第九章 7 酒と涙と男と女(慰労会編)
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
深い蒼と鮮やかなライトブルーのコントラストも美しい、ゴーンドラド地方特有の花「パレミスカ」が咲き乱れる、ツングースカ邸の中庭にて。
昼過ぎに戻ってきたツングースカさんを中心に、先のアスタロスの剣奪取の任に就いていた者達が、ささやかな「慰労のための宴」に招かれていた。
「レベトニーケ、キューメリー、アルテミア、レフトニア、ライトニウス、アメリアス、マリィ、アニィ……そしてタイチ、チーベル……あと、ベルーアだったか? 皆ご苦労だった」
「「「はっ!」」」
それぞれが畏まって、ツングースカさんの労いの言葉に答えた。
「ギュミリーズ。留守中の任、見事勤め上げた事感謝する!」
「いえ、私は閣下の命に従ったまでの事。過分なお褒めを頂戴する訳にはまいりません」
畏まった一例を見せつつ、一歩後退するギュミリーズ近衛師団長補佐官。
素直に手柄の功を拝領しない姿勢は、流石カタブツと言ったところだろう。
「そう言うなギュミリーズ。貴様の執った指揮のおかげで、大魔王様に、そしてグレイキャッスルにすら被害はなかったんだ。我が感謝の意、受け止めてくれまいか?」
「ははっ! 有難きお言葉、感謝の念に耐えません!」
難攻不落そうなカタブツも、ツングースカさんの一言でついに陥落! 如何に我等が師団長殿が部下達から慕われているか、よく分かるよ。
「そしてあなたもね……お疲れ様、ツングースカ師団長」
レベトニーケさんが、いつもの笑顔で長年の友人に返報する。
小さく「うん」と頷き、ツングースカさんも笑顔で返した。
ここだけを見れば、任務は成功! その勝利を祝おうじゃないか……と言うシチュエーションに見えるだろう。
だが、事実は――ツングースカさんが次に続けた言葉が示す通り……
「アスタロスの剣を奪取すると言う任務には失敗し、しかも敵の罠に陥って失態を見せ、さらには敵の目論見通りアスタロス本人をも逃がしてしまうなどと、大魔王様のご期待を裏切るう結果となってしまった……全て私の不徳の致す所だ。大魔王様、そして皆には、大変申し訳なく思う所存……まことに申し訳ない!」
深々と頭を下げるツングースカさん。
誰もがその光景に息を呑んだ。
大魔王軍随一の「破壊王」と名高い彼女が、皆に頭を下げているんだぜ? 彼女を知る者、そして慕う者にとっちゃ、かなりのインパクトがある光景なんだ。
「ど、どうか頭をお上げください、師団長殿! この度の『奴等』への敗北は、我等ヴァンパイアの――我が父ベイノール公爵の秘密主義が生んだ『失策』に端を発します! どうか責めは我が父へ、そして私を含めヴァンパイア一族へ!」
ツングースカさんの弱気な発言を気遣い、アメリアスが「責」の所在を自分達にあると言い出した。
が、そんな事聞き入れるツングースカさんではなく……
「アメリアス部隊長よ、貴様の気持ちは心より感謝する……が、今回の指揮官、責任者は私だ。信賞必罰は兵家の常……私は明日、大魔王様の前で軍法会議にかけられ、処断を仰ごうと思う」
「師団長どの……」
「閣下……」
「まぁそう悲嘆するな。裁判の際には、ベイノール卿が私の弁護についてくださるとな、先程自ら出向いて来られたのだ」
「父が、ですか?」
「そうだ。こちらからお願いに向かおうとしたのだがな……気遣いに胸を打たれたよ。如何様に裁かれようと、悔いはない」
「閣下が裁かれるなどと! 悪しきはあの憎き若王オーリン率いる幽鬼軍であり――」
レフトニアさんが憤慨しつつ言う。が、言った己の言葉に盟友であるライトニウスさんを気遣って言葉尻を濁すのだった。
「いいさ、レフトニア。ライトニウスも被害者なんだ……そして大事な我が配下の者。もしこいつに責があるなら、それは私の責だ」
「閣下……」
フードを目深に被った外套姿の肩が、小さく震えている……悔しさ、悲しさ、憤り、全ての感情がそこに集約されているようだ。
「ばか者、まだどうこうなるとは決まったわけじゃない! 一先ずは無事に帰ってこれたのだ、今日はうんと飲んでパァーっと騒ごうじゃないか? よし、タイチ! 貴様が音頭を取れ!」
「ええっ! お、俺ッスか?」
「ああ、当然だ! 貴様はこの負け戦において、唯一『勝ち』を収めた者だからな」
俺が勝者?
結果的にアスタロスを逃がしてしまう原因を作ったのは俺なのに……。
でも、なんとなく分かる。
この無意味だった戦いに、一つくらいは「勝利の華」があったほうがいいもんな。
「わ、わかりました……では皆さん、僭越ながらこのタイチが乾杯の音頭をとらせていただきます。この度の戦いにおいては、情報戦という観点からは、敗北を喫したと言わざるを得ませんが――しかし! 皆さん圧倒的な戦力であり、また統率や絆はどこのどの軍隊よりもぬきんでています! しかるに! アスタロスだろうがルシファーだろうが、我々にかかればちょちょいのちょいでひねりつぶせるは必定であり――」
「いつまでくっちゃべってんのよバカ茶色! さっさと乾杯しなさいよ!」
「そうよ、いつまでグラスを持っておかせる気なの? このグズ茶色男」
「う、うっせぇ! 茶色言うな! で、では……乾杯ッ!」
「 「 「 か ん ぱ ~ い !! 」 」 」
皆のグラスが高々と掲げられ、中の葡萄酒が激しく揺れた。そして各自が一息にそれを飲み干し――
「あはははは、こいつぁ美味いな!」
「ふぅ~、いいワインね? 流石は故郷のワインはおいしいわ。北方のは風味が貧相だったからよりおいしく感じるわね」
「ゴーンドラッティの十二年物であります。我輩の父の酒庫から失敬してきました」
「流石はトラおじさまのコレクションね、後で叱られるわよ? レフティ」
「心配するな、アメリー。まだまだたくさんあったので、二十本くらい抜いても気付かれんさ」
みんなに笑顔の花が咲いた……俺以外。
「だ、大丈夫ですかタイチさま!」
俺の下戸さを察してか、マリィとアニィが駆け寄ってきた。
「う……うげぇ~。すいません、ファンタとかないっすか?」
「な、なんですか、ふぁんたあって?」
「おみず……」
「おぉ、ありがとうアニィ」
一口飲んだだけで、既に二日酔い状態の俺。
そんなおもしろいおもちゃを見つけて、アメリアスがはしゃぐ。
「なになにぃ~タイチったら男の癖にお酒も飲めないの? だっらしがないわねぇ~!」
「仕方ないだろ、未成年だしお屠蘇しか飲んだ事ないのに」
「いいわけするなぁ~! 酒なんてのは、訓練しだいで飲めるようになるのよ! うふふ、なら今から私が特訓してア・ゲ・ル」
なんと言う絡み酒!
そしてなんと言う超理論!
お前はどこの鼻のデカイい飲兵衛か!
ふと見ると、ベルーアとチーベル、そしてアルテミアが、なんかジュース的なものをおいしそうに飲んでるし……俺もあっちのがいいです!
「 ・・・・・・う っ さ い 、 だ ま れ 」
目が据わったアメリアス。
気がつくと、俺の両サイドにはマリアニ姉妹が両脇をしっかりとホールドしてやがるし!
(ごめんなさい、タイチさん……お嬢様のご命令なの)
とでも言いたげな瞳で俺を見るマリィ! だ、誰か助けてぇ~!
「やめなさいよ! アメリアス」
毅然とした声が、アメリアスの暴走を止めるべく放たれた!
こういう時に登場するのは、きっと風紀委員長的なカタブツの彼女――ギュミリーズ…………って、あれ? ギュミリーズは俺の視線の先で、ツングースカさんへとべろべろに酔いつつ「閣下ぁ~どこにもいかないでぇ~」と泣きじゃくりながらすがっているじゃないか?
って事はこの声って――
「なによ、キューメリー? あなたコイツが男って分かってんの?」
「……分かってるわよ?」
キューメリーだ! だが、超絶男嫌いだった彼女が、なんでまた俺の肩を持つんだ?
「こいつはねぇ、あたしんちの 駄 犬 なの! ペットの躾の邪魔しないでくれる?」
なぜかしら、アメリアスが眼光鋭く言い放った。
が、キューメリーも一歩も引かず、それを受け止め、更なる眼光で睨み返している。
超ヤバげな一触即発?
ちょ、おまえらケンカするなってばよ!
「そいつは――私が男嫌いを克服できる、『鍵となるモノ』かもしれないの。アンタのおもちゃじゃないのよ? こっちによこして頂戴」
「なによそれ? あなたこそタイチを『モノ扱い』しないでくれる?」
その前に、お前が俺を駄犬扱いするな。
「面白いわね……親の七光りにしか頼れないお嬢様の癖に、私に敵うとでも?」
「フン、下賎な身分のものはすぐ夢見るんだから……困ったものね」
「なによ! やるっての?」
「いいわ、やってやるわよ!」
途端に場の空気が変わった! まるでアスタロス戦の時のような、重くピリピリした空気だ!
おいおい、お前ら何やってんだ……まさかこんな場所で「死を賭した闘い」を繰り広げようって訳じゃないだろうな?
「 フ ン 、 ヴ ァ ン パ イ ア 如 き が ぁ ! 」
「 だ ま れ ぇ ! こ の 糞 ビ ッ チ め 」
「 「 く ら え っ ! 我 が 拳 を !! 」 」
「お、お前らやめろぉー!」
―――――― ド ォ ン ッ !
激しくぶつかる衝撃音!
……が、ツングースカさんの方から聞こえてきた。
見ると、超でっけぇ酒樽を膝元に ド ォ ン ! と置いて、「よぉし、腰を据えて飲むぞぉ!」とレベトニーケさんと飲み比べを始めた様子……。
っと! そ、そうだ! 二人は――ふたりは……?
「えい、えい!」
「なにをこの!」
まるで子供のケンカのように、互いをポカポカと殴りあっている、アメリアスとキューメリー。
「な、何やってるんだ?」
「あー、また『いつもの』はじめちゃった?」
アルテミアが、ジュース片手に俺の側に来て一言。
「もう~、二人ともお酒すっごく弱いのに~」
「ええ、なんだ? 二人とも酔ってんのか?」
「うん、ちょっと飲んだだけでよっぱらうの。でね、ふたりしていつもぽかぽかたたき合うの」
「ケンカ……だよね?」
「うん、そのつもりだって。で、もうちょっとしたら二人とも寝ちゃうからほっといていいよ?」
「……つまりは予定調和?」
「はぁ、毎度の事ですので……」
マリィが俺の脇を手を離して言う。
あー……なんだこの人達?
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!