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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

妄想(キャンプ)

作者: Шанку

キャンプ


この単語を聞いただけで、想像力の豊かな私は色々なことを思い浮かべる


熊の襲撃・殺人事件・心霊現象・怪奇現象


とてもよろしくないことばかりだが、身の毛のよだつものばかりが勝手に頭の中に思い浮かんでしまうのだから仕方がない


決して、望んで思い浮かべいるわけではない


恋人と行くキャンプや、友人と行くようなキャンプではなく、家族で行くキャンプだから、ちょっと気が沈んでいてそういうことばかり思い浮かんでくるのだ


山にあるキャンプ場で、私たちは2泊3日を満喫する。はずなのだが


相変わらず父の運転する車は無言で重苦しい空気が漂う


隣で座っている姉も窓の外を見てふんぞり返っているし、助手席にいる母は微妙な顔をして私たちを見ていた。


別に、最初からこんなに空気は悪くなっていなかった。


このようになった原因は、何気ない僕の一言のせいなのだ。



『そういえばオカルト誌に載ってたんだけど、これから行くキャンプ場って結構出るらしいんだよ』



なんでも、そこの近くに旧日本軍の秘密の部隊の研究所があったみたいで、人体実験が行われていたそうなのだとか


ありきたりすぎて全然信じることができない内容なので、母と姉は『何それー?』と笑って・・・可笑しいかもしれないが、久々に家族で笑い合っていた。


両親は共働きで、ほとんど姉と一緒に暮らしているようなもので、それでもあまり笑いながら話すようなことは無かった。


だが、そんなほんの僅かにでも感じた幸せを、父はぶち壊してくれた。


急に青ざめた顔になって、『・・・やっぱり、場所を変えるか』と、真剣な顔で提案してきた。


その反応がおかしくて私たちは大爆笑していたのだけれど、いきなり、笑うな!と怒鳴りつけてきたので、何も言えなくなった。


母が『せっかくここまで来たのだから、行ってみましょうよ』と言ってくれてなんとかなったけど・・・


いつもそうだ。誰かの何気ない冗談を真剣に受け取って、空気を悪くしてくる。


だから、私は父が嫌いだ。


姉もちょっと父に苦手意識があるようで、たまにちょこっと父に対しての愚痴をこぼしてくることがある。


だが、母はそれでも父の味方だった。母からの父への失言は、いままで一度も聞いたことがない


『あんなお父さんだけど、決して悪い人じゃないの。だから、嫌いにならないであげて』と言ってくるくらいだ。


たしかに、ほとんど怒らず、好きにさせてくれて、でも悪いと判断したものには真剣に叱ってくれる。


高卒だが、何気に博識で人情にも厚い


出来のいい父だ。だが、それでも・・・と我が儘を言ってしまうような私は出来の悪い人間なのだろうか?


楽しい家族でのキャンプを、それも出発してからの過程でもっと楽しませようと思った私の冗談をバカ正直に受け取ってしまった父に、もっと面白い一言を期待した私がダメだったのだろうか。それとも冗談の通じない父が悪いのだろうか


・・・どう考えても父が悪い。そうだ。姉だってきっと賛同してくれるだろう


頭の中でそんな八つ当たりをしながら浮かない気持ちで何気なく窓の外を見る


通り雨のおかげで、太陽に反射されて輝く雫のついた葉をたくさんつけた木の並ぶ森や、水たまりの残る舗装された山道は、流石自然だと感嘆するほどに美しい光景だった。


ほとんどコンクリートと二層建築物ばかり見てきたから、こういうところが珍しくて新鮮なのだ


私たちの住んでいるところでの自然といったら、せいぜい家庭内栽培された野菜だとか、庭に生えている花やら、雑草やらばかりだ


木なんて言ったら、道路のわきに一定の間隔で申し分なく生やされたものだけだ


やはり、自然は美しい


そこで、よくアニメやマンガで自然の空気は美味しいと言われていることを思い出した。


気になった私は、ちょっと声を弾ませて父に「ねぇ、窓開けてもいい?」と聞いてみた


だが、父はそれを却下した


粘ってみてもダメだの一点張り


それでちょっとイラッときて父の方を向いて初めて気がついた。


・・・何でそんなにキョロキョロしているの?顔色もさきほどより悪くなっており、額に汗も流れていた。


ちょっとしたイライラもそれで吹き飛び、逆に父の今の有様に戦慄を覚えた。



「ねぇ、何をそんなに焦っているの?綺麗な森じゃん。熊でもいたの?」



私の疑問に父は答えてくれなかった。ただ、小声で『クソッ!』と悪態をついていた父を見て、何も言えなくなった。珍しいと思ったからでもある


それからほどなくして、キャンプ場についた。


父の顔色は相変わらず優れていなかったが、母や姉は目を輝かせて周りの風景を見ていた。



学校の体育館くらいはあってもおかしくなさそうな広い湖の畔に、約8mの間隔で建つ4つのログハウス


その他にログハウスから離れた場所に作られた数個のテントの集まり


ゴミは見当たらず、綺麗なおかげか、リスやキツツキなどの小動物が見受けられ、湖にはアヒルの親子だっている。


それに先ほどの山道のように、木の葉の雫が綺麗に輝いていて、キャンプ場の景観がよりいっそう美しく見えた。


そんな風に自然の絶景に見とれていた私たちに、父は『なぁ、今なら間に合うと思う。引き返さないか?』と提案してきた。


・・・冗談じゃない!せっかくここまで来て、まだこの光景を見ただけだ。


父のあまりの発言に、思わず私は父に向かって怒鳴ってしまう。


呆気にとらわれた他の面々を見てちょっとした罪悪感にからまれてまう


私はそれを隠すようにして車から自分の荷物だけを持ち、そそくさと宿泊予定のログハウスに駆け込んだ。



後ろを振り返ることなんてできなかった。ただ、不神経な父に一言言いたかっただけだったのに・・・私は悪くなかったはずだ。そうだ。私が悪いはずなんてなかったんだ。そうやって自分を慰めながら、両目から流れ出てくる涙を拭っていた。



その後のことはよく覚えていない。母が私のもとまでやってきて、何か言って慰めてくれていたようだけど、はっきりとは覚えていない。ただ、また父を味方した一言を言って部屋から出たのは覚えている。


そして、入れ替わるようにして父が入ってきて、謝ってくれた。


謝られて、理解した。父は別に悪くない。それに、父は一度だって冗談や嘘を私たちについたことが無かった。


それに、父は怖がりでもあったんだ。縁起の悪いモノもあまり好まない。だからあんなことを言ってきたのだと思う



だが、それでも雰囲気に気圧されるような父ではない。そして、いわゆる”感じる”というタイプの人でもない



父に、なんで山道であそこまで取り乱したのか聞いてみた。


が、どうやら身に覚えがないらしく、なんのことだ?と問い返されて、ほら、あの時の・・・と、口にした言葉を途中で飲み込んだ


・・・さっきまで話そうとしていた内容がまったく思い出せない。


確かに何かあったとは思うが、まったく思い出せないのだ



「ごめん、忘れちゃった」



そう言って苦笑いを浮かべてしまった。


そんな私に父は納得のいかない顔をしながらも、『そうか、それじゃあそろそろ準備に戻るから、落ち着いたら手伝いにきてくれ』と言って私を気遣い部屋を出た。


・・・一体何を忘れたのだろう。たしか、道中に何かあったと思うのだが・・・それと、このキャンプ場にも何か・・・



何度考えを巡らせても、結局思い出すことは無かった。



深夜、目が覚める。


となりでは大人しくスヤスヤと眠る姉がいて、ちょっと安心した。


だが、父と母が寝ていた布団は、もぬけの殻となっていた。


今はもう日付が変わったばかりだ。そんな時間に二人してどこに行ったのだろうか・・・


眠っているところで申し訳なかったが、姉を揺すって起こす。


そして、母や父がいないことを告げる。が、怪訝そうな顔をしてもう一度寝ようとしたので、もう一度起こし、今度は一人で花を摘みに行けない旨を告げた。姉は渋々ながらもついてきてくれた。


別に、深夜のキャンプ場の雰囲気が怖かったわけではない。ただ異様に消灯後のログハウス内が不気味に思えただけだ。



目が覚めた。


父と母は眠っていた。


姉も幸せそうな顔して眠っていた。


部屋の時計を見てみると、ぐっすり眠っていたことがよくわかった。


もういい時間なのにいつまで眠るつもりなのか、と思い苦笑いしながら、太陽光を浴びるためにカーテンを開ける



だが、太陽光なんて無かった。それどころか光さえ無い


窓の外は真っ暗。何も見えない。


おかしい・・・そう思って部屋の時計を見てみる。秒針が止まっていた。


なんだ・・・時計が壊れていたのか・・・


そう思ってカーテンを閉じようとしてもう一度窓の外を見てみる。そこに写っていた光景は、宵闇に染まる真っ暗な空間ではなかった。



目。目だ。目が無数にこちらを見ている。



目。目。目目。目目目目。目目目目目目目目目目目目目目めめめめめめめめ目めめめめめ目



頭の中が真っ白になった。なんだこれ・・・


あまりに異様な光景すぎて、呼吸すら忘れてしまう


そして、数秒くらい経っただろうか、不意に背後のドアがゆっくりと開く音がした。


窓の外の光景から目が離せない。でも、なんだかこちらに向かってゆっくりと足音がしている。


ペタリ、グチャリ、ペタリ、ベトリ、ボトリ、ペタリ


一歩一歩、異様な音が混じっている。


窓の外から目が離せなかったが、ガラス越しに映る自分の肩ごしを見てしまった。



見てしまった。いったい、何人いるかは分からないが、それでも異様な集団に囲まれている自分を、そして、この集団はところどころに個性的な特徴を持っているということを知ることもできた。


この”人”たち・・・”身体が五体不満足で、欠陥も多い・・・


そんな異様な集団が、自分を囲んで、自分を見ていて・・・



不意に、背後にいた女性のような”人”が自分の肩に手を伸ばしてきた。


息が詰まるような感覚に襲われる。



嫌だ。触るな。やめろ、近づくな。それ以上こちらに近づくな



だが、そんなことを念じても、ただ固まっているだけの自分は何もできなかった。


肩に触れる、濡れた手。生者特有の温もりは、無い。そして、弾力や柔らかさも、無い


とても硬い、マネキンのような手



そんな手が、自分の肩にある。



叫んだ。力の限り、腹の底から


そして振り返った。半ばヤケクソ気味に


だが、何も無かった。振り返って窓の外を見ても、何もない。



さっきまでの光景は一体なんだったのだろうか。あんな異様な幻覚を見るほど、自分は疲れているのだろうか


カーテンを閉める気力はもう残っていない。何気に大好きな姉にくっついて何も考えずに眠りたい。


そう考え、布団に戻る。



肩のあの異常な感触が、離れない。気持ち悪い


そして布団に戻ったわけだが、違和感に気づく


なんだか湿っている。


この歳にもなってお漏らしとか、笑えてくる。とかいって笑い飛ばしたかったが、違う


自分の寝ている方は、全然濡れていない


見たくない、知らなくてもいい。が、知らなくてはならない


そして、姉の方を見る



口を中途半端に開け、舌はだらしなく口から出て垂れて、目は片方飛び出して、こめかみに包丁が突き刺さって、穴という穴から血を流している姉が、すぐの目の前で横たわっていた。




「ぁ、あぁああああああああああああああ!!!!」



目を逸らしたいが、逸らせない。


ふと、姉の目がこちらを睨んだように見えた。それと同時に口元が笑みを浮かべているようにも見えた。



そこで、目が覚めた。


全身汗だくで、絶叫しながら飛び起きた。


そして、部屋の外からこちらに駆け寄る足音が聞こえた。



「大丈夫か!?」



父だった。父が駆けつけてくれた。


私はそのまま父に体当たりをするような形で、腰に抱きつきながら号泣した。


父はそんな私の背に手を当てながら、優して頭を撫でて落ち着かせてくれた。


後ろには、姉がいた。どうやらうなされていた私を心配して同じく駆けつけてくれたようだ。


母について聞いてみると、姉に隠れて見えなかったが、同じく後ろにいたようだ。


どうやら私の叫び声で、みんなを心配させてしまったようだ。


申し訳無い気分になった。が、あの悪夢のせいか、さっさと帰りたくなった。


出発前は色んなレジャー用品を持ってきて楽しもうとか考えていたけれど、もはやそんなことはどうでもよくなった。今すぐ帰りたい


そんな必死な私の頼みに、母と姉は苦笑いをしていたが、父がいい加減にしろ!と怒鳴ってきた


初めてだった。父に怒鳴られるのなんて


怒鳴ることなんて一度も無かった父が怒鳴った。


まぁ、たしかに、昨日はあれだけ言ったのに、翌日悪夢にうなされただけで帰りたがるのは、我が儘すぎる。我ながら幼稚なことをしたものだ。



「ごめんなさい」



そう謝ると、みんな笑顔になって、冷めないうちにさっさと朝食を食べることになった。


そして、湖に釣りに行ったり、双眼鏡でバードウォッチングをしたり、虫に刺されたりと、充実した自然を楽しんだ。


夜。花火をしようということで、外に出た。


先に楽しんでいた母や姉に続いて、私も線香花火を眺める。


満天の星空の下での花火は、綺麗だった。



ふと、湖の方に視線を向けてみた。そして、背筋が凍った。



異様な集団が、私たちのいる場所とちょうど対になるところで、湖を囲んでいる。


そして、湖からは人の身長の2倍はあるゼンマイのようなものが複数生え、泡のようなものがブクブクと浮かんでいる。



だが、ゼンマイのようなものは、よく見てみるとうねうねと蠢いていた。そして、泡のようなものは弾けず、消えもしない


よーく耳をすましてみると、何やら歌のようなものも聞こえてきた。


内容はよく分からない。ブツブツと呟かれているような感じでしか聞こえてこなかった。


・・・あまりにも異様すぎて、目が離せなかった。


そんな私を心配してか、姉が近づいてきて、同じ方向を見る。案の定、姉も固まった。


そして、父と母も来て、同じように固まる。



自分だけが見えている幻覚では無いことを知って安堵したのもつかの間で、その湖から突然塚のようなものが出てきた。


・・・湖が歓声に包まれた。


そして、ゼンマイのようなものが伸びたかと思うと、湖の周りにいた人のようなものをまとめて捕まえていき、塚のようなものに放り投げる。


歓声に断末魔の重なる名伏しがたい不協和音に、意識が遠のきそうになる。


気をしっかり持たなきゃならない


未だに固まっている父に車の準備を頼み、母や姉にログハウスから必要な物だけを持ち出してさっさとここから逃げようと提案する。


そして自分はログハウスに駆け込み、自分の荷物だけを持って父の車に走る。


母や姉も同じようにして車に向かった。



父が猛スピードで車を飛ばしてきた。


そして急ブレーキを踏み、ドアを開けてくれる。


そこに、私たちは駆け込んだ。一刻も早くここから抜け出したい。その一心で



ログハウスに置いてきたのは、そこまで高くないレジャー用品や食品だけだそうで、他は特になにもないのだとか



ドアを閉めた瞬間に父が一気にアクセルを踏んだようで、突然の衝撃に背中から座席に打ち付けられる。


『クソッ!』そう言って焦ったような顔をした父に既視感を感じながらも、シートベルトをする。


未だに、これが現実なのかどうなのかが分からない。今更になって、現実味が感じられなくなったからだ。



ジジジジジッ!というスタンガンの電気のような音が突然頭上から聞こえ、虫の羽音のようなものも聞こえた。



早く早く。じゃないと”何か”に追いつかれてしまう。



ダンッ!と音がして、車のフロントガラスに降ってきた”羽の生えた人間のようなもの”がこちらを見てニヤリと笑った。





「・・・きて、起きて。朝だよ!」



身体を揺すられて、起きる。


どうやらまたうなされていたみたいだ。姉が心配そうに顔を覗き込んでくる。



「もう、帰るよ」


「そう・・・分かった。」


「朝ごはんはできているから、冷めないうちに食べてきた方がいいよ」



そう言って、姉は部屋を出て行った。


随分とおかしな夢を見たものだな・・・


そんな風にさきほどの悪夢をとらえながら、姉のあとを追って部屋を出た。


出る前に時計を確認してみたが、秒針は止まっていなかった。



【05:37:46】



姉よ。もう少し寝かせてくれてもいいんじゃないか?

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