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第二章 4 初めての戦い

 これまでのあらすじ。

 異世界へと飛ばされた普通の高校生である俺は魔族のモンスターとして人間達と戦うと言う使命を大魔王様から直々に受けて共に戦ってくれる仲間のヴァンパイア少女とルーラみたいな呪文ですごい原っぱへとやってきたらいきなりどこのスプラッター映画だよと言うような凄惨な光景が展開していた。


 と言う感じの映像が、俺の脳内をドラゴンボールのイントロでかかるBGMと共に流れている。

 ああ、これが走馬灯ってヤツか……いや、違う! 俺は死ぬどころか、まだ攻撃すら受けてないだろ……まぁ時間の問題だろうけど。


 そう、これが脳内パニックってやつだ! そりゃそうだよな、モンスターになったとはいえ、齢十六の少年が、いきなりこんな虐殺シーンを見せられたとあっちゃ、現実逃避したくなるのも無理もないだろ。


「ごめんねー。間違って、私のレベルに見合ったフィールドに来ちゃった。まぁ何事も経験だから、とりあえずあのゴツいのと戦ってらっしゃい」


 俺をこの平原へと連れてきた張本人である吸血美少女が、いけしゃあしゃあとぬかしてやがる。てめぇ、絶対わざとだろ!


「だからわざとじゃないってば。ちょっとあなたの怯える顔がみたいなーってなんて言う悪戯心がうずいちゃっただけよ」

「なんだそうなんですか、じゃあ仕方ないですね」


 アメリアスの言葉に、チーベルが半笑いの納得を見せる。どうやら二人して俺を即、登録抹消させたいらしいな。

 ちくしょう、こうなりゃ自棄だ! さっさとくたばって、ソッコーで現実世界に戻って、バスタオル一丁のベルーアにえっちな悪戯をして、飯食って、風呂入って、しくしくと泣きながら寝る!


「ほらほら、さっさと戦闘態勢とらないと。ヒゲのおっさん、こっちに気が付いたみたいよ?」

「お、おう! やってやらぁ!」

 

 とは言え……くっそー、おっかねぇ! やっぱやられたら痛いのかな? あんなので首をはねられたら一瞬なのかな?

 心臓のバクバクが妙にうるさく感じる。おまけに足の震えがとまらねぇ。

 大体、俺は武器なんか持ってないぞ? 人間だけ武器アリなんて卑怯じゃないかよ!


「そ、そうだ! なぁチーベル、お前案内役なら戦いのアドバイスとかもできるだろ? 相手の弱点とかわかんないか」

「うーん、そうですね。敵は弱点である心臓を貫くか、首をはねると死にます」


 期待した俺がバカだった。


「まぁ冗談はさておきですね」


 ぜったい元の世界に戻ったらバスタオルひん剥いてやる。


「相手の名前を見てください。『敵、確認』と念じれば、名前とレベルが見えるはずです」

「あ、ああ見えた。なになに……『ぽこたんの助』? あはは、ゴツいおっさんの割にはかわいい名前だな。ははーん、さてはコイツ、ソーシャルゲームのノリで名前付けたんだな? うんうん、そう言うのあるよな……って、このおっさんレベル45もあるじゃねーか! ぜったい無理だって!」

「ところがです、よく見てください? 名前が赤くなってますよね、これってヒットポイントが残り少ないと言うサインなんですよ。これってモンスター側にだけある特典みたいなものなんですよねー」

「へっ? ま、マジですか! つっても、ヒットポイントがあとどのくらい残ってるのかわかんねぇよな?」

「だいたい残り10は切ってるはずですよ、上手くいけば倒せるかもしれませんね」


 簡単に言うけどな、一撃でも食らったら俺は死んじまうだろ? つか、俺の攻撃が当たるのか? 当たったとしても効くのか?


「安心してください! 魔族といえば『魔法攻撃』じゃないですか。大丈夫です、詠唱とかそんなものは無いですから」

「そ、そうなのか。で、どうやったら出るんだよ、その魔法攻撃って」

「手を目標にかざして名称を叫べば、ぽんっ! と出て当たりますよ……まぁ効くかどうかはわかりませんけど」


 いつも最後にやな事を言うヤツだ。が、率直な意見でもあるし、何よりそれ以外に道は無いだろう。


「で、今使える攻撃魔法の一覧は……また念ずれば出るのか?」

「はい」

「んじゃま、毎度の事ながら……魔法、一覧っと」


 お、出た出た。えーっと、今使えるのは三つか。

 虎の牙(ティガー・ファング)。使用魔法力2で、威力が4。

 漆黒の投槍(シュバルツ・ランツェ)。使用魔法力3で威力5。

 赤い盾(ロート・シルト)。使用魔法力3で、ダメージ3分の1減少か。

 打つとしたら漆黒の投槍だな。


 ……しかしながら、どれも日本名にわざわざドイツ語のルビが振ってあるのが痛すぎて辛い。

 分かってる、分かってるよ! どうせ俺が望んだ事なんだろ? ああそうさ、ドイツ語ってかっこいいもんね。


「フン、また敵遭遇エンカウントしちまったか? ちょうど良かった、これで薬草使わずにすむぜ。あと一ポイント経験値が足りなかったんだ。お前みたいなモンでも、倒せば一ポイントくらいにはなるだろ? これでレベルが上がって体力は全回復、フヒヒ、まったくナイスタイミングだぜ!」


 ヒゲ面のおっさん戦士が、にやりと笑って俺に目を向けた。


「オラっ! いくぞッ!」

「ほらほら、何やってんの? おっさんこっち向かってきてるわよ」

「わ、分かってるよ! 今、魔法をだな……ひっ!」


 早い! おっさん早い! ヒゲ面のくせに早い! ゴツい鎧甲冑付け、手にポールアックス握ってるってのにめっちゃ早い!

 血まみれで目を「らんらん」と輝かせた恐怖が、怒涛の如くに近づいてくる!

 くそ、あんなヒゲマッチョの経験値になんてなったまるか!


「死ねィ! バケモノ!!」


 俺から見れば、アンタの方がよっぽどバケモノでっせ! と、心の中でツッコミを入れる……という余裕すら無く、その迫力にビビッてしまって、思わず後ずさり。

 が! 恐怖に腰が抜けたのか? 足に踏ん張りが利かなくなって、思わず後ろのめりにスっ転んでしまった!


「うわっ!」


 ――ヴンッ!


 まるで空間を切り裂いたんじゃないかって位の風きり音が、俺の頭スレスレを通過した!

 ともすれば、風圧だけで髪の毛と頭皮を持ってかれそうだ!

 ああ、俺は転んだお陰で助かったのか……この際、みっともないだとかだらしないだとか、見てくれになんかこだわらないさ。命あってのモノダネだもんな。


「今です、魔法を!」


 チーベルが叫ぶ!

 そう。見ると敵は、勢いに任せて長斧を振り切ったせいで胴がお留守だ!

 俺は両の手をまっすぐとがら空きのデカい腹に向け、渾身の声で叫んだ!



「シュバルツ・ランツェ!!」



 両の掌から暗黒色の闇が迸り、まるでミサイルのように漆黒の槍が「バシュッ!」っと一つ打ち出された!

 そいつは一直線にヒゲ面の横腹を貫き、ほどなく弧を描いて地面へと消え落ちたのだった。

 出るには出た、初めての魔法! そして目標へと貫通した……はずだった。

 ――けれど。


「当たったよな? でも……」


 あろう事か、相手の命中場所には、傷一つ付いていないじゃないか!

 こいつは……こいつは一体? もはや勝率ゼロ? 完全に勝ち目は無くなった!?


「ぐ……ぐふふ……」


 ヒゲ面のおっさんが、笑いながら俺を見る。

 ああ、こんなイカツイ相手、本気で怒らせちまったか?

 俺、ミンチにされんのかよ? 誰か、誰か助け――そ、そうだアメリアス! アメリアスさんがいるじゃないか!


「ア、アメリアスさん……いや、アメリアスさま! お願いたすけ――」

「フンッ。何たくらんでるか知らないけど、情けない声出して負けを装ったってダメよ。勝負付いてるのミエミエじゃない」

「へっ?」


 途端、ヒゲ男の足元が揺らぐ。


「ふ、ふへへ……薬草ケチって死ぬなんて、ザマあねぇな……チキショウ……」

「えっ? な、何?」


 白目を見いた巨漢が、俺に向かって倒れ込む。

 ちょ、ちょっと待って! 鎧と巨漢の重さで、俺、圧死確定だって!


「うわっ!」


 思わず目をつぶり、無駄と分かっていても咄嗟に両手で支えようと、手を伸ばしてしまう。


 だが!

 その掌に、何かが当たる気配は無かった。


「あ、あれ?」


 そこには、ヒゲ面のマッチョオヤジの姿は無く……ただ光の結晶達が、はらはらと天に向けて溶けて行くのが見えた。


「あ、俺……勝った?」

「やりましたね、太一さん!」

「あ、ああ……でも相手の鎧には傷一つ付いてなかったぞ?」


 と、そんな俺の問いに、つっけんどんなものの言い方で答える声。


「バッカじゃない? シュバルツランツェは肉体にのみダメージを与える攻撃で、ティガーファングは外傷を与える攻撃でしょ? そんなの物心付いた魔族が自然と覚える初歩の初歩、誰でも知ってる事よ?」

「え、そ、そうなのか? チーベル」

「ええ、まぁそうですね……あ、それより今の戦いで、戦闘経験がぐんとあがりましたよ? ホラホラ、もうレベル10ですって! すごいですねー!」


 おい、案内人! 説明不足にも程があるぞ。

 と俺に文句を言われるのを避けるため、強引にも話題を変えようとしているのがミエミエですよ、チーベルさん。


 それにしても、なんか一気にレベルが上がったな。気のせいか、さっきより精神的にも肉体的にも成長したような気がしないでもない。


 こういう時ってのは、自分のステータスを数値で確認できるのってすごく便利だよな。


「ステータス表示……っと。おおっ! 体力35に防御34に俊敏性40に魔力と攻撃力が38か、スゲー! ……って、なんだこの運90ってのは?」

「それはアレですね、大魔王さまに頂いた幸運のタネのおかげですね」


 言われて、またあの味が口の中いっぱいに広がった……オエッ。


「何ブツクサ言ってるかわかんないけどさ、それよりもホラ。あんたの足元、それ!」


 俺の足元を指をさして言うアメリアス。

 その指と視線の先には、小さな宝箱的なものがポツンと転がっていた。


「運がいいとですね、敵を倒したあとのアイテムゲットの確立が高くなるんですよ。さぁ、早速開けてみてはどうですか?」

「うん、でもミミックとかじゃないだろうな?」

「何言ってるんですか? 相手は人間ですよ?」


 あ、そうか。俺はモンスター側だったんだっけ。ミミック持ち歩いている人間は常識的にはいないよな?


「なにかしらね? いいものだったら、私にプレゼントしなさいよ?」


 ワクワクとした目で、本気(・・)ともマジ(・・)ともつかない要求を述べるヴァンパイアのお嬢さん。ドあつかましいにも程があらぁ。


「っじゃま、開けてみるか。どうか罠やミミックではありませんように……と」


 が、そこにあったのは、俺的にはミミックや罠に等しい……いや、それ以上のシロモノだった。



「うそだろ…………幸運のタネってお前…………」



次話予告

戦いの後のひととき、だが運命はそんな太一に安らぎを楽しむ暇を与えなかった。

次回 「ばったり」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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