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第八章 13 嘘質の計

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 まったく無防備に俺の右拳を受けたツングースカさんが、フラリとよろけて足元から崩れ落ちた。


「う……き、貴様」

「申し訳ありません、ツングースカ師団長殿。でも、わかってください! 彼はもう、死んでいるんです――」

「うるさい! だまれ!」


 まるで弟が死んでいる事を否定するかのように、俺の言葉を遮る。勿論、俺は黙らない!


「死者の思い出に縛られて、自らも闇へと身を置くのですか! 残される俺達はどーするんですか! しっかりしてくださいよ、ツングースカさん!」


 思いのたけをぶちまけた。

 けれどその言葉は、どこかしら自分へと――そう、自分の中にいるもう一人の誰かへと言い聞かせているような感じがした。


「私は……わたしはッ!」


 何故だろう、大事なものを失った気持ちは、狂おしいほどに分かる。

 でも、そこから立ち上がらなきゃだめなんだよ!


 そして、想いが届かなくったっていい。声を限りに、心にある言葉を叫んだ! 


「生きている俺達より、死んでしまった弟のほうが大事なのか! 俺は……俺はそんなものより、ツングースカさん――アンタの方がよっぽど大事だ!」

「…………な、何を……」

「俺はこの先、アンタに生涯恨まれ続けてもいい! 手を下されたってかまわない! だけどツングースカさん、アンタを立ち直らせるためだ……シベリアスを――いや、アンデッドのバロウワイトを、この手で冥府へと送り返してやる!」


 俺の手にまた、金色の狼が雷光を放ちながら宿る。

 ゆっくりと歩み寄ってきていたシベリアスが、目標となる俺の殺気を感じてか、不意に叫びながらダッシュで距離を縮めてきたのだった!


「ゴガァァァァァアアアアッ!」

「いいぜ、かかってきな! ウルフ・ザ・スタンピードぉ!」


 俺はその場に留まり、相手のカウンターを狙った。

 瞬く間に縮まる奴と俺との距離……せめて一撃で、苦しまずに。

 そして俺の攻撃範囲に入る――そのとき!


「バシュッ!」


 突然、俺の前に誰かが立ちはだかる。

 そう、それは手刀の赤い一閃だった。


 その人は、左手を水平に、真一文字に薙ぎ、突進してきたシベリアスの首を――討ったんだ。


 あまりにも見事なその仕事に、俺は息を呑んで見入る事しかできなかった……。


「ツ、ツングースカ……さん」

「…………」


 跳ね上げられたシベリアスの首が、鈍い音を立てて地面へと落ちる。

 途端、シベリアスの体が、静かに崩れ落ちた。

 やがて青い炎に包まれた、その体と頭。

 ツングースカさんは、そんな頭部を優しく拾い上げ、抱きしめた後「せめても」と離れた胴体に戻してあげたのだった。


「シベリアス……我が弟よ……この姉を恨むがいい。だが、もう迷わず黄泉へと旅立ってくれ……」


 肩を震わせ、そう一言零すツングースカさん。

 そして俺へと向き直り、いつもの凛々しい表情でこう告げてきた。


「私の任務はこれにて完了だ。あとは貴様に任せる」

「え? あ、いや……任せるって?」

「この先、邪神を屠るのは、どうやら我々ではなく、貴様の宿命のようだ……期待しているぞ」


 そう静かに呟き、踵を返して、ツングースカさんはレフトニアさんとライトニウスさんの元へと歩み寄った。


「すまない、貴様ら。この後、我が失態を償わねばならん……貴様らとは縁遠くなるかもしれん」

「閣下……」

「……」


 レフトニアさんが、涙しながら声を詰まらせる。

 そしてライトニウスさんは、己の牡羊座の剣を、無言でツングースカさんへと引き渡そうとした。 それは、敵意が無い事を態度で示す、一種の作法のようなものなのだろう。


「要らぬ気を使うな、ライトニウス。貴様の心のうちはよく分かっている。上官としての長年の付き合いをなめるなよ?」

「我輩は閣下が行かれるところ、どこまでもお供いたします。例え、付いて来るなと言われても」

「……此度の我等が幽鬼の非、国許にて裁きを受けます……それまではどうか、閣下の下で……」


 二人の言葉に、満足そうな笑みを浮かべるツングースカ師団長殿。

 そして盟友でもあるレベトニーケさんの元へと歩み寄り、苦笑いで言った。


「まったく。国へ帰ったら、二人とも大目玉じゃすまんぞ? レヴィ」


 そして改めて俺へと向き直り、一言。


「あと残るはゴミ掃除のみだ、引き上げの準備をしよう」

「の、残るはゴミ掃除だけって……アメリアスがまだ人質に――」


 と、壁際に押さえつけられていた人質のアメリアスへと目を移し……人質のアメリアス……あれ?


「ふぅ……ん? な、何よ?」


 手の埃をパンパンと払いながら、一瞬バツの悪そうな表情を見せるアメリアス。

 おいおい? お前……いつの間に開放されて……って、そこに立ち上る三つの煙、それってお前を人質に取っていた幽鬼の三匹じゃないのか?


「そうよ、私が殺ったの」

「え? で、でもお前――」

「こんな奴に人質にとられるような私だと思って? ましてやマリィとアニィもいるってのに」

「え、そ、それじゃあ……人質にされてたのは……芝居?」

「そうよ、文句ある?」


 いけしゃあしゃあと悪びれもせず言うアメリアス。おもっくそ文句あるわ!

 つか、俺の心配を返せ!


「すまないねぇ。いや、これもベイノール家の奥義、人質となって敵の油断を誘う『嘘質の計』だよ」

「はぁ?」

「いやなにね、我々は先の一件でシベリアス君と遭遇していたからね……卑劣な策により心を囚われるであろうツングースカ殿の目を覚まさせる意味合いも込めて、前もって娘達と打ち合わせしていた通りに芝居を打っては見たのだが……君が『何かに目覚める』とは思いもしなかったよ」


 やっぱベイノール家の人達は信用できねぇ……。


「お陰で私の渾身の芝居がバカみたいじゃない……まったく」

「ははは、いやいやお前の涙はよかったよぉ~」


 笑いながら、セルバンデスさんから手渡されたタキシードを羽織るベイノール卿。


「まぁ、結果オーライだ……後はその『自称戦略家』を生け捕りにして、御前裁判に引き出せば、一応の終わりをみられるねぇ」


 ベイノール卿が、鋭い眼光でブエルトリクを見据えて言う。

 ちょ、ちょっと待ってくださいよ! ツングースカさんもベイノール卿も、もう終わったかのように簡単に言いますけど、まだアスタロスとのケリがついていないんですよ!

 皆で力をあわせて――


「いや、残念だが……奴は逃げ果せてしまっている。君の蹴りの後、この場から姿をくらませたようだ」

「えぇ! そ、そう言えば……奴の気配が無い?」

「ああ。君の蹴りの力を利用し、邪神が住まう異世界への空間を開き、そこに身を隠したようだ。どうやら奴は、物理攻撃の威力の一部を、瞬間移動の力へと転換できる能力を持っているようだねぇ……」

「な、なんだって? そ、そう言えば、アイツをぶっ飛ばした後、思いがけない場所から出てくるのはそのせい……じゃ、じゃあ俺は利用されちまったって事?」

「それはどうかは分からないよ。君の存在に恐れをなして、咄嗟に逃げ出したのかも知れないしねぇ」


 そう、俺は……いや、俺の中の神様は、過去に激戦の末、奴をサシでぶっ倒している。

 そして今回は、神様に近い力を持つ者達が敵として居る。そんな状況を鑑み、流石に分が悪いと踏んだのだろう。


「さぁて、では早速その小者を捕らえ、ゴーンドラドへと戻ろうか。流石にグレイキャッスルが心配だ。――セルバンデス!」

「ははっ」

「あの者を捕らえよ」

「御意に」


 そう短く返したセルバンデスさんが、哀れにも「私の計画が……これは何かの間違いだ!」と、現実を受け入れられずに喚いているブエルトリクへとにじり寄った。


 と、そんな惨めな幽鬼へと、何者かの声が問いかける。


「幽鬼の子よ、我が助けが必要か?」


 それはどこからともなく、響き渡る声。

 まるで、地獄の奥底から滲み出たような、恐怖と邪悪さに満ちた声だ!


「は、ははっ! 我が主よ! どうか、私めにあなた様のお力添えを!」


 天を仰ぎ、叫ぶブエルトリク。


「これは――邪神の親玉ルシファーだねぇ。いつ聞いても嫌な声だよぉ……セルバンデス、早々に仕留めよ!」

「御意!」


 一瞬姿を消すセルバンデスさん。だが、今の俺には気配で分かる。

 目にも留まらぬダッシュで、瞬時にブエルトリクの背後に付き、闇と血をかき混ぜたような禍々しい色のオーラをまとわせた右腕を用い、幽鬼の背中を貫手で一突き――しかし!


「遅いわ! 愚かなヴァンパイアめ」


 背中を見せていると言うのに、ブエルトリクは咄嗟にセルバンデスさんの突きを右手で掴んで止めた。


「くっ、なんという握力! こ、これは!」


 見る見るうちに肥大化する、幽鬼の右腕。

 いや、それだけじゃない! 足も、体も、頭も、全身が巨大化していく!

 貴公子然としていたその姿は、気品や気高さとはまったく無縁な……そう、見事なまでに別のバケモノとなり、俺達の前に、その醜悪な姿をさらしたのだった!

 

最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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