第九章 11 元老院裁判
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
その日のツングースカ邸内は、朝から重苦しい空気に包まれていた。
「おはようございます、ツングースカ師団長殿。弁護者である我が父グランゼリア・レヴァ・ベイノールの使いとして、我等一同お迎えに参上いたしました」
応接室で待っていた俺とアメリアス、そしてマリアニ姉妹が、深く礼を見せつつ、後れてやって来た我等が師団長閣下へと挨拶を述べる。
「ああ、ご苦労……準備はできている、早速行こうか?」
昨日の大騒ぎとは一転、粛々と俺達の前に現れたツングースカさん。
いつもの正装スタイルにトレンチコート、そしていつにもまして毅然とした表情だ。
そしてその後を追うかのように、レベトニーケさんが現れる。
黒一色で統一された、シックなボンテージに身を包んで、キューメリーとアルテミアを従えての登場である。
レベトニーケさんの表情は、二人のお供と比べて、なんだか晴れやかだった。
それは昨日から、親友であるツングースカさんと語りつくした故の、悔い無しと言った面持ちだろう。
「レフトニアさんは、ライトニウスさんの随伴のため、先に出立致しました」
レフトニアさんから頼まれていた伝言を、ツングースカさんへと告げる。
「我が父は先に登城致し、いろいろと根回しの準備をいたしております」
「そうか、卿にはご足労かけ申し訳ないと思っている」
「とんでもございません! 師団長殿のため、ひいては大魔王軍のためですわ」
アメリアスが目を潤ませて言う。
「では行こう。裁きの場へ」
颯爽と歩く、二人の大魔王軍幹部。その後ろを、まるで葬式の参列者のような、陰鬱極まる表情で付き従う俺達。
「なんだなんだ貴様ら、そんなシケた面をするな!」
「は、はい……」
とりあえず、生返事しか出てこない俺。
「どのような沙汰が下されようと、我ら二人はまったく異存はない……だが、ライトニウスの身、それだけが心配だな」
屋敷を出たところで一瞬足を止め、どこか遠い目をして語るツングースカさん。
ご自分の心配を他所に、配下の身を思いやる。まったく彼女らしい言い分だ。
だが、ライトニウスさんは謀反人オーリンの元血縁者であり、同系種族の者。
ラーケンダウン王共々、厳しい沙汰が下されるのは必至だろう。
「あれこれ考えたって仕方ないわよ、ツィンギー。さ、皆腹を括ってるんだから、もう何もいわないで行きましょう」
「ははは、そうだな。行こう」
小さく笑って返し、また歩き出すツングースカさん。
と、その足の向かう先に、一人の人影。
あれは――
「おはようございます、閣下」
「なんだ、ベミシュラオ。貴様を呼んだ覚えはないぞ?」
「ご安心を。小生も呼ばれた覚えはございません」
と返し、にこりと微笑みながら、深い一礼を見せる。
「傷はもういいのか?」
「ははっ、最近の医者はなかなかいいツテを持っているようで――魔族神官のクレメンダイル様に上級回復魔法を施していただきました」
「医者ではなく、神官殿に回復してもらったか。ならもう安心だろう」
「御意に」
まさに元気の見本! と言った表情を見せるベミシュラオさん。
それを聞いて、俺もなんだか一安心だ。
「体の調子がすこぶるよいもので、朝の散歩などをしておりまして……このまま登城してみようかと思っておりました次第にございます」
「ふん。貴様はまだ休暇中の身だ、好きにしたらいいさ」
「ははっ……では小生めもお城へと足を運ぶといたしましょう」
まったく、二人とも素直じゃないな。
『閣下が心配だからついていく!』『ははは、よしこい!』とはならないのか?
それはさておき、だ。
ベミシュラオさんと言えば、先の三人目の主人公の問題がある。
ここはさりげなく、彼の事を少し聞いてみるのもいいかもしれない。
「ベミシュラオさん、おはようございます!」
とりあえず、俺達の最後尾を歩き付いて来る彼に声をかける。
「やぁ、タイチくん。閣下をお守りしてくれたようだね、心から感謝するよ」
「いえ、俺なんかは……」
「ははは、謙遜しない。いろいろと聞き及んだよ? 君も神憑を起こしたそうだね」
「は、はい……なぜそれを?」
「ああ、これでも小生の人脈は広くてね――先に言った魔族神官のクレメンダイル様のお屋敷で、順番待ちをしていた時に、元老院のお偉いさんから聞いたんだよ」
「元老院ですか……なんかまたおっかなそうな名前ですね?」
「うん、おっかないよ? 何せ今日のお裁きに出て、閣下に処断を下される方々なんだからね」
「げげ! そ、そんな方々と?」
「まぁ、望んで懇意になった訳じゃないがね……なぜか時折、議事堂へと呼ばれては、2~3の項目を尋ねられいるんだよ」
「へぇ、それはどんな事です?」
「あははは、それは機密事項だから言えないがね……なに、詰まらん事さ」
笑ってのけるベミシュラオさん。
そこには自分の素性を隠そうとする素振りなんてものは無く、ただ記憶を無くした者がお偉いさん方に意味不明で奇妙な質問を受けている。と、いった具合に見て取れた。
「ところで、ベミシュラオさんは――本当にドッペルゲンガーなんですか?」
「うん? それはなぜだい?」
おかしな事を聞くね、と言わんばかりの表情だ。
けれど……俺の知っているドッペルゲンガーなる魔物は、特定の人間と瓜二つとなって、その人の前に現れ、死を宣告するというもの。
それに、だ。
ベミシュラオさんが三人目の主人公だとした場合、この人は魔物ではなく特殊能力が使える、特別な人間――つまりは「英雄」なんだ。
本当にドッペルゲンガーなら、それはそれで魔物としてのキャラクターをまっとうするだけだろうし……プレイヤー名が出てしまったと言うのは、ただのバグ的な何かと言う可能性もある。
なんにしても、ベミシュラオさんの素性をきちんと調べたほうがよさそう――
「記憶をなくしたこいつと最初に出会った遥か東の地『ブメリシュミル』は、ドッペルゲンガーの多く住まう辺境の地。そこでロキシアの姿をして、特殊な力を振るうのだ。ドッペルゲンガーでなくてなんだというのだ?」
俺達の会話を聞いていたのか、ツングースカさんが言う。
「えっ? ご自分が自覚して『自分はドッペルゲンガーだ』と言ってた訳じゃないんですか?」
「ん? そうだね……閣下がそう仰るから、そうかなぁ……程度の認識だったかなぁ」
お、おいおい! ちょっと待てよ!?
そんならこの人、マジで過去に神々の戦いにおいて活躍したっていう「英雄」じゃないのか?
もしかしたら……封印のショックで記憶をなくしているとか、十分に考えられるじゃないか!
「そんな事はどうでもいい。そろそろおしゃべりは終わりだぞ、タイチ」
ツングースカさんの落ち着き払った声が俺に、そして皆へと届く。
その場の者達が、一斉に緊張に包まれた……グレイキャッスル城門前。
ワニのような爬虫類系のマッチョ番兵が、俺達の行く手を、大きな長斧で遮っている。
「警備ご苦労。グランゼリア・レヴァ・ベイノールの命により、ツングースカ近衛師団長ならびに、レベトニーケ辺境伯婦人をお連れした次第……入城の許可を!」
「これは――失礼いたしました。どうぞ中へ」
こうして俺達は、重圧的なプレッシャーが立ち込めるグレイキャッスルへと、足を踏み入れる事となった。
「閣下、小生はここでお待ちしております。どうか、良き風が閣下の下へと吹きますように」
関係者以外立ち入れない、本日のグレイキャスル城内。
ベミシュラオさんが、深々と頭を下げて、ツングースカさんを見送っている。
「心配するな、別に取って食われる訳じゃないさ」
笑って言うツングースカさん。
そこには、魔物にとっては短い年数だが、深く色濃い主従の絆がしっかりと伺えた。
ベミシュラオさん……いや、こんどうはるよしさんにとって、この今置かれている状況が、一番しっくりと来る状況なのかもしれない。
下手に彼の「素性」を語るのは、この二人にとって、ものすごいマイナスになるんじゃないだろうか?
そう思えるんだけど……。
そいつはただ、俺の甘っちょろい考えなのかも知れない。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!