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Infinity Online  作者: 荒野三等兵
オール・グランド
1/1

ep01

 俺はベッドの端に腰掛けながら、まだかまだかと待ち構えていた、今日公式運営が為される大規模オンラインゲームInfinityインフィニティ Onlineオンラインを俺は待っているのだ。

 VRMMOと言うゲームジャンルがある、バーチャルリアリティ大規模オンラインゲームの略だ。

 2024年に開発され、以後順調に発展を続けていたそれは、46年現在は素晴らしい成長を遂げている、かなりのクオリティで描かれるグラフィックは当たり前であり、そのほかにも魅力が多い。

 Infinity Onlineも同系統のゲームだ、しかし何故ここまで注目されているのかと言うと、それは今も俺の身体の中で動作している、マイクロチップでプレイできるからだ。

 マイクロチップは生まれてきた人全てに着けられて、様々な生活補助を行う独立型コンピュータだ、そのマイクロチップが作り上げる自由度の高いネットワークは、ネットゲームシステムを構築するには十分すぎるものがあった。

 それに目をつけたとあるゲームプログラマーが助手込みで作り上げた最高傑作、それがこのゲームだ。

 キャッチコピーはこうだ、《世界は作り上げることが出来る》


 俺は発表された当初、このゲームには興味を示さなかった。

 何故今になってこんな事をしているのかと言うと、兄と妹がこぞって一緒にやろうと勧めて来たからだ。

 仕方なく公式サイトを覗いている内に、俺自身がこのゲームに惹かれて行ったという訳だ。

 我が家は兄、俺、妹の三人構成だ、それぞれ1つ違いの兄弟で、仲は疎遠。

 社交能力の高い兄と妹は友達も沢山いる、それと違って俺は平凡すぎた、比べられるということは無いが、眩しすぎる彼らを見ているとどうしても嫉妬してしまう。

 だから、俺が避けていた、だから兄と妹は俺を一緒のゲームに誘ったのだろう、これをきっかけに溝を埋めたいと。

 誘われた時は、俺もそろそろ仲を修復したいと思っていた頃だった、丁度良いやと俺は誘いに乗った。

 今までネットゲームは避けていたがやろうと思ったのだ、元々がゲーム好きだった俺は、このゲームに大きく惹かれた。

 それに、オールリアルシステムと言う点もかなり惹かれた、よりリアルにを主眼に置かれたInfinity Onlineのシステム定義により、スキルなどと言う物は一切無い、信じるべきは己の腕とレベルのみと言う物だ。

 舞台であるオールグランドは、旅をして行く内に無限に広がっていくという物だ、始めの街から遠くなるほど相対的に敵のレベルが上がっていく、プレイヤーは他のプレイヤーと交流を取りながら旅を無限に続ける事が出来る、つまり、世界は自分達で切り開けると言う事だ。

 迷宮やダンジョンも豊富にある、モンスターも非常に沢山種類が存在する、さらに自分でオリジナルモンスターを作る事もできるのだ。

 中世的な雰囲気の世界では、飛び道具と言う概念は弓や投げナイフといった物しかなく、殆ど剣や槍などといった種類の武具の中から一つや二つ選び出して戦わなければならない、さらにシステムアシストといったものが殆ど無い世界なので戦闘は非常にシビア、入り方が悪ければダメージ0も有り得るという、難易度の高さは折り紙つきだが、俺はこのゲームはどんなゲームよりも面白いと確信していた。


 トントンとドアが叩かれる

「お兄ちゃん、起きてる?」

 妹の亜里菜ありなの声だ

「おう、入っていいよ」

 亜里菜が戸を開けて入ってくる、三人構成の家族だが、きちんと部屋は分けられている。

 そういえば、亜里菜は昔お兄ちゃんっ子だったなと、無駄な事を思い出してから

「何か用か?」

と呼びかけた

「あ、うん、いよいよだねって」

「ああ、確かにな、後3分だ」

 妹と喋る時は意外と緊張するものだ、クラスの周りの男子に話しかけても、妹のいる男子は妹とは話しにくいと言う話題で盛り上がるのだ。

 ブリーチをかけた明るい色の髪は柔らかそうだ、実際柔らかいのだが・・・それは俺が中学に上がるまでの話だ。今では違うのかもしれない。

「わ、わたしね、なんというか・・・その・・・」

 亜里菜はハッキリしない所がある。たまにしか会話をしない俺でもそれは分かるので、会話が遅れるのは了承している、暗黙の了解と言うやつだっけか。

「これを契機に、おにいちゃんとよりを戻し・・・」

 妹の言葉はノックの音で止められた。

「おーいゆう、いるか?」

 兄だろう、居留守と言うのも今日に限って全然説得力は無いので、俺は素直に返事する。

「ああ、入っていいよ」

「じゃあちょいと失礼」

 兄が入ってきた、こちらは髪を染めたりしていないが、俺より20センチも背が高くスタイルも良い、高いスペックをお持ちの兄だ。

「いやー、いよいよだな。アレ」

 言わずとも分かる。妹も兄もゲームをやらない訳ではない、むしろ好きな方だろう。

「で、何か用事でもあるのか?乱太らんた兄さん?」

「どこで集合するか・・・だな」

「・・・ああ、あっちでの集合場所か、このゲーム初回登録数だけでも100万人超してるから大抵の場所は埋まっちゃうよな・・・」

「町の宿屋の一つにオススメの宿屋があるから、多分大丈夫でしょ」

 亜里菜が言った、この妹が言うなら心配は無いだろう。

「何処にあるんだ?」

「北の大通りを真っ直ぐ言って、突き当りを左に曲がった右手にあるお店。外見には食べ物屋だけど中身は宿屋なんだってさ」

「ベータテスト出身者からの情報か?」

 気になったので俺は亜里菜に質問した、亜里菜はううんとかぶりを振って

IFOインフィニティオンラインはベータテストを行ってないらしいよ」

「そりゃなんで?」

 質問したのは俺だ。

「さあね・・・」

「そろそろ1分前だし、部屋に戻って準備しとこう」

 乱太がそう言ったので、亜里菜も腰を上げて

「あ、そうだった。じゃあ、準備してくるから!」

 と言って行ってしまった。扉がバタンと閉められる音が室内に響いた。


 俺はベッドの上に寝転がり、サービス開始をひたすら待った。視界の隅にはマイクロチップの補正によってデジタル時計が表示されている。

 やがて、その時計がサービス開始を示す1時になったのを確認し、俺はすぐさまダイブをするためのキーワードを口にした。

「コネクト・ダイブ!」

 そう力強く発声した。瞬間浮遊感を感じる、その後徐々に立っている場所が明らかになり、視界が働くようになる。

 自分の胸元にIDとパスワードを入力する窓が開かれている、規定のIDとパスを入力し、『Infinity Online スタート』項目を仮想の指先でタッチ。軽く窓が明滅しやがて消える。

 新たに俺の目の前に窓が表示される。『名前を入力してください』と出ている、俺は少しだけ考え。単純に考えたほうが良いかと、『ユウト』という名前にした、完全に名前のもじりだが良くある事(乱太談)らしいので深くは考えない。

 次に俺の目の前に男性のグラフィックが表示される、キャラクターメイキング画面だろう。多少恥ずかしく思ったが、やはりネットゲームではかっこよくしたいなと思い、清々しいほどのイケメン顔にした。身長はそのまんまだ、160程度しか無いがそこまで気にすることは無い。

 キャラクターメイキングが終わり、この設定でよろしいかと最終宣告が為されたが躊躇わず決定ボタンをタッチ。

 視界に光が溢れた、光は徐々に収まっていき一つのロゴを浮かび上がらせる。このゲームのロゴのようだ。そしてその後『Welcome to Infinity Online』というメッセージが視界に浮かび、新たな景色が目に飛び込んでくる。

 もう既に人でごった返している、ここはスタート地点のようで、俺の他にも人間が次々にログインしてきている。殆ど全員が美男美女揃いだ、キャラクターメイキングできるのだから、それも当然か。

 俺は飛びつくようにNPCノンプレイヤーキャラクターに話しかけ、北の大通りまでの道を聞き、足を運ぶ。

 大通りも多くの人でごった返していた、数え切れない程の人々が楽しそうに談笑したり、一緒に歩いたりしている。俺は足早に駆け抜けると、突き当りで左に曲がり、外見的には食べ物屋の中に入る。

 中には人が二人しかいなかった、大体の人はいきなり店の中には入ったりしないのだろう。二人の男女が喋っている。喋りかたを見るに、間違い無く乱太と亜里菜だろう。

「よう」

 話しかける、二人はこっちに気付いたようだ。

「お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね」

「ああ」

「その雰囲気は勇っぽいな、よし!兄弟揃った所で装備整えてさっさと狩りに行くか!」

「待て!まずはプレイヤーカードの交換だろ」

 この世界でのプレイヤーカードの交換はフレンド登録と同じ意味合いがある。言われてから初めて気付いたようなあラムダ/乱太とアリス/亜里菜とプレイヤーカードを交換し合う。

「お兄ちゃん達に念の為に言っておくけど、この世界ではキャラネームで呼ぶようにしてね、特にユウトお兄ちゃんは」

「あ、ああ分かった」

 俺はネットゲームの初心者だ、経験者であるアリスの言った事は守らなければならないだろう。これからも気を付けなければ・・・

 一段落した所でいよいよ装備を整えていく。良さそうな武器を置いている武器屋を巡っていくが、これといった決め手となる武器は見つからない。

「ユウト、まだ見つからないの?」

 アリスが問いかけてきた、仕方なく俺は返事をする。

「次で見て回るのは最後にしよう、そこで決める」

 アリスは黙って頷き、ラムダも後に付いて来た。

 結果的に俺の判断は正しかったと言える。他の剣より明らかに強そうな剣を見つけて買う事にした。剣の名前は『オフィショナル・ナイトソード』長めの刀身を持つしっかりとした剣だ、無駄な装飾などは無く、質実剛健と言える武器だろう、攻撃力+25でこれはアリスの武器の約二倍の攻撃力だ、この武器を買ったせいで防具は簡単なジャケットにしかならなかったが、俺の判断は正しい筈だ。ラムダやアリスの装備よりも明らかに輝きが違う。

「店巡りってやっぱ長い時間かけてやるもんなんだなぁ、もうちょっとじっくり見てきゃ良かったかね」

 ラムダが後悔をしたかのように呟いた。

「私も・・・ちょっと焦りすぎなのかもね」

 アリスも同調する。俺はフフンと鼻を鳴らし。

「どうやら我慢比べは俺の方がラムダ達より出来るみたいだなー」

 と言った、不服そうだったが、特に反論も無かった。

 その後も適当に駄弁りつつ、俺達三人はパーティーを組んで町の外へ向かった。西洋風の大きな門を抜けてフィールドに出る。

「・・・・・・」

「うわぁ・・・」

「・・・すげーな」

 それぞれが感想を漏らす、俺に至っては声すらも出なかったが。

 雄大、そして超精細な景色が目の前に広がっていた。空は青々しく、緑の草原が何処までも続いていく。遠くには小さく山陰や森っぽい景色も見える、間違い無く俺が見た中で最高の景色だ。

「・・・まずは情報収集からだな。どんくらい強いのか、どんな攻撃をしてくるか調べつつ近くの村まで行ってみよう」

 いつまでも景色にばっかり目を向けてはいられない、二人も同意権のようだった。


 戦闘は三人とも多少の慣れが必要だったが、割とあっさり飲み込めた。重要なのは速度と攻撃力、それだけっぽい、後は部位か。腕力が上がれば武器を振るったときの速度も大きくなるようだ、体感的にはそう感じていないが、ゲーム的に自覚が無いように最低限のアシストが働いているようだ。

 攻撃スキルと言った概念が無いため、適当に剣を振るだけで十分に攻撃として機能する、もっとも速度と攻撃力があればの話だが。それに、無駄の多い攻撃はそれだけ攻撃を受ける確立が高まるので、効率の良い型を探す必要がありそうだ。

 戦闘で少なからずの経験を積み、俺らは一番近くの村に到着した。

 牧歌的な村だ、『ホルルト村』と呼ばれているらしい。真っ先に来たのは俺らだけで、他のプレイヤーはいなかった。

 しばらくはこの村を拠点にするかなどをラムダやアリスと相談して、またフィールドへ出た。向かったのはホルルト村から程近い所にある森だ。RPGロールプレイングゲームでも森の中の敵の方が草原よりも強いと相場が決まっている、案の定森の中ではワスプやアント、フライヤー、ビー等の虫系のモンスターが襲ってきた、幸いにもワスプやアントは苦戦する事も無かったのだが、フライヤーとビーは結構な強敵だった。

 まず飛んでいる事、飛んでいるためにこちらからの攻撃は当てにくい。又制空権を取られているため、防御が主体になり攻撃に転じ難いという事もあった。幸いにもラムダがショートボウを購入していたため何とか対応は出来たが、何らかの対抗策が無ければ今後きついだろう。

「投げナイフを買っておこうかな・・・」

 村に帰る道中、ふと思いつき呟いた。アリスが疑問の表情を浮かべ

「なんで?」

 と聞いてきたので、俺は考えた事を素直に口にした。

「弓でチマチマ狩るよりは、投げナイフで羽切り落として落としたほうがその後楽になるだろ?切り落とせなくとも弓よりは高威力だし外しても一応回収できる」

「あーそっか・・・でも高いよ?」

「多少の出費でも黒字で弓よりか効率が良いんなら別に問題無いだろ?効率が良い分レベルアップも早い、赤字にもならないなら別に良いんじゃないかな」

「でも当てれるの?」

 尚も疑問を呈するアリスに、ラムダが会話に割り込んで来た。

「ダーツの容量で当てれるんじゃあないか?ユウトはダーツ得意だったよな」

 ズバリと言い当てられた。

「ご名答、ダーツ得意ならイーブンだろ」

「ユウトだけね・・・」

「あれ?亜里・・・アリスってダーツ苦手だったっけ?」

 危うい所で本名を出すのを踏み止まり、アリスに向けて疑問を呈する。

「出来るには出来るけど・・・お兄ちゃんみたいには行かないかなぁ」

 確かにダーツは趣味としてよくやっているが、アリスも現実世界ではそれなりにダーツをしていたような気がする。

「はっはっは。ユウトのそれはちょい凄すぎる位だしなぁ、全国出ても余裕で張り合えるだろ」

「お世辞はいいよ、そんな大っぴらに自慢出来るほどうまくないし」

 俺だって狙った場所に百発百中とは行かないのだ、外す時もあるにはある。

「普通は狙った場所には全然行かない物なんだけどね・・・」

 アリスが小さく言った。気がする。


「・・・っせ!」

 小刻みに動きながら右手に持ったナイトソードを小さな人型モンスターにぶつける。ただぶつけただけであり、ダメージ的には小さく微量だ、だが吹っ飛ばせるという利点がある。

 ラムダの方にコボルトを飛ばし、俺は目の前に居る二体のコボルト達に集中する。

 ジャッキーも行ってたしな、「一度に相手取れるのは二体まで」だと。

 双方同時に飛び掛ってくる、襲うほうが俺だけなので確実に避けれる、遅い。身体を左にずらし、難なく避ける。攻撃後の隙を見て俺は剣を振り上げ、一匹に対して攻撃を放つ。

 攻撃を受けたコボルトは倒れ、ポリゴン塊となって爆散。もう一匹を処理するために俺はもう一度剣を構える。体勢を立て直したコボルトがこちらに棒を振り上げながら突進してきた。防御の姿勢を取り、棒を剣で受ける。通常攻撃は避ける物だが、コボルト程に体格差があれば防御をすれば相手の硬直の方が長くなる。剣で確実に受け、硬直した所を袈裟懸けに切る。

 直前の体力差と、微妙に浅かったためそこで倒れたりはしない、俺は左に振り抜いた剣を返す刃で右に強振した。今度こそ相手の胴体を深く捕らえる。一声「ギュァ・・・」と弱く鳴いて、爆散した。

 ラムダが駆け寄ってくる

「終わったな・・・なあユウト」

「なんだ?」

「もうそろそろ6時だ、夕飯の準備をしといた方が良いと思うんだが、どう思う?」

 言われて、俺の方も空腹を意識しだす。そういえば・・・という感じに。

「あーそっか・・・じゃあここで一回落ちてご飯の準備するか。おーい!アリスー!」

 声を上げて近場で狩りをしているアリスに呼びかける。直後に声が飛んでくる。

「なーにー?」

「ちょっと話があるから、来てくれないか?」

「わかったー!」

 快活な返事が飛んで来た。数分後やってきたアリスは「何の話?」と首を傾げていた。

 俺は冗談のつもりで剣を抜き

「この剣を見てくれ・・・コイツをどう思う?」

 と聞いてみた。

「うん、長いね」

 残念な返事だ、俺としては「凄く・・・大きいです・・・」辺りを期待していたのだが。

「冗談だ」

 気を取り直し、話を続ける。

「もうそろそろご飯の準備をしなきゃいけないと思うんだが、どうだ?」

「あー。確かにお腹空いたかも、じゃあここで一旦落ちる?」

 落ちる、とはログアウトの意だ。

「じゃあ一旦俺が先に落ちて材料あるか確認してくる」

 言ってラムダが右手を振る、メニュー画面を開く動作だ。そのまま右手をせっせせっせと動かし続ける。ログアウト項目はメニューの比較的浅い場所にあった筈だ。

「んん?」

 ラムダが疑問の声を上げた。

「どうしたんだ?」

 気になって声を掛ける。

「いや。ログアウト項目ってどこだっけ?って」

「いや分かるだろ」

 俺も右手を振ってログアウトの項目を探し始める。

 しかし比較的浅い所にあるはずのログアウト項目は見つからず、奥深くまで見てもどこにもログアウトできる項目は無かった。

「・・・・・・無いな」

「そんなはず無いよー、キチンと探してる?」

 アリスもメニューの操作を始める。他人から見れば見知らぬ男女三人が攻撃的モンスター出没地域で一心不乱にメニューを操作していると言う、不自然極まりない光景だが、そんな事を気にしてる暇は無い。

「あれ?おっかしいなぁ・・・」

 同じくログアウト項目が見つからないのか、アリスも疑問の声を上げる。

「な?無いだろ?」

「う、うん・・・」

 そこでようやくメニュー操作を止めたラムダが

「運営のミスでログアウトできなくなったんじゃあ無いのか?」

 と言った。まあ考えられるミスだろう、運営初日だし。バグがあってもおかしくは無い・・・が。

「でも、明らかにおかしいだろ。ログアウトできないバグなんて、見つかった時点で全員強制ログアウトさせられるだろ?俺達は狩りに夢中で全然気が付かなかったけど他の人達なら俺らよりずいぶんと早く気付いた人も居る筈だ。報告があればシステムアナウンスかなんかで全員にメッセージが届くだろうし。」

 明らかにおかしいのだ、ログアウトできないオンラインゲームなど。普通はありえない。運営のミスだとしてもすぐに対策が取られる筈・・・

「ハッカー?」

 アリスが呟いた。

 直後、視界が一気に白一色に染め上げられた。

「うわ!なんだ!?」

 仰天し素っ頓狂な声を上げるが。それは一緒に居たラムダやアリスも同じ事だった。

「どうなってるんだ!」

 俺は白く染められた視界の中でそう叫んだ。視界は白く、届く声も届かなく、自分にさえも聞こえなくなっていった。




「システム・コール

「アナウンスを開始します。開始まで10秒

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、

「システム・録音された音声、再生します

『日本中のインフィニティオンラインプレイヤー諸君、ごきげんよう。

『今現在この音声を聞いているプレイヤーは、私の目算では約百万は下らないだろう

『私は躑躅博文つつじひろふみ、この世界を作り上げた男だ

『いきなり言われても分からないだろう、順を追って説明させてもらおうか

『まずは、私がこの世界を作り上げた理由から行こうか

『人の思考が作り上げる世界、という物を想像したことがあるだろうか

『空想、絵空事、妄想、それによって形作られる世界観

『私は人が作り上げる世界に注目した

『そして一つのプログラムを作り上げた

『ワールド・アクセラレーション・プログレス

『この世界を動かす動力エンジンの名称だ

『このプログラムは人の思考による希望を読み取り、総計算し世界を作り上げていく

『だからこそ無限の世界が創造できる

『この世界を作り上げたのはプレイヤー自身だ

『私は人がこの世界でどのように生きていくのか、世界がどのように広がっていくのか見るため

『この世界を作り上げた

『しかし

『ログアウトと言うプログラム一つで全てを遮断できてしまえば、どうなるか

『私はそれも考えた、結論として

『現実感の無い世界、こうなるだろう

『ネット上の空想に過剰な世界を描き、結果としてある筈も無い何かを求めていく

『調律の取れた世界等作れる訳も無いだろう

『だからこそ、ログアウトと言う物は不可能になっただけの事だ

『もう一つ、この世界が現実である事を認識させるためにルールを追加させてもらおう

『一つ目はログアウト不可、もう一つは

『この世界での死は、現実でのゲームオーバー=死を意味するというルールだ

『このルールの適用はこの音声終了後にさせて貰おう

『何故ゲームで死ななければならないのか、と考えるかもしれないが

『この世界を強く現実だと認識させる為・・・と言っておこうか

『ゲームではある、がそれは現実の命を懸けたゲーム。遊びでは無い

『最後に一つ、私からのささやかな贈り物だ

『ストレージに入っているアイテムだ、タップすれば自動で効果が発動する

『効果は・・・その目で確かめたまえ

『では終了だ。諸君等のゲームクリアを願い、この世界での健闘を祈ろう。

「システム・音声を終了

「プレイヤー情報、入力を再開します



 視界が回復した、まず俺が気付いたのは町に戻されている。という事だった。

 夕焼け空に鳥のような生物が飛んでいる。その鳴き声がここからはっきりと聞き取れる。

 静寂、異様な程に静かだ。

「・・・」

 ストレージにアイテムが保管されている、アイテム固有名は『****』と言う訳の分からないものだった、タップすると一瞬視界が暗転したがすぐに直ったので気にはならなかった。

 口を開けなかった。

 俺の周りにいる人達も誰も口を開かなかった。

―ゲームからログアウトできない?死ねば本当に現実世界で死ぬ?―

 性質が悪い冗談の様な響きを持って躑躅の言葉が残響のように響く。

 ゲームプログラマー、つまり世界の創造主は俺達プレイヤーに向けてこう言い放ったのだ。

『ゲーム世界で抗い、死ね』と

「いや・・・うそ・・・」

 誰かが呟いた。俺も同じ気持ちだ、初めてやったオンラインゲームで何故こんな事に巻き込まれなければいけないのか?冗談だろう。と心の中では叫んでいた。

「だけど」

 ほんの小さく、システムの最小音量ギリギリで呟いた

「だけど・・・」

 奥歯を強く噛む、現実なら間違いなく血が出ているほどに。

 それ以上はどう足掻いても言葉にはならなかったが、俺は確信した。

『この世界では、現実の死の危険がある』という事と、一つの希望。

『ゲームクリアと言う物が存在する』と言う事実。

 その二つを。

 身体を門に向け。一気に駆け出した、その時になってようやく喚き声や泣き声、悲鳴が町中に響き渡り始めていた。

 町の大きな門を一気に走り抜け。俺はフィールドに出た。

―もし俺の予想があっているなら、ここの周辺は必ず人で埋め尽くされる、システムに与えられた限りある物を手に入れる為に。その前により多くのリソースを手にするためにここを走り抜ける!―

 ここから一番近い村は『ホルルト村』だ。事前に調べを済ませておいた情報が役に立った。だからこそ、本当は連れて行ける仲間を連れてホルルト村を目指すのが最善だろう。頭が回っていない事もあり仲間を連れてくる余裕は無かったが。恐らくラムダ達はここに来る筈だ。兄弟故の共感覚を今は強く信じたい。

 背中のワンハンド・ロングソードを抜き放つ。金属質の煌きは今の俺の勇気を奮い立たせる十分すぎる程の頼もしい光だ。

 大上段に振りかぶり。目の前に出現した獣人『ビギナーズノーム』に突撃する、攻撃的アクティブモンスターである獣人は俺を視認すると咆哮を上げて突撃してきた。

「・・・っおおおああ!」

 力強く、敵の頭に対して振り下ろす。帰ってきた手応えは確かな物となり。果たして・・・獣人は倒れた。

 地を蹴って、また走り出す。遮る者の居ない草原を全力で駆け抜けていく。もしこれが現実じゃあ無いなら・・・という希望的観測はもう既に捨てた。滅多に発さない雄叫びのような声を上げながら俺はひたすら草原を駆け抜けた。無いかもしれないゲームクリアに向かって。




―システムリソースは有限だ。不可能な事は不可能、ゲームでも、現実でも―   戸上とがみ ゆう/ユウト




《オールグランド 800km地点 4年5ヶ月目 800km地点存在『迷宮』第36層》

 遠い思い出の様な日の事を思い出しながら、迷宮の安置の壁に背中をもたれ掛けさせる。

 今まで全部回想的な物でした、ごめんなさいと謝りたい、誰かに。

 アイテムストレージからミラースフィアを取り出す。超リアル趣向だが、少量ながらこの手の魔法アイテムがある。そこらへん躑躅は良心的なんだろうなと思いつつ中を覗く。

 見慣れた顔が映っている、このアイテムは要するに鏡だ。だからといって俺がナルシストな訳ではなく、ふと思い返しただけだ。

 爽やかなイケメンを目指して作った顔・・・等ではなく、黒髪で若干無表情な自分の丸顔が映っているだけだ。アリスあたりに言わせれば「カワイイ系」らしいが、自分で見ると本当に情けなく見える。

 『****』の効果はアバターを現実そのままにすると言う物だった、使用しないと言う選択肢は無かったらしく、音声アナウンスが終わった30分後に強制発動したらしい、さらにパニックになったと言う。

「はあああああ」

 大きくため息を突く、ため息を吐くと幸福が逃げると言う俗説はこれっぽっちも信じてない。

 ミラースフィアをしまい、代わりに小さな箱型のアイテムを取り出す。

「えーと・・・ロック」

 カチリと音がして箱の上部が開き。箱の中心から半径約6mの範囲を探知しだす。周りの安全を確認すると箱が閉まりポーンと音が鳴った。

 この場所に箱の座標を固定したのだ。

「後は・・・あった。」

 もう一つの箱を取り出す、さっきの箱とは違う色をした箱を持って、後は場所を指定すればワープできる。

「ワープコマンド・『アルベール』!」

 視界があの時と同じく白に塗り潰され、気が付くとそこには騒がしい町の風景が広がっている。行きつけの宿屋に行こうと足を運び、やっぱりギルドホームに顔を出すかと思い、久しぶりにギルドホーム目指して転移門に歩こうと方向転換する。

「でも腹がなぁ・・・」

 ぐー。と、腹の虫が鳴る。幾らなんでも正直すぎるだろ!と突っ込みたくなるが、自分の事だから仕方ないと割り切り。お気に入りのパイを売っている店に足を運ぶ。

「いらっしゃい!ユウトじゃあねえか!」

 馴染みの店員プレイヤーであるガントが話しかけてくる。俺は軽く手を挙げ「よう」と言ってから買いたい物を指定した。

「スイートバターパイ、10個包みで」

「何でそんな数買うんだ・・・?まぁいいか」

 ガントが店の奥に消えて、すぐに包みを持って来た。俺は代金を渡して

「ギルドにお土産として持ってくんだよ。久々に顔出すしな」

 と理由を話す。

「ほー、お前ギルドに入ってたのか・・・攻略ギルドか?」

「ああ、お前も知ってるだろ?『赤熱の旅団』ってギルドだよ」

 途端、ガントは目を丸くした。無理はないだろう、何故なら

「赤熱・・・ってそれトップギルドじゃねえか!意外過ぎだぞオイ!」

「驚く事じゃ無いだろ・・・」

 そう、俺が属している『赤熱の旅団』は百万近くいるプレイヤー、そして数万にも及ぶ数のギルドの頂点に君臨するトップギルドなのだ。それだけ聞くと実力絶対主義っぽいが、俺の主観で言わせれば緩いの一言に尽きるだろう。まあ自負ではなく俺の実力も相当なのだが。

 目の前にいるガントも俺が相当実力の高いプレイヤーであることは知っている。想像に容易だろう。しかし、イメージ的に結びつかない、と言うのはありそうだが。

 俺は基本的にパーティーを組んで狩りに出向く事は無いソロプレイヤーだ。理由は連携取るのが面倒臭い、それだけだ。死の危険も相当な物だが、相当慎重に狩りを進めている為大丈夫だと思う。安全マージンは全然取ってないから実際は一歩間違えば本当に死ぬのだが。

 パーティーで狩りを行うのが当然のこの世界では、基本的にソロプレイを続けるプレイヤーは滅多にいない、安全マージンを必要以上に取らなければならないし。状態異常等にかかれば死に直結するからだ。リスクが大きく危険ではある。しかし見返りも大きい。

 通常モンスターを討伐した際の経験値配分は、例えば五人構成のパーティーなら、基礎経験値を五等分して、ダメージボーナス分の経験値を各自取得できる。

 ソロプレイだとその手の経験値を全て入手できる上に、取得できる経験値とお金レムズに1.5倍のボーナスが掛けられるのだ。一攫千金、或いは一発で沢山の経験値を入手できる訳だ。

 ハイリスク、ハイリターンが常であるソロプレイヤーは死亡率もハイレベルプレイヤーである確立もかなり高いのだ。俺の場合は安全マージンより先に情報収集を優先し、十分なアイテムを揃えてからちびちびと狩る方式を取っている。危険だがかなり美味しい。

 実力的には赤熱の旅団のギルド構成員でも問題は無い、まあ立場的な意味合いもあるにはあるが。

「そんな訳だ。パイサンキューな」

「お、おう」

 呆然と返事を返すガントを尻目に、俺は早速包みを開けてパイにかぶりつきながら転移門を目指す。

 この世界で最も特徴的な魔法アイテムは間違い無く転移門だろう。ギルドホームに飛ぶことが出来るし。10km地点ごとに存在する大規模な町に一瞬で飛ぶ事も出来る便利門だ。ただし町に飛ぶ場合一回ごとに一万レムズ飛ぶのだが・・・

 門の前に立ちギルドホームを指定する。

「ワープ、ギルドホームへ」

 また視界が白くなる。回復するとそこは広い石畳の広場だ。時間的な問題だろうが多くの人がそこらで談笑をしたり歩いている。彼らは全員例外無くハイレベルプレイヤーだ。何故か・・・と聞かれると全員そうだからと答えるしかないだろう。

 俺は広場を横断して大きな木造りの家の扉を開けて中に入った。

 カラン、と音がして中に居た数人のプレイヤーがこちらに注目する、俺の近くに居た長身のプレイヤーが声を掛けてきた。見知った、というか忘れもしない顔だ。

「ユウトか!久々じゃないか!」

 言ってラムダは俺に駆け寄ってきた。

「ユウト?」

 アリスも俺の方に寄ってくる。

「久しぶりだな、アリス。後ラムダ」

「あれ?俺オマケなのか?」

 と言うラムダの突っ込みは無視してアリスに微笑みかける。しかしアリスは怒ったような表情でこちらに歩み寄ってくる。今にも怒られそうな感じだ。

「ユウト!」

 突然胸倉を掴まれた、ビックリして裏返った声で

「な、なんでしょうか・・・?」

 と応対。

「アンタね!一週間も連絡せずにダンジョンに籠もるなんてバカなの!?」

 凄い剣幕だ、正直滅茶苦茶怖い。

「お、落ち着け!すまなかった!ぐぇぇ・・・」

「落ち着けるわけ無いでしょ!」

「いやゴメン、ほんっとゴメン!スイマセンデシタダカラハヤクハナシテ!」

「お、落ち着けアリス、皆引いてるし・・・な?」

 激昂しているアリスをラムダがどうにか宥め、絞められた首から手が離される。気が緩み思わず咳をする。実際はあまり苦しくないしホーム内だからヒットポイントが減るわけじゃ無いんだが・・・

「いや、一週間籠もりきりにも理由があってさ、ワープボックスを迷宮のどっかに落としたみたいで・・・探すのに滅茶苦茶時間掛かったんだよ、36層まで行ってたから脱出は無理そうだしな」

「・・・はあ」

 ため息を吐き、一泊開けてからアリスが続きを言った。

「それで一週間も、ね。ワープボックスは迷宮内に湧出ポップするモンスターなら一定確率で落とすんだからそれを狙えばうまくいけば一日かそこらで帰れたのに・・・」

「それは・・・俺もそれもやろうと思ったけど、ソロだから絶対的に狩る数が少ないんだよな・・・0.1%とかそれくらいに賭けるのもどうかと思うし。」

 まあ結果的に探すしかない。落としたと分かるならば迷宮を彷徨いながら探すのも良いだろう。もっとも彷徨っていたら大量のモンスターに探知された等良くある話だが。

「んっとにもお!危険だからソロで迷宮に行くなって毎回言ってるじゃない!」

 尚も怒り冷めやらずなアリスはまだ小言をぶつぶつと続けているがこれ以上長くなるとうんざりするだけなので、左手に持っていた包みをラムダに差し出す。

「ガントん所のスイートバターパイ。分けて食ってくれ」

「おおっ!サンキューってああ!何するんだアリス!!」

 差し出した包みをラムダが受け取ろうとした瞬間に、神速の如き勢いで伸びたアリスの腕が包みを奪い去ると言う比較的どうでも良いような神業を見せ付けられた。

「・・・欲しけりゃ最初から言えば良いのに。」

「とにかく!しばらくあたし達とパーティー組んでもらいますからね!」

 とんでもない事をアリスが言い出した。俺のレベルはもう既に90近くに上っている、アリスのレベルは俺の知る限りでは70台後半だった筈だ。ラムダも同様で俺の主戦場で戦うべきレベルではない。

 安全マージンも取れぬ場所では本当に慎重にならなければ待っているのは現実の死なのだ。そんな要求は飲める筈も無い。

「アリス、そんな・・・駄目だ。」

「でも・・・」

 尚も渋るアリスの、頭に手をぽんと置いて―俺が見上げる形で手を頭に置くのはかなりシュールだったが―俺は続く言葉を発した。

「心配しなくても、信頼の置ける。それに強い仲間と連絡取れるから、大丈夫だよ。お前が思ってるほど友達が居ない訳でもない。だから」

 一拍置いて、続ける

「だからアリスは地道に経験を積んで来てくれ。またレベルが追いついたら・・・」

「追いついたら?」

「その・・・ラムダも誘って一緒に冒険しよう、な?」

 アリスはしばらく俯いて黙っていたが、やがて顔を上げて俺の方を見た。

「約束だからね。守ってよ!」

 どうやら怒りは収まった様だ。

「へいへい、俺に追いつけたらな。」

「あー!馬鹿にしてるな!?」

 久々に楽しい夜は。惜しいながらも明けて行った。


 朝日が目に飛び込んでくる。そこで俺は目が覚め、身を起こす。

「おわ!」

 アリスが寝てる。

 俺が直前まで眠っていたのはどうやら床のようだった。風邪とかは引かないので体調の方は万全だが・・・何故俺の停宿にアリスが居るのだろうか。

「あ・・・そういえば、アレだったっけなぁ・・・」

 すぐに思い当たる、確かアリスは昨日レベル上げに協力して欲しいとか言ってた。でこの町の宿屋に戻ってきてからしばらくラムダ、アリスと共に談笑していた。

 俺とラムダが話しに夢中になっている間にアリスは寝てしまったのだっけ。

 その事に多少ほんわりとしながら、アリスを起こす為に苦難する。

「おーい。アリス起きろー」

「んぅ・・・むふぅ」

 全然起きない。アリスは寝つきが悪いし朝も弱い、特に朝起きる時とか起こすほうはかなり苦労する事になる。頬を引っ張って起こそうと引っ張るがすぐにばしっと払われるし、揺すっても全然動じない。耳もとで「起きろー!!」と喚いても起きない。

「起きない・・・これは最終手段か?」

 布団の端をつまむ、する方は良いがされる方はかなり困るあの技だ。

「うりゃ!起きろおお」

「うぅぅ。」

 アリスが呻き声を上げる、しかし

「起きない・・・だと・・・?」

 これ以上思いつく策と言えば・・・

「あ、アレがあったか」

 マンガなら間違い無く頭上に電球のマークが付くだろう動作をして、洗面台の方に脚を運ぶ。

 旧式の蛇口を捻ると水が出てくる仕掛けだ。出てきた水の水温を確かめる。

「冷たいな。十分だ」

 思わずニヤリと頬が緩む。水滴を十分に滴らせた俺の手をアリスの首筋に近づける。そのまま2、3滴首筋に投下。

「にゃああああああああああああああああ!」

 ばちこーん!

 アリスの朝一番の悲鳴と音高く平手の効果音が宿屋に鳴り響いた。


「反省してるの?ユウト!」

「あーハイハイ反省してますよ!」

 悪口の応酬をしながらアリスと共にアルベールの町を歩く。

 ここアルベールはオールグランド中心から西に700kmの場所丁度に存在する大都市だ。最前線の狩場の一番近い大都市で、かつ一番最近に開放された町なだけあって道行く人の多さといったら呆れるほどだ。前にガントがここに店を開いたという情報を掴んでここにすっ飛んでくるまでは470km地点存在の《ネルキア》に停宿を取っていた。俺のプレイヤーホームは500km地点にある《アルドラント》に存在するが、金に余裕がある為に次々と宿場を変えつつ過ごしている。そのために余りプレイヤーホームには出向かない。

「っと、久しぶりだな。」

 不意に視界に見覚えのある姿が目に入ったので呼びかける。肩くらいまで伸びた長髪に真っ黒に白糸の刺繍が入ったロングコートを着込んだプレイヤー。

 俺の呼びかけに答え、振り返ってくる。

 しかし本当に目を引いているのは背中に吊った二本の剣だろう。

 左の剣は紺色、右の剣は朱色をしており、それぞれの剣と同色の鞘に収まっている。

 二刀流だ。システム的に二刀流は不可能ではないが、かなり難しい。二刀流、と聞くと両手で二本の剣を操るのだから強いのでは? と考える人も多いだろう、しかしこれがうまくいかない。それぞれの手に持った剣の軌道や力の強さなど、精密に考えなければ不可能な技だ。

 そしてこのゲームの戦闘は展開が速い、それに追いつける思考能力や反射神経は、例え持っていても一つの武器に集中するのが精々だろう。俺も一回二刀流の練習をしたが一週間で投げた。

「・・・ユウトか。ビックリした」

「まぁそう驚くなよ、もう会ってから二年だぜ?」

「・・・ああ、まあそうなんだけど。俺は、その・・・後ろ」

「ああ。コレはアリス、俺の妹だ。」

「ユウト、誰?この人・・・」

「あー・・・コイツはレンって言う凄腕のプレイヤー。ほら、知ってるだろ?《黒い死神》とか言う通り名で呼ばれてたあのプレイヤー」

「・・・あ、どうも」

「あ、はいこちらこそ・・・ってええ!?」

 アリスが凄いビックリした様子で俺の方を向く。レンはそれ以上にビックリして滅茶苦茶顔が青ざめていた。

「え?この人があの名高い・・・」

「ああ」

 二年ほど前の噂の話になる。

 IFO最強のプレイヤーは誰なのか?と言う疑問が渦巻いていた。

 話は一人のプレイヤーがあるプレイヤーの噂話をした所から広まっていく。

『現時点でもう既に60レベルオーバーの化物プレイヤーが居る』

 でそのプレイヤーを興味本位で探すプレイヤーが横行し始めてた。

 俺はたまたまそのプレイヤーとダンジョンで遭遇したという事だ。

 まあその話はまたの機会に回そう、またの機会があればだが。

「調度良かった、アリスのレベル上げ手伝ってくれないか?」

 俺が思い出話に耽っている間に二人は話をしていたらしく、すぐに話せるようになったレンはさも当然と言った風に頷いた。

「ああ、それなら良いよ。ラムダは?」

「先に集合場所に行かせてあるよ。行こうぜ」

「ああ」

 黒い二刀流の剣士と大剣使いの少女と揃って歩き始める。せっかくだしもう一人呼びたい、多分空いてるだろうから誘うかとメッセージウィンドウを開く。

「何してんの?」

 俺の行動に気付いたアリスが話しかけて来た

「いや、ルートにメッセージ。今日一緒にレベル上げしないかって」

「そっか」

 簡潔に説明し、内容をホロキーボードに打ち込む。完成したら送信。

「送信完了・・・返信来た」

「はやっ」

『今からいく、まってr』

 ・・・・・・・・・rって何だrって。

「よう」

「ほんとに速い!」

 いつからそこにいたのであろう長身の男性が俺の後ろに居た。肩で息をしている所を見ると走ってきたのだろうか?

「ちょうど転移門に居た時にメッセージが来たからな。一万払ってダッシュで来たんだよ。」

「行動力凄いな・・・」

 ルートの特徴とすれば一目で分かるが、とにかく背が高い。190くらいとか前言ってた気がする。

 両手剣を背に吊って来ている。装飾が一切無く大きい、攻撃力ならこの場のどの武器よりも高いであろうその大剣を事もあろうが片手で振り回す等と言う無茶苦茶なプレイスタイル。後容姿が良い、客観的に見れば。

存在感と派手さでかなり有名なプレイヤーの一人だろう。もっとも本人はそれを自覚する事も無く普通に振舞っているみたいだが。

「よくよく考えたら凄いメンバーだな。コレ」

 ルートとレンは言わずもがな。アリスとラムダだって有力ギルドの団長と副団長なのだ、有名でない筈が無い。そこに名も無いソロが混じっているとはこれ如何に。

「あはは、ユウトだって十分すぎるほど有名だよ」

「・・・悪い意味でな。迷宮を誰より速く見つけて宝箱を漁る泥棒とかラストアタックやフラグを横取りしまくる強欲者。果てはプレイヤーレベル第二位から来る嫉妬の目とか、卑劣な手段でレベルを上げ装備を整える男だとか。酷い言われ様じゃないか」

「気にするなって、良い所も一杯あるさ!」

 ルートが背を叩いてそういった

「・・・確かにユウトは凄く早く迷宮を見つけて攻略してるけど」

「悪い所見つけて言うのは簡単だからねー。案外すぐ引っ繰り返る日が来るかもよ?」

 楽観的すぎる所があるアリスはあまり動じてない。何回か告られた経験もあるが気付かずスルーという事もあったようだ。言う事は、まあ有り得るかもしれないが。

「だったらどうすれば良いと言うんだ・・・あ、おーい!ラムダーこっちだー!」

 そんなこんなでラムダと合流。アルベールから出て30kmくらいの地点のダンジョンに足を運ぶ。

 オールグランドには迷宮以外にもダンジョンは非常に沢山存在する。そのほぼ全てが攻撃的モンスターの巣窟だったり危険な罠だらけだったりと、フィールドよりも難易度は相当高いが見返りは大きい。

 フィールドには存在しない宝箱やレアな装備や鉱石。経験値にも補正が入りレベルアップも早くなる。俺はただ慢性的に迷宮や暇潰しでダンジョンに入って経験値を集めたり装備や鉱石、宝箱を漁って一日を過ごしている、迷宮攻略はとりあえずついでみたいなものだ。何故と聞かれても答えられない。多分いつ死ぬか分からないこの状況でひたすら死地に向かっている様なものなのだろうが。俺はそれでも良いと思っている。死んで誰が困る訳でもないし、悲しむ人はいるだろうが自分に出来る最大限の事をやったと思えるだろう、或いはそれが、俺に出来る償いでもあるのだろうか。

 まあ以上の理由もあるので、ダンジョンには通常パーティーで挑むのが常である。そこをソロで行くのが俺のようなプレイヤーなのだが。

 今回のダンジョンでは俺やルートとかはともかくアリスとラムダのレベルでは少々キツイところがあるみたいなので最低限の敵しか相手にさせない事になり、罠や敵は俺たちが相手取る事になった。

「っとっはって!」

 敵を相手取っていく、このあたりの敵は俺は安全圏なのでぼけてようが相手できるが今回はアリスとラムダがいるのでしっかり警戒していく。

 あっさりとダンジョン最奥に到達、数が多い分比較的浅いダンジョンが多いのだろう。さほど危険な罠は無く、道中ほぼ一本道だったためすぐに着いた。入ってから40分程でダンジョンの最奥部であることを示す大扉の前に辿り着いた。

「脱出アイテム持ったか? ・・・よし。行こうか」

 俺は背中の剣を抜き払い正面の大扉にあてた手に力を込める。今まで凄まじい抵抗を示していた大扉は大きく力を込めるとそれまでが無かったかのように抵抗無く開いた。開けながらボスが生息する部屋に一歩ずつ進んでいく。

 踏み入れた先は暗い部屋、ボス部屋は決まってこうだ。初めは暗い室内がだんだんと明るくなっていき、完全に明るくなるとボスが出現する。明るくなっていくタイミングは大扉が開き始めた瞬間から、このペースで明るくなっていくと大体後20秒ほどで完全に明るくなるだろう。手早く全員が装備などを最終確認していく。

 そしてボスが姿を現し始めた。巨大平面図っぽいポリゴンが徐々に細かくなっていき、やがてそれは超がつく巨大なイノシシへと変貌した。名前は《グランサーブルロード》。

「初めは俺が攻撃全部惹きつけるから、攻撃とかよく見て隙ができたら攻撃してくれ」

「りょーかい」

 ルートが気の抜けた返事をする。本当にやる気あるのだろうか?こいつ。

「ぶるごああああああ!」

 ブルロードが大きな咆哮を上げる。方向をしている間に突撃―耳を塞ぎながらだと客観的に見れば相当格好悪い―をして敵の懐に入り込む。今なら大きい一撃でも余裕で入る筈。

「っ!!」

 無言の気合の下敵の脇腹を下から思い切り気りあげると、確かな手応えが返ってくる。ダメージを与えた為に咆哮は中断、予想通り俺がターゲットになる。

「来い!」

「ぶるるる!」

 ボアロードが突進してきた。四足生物らしくやはりというか単純な突進。半分予知してたので大きく左に飛んでよける。

 俺が避けた為にボアロードはそのまま壁に向かって何も無い場所へ、そして・・・

 どかん!! と一際大きな物音を立てて壁に頭から激突して行った。

「あいつ・・・馬鹿なのか?」

「・・・馬鹿だってのは置いといても攻撃の隙になるなら逆にチャンスだと思う」

 そういってレンも攻撃に回るためにボアロード、もとい後はボコボコになる事確定の哀れなイノシシの下へと駆けていった。

「おりゃあ!」

「てい!」

「くの!くの!」

「っせい!」

 攻撃されてはノックバックし、半永久のハメ攻撃に陥った哀れなイノシシに俺は黙祷してから、イノシシ討伐隊の輪に加わった。

 哀れなイノシシは最後まで哀れなまま討伐された。


「終わったな」

「あ、なんかアイテムある・・・え?」

 戦闘終了後のアイテム確認の最中の事だった。

「アリス、どうかしたか・・・な・・・!」

「おいおいラムダもどうしたんだ?見せてみろ・・・えええ!」

 俺もアリスが入手したアイテムを見て仰天。 と言うか大声を上げてしまった。

「何かあるのか?」

「何だ何だ?」

 レンとルートが一緒になって覗き込んでくる。

「・・・・・・・・・・・・」

 沈黙。

「晩飯の食材決まったああああああああああああああああ!!」

 ルートの雄叫びがボス部屋の広い室内に響いた。


 続く・・・かも

 荒野三等兵です。

 お詫び

 中途半端な所で終わってスイマセンでした!

 なろうコン応募締め切りギリギリでスイマセンでした!

 拙い小説でスイマセンでした!

 いやもうホントスイマセン!


 本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。一杯一杯です。

 今回の作品、と言うか二作目なんですけれども、話題(?)のVRMMO物を書いていこうかなと思い立って書き始め、せっかくだからエリュシオンラノベコンに応募しよう! と言う意気込みで書き始めたのが投稿から20日ほど前の事。ストーリー構成にうんうん悩み、序盤回想等と言う地雷を踏んでしまいました。でもまあ入りはしっかりしないと・・・って言い訳ですよねスイマセン。

 ここまで読んでくれた方はこんな長い文章かつ読み難い構成の小説を読んでくれてありがとうございます。

 ラノベなので、純文学が苦手な方は申し訳なかったです。今度純文学も短編で書こうかな・・・なんて(笑)。


 読んでくれた皆さん本当にありがとうございます、よろしければこれからも応援、意見等お待ちしておりますのでよろしくお願いします。

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