E」残りのメンバーは

投降して来たアペリウス人の保護や尋問云々を手伝っているそうだ。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・法衣貴族区画>>


 あれから数日後、法王から大侯爵の位と邸宅を貰って、

晴れて異世界貴族となったサドラス。本日はくだんの邸宅に引っ越すことが

決まったので、一行で新居はどんなものかと見に来たのだが。


「なぁこれデカ過ぎじゃねぇ? この豪邸…」

「うお~…やべ~なこりゃ~…帝城並みにデカイぜ~♪」

「確かにコレだけ大きけりゃアタシらも一緒に住める余裕ありありだろうが、さ…」

「む…すごく…大きい」

「ほぅ…四階建てとはの…ふむ…父上の城より大きいのじゃな…何か悔しいぞい」

「維持費とかを考えると…正直キツいってレベルじゃないですよね先輩?」

「その点は気にするな…と二人の王から言われたな。あの二人曰く"俸禄で十分賄える"

とのことだったが…いざ見ると1200TYDの俸禄で本当にやっていけるのか

少し不安になってきたな…」


 現実世界での面子(KATUMIは事後処理の雑務に追われているので不在)

ですらこれなのだから、当然異世界メンバーは


「あわわ…これはもうお城なんじゃないですかサドラスさん?!」

「ロティ殿。それは間違いじゃないみたいです…ここは本来は法王聖下の

お住まいになる予定の物件だったみたいですよ?」

「クックック…我が死の皇の城として悪く無しにけり!」

「ぬぬぬ…かつての教団本部より広い…もう少しだけ資金を惜しまずにしていれば…!」


 何かしらのリアクションが無いわけが無い。

ちなみにこの豪邸の敷地の広さは東京ドーム一個分くらいある。

ただそのせいなのか余った土地に木々が植えられすぎて、

森に囲まれた城みたいになっている。そんな森みたいなところから

サドラスの見知った顔の人物達が現れる。


「あ…あるじ様ぁ~ッ! やっと着たのかよ! ずっと待ってたんだよ?」

「んん?! ジル=ルミル?! 何故お前…って魔女団全員が居る…?!」

「KATUなんとかって奴が、ワタシたちの事情をオモンパカって、

あるじ様付きの立場にスえてくれたんだよ!」

「ここすごいおっきいねサドラスさま!」

「ジュモクもイッパイある! カチクたちもツれてきた!」

「ハタケのタネイモもサクモツもみんなウえナオした!」

「フクもイッパイもらったよ! あとここスイドウっていうのがあるよ!

ジャグチ…? っていうのをヒネったらイッパイおミズがデてくるの!」


 他にもワラワラと集まってくる魔女団の魔女たち。

あの戦いで総数は108人に減ってしまっていたが、

皆それを何時までも悲しまずに眼の前の幸せを肌一杯に感じ取っているようだ。


「よし…イモウトたち…レンシュウどおりにやるんだよ」

「「「「「うぃー!」」」」」


 ジル=ルミルの合図とともに、魔女達は綺麗に並んでサドラスの前に跪く。


「我らはこの髪の毛一本から血の一滴まで貴方に捧げます。我らの魔女皇グランソーサーよ!!」

「「「「「Nous ferons toujours en vous le souhaitez!

(わたしたち は みらいえいごう あなた に つくし ます!)」」」」」

「我らの血と肉、魂も貴方様の望むままにお使いください。我らの魔女皇さま!!」

「「「「「Ce corps et âme est une chose de vous!

(この にくたい と たましい は あなた の もの です!)」」」」」


 キラキラした目でサドラスを見つめてくるジル=ルミルと魔女団の魔女たち。


「な…ん…だ…これは…?!」

「怨敵をワタシたちに代わり屠り、またワタシたちに安定の糧と居場所を与えてくれた…

ならばこそせめて魔女の流儀に乗っ取って恩を返したい…子々孫々末代まで!」


 サドラス以外の面子も開いた口が塞がらない。とりあえず気付け薬代わりに

アイテムストレージから完全回復薬エリクシルを取り出して口に含んだが、


「サドラスさまがおノゾみなら、わたしたちトギもするよ?」

「ぶほッ!?」


 一番幼く見える魔女からそんなことを言われて噴出さないわけがない!


「でもトギってなーに?」

「アネさまはヨルにサドラスさまとアソぶことってキいたけど?」

「ねぇねぇ、なにしてアソぶのー?」

「こら! イモウトたち!! それは今言うことじゃないよ!!」


「サドラスサン…?」

「シュウ…………なにこれ?」

「サドラス殿ぉ…?」

「シュウ、どういうことじゃあぁぁあ?」

「マスターァァァ?」

「わ、我が君……?」


 はい、後ろを振り向けば何かショック受けているララリリル以外は

軒並み怒髪天のご様子な五人娘。

 深呼吸の後に黙って五人娘の前で正座したサドラス。


「………スイゲツ、厳蔵…カメラは撮るなよ」


 振り向くことなくサドラスは静かに後ろの男二人に話しかける。


「何も言うんじゃねえ…お前さんのその目で全てが分かった…!」

「先輩…必ず生きて帰ってきてください!」


 スイゲツと厳蔵はサドラスに敬礼をしてそこからゆっくり離れた。


「佐渡…見上げた根性、痛み入るわ」

「サドラスさん~骨は拾ってやるぜ~♪」


 声を掛けてその場を離れるしえりゃんとアリカ。


「言っておく…俺は、まだどの魔女にも性的は愚か

下心込みでは指一本触れていない」

「ソウデスカ」

「シュウ…他に言い残す事は?」

「サドラス殿は…私よりもちっちゃい女の子が好きなのですか…?」

「ソレは無い! 俺は其処まで重症じゃない! というかそもそもロリコンじゃない!」

「本当にそうなのかぇ?」

「マスター…隠し事はやめましょウ? きっと後々お互い不幸になりますヨ?」


 サドラスは正座から胡坐に座りなおした、

その様はッ…! 介錯を待つッ…! 侍のようだ…! いや、彼こそ侍だッ!

いいや! 彼こそ真のおとこだッッッッ!!!


「これ以上は何も言わん…いや弁明の言葉など無い…さあ、やれ」


 その言葉に五人娘は神術の詠唱を始める。


「オイオイ…ロティちゃん達…ガチかよ…!!」

「あの規模は…戦略級…いやそれ以上じゃないですか…!?」

「うへ~…あれ私だったら掠っても死ぬな~…」

「あの規模でも佐渡は耐えられるんだよ…な?」


「…!? 追い待てお前等!! その神術は万能属性防御無視のヤバイやつだぞ?!

流石に防御無視の魔法攻撃は洒落にならん!!」

「聞いたかロティちゃん!! それは止めとけって!! サドラスが死んだら

色々とどえらい事になっちまうだろ!?」

「厳蔵さん…多分あの五人にはもう言葉は聞こえてないですよ…多分」

「マジかよ…サドラス…死ぬなよ!!」


 とか言って合掌するスイゲツと厳蔵。


「貴様ら! もう少し粘れ! というかスイゲツ! 貴様冷やかしただけか!!

ええい風が強くなってきて声がかき消されてるのか!?」


天地陰陽あめつちおんみょう地火水風空アビラウンケン…」

「海魔の帝たる我のその言葉を聞け…地獄の猟獣ナベリウス…」

「轟の使徒…其大いなる竜巻を侍らす嵐の王者マルドゥク…」

「………無明の果て…混沌の核より出づる。魔王の落とし子…」

「歯ァ…食い縛ってくださいッ!」


 強烈なエネルギー体だの邪悪なる魔王の落とし子だの嵐の神だの

地獄のバケモノだの五行の属性混合撃だのもう混ざりすぎて何が何やらわからないが、

喰らったら絶対無事にすまない合体魔法攻撃にさらされるサドラス。


「ぬををををををををををををおををををっををっをををををっをぉぉおぉぉッ!?」


 これが後に伝えられる「廃人サドラスの伝説」の

第一章「その華麗にして無惨な貴族階級成り上がり」の顛末である。


第十話に続く


このボリュームなら前後編に分けても良いのでは…?

と思ったのですが、分けるのが面倒ゲフンゲフン…

変なところで分けるより一気に読んでもらうべきかと思って

そのままにしました。今回は反省しています。

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