第八章 15 僕のエクスカリヴァー
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「ドスッ!」と言う低く鈍い音が伝い響く。
そして俺の「うわぁぁぁぁっ!」っと叫ぶ声。
正面には、大地のニヤリと笑う顔……ちくしょう、突然どうしたってんだ、大地!
その剣で俺を刺して……刺して――刺してる? いや、ぜんぜん痛くないんですけど?
「何言ってんだよ、べオウルフ。よく見てみろ」
言葉通り、大地が手にする剣の刃先の行方を目で追うと――それは俺の横をかすめ、背後にいるでっけぇバケモノへと突き刺さっているじゃないか。
「あ、あれ? もしかして俺の早とちり?」
「もしかしなくとも、そうだよ」
呆れ顔の大地が言う。その途端、俺を拘束していた力が弱まり――
「この、いい加減離せ!」
と、俺はブエルトリクの腕を振り解き、離脱に成功したのだった。
「あー熱かった。ありがとよ、大地」
「全く暢気だな、お前は……」
脱出に成功したはいい。
だが、今までどんな攻撃を受けても、痛みも、疲れすら感じずにいたブエルトリクが手を離したと言う事は――大地がコイツの息の根を完全に止めたのか!
「いや、ちょっと違うな。『この剣に魂を食われた』と言うのが正解だ」
そう言うと、大地は化け物から剣を抜き取り、見事な手捌きで刀身を鞘に収めた。
その拍子に、まるで生気無く前のめりに倒れこむブエルトリク。
やがて奴の身体自体が、まとっていた炎と共に静かに消えうせ、地面に人の形の焦げ跡だけを残して幾筋かの煙と化したのだった。
ちょ、ちょっと待て! 「魂を食らう剣」だと? もしかして、退魔封術とか言う異国の技とやらか?
「そんなチンケな技で作られた剣じゃない。もっと崇高で威厳のある、神威武器の頂点に立つ剣だ」
「ま、まさか……エクスカリヴァー!」
ベルーアが叫んだ! 何、エクスかリヴァーだって? それは俺だって知ってるぞ!
「そのまま飲み込んで。僕のエクスカリ――」……いやいや違う! それじゃない。
アーサー王伝説に登場する、あの聖なる剣だろ? そして俺の中にいるアポルディアが、「古の神魔百年戦争」なる神様と邪神との戦いの時に振るった愛刀だ。
――つまりは、俺の剣!
「だ、大地! そいつは俺の所有物だろ!」
「だから、お前にはグエネヴィーアを渡しただろ?」
いやいや、そういう問題か? 俺がいつそれを承認したよ!
「お前、覚えてないのか、それともバカだから気がつかない……まぁいい、教えてやる。このエクスカリヴァーは、グエネヴィーアと同じく、剣自体が生きているんだ。そしてその糧は――お前達、魔物だ」
「う……俺達魔物だって?」
「そう。魔物、化け物、野獣、幽霊。そんな『人間に害なすもの』の存在を喰らい、成長する。そしてその強さが高ければ高いほど、この剣も飛躍的に成長する……今のバケモノを喰らったおかげで、既に高レベルな神威武器としての力を持ったようだぜ?」
嬉しそうにまじまじとエクスカリヴァーを見つめつつ、大地は語った。
そうだよ、思い出した! こいつはその特徴から「モンスターキラー」として名を馳せた名刀。
って事は――
「そう、どうせお前の事だ。『仲間を犠牲にしてまで強くなりたくない!』とか甘い事を抜かすだろ? それじゃ宝の持ち腐れだ。ならさ、俺とお前の剣を交換すればどうだ? 互いの利に適った、いい判断だと思うがな?」
「うぬぬ……それはそうだ」
「それにその剣は、お前に惚れてんだ。フッてやるなよ」
うーん、剣に惚れられていると言うのはビタイチわかんねぇけど……既に情が移っている事だし、それはそれでいいかもしれない。
「もしこの先、互いの剣を必要とせざるを得ない場面に出くわしたら……その時は、一時的に交換してやるさ」
「あ、ああ……わかった。異存は無い。だが! これだけは約束してくれ。ロキシア達に害をなさない魔物は、殺さないでくれ」
「バカ言うなよ、そんなもんどうやって見分けるんだ? まぁ、元来そう言うのは俺の趣味じゃないし、でき得る限りは気をつけよう……だが、お前とてそうだぞ? 善良な市民を殺めるな。そのときはベオウルフ、俺が直々にこの剣のエサにしてやるからな」
「あ、ああ……肝に命じとくよ」
なんだか大地に丸め込まれたような気もしないでもないが……まぁ今のところ、これが一番最良な判断なのだと俺も思う。
「よし、じゃあこの件はこれにて決着だな……あとは――」
その一言の後、大地はツングースカさん達を見据えて、一言切り出した。
「で、これからどうする? もうこの一件はケリが付いた事だし、俺達帰っていいか?」
一瞬唖然とするツングースカさん達。
それもそうだ、ともすれば新たな敵となりうる存在同士。このまま第二回戦へと突入してもおかしくは無いもんな。
「一応、貴様らワダンダールとは、秘密裏な同盟が結ばれている。それをこの場で破棄するというのであれば、我々とてその意思に対応せざるを得んが?」
ツングースカさんが毅然とした態度で返す。
「はは、なるほどね。俺達次第って事か……今はまだ、お前達との同盟を維持したい。何せ俺達は『まだ小国の一雇われ兵』に過ぎないからな」
笑いながら言う。
「まだ小国の一雇われ兵」という言葉になんだか引っ掛かりを覚えるけれど……この場が丸く収まるんだ、今は互いに剣を引くと言う事で十分だろう。
「じゃあな、俺達は帰るぜ? ベオウルフ……いや、アポルディア。今日の事は借りといてやる。いつか返してやるから、楽しみにしてな」
大地が笑って俺に言う。
「蒼のおねーさん! なかなかいいパンチでしたよ。おかげで夜食を食べなおさなきゃ」
ベルガきゅんがお腹の辺りを擦りつつ、いつもの温和な笑顔でツングースカさんへと言葉を送った。
「それじゃみなさん、ばいばいきーん!」
マルりんは相変わらずのご陽気さで、手をふりつつ去っていった。
そんな三人を目で送り終えた俺は、一つ大きな溜息をついた。
「はぁ~……くたびれもうけだった」
疲れがどっと押し寄せる。
なんだか身体から憑き物が失せたような感覚……って、あれ? もしかして俺の中の神様――アポルディアがいなくなった?
ステータス画面を開き、確認してみると……やっぱりだ、俺のステータスが元に戻ってやがる!
あの神様、俺と同化しておいて、ここ一番にしか出てきませんよ? とか抜かすつもりなのか? ちゃんと仕事しろ! この引きこもり神め!
と、自分の力が弱くなった事へガックシとうな垂れる俺の目に、とある物が映った。
それは、シベリアスが持っていた剣「射手座の剣」だ。
俺は剣を拾い上げ、所持者だった者が燃え尽きた場所に落ちている鞘へと収めた。
そしてそいつを手に、ツングースカさんの元へと歩み寄ったんだ。
「ツングースカ師団長殿、ドロップアイテムです……お納めください」
何も言わずに、ただ受け取るツングースカさん。
そして一言――
「……ご苦労」
愁いを帯びた瞳で射手座の剣を見つめつつ、ポツリと零したのだった。
皆、何も言えず……重い空気が辺りを覆った。
と、そんな雰囲気を変えたのは、誰あろうツングースカさん自身だった。
「皆聞け! 私はまだこの場の最高責任者である。私がまだその権限を得ているうちに、貴様らに厳命しておくべきことがある!」
「「「はっ!」」」
皆が一斉に背筋を正した! 無論俺も。
「貴様ら! これは近衛師団長として、そしてこの場の最高責任者として命令する――」
一言置いて、皆を見渡し、ツングースカさんは続けた。
「 私 よ り 先 に 絶 対 に 死 ぬ な ! 」
毅然とした態度で、俺達に言い放った!
「なお、この命令は――今後私が死ぬまで有効である! 以上」
「 「 「 は は っ ! 」 」 」
皆が直立不動で、命令に服務する意を見せた。
「では、我々も帰還するとしよう……お城が気がかりだ、急ぐぞ」
「「「了解!」」」
帰還命令を発した後、レベトニーケさんを抱きかかえるツングースカさん。
「やれやれ、世話の焼ける悪友だ」
嫌事を零しつつも、その顔は優しい笑みを湛えている。
まるで、戦いなんかとは無縁な世界を思わせる、その表情……互いの友情と言う深い絆があればこそ、なのだろう。
……俺と大地。
この、元の世界で一度は揺らぎかけた友情も、こんな風に互いの絆によって、より強固なものになると信じたい。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!