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第八章 14 太一の必殺技《名前はまだ無い》

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 元の姿の二倍以上はあろうかという体となったブエルトリク。

 端整だった顔は醜く腫れ上がり、血の色のような赤い眼をらんらんと輝かせている。


「我が盟友を目覚めさせし褒美だ……存分に狂え」


 どこからとも無く、邪神ルシファーの声が響いた。


「 ヴ ヲ オ オ オ オ オ オ オ オ ッ !! 」


 全身に力を漲らせたブエルトリクが、感極まって叫ぶ!

 ものすごい変貌振りに、空気がピンと緊張し、恐怖を漂わせた。

 その圧倒的な勢いに気圧されたセルバンデスさんが、掴まれていたその腕を解こうとする。だが、彼の力をもってしても、ビクともしない様子だ!


「 ア ア ア ア ア ッ ! ……シネ……ヴァンパイア」


 まるでオモチャかぬいぐるみでも持っているかのように、セルバンデスさんを軽く振り上げ、地面に叩き付けた!

 一度、二度! あまりの衝撃に陥没する地面。

 そして大きく振りかぶり、―― ヴ ン ッ ! っと正面の岩壁に投げつけたのだった!


「セルッ!」


 アメリアスが思わず声を上げた。

 と、壁と衝突する寸前、ベイノール卿がセルバンデスさんを体で受け止めたのだった!


「マテリアライズしていた上に、邪神に取り憑かれたか……やれやれ、こいつは事だな」


 セルバンデスさんを優しく地面へと降ろし、ベイノール卿が首を振りつつ零す。


「下手をすると、奴は我々に匹敵する力を得たやも知れん……まぁ、その後は悲惨の一途を辿る事になるだろうがね……邪神に魂を売った者の末路は……」


 何か嫌な事を思い出すかのように、ベイノール卿が溜息をつく。

 そうだ。卿は一度、邪神に身を捧げた者と戦っているんだっけか……邪神に魂を売ったマリィとアニィの両親と。

 きっと、もう思い出したくもない記憶なのだろう。


 ならここは一つ――


「ベイノール卿、ここは俺が戦います。卿は一刻も早くグレイキャッスルへとお戻りになって、大魔王様の身辺をお守りください」

「ほほう、一端な事を言うじゃないか。なんとも心強い限りだねぇ~」


 俺を茶化すように言う。

 けれど、その瞳の奥には――俺への信頼の気持ちが伺えた。


「では、お言葉に甘えてそうするとしよう……セルバンデス、立てるかね?」

「はい、お館様……油断故の失態、申し訳ございません」


 流石はヴァンパイアだ。普通の攻撃では、あっという間に傷が治るらしい。でも、ちょっとフラついているところを見ると、回復が追いつかないほどの相当なダメージを受けていたんだろうな。


「いかな不死でも、回復を上回るダメージを受ければ、消滅もありうるからねぇ。以後気をつけるんだよ」

「はは!」

「アメリアス、マリィ、アニィ、帰るよ~」

「「「はい!」」」


 その返事とともに、ヴァンパイア一族の皆さんは踵を返して出口へと向かった。


「では、我々は先に引き返すよ……すまないが、後はよろしく」

「負けて帰ってきたら承知しないわよ? ゴハン抜きだからね!」


 アメリアスが俺を指差して言いつつ去っていった。

 飯抜きは困る……ちょっと気合入れてがんばろう!


「おい、でっけーの! 今度は俺が相手だ、今すぐ負けを認めるなら土下座して侘び入れろ! そしたら半殺しで済ましてやる」


「 ヴ ヴ 、 ヴ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ッ !! 」


 俺の挑発がトサカにきたのか、きったねぇ涎を撒き散らしつつ、猛烈に襲い掛かってきた!


「もう既に自我の崩壊が始まっている……情けも何もかけてやるなよ、死ぬぞ?」


 ツングースカさんのアドバイスだ。


「はい、判ってます!」


 とりあえず、一番慣れたお得意の攻撃魔法で様子を伺おう。


「ゲシュペンスト!」


 まずは分身で相手の注意をそらし――


「 ヴ ン ッ ! 」


 俺の幻影にその野太い腕でパンチを繰り出すバケモノに対し、背後から――


「アイス・アードラーだぁ!」


 全てを凍てつかせる氷の鷹を羽ばたかせ、奴の背中を氷河期にしてやった!


「ウグァアアアアッ!」


 苦痛や相手との力量の差なんかは、普通「心理的恐怖」へと転換される。

 だが、こいつは――邪神に魅入られた奴は、悲鳴は上げるものの、それを理解しないようだ。つか、そんな事も分からないほど、心が「壊される」のか。

 恐怖を覚えない敵ってのは、実に戦い辛いもんだな。なるほど、ベイノール卿がウンザリするのも頷けるよ。


 と、そんな一瞬の思考の隙を突いて、ブエルトリクが振り向きざまに大振りの右拳を放ってきた!

 ぐ、ヤバイ! 咄嗟に両腕でピーカブースタイルのガードを繰り出す。


「 ド ゴ ォ ン ッ ! 」


 両足を踏ん張っていても、五メートルはズザザァーッ! と吹き飛ばされたであろう破壊力。

 ガードしていたにも拘らず、その後ろの頭の中まで伝わり響く衝撃! 脳みそを揺さぶられるような感覚だ。

 一瞬眩暈を覚えそうになるも、すぐさま気を張り、正面の敵と対峙する。

 ははは、俺もたいしたもんだと思う。

 こんなにすっげぇパンチをもらっても、怖気付く事無く、無意識に次の攻撃へと備えているんだからさ……これも俺に取り付いてるって言う例の神様のお陰なんだろう。


「ウルフ・ザ・スタンピード!」


 もらってばかりでは悪いので、雷光の狼を右腕にまとい、迫り来る巨影へと渾身のパンチ!


「うりゃああああッ!」


 ド ォ ン ッ ! と言う炸裂音が響き渡った。

 ブエルトリクのボディーに深々と突き刺さる、いい一発だ!

 そしてヤツの体にイカヅチが迸り、電熱がその身を焼き払った。


 コゲ臭い匂いが鼻を突く――どうだ、脳天までシビレただろ?


「ガアアアアアアアッ!」


 耐えやがった! 効いちゃいるようだが、もはや痛みまで分からなくなったのか?

 どうやらそんな「心」を失った奴は、死ぬ事を恐れないようだ。これじゃただのゾンビじゃねぇかよ!


「ウオオオオオオオッ」


 そしてさらに「お返し」とばかりの左拳が、弧を描いて俺の右側面から飛んできた!

 迷いや恐怖が無いから、次への対応が早い。そして俺はうだうだ考えて―― ゴ ッ !


「ぐわっ!」


 モロにくらっちまった!


「くっそー! いってぇな!」


 プレイヤーの特典である「痛みには上限がある」のお陰か、それとも俺に憑依しているアポルディアって神様のお陰か、そこそこ耐えれるダメージだ。

 とは言え、まだまだぜんっぜん戦えるのは、まぁきっと後者のお陰だろう……今チラリと自分自身のステータス画面見たけど、ヒットポイントが一万以上ってお前……俺、よく普通にこんな奴らと戦ってたよな。


「今の一撃で、ダメージ七百程か。普通状態の俺なら二~三度は死んでたな……」


 今の自分のヒットポイントからして、そんなに驚くような攻撃じゃない。が、数をもらえば些かピンチになるかも。

 ここは一つ、一撃で高ダメージを与えないと、ズルズルとした戦いは、まともな神経の俺には不利になるかもだ。


「くっそ、何か高ダメージを出せるファイナル・ブロウはなかったっけかな?」


 相手の動きに気を回しつつ、自分自身の繰り出してきた技に思いを馳せる。けれど……どれもこれも「武器」を使ったばかりだ。

 そしてその武器は――はて、記憶が曖昧だな? 現在の俺のレベルじゃ使えないって事なのかな?

 ちくしょう、ともあれ何か武器が欲しい! ――と、そんな俺に!


「ベオウルフ! こいつを使え」


 大地が声をかけ、何かを放って寄越した。こいつは……グエネヴィーア!

 落ちている射手座の剣や慶次郎の持っていた剣もいいかもしれないが、やはりここは使い慣れた俺の愛刀のほうが断然いい!


「あ、ありがてぇ! 恩にきるぜ、大地」

「ああ、礼は勝ってから言ってくれ」


 なんだかしっくりくるよな――俺の相棒!


「グエネヴィーアよ、俺に惚れているんだってな? ならさ、悪いけどちょこーっとだけその力を貸してくれよ!」


 そう剣に囁き、「むちゅ~」っと、あついヴェーゼを刀身へと捧げた。


 その瞬間! グエネヴィーアがロゼ色に輝きだし、俺に力が漲る!


「う……やっべぇ! グエネヴィーア姫が怒った」


 いや、違うな。怒ったんじゃない、俺の望みに答えてくれたようだ!

 全身にドンッ! と力が迸る。アポルディアの力に、さらに上乗せされるような――まさに倍率ドンッ! ってな感じのフィーリングだ!

 なんだかこの剣(グエネヴィーア)となら、目の前のバケモノを瞬殺できると言う自信が満ちてくる。

 そしてその自信は、いつしか確信へと変わり――


「食らえ、ブエルトリク! まだ名も無い俺の必殺の剣技ソード・ブロウだ!」


 地面を蹴り、襲い来る邪神の傀儡へと飛び掛る。まるで自分自身が一個の武器になったような感覚――そう、グエネヴィーアと一体化したような感じだ。

 

「でやぁッ!」


 真紅の輝きが俺とグエネヴィーアを包み――――奴の心臓のあたりを貫いた!


「グアアアアアアアッ!」

「これでどうだぁッ!」


 スタっと着地を決め、振り返りざまに気合の篭った叫びを投げかける。

 ブエルトリクの全身を、鮮烈な赤の炎が包む。胸にはぽっかりと向こう側を見通せるほどの穴。よし、勝負あった!


「ははっ! やりましたよ、ツングースカさん! ベルーア、チーベル! みなさん!」


 思わず出たガッツポーズ。そして大地に向かい、喜びと感謝を伝えた。


「ありがとう、大地! お前のお陰で素早く倒せたよ!」

「そうか、よかったな」


 微笑み返す大地。なんだかんだ言って、やっぱ大地は信頼できる「友」だよな。


「とりあえずグエネヴィーア、お前に返すよ」


 そして「感謝の証」として、本来の持ち主に、その剣を返そうとした。


「いや、いいさ……それはお前が持っていろよ?」

「な……い、いいのか?」

「ああ、いいさ」


 一瞬、大地の目が光る!

 その視線は俺にではなく――真っ赤な炎に包まれた、まだくたばりきっていないブエルトリクにだった!


「……ウガァッ」


 しまった! 油断したせいで、後ろから羽交い絞めにされちまった!

 コイツ、俺もろとも燃え尽きようって魂胆か?


「うわっ、アチチチッ! くっそ、離せよ!」


 しかし、セルバンデスさんですら振り解けなかったパワーだ。

 更には瀕死だってのに、まったく力が弱まっている気配は無い……ちょっとやそっとじゃ離れてくれない様子だ!


「ベオウルフ、その剣はお前にくれてやる……その代わり、俺はコイツをいただくぜ?」


 そう言いながら、大地は地面に打ち捨てられていた、一振りの剣に手を伸ばした。

 そいつは、慶次郎が最初に持っていて、使えないからと言って捨ててしまった、あの気品と格調にあふれた厳かな剣だ。

 その剣を鞘からスラリと抜き、ゆっくりと俺の方へと歩み寄って来た。

 そして身構え、ブエルトリクによって動けなくなった俺へと向かい――


「ちょ、お前……何を?」 


 ――手に持つ刃を、一直線に走らせたのだった!



「 う わ ぁ ぁ ぁ ッ ! 」


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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