第九章 2 首謀者
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
攻撃の余波により、倒壊しかかった家々。
そして、そこかしこに人型の焦げ跡が残っているのを見るに、市街は結構な激戦だった様子。
道端には傷ついた獣族や魔族が蹲り、救護を待つ者達が多く居る。
勿論、もう動かない者もちらほら見える……。
ちくしょう! なんでこんな不毛な戦いをしなくちゃならなかったんだ?
幽鬼の最高責任者はあの半分ボケた爺様だろ?
もしかして……それは世を忍ぶ仮の姿! とか言う奴かな?
「そうじゃないわ。伝令から聞くに、今回の謀反の首謀者は、その実の息子である若王・オーリンらしいわよ」
「オーリン? ですか。初耳ですよ、俺。そいつはどんな奴なんですか?」
王宮へと急ぎつつ、その若王オーリンとやらの素性を、レベトニーケさんへと尋ねる。
どんな奴かは知らないが、こんな無茶をする奴だ。余程頭の線がねじ切れているバカに違いない!
「バカとは失敬だな、君。これでも一応は常識人で通ってるんだぞ?」
どこからとも無く声がする。若く凛々しい男性の声だ。
「こ、この声……オーリンか!」
レベトニーケさんとお供の二人が、一瞬で身構える。
遅れて俺も戦闘体勢を取り、グエネヴィーアを抜いた。
「やれやれ、気の早いご婦人方だ。私は戦いに来た訳じゃないよ? 我が部下ブエルトリクを――いや、マテリアライズした上に邪神ルシファー様の御心を頂いた者を、容易く屠ったと言う若き戦士を拝見しに来ただけさ」
その言葉と共に、俺達の目の前にスゥーっと二つの人の影が浮かび上がった。
それは白を基調に、銀色の見事な装飾をあしらった鎧に身を包んだ、若く端整な顔立ちの貴人と、金糸の束のような髪が美しい、軽装な出で立ちの美青年だ。
二人共に、その強さや気品溢れる佇まいを鼻にかける素振りもなく、いたってフランクに、それでいて威厳を以って、俺達へと向かい合うのだった。
「やぁ、君か! 見たところ、神憑は起こしていない様子だが……それに強さの氣も、さほど感じられない。なるほど、これは面白い」
にこやかに、旧知の仲のような振る舞いで、俺へと語りかけるデミ・リッチの若き王様。
そんな気品溢れる屍鬼の王族が、俺に、貴人として最高の礼を見せるのだった。
「私の名はデミ・リッチのオーリン・フレリオール・ラーケンダウンだ。そしてこの者はレイスのアリアベル・ランブレイズ、我が忠実な従者にして最高の友だ……さて、君の名を伺ってもいいかな?」
先に己の名を明かし、次いで相手の名を問う。
こんな下っ端の魔物である俺に、儀礼を尽くした挨拶を見せるあたり、そこいらの貴人気取りの馬鹿なんかとは格が違うようだ。
「俺――あ、いや……自分はタイチ、サトウタイチです。訳あって、ロキシア達にはベオウルフと名乗っています……なにぶん下賤で貧しき生まれ故、非礼はご容赦を」
一応ぺこりと会釈も見せる。
う~ん、こんな場合、失礼のない挨拶ってのはどうするんだ?
「かまわんさ、タイチ。それよりどうだい? 我が幽鬼軍に参入し、共に世を変える気は無いかな?」
しれっと大それた事を言う。
やっぱ頭のネジが二~三本飛んでるわ、この人。
「冗談にしては少々エスプリが効き過ぎてますね? 笑えませんよ」
なかなかの好青年が、声も高らかに世界の破滅を謳う。まともな神経じゃ言えるこっちゃない。
「冗談なんかではないぞ? 私は至って本気だ」
「尚更悪いですよ」
何だろう? この人のこの無駄な自信は。
余程世間ズレが激しいのか、それとも本当に変えうる力を有しているのか……。
「そうか、残念だな……それはさておき、レベトニーケ嬢。君は一度我が方への加担を誓約されたのに、何故我々の敵となっているんだい?」
「あら、知らないの? 女の舌は一枚じゃないのよ? ボウヤ」
「やれやれ。ご婦人の舌と言うのは、余程便利にできているらしい……困ったね、アル」
オーリンとか言う嫌になるほどの好青年が、やれやれと首を振りつつ、隣に佇む微笑を湛えた美青年に言う。
「左様ですね、困りました」
「何が困ったよ! 我等魔族なんぞに、欠片ほどの期待も持っていなかったくせに」
レベトニーケさんが憤怒の表情で訴える。
確かに、もしベイノール卿が向かわなければ、あの中の誰かがアスタロスの剣を振るい、俺達の敵になっていた事だろう。
あの時の状況から察するに、それはきっと……レベトニーケさんだったかもだ。
その剣の秘密は隠しつつも、アスタロスが眠るとされる場所の情報を故意に流して、周囲を狡猾に利用する。
こいつらの言葉は、一切信用できないよな。
それにヴァンパイア部隊が消息を絶ったときもそうだ。
アメリアスの身柄を押さえてベイノール卿を脅し仲間に引き入れようとした事も許せないし、ましてやシベリアスを不死鬼として蘇らせるなんて――死者と、そして現世へ残された者への酷い冒涜だ。
それに、もしかして――いや恐らく、レネオ殺盗団をも裏で繋がっている節もある。
よっぽどおめでたい頭じゃないと、こんな奴らに組するなんてできっこないぜ?
「やれやれ、嫌われたものだな。仕方がない、出直すとするか? アルよ」
「我が君。一応、誤解を解いておいたほうがよろしいかと……」
金糸のような髪の毛の色男が、涼やかな声で言う。
「そうだな。我々も誤解されたままだと言うのは、些か不本意だ」
「な、なんだよ誤解って! 全て事実じゃないか?」
「そう、事実だ。が――それらの立案実行者は、先に君らが屠った自称知恵者のブエルトリクが独断で行った事。まぁ、我々の監督ミスであると言われればそれまでだけれどもね」
屈託のない笑顔で言う。
本当にプライドや尊厳の弁明を乞うているのか、それとも稀代の詐欺師なのか。
「ではわれわれはこれにて失礼するとしよう……長居してアップズーフ卿にでも見つかったらやっかいだ」
「ちょっとまてよ! これだけは言わせてくれ!」
消え去る直前の彼らを呼び止め、俺は一言物申した。
「どんなことがあっても、ライトニウスさんに手は出すなよ?」
「手を出す? なぜ我々が彼女を?」
「だって……袂を分かった裏切り者だとか、幽鬼である彼女を利用しようとしたりだとか……んな事はするなよな!」
「する訳はない――何故なら、私の大切な妹だからね」
「い……妹……だって?」
「おや、知らないのかい? 周知の事実だとばかり思っていたんだが――まぁいいさ。一応、私の妹だ……市井で育った腹違いではあるけれどね」
レベトニーケさんの表情を伺い見ると、コクリと小さく頷き返してきた。なんか複雑な関係ではあるが、事実妹らしい。
「安心したまえ。彼女は父側の者だ、裏切りはしないだろうし、小細工に乗る知恵足らずでもない。私が保証するよ」
余程、ライトニウスさんを高く評価しているのだろう。本気の目が俺に訴えかけている。
「だが、一度剣を交えるとなれば……そのときは、こちらとて容赦はしない。できればそのような事にはならずにいて欲しいが……」
肩をすくめて言う。
妹とは戦いたくない――それは、仮にも兄である心情で言っているのか、それとも自分達に挑むのは、無駄な事と心のうちで笑っているのか。
どちらにせよ、俺も二人の戦いは避けて欲しいところだ。
「最後にいいかしら? オーリンぼうや」
「ああ、何なりとどうぞ? レベトニーケ嬢」
「あなた達幽鬼のこの行為は――我々大魔王軍への宣戦布告とみなしていいのかしらね?」
「はい、我等遥か南の都『フレリオール』国の、戦いの狼煙とお考えください」
アリアベルとか言う男前が、厳かに、そして力強く言う。
「そう、よく分かったわ。その旨、大魔王様にお伝えしておきましょう」
「ああ、よろしく伝えてくれ! では――」
その一言の後、幽鬼二人の姿が忽然と消えうせた。
なんだか厄介な敵の出現に、改めて先が思いやられる気持ちに襲われた。
「邪神、幽鬼族、そしてレネオ殺盗団。この三勢力が今後結託して我等大魔王軍に敵対する事になるのか……まぁいいさ、来るならこいだ!」
「ふふ、良い事言うわねボク。じゃあお姉さんがピンチになったら、また助けてよね?」
「あ……は、はひぃ!」
ぎゅっ! っと抱きすくめられて、またしてもおっぱいで圧死する覚悟を強制的に求められた俺。
「お、お姉さま! お姉さまの事は我々がお守りいたしますわ! 何もそんな汚らわしい男なんかに頼らずとも!」
キューメリーが血相を変えて訴える。ちくしょう、なにが汚らわしいだ! いつか男のすばらしさを、嫌と言うほど教えてやるからな!
――その前に、女性のすばらしさを「いやぁ~ん」と言うほど教えて欲しいです。
「まぁまぁ……取り急ぎ、王宮へと向かいましょうよぉ」
アルテミアのろりろりボイスが皆を諭すように言う。
そうだった、んなアホな事を考えてる場合じゃないや。
とりあえず、ツングースカさんへ今の出来事も報告し、事態の収束を図らなきゃ。
けれど――この騒動が収束した後、ツングースカさんやレベトニーケさん、そして大魔王軍に残る幽鬼の方々への処置が下されるんだろうな。
誰が沙汰を下すかは知らないが、大魔王軍の翼をもぐような事だけはして欲しくないよな……。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!