第九章 3 戦後処理
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
グレイキャッスルに到着して、真っ先に気付いた事がある。
それは、城門を守る人の姿が替わっていると言う事。いつもの鎧オバケさんではなく、甲冑をまとった、多分ワニ男と思しき獣族のマッチョ戦士であると言う事だった。
そう、いつもの鎧オバケさんは幽鬼なんだ。
おそらくトラのおっさんが、「そんな奴等に大切な要所を守らせるわけにはいかん!」とか息巻いて変えさせてしまったか、もしくは最初っから謀反目的で、城の重要箇所に配置されており、事ここに至って行動を起こしたとか……そう言えば、大魔王様専用のバラの園警護には、スペクターがついていたんだっけか!
もしかしてあの時も、何かしらの目的があって俺を見逃していたとか……?
まぁ、考えたって始まらない。つーか、もう始まっちまってるんだしな。
この先、残った幽鬼族の肩身が狭くなることは間違いないだろう。
そんなこんなで、俺とレベトニーケさん、そしてキューメリーとアルテミアは、取り急ぎツングースカさんの執務室へと向かった。
「ツングースカ師団長殿、いらっしゃいますか?」
「ああタイチか、入れ!」
師団長殿の快活な声が返ってきた。
そこには怒気や意気消沈していると言った不安要素は無く、それだけで大魔王様は至って安全だと言う現状が伺える。
「失礼します。師団長殿、報告いたします! タイチ、只今ツングースカ邸ならびにレベトニーケ辺境伯婦人警護の任より戻りました」
「ああ、ご苦労だった」
執務室内にはツングースカさんのほか、レフトニアさんやライトニウスさんもいる。そして――俺と同じくゲーベルト族である少女が、ツングースカさん達と同じく軍服姿で、直立不動の姿勢を保っていた。
やがて机に向かって書類に目を通していたツングースカさんが、手を休めてこちらを見る。
そこには笑顔がある……それだけで安堵感が湧き上がるよ!
「それと、レベトニーケ辺境伯婦人がお気付きになられましたので、お連れいたしました」
そう言うと、俺から、背後にいたレベトニーケさんへと視線を移し、気遣って言う。
「レヴィ、もういいのか?」
「ご心配をおかけして申し訳ありません、師団長殿。わたくしレベトニーケ・キールバイツェルは先の戦いにおいて、今回の『騒動』の首謀者である幽鬼族に、一時ではあれ加担した者としてのお裁きを受けるため、罷り越した次第でございます」
畏まった口調で、まるで平伏するかのように深々と頭を下げ、貴族らしからぬ謝意を見せるレベトニーケさん。
従っていた二人も、同様に頭を下げている様子を見るに、既に覚悟を決めて出頭してきたのだろう。
流石は一軍を率いる将と言わざるを得ない、見事な決意表明だ。
「まぁ待て、辺境伯婦人。それを言うなら私とて同じ事。アスタロスの剣奪取に失敗した上、敵の心理作戦にまんまと引っかかり、味方を危機におとしめた罪は重い。そして……近衛師団長でありながら、大魔王様警護の任を疎かにした大罪もある。この上はベイノール卿に身を託し、大魔王様へと直々に処断の是非を計らって頂こうと考えているのだ」
「我輩らも同様だ。閣下に処断が下されるならば、潔く閣下に付き従おうと思う」
レフトニアさんが毅然とした態度で言う。「処断されるなら同様に」それは盟友であるライトニウスさんの身を案じている心情も伺えるようだ。
そうだよ。いきなり重鎮三人を失うのは、近衛師団にとって――いやいや、大魔王軍にとっての大きすぎる損失以外の何物でもないもんな!
ましてやそこへ、魔族の最高貴族であるレベトニーケさんの失脚があれば、大魔王軍瓦解を招きかねない。
そんな馬鹿な処断を下される大魔王様でないのは分かっている。
けれど……他の貴族達はどう思っているのか、それが気がかりだ。
なんだか一枚岩ではないと言った雰囲気漂う貴族達の事、この機に乗じて――なんてアホがしゃしゃり出てこないとも限らないぞ?
その観点からして、ベイノール卿を介するというのはいい判断だろうな。
なにせ、今回の騒動の渦中で実状を知る上、我が軍の最高実力者の一人なんだから、きっと悪いようにはならないだろう。
「ああ、それと……ここへくる途中、今回の件の首謀者と思しき幽鬼と遭遇しました。名はオーリンと名乗ってました」
一瞬、ライトニウスさんの肩がピクリと動く。
「ぬっ! 貴様等、奴と会ったのか?」
「えぇ。でも一方的に現れて、一方的に言いたい事だけ言って、一方的に去って行ったわ……小癪にも、これは宣戦布告だと言い残し、大魔王様へよろしくとも……」
レベトニーケさんが事の経緯を簡潔に述べてくれた。俺だと余計な事まで言いかねないから有難い事だ……ライトニウスさんとオーリンの関係とか、尋ねかねないからな。
「で、奴の首級も上げずに、おめおめと逃がしてしまったのか?」
ツングースカさんが意地悪く言う。
「無茶言わないで。奴らの首を挙げようとするなら、よほど強力な結界内で戦わなきゃ、すぐに逃げられてしまうじゃない」
「ははは、すまんすまん。だが一発ぐらいはぶん殴ってきて欲しかったな……私の分をな」
ツングースカさんはそう言って、椅子の背もたれに体を預けた。目を閉じ、何か思案している様子だ。
そして一瞬ライトニウスさんに視線を向け、「ま、あれこれ考えても仕方がないか」と、一人零して肩をすくめる。
きっと、彼女に対する気遣いをいろいろと考えていたのかもしれない。そう、考えたって仕方がない事なんだ。
全ては、彼女の兄が一方的に成してきた事なんだからさ。
「そうだ、タイチ。貴様には彼女を紹介していなかったな?」
と、そんなツングースカさんが突然、ゲーベルトの女の子を指差し、紹介役を買って出てくれた。
そうそう、俺も気になってはいたんだよな……なにせ同種族だもん。
「彼女の名はギュミリーズ。あのキンベルグ殿のお孫さんだ」
な、なんと! あのしかめっ面の爺様に、こんな素敵な孫娘が!
でも凛々しい顔つきは、そこはかとなくキンベルグさんの厳しい顔を受け継いでいるような……。
「近衛師団補佐官のギュミリーズだ。主に閣下が留守の時、師団を預かる任に付いている。今後ともよろしく頼む」
「は、はぁ……タイチです、どうかよろしく」
「祖父から聞いている人物像とはえらくかけ離れている気がするが……本当に君がタイチか?」
なんとも失礼な事を真顔で尋ねてくる……しかしながら、俺の人物像ってどんなだろう?
「祖父が言うには、何とは言い知れぬ物を宿した、逸材たる人物なのだそうだが……そうなのか?」
「さ、さぁ? どうでしょうかね、ツングースカさん」
「あははは。流石はキンベルグ殿、見る目があるな。ギュミリーズ、こいつは紛う方なく逸材だぞ?」
ツングースカさんが笑って俺を褒めている。なんか嬉しいやらケツがこそばゆいやら……。
「だが、ここ一番にしかその真価を発揮しない、困った所もあるかも知れんな」
「そうですか、分かりました。そのお言葉、信じましょう」
なんだかカタブツな女の子だな……やっぱキンベルグさんの血を引いてるだけはあるわ。
「じゃあ、大魔王様の御前裁判へのお呼びがかかるまで、私の身はツィンギー邸にて軟禁、でいいかしら?」
「ああ、そうだな。私もこの件に関しての書類の整理と、ギュミリーズとの引継ぎが終わり次第、自主的に自宅待機しようと思っている……終わるのはおそらくは昼ごろになるだろう。そしたら、二人で酒でも飲もう」
「うふふ、そうね……末期の酒になるかもしれないけれど」
「ば、馬鹿な事言わないでくださいよ!」
思わずツッコミを入れる俺。しかし、場の雰囲気は「それも覚悟の上」と言う重い空気に支配されているようだ。
「では、形式上レベトニーケとその一派の身柄は、我々大魔王軍に確保されていることになる……タイチよ、我が屋敷まで彼女達を連行してくれ」
「れ、連行だなんて……そんな!」
「なに気にするな、形式上だけだ。で、それが済んだらしばらくは自由行動を許可する。寝るなり遊ぶなり自由にしろ」
「は、はい! ではセフィーアの薬を……あ、いえなんでもありません」
おっとと、いっけね。うっかりセフィーアの事を口走るところだった。
この上、傷付いた天主の代行者をかくまっているなんて誰かに知られたら……ツングースカさんの立場が危なくなる可能性だってあるもんな。
「それでは、ただいまよりレベトニーケ辺境伯婦人ほかの身柄をツングースカ邸まで連行いたします」
襟を正して、ツングースカ師団長殿へと任務の復唱を返す俺。
「仕事にはちゃんと真面目な態度で望まなきゃいけない」って父ちゃんの口癖を思い返し、真摯に望む――
「あらん、拘束しないでいいのぉ~? お姉さん逃げちゃうかもよぉ~」
「はぁ? こ、拘束っすか?」
「そ・う・よ、亀甲縛りでぎゅ~ってね♪」
「ま、マジっすか! あ、いやそんな俺ソッチ系は苦手っつーか何というか……でも! なんでも経験ですよね!」
「ちょ、何言ってんのよ馬鹿男! お姉様にそんな事したらただじゃおかないわよ!」
キューメリーがしゃしゃり出てきた! こいつ、レベトニーケさんが絡むと、男へと容赦なく「口撃」できるんだな。
「タイチ、スケベ顔してないで―― い い か ら さ っ さ と 行 け ! 」
ツングースカさんのキツーイお叱りを受ける俺。
いや……俺真面目にお仕事しようとしてたのに……レベトニーケさんのペースに巻き込まれると、どうにも俺がただのスケベ野郎にしか見られなくなるな。
……困ったもんだよ。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!