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第八章 12 太一、覚醒

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。

 一歩、また一歩と距離を縮めてくるベイノール卿。

 その背後には、卿のタキシードを大事そうに持つセルバンデスさんの姿。

 そして俺の前で歩みを止め、小さく語りかけてきた。


「すまないねぇ、タイチくん。せっかく我が娘と友達になってくれたというのに……」


 ベイノール卿からの申し訳無いとの一言……あぁ、どうやら進退窮まったようだ。


「うぐぐ……無念」


 項垂れ、断腸の念を呟く事しか出来ない。

 俺如きがベイノール卿を敵に回せば、あるのは絶対的な「死」のみなのだから。


「……ベイノール公爵……さぁ……その愚かな魔族を葬ってしまえ……」


 スペクターの一人が、ベイノール卿の側にふわりと降り立ち、耳打ちするように囁く。

 しかし、そんなスペクターを眼光鋭く睨み付け、ベイノール卿は言い放った!


「下等霊体の貴様ら如きが、この私に言葉をかけるなどと……身の程を知れぃ!」


 一瞬、ベイノール卿の右腕が消えた! そしてその直後……スペクターに異変が。


「……お、おお……な、なにヲヲヲヲヲヲ ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ ッ ! 」


 瞬く間に、スペクターの体中に幾本もの闇の裂け目が生じ、ナマスとなって消滅してしまった!


「フフフ、タイチくん……すまないと言ったのは、何も君をどうこうしようと言うのではないのだよぉ……安心したまえ」


 そう静かに呟き終えると、今度はこの場全体をビリビリと震わせるような大声で――



「 我 が 娘 、 ア メ リ ア ス ・ ロ デ ィ ・ ベ イ ノ ー ル よ ! 」



 と、叫び放った!


「は、はい! お父様」


 壁際で、幽鬼により自由を奪われているアメリアスが、声をかぎりに答える。



「 私 は こ れ よ り 、 鬼 畜 道 に 落 ち よ う ! 娘 の 命 を 省 み ぬ 、 修 羅 と 化 そ う ! 」


「はい! 私は喜んで、この身を捧げましょう!」


 アメリアスが……意を決し、微笑みながら言う。


「だが、安心したまえ……お前一人では行かせないよ……この父も、共に行こう」

「お……お父様」


 アメリアスの瞳が潤む……そして美しい一雫が、彼女の頬を伝い落ちた。


「すまないねぇ、アメリアス。このような下賎な奴等の言いなりになって動くというのは、私の矜持が許さないのだよ……父のわがままを許しておくれ」

「お父様、私もベイノール家の人間です。何時いかなる時にでも、死を覚悟しておりますわ!」


 それはきっと、正真正銘本当の心構えなのだろう。


 だが! 何のために死ぬんだ?


 こんなチンケな野心家のせいで、邪神復活なんて糞つまんねぇ事に巻き込まれて、そのうえプライドを守るために死ぬってか?

 そうなると、きっとセルバンデスさんやマリアニ姉妹も後を追うに決まっている……冗談じゃない、そんな事させてたまるか!


 ……だからって、俺に何ができるよ? 何の力もない、スペクター程度にてんてこ舞いしていた俺がさ…………。


 ううん、分かってる……できるよ。


 そう、きっとどうにかなる。

 いや、ならないまでも、この場の空気を変えてやる事くらいは出来るはずだ!


 あぁ、そうさ。

 俺の脳内の会議メンバーが、口を揃えて合唱してやがるんだ。


 「邪神の力を得ろ!」って。


 だが、それをやっちまうと俺はどうなるんだろう。

 仮にこの場のピンチを打破したとしても、その後は?

 慶次郎のように憑き殺されて、元の世界に戻れたかどうかも分からない死に方をするかもしれないんだぜ?


 いやいや、臆するなって! 完全に邪神が俺の体を乗っ取る前に、誰かに殺してもらえば済むだけの事じゃないか。

 俺がこの世界で死んだって、どって事はないさ!

 ましてや、俺の命とベイノール家の皆さんとなんて、秤に掛けられないほどの差があるんだ。ためらうな、俺!


 おまけに、だ……見てみろよ、大地が超ピンチ状態だぞ? 「古い友人(・・・・)の危機」なんだぜ? 早く助けなきゃな。


 それに邪神の力を借りて邪神をぶっ飛ばすなんて、ちょっと洒落てるじゃないか?

 俺は好きだぜ、そう言う酔狂な事ってさ。


「ベイノール卿、暫しお待ちください。どうか俺に……俺に機会を与えてくださいませんか?」

「んん、何を――」

「ベイノール卿、ツングースカさん、そしてベルーア、アメリアス……実は俺――――――――邪神に魅入られているんです!」

「な、何ぃ?」

「な、なんですって? 太一さん、それってどういう――」


 ベルーアが驚き尋ねる。


「俺……こないだから怒りに身を任せると、とんでもないパワーが湧いてくるだ。それはきっと――邪神の力を借りているんだよ」


 そう言い終えて、預かっていたツングースカさんのコートをレベトニーケさんへとそっと掛け――「 覚 悟 完 了 ! 」俺は決意を固めた!


「……何を……言っているのかね? 君は」


「ははは、つまりは……こういう事です!」


 一瞬で、敵との間を詰める事ができると感じた。

 それはあの時――パレーステナの村での戦いのように、今の俺の体が「絶対できる!」と言う根拠のない自信に満ち溢れているんだ。


 ぶっ飛ばせると思った。

 それは、俺の数少ない経験からの憶測ではなく、幾千、幾億と言う戦いの経験と記憶が導き出した「答え」なんだ。


 そう。

 今まさに俺は、ペリデオンたる大地へトドメの一撃を見舞おうとしている邪神アスタロスへ一瞬で距離をつめ、雷光の狼(ブリッツ・ウォルフ)をまとった渾身の右拳を――



 ぶち込める、と確信したんだ!!



「 喰 ら え ! |お お か み が き た ぞ ぉ(ウルフ・ザ・スタンピード)!!」



 奴の油断しきった横っ腹へと、ソイツ(・・・)は見事に炸裂した!


「 ―― ッ ! グ ワ ァ ッ ! 」


 電撃を体中にまといながら、左の壁まで吹っ飛ばされるアスタロス!

 壁に埋もれて瓦礫に沈むその姿を横目で見ながら、俺は大地へと言ってやった。


「助けに来たぞ、ペリデオン!」

「ぐっ……ま、まさかその技……貴様、アポルディアか!」

「アポルディア……? それって元々俺に取り憑く筈だった神の名……あ、ああそうだ!」


 大地に言われて、なんだか納得がいった。

 そう、そうだよ! この力って――邪神ではなく、あの引きこもりの神様「アポルディア」なんじゃないのか?

 だがちょっと待てよ、そもそもなんで俺に?

 そしていつの間に?

 神憑起こした覚えはないぞ? 

 それに……なんだか曖昧だけど、記憶を持ってるって事は、神様と同化してるって事じゃないのか?


 ――いや、自分自身でマルりんとの会話の時に言ったじゃないか……


『って事は、あれだな。逆に最初っから同化して現れる奴もいるって事か』


って。


 それが……それが、俺? 



 ま 、 そ ん な 事 ぁ 今 は ど う だ っ て い い さ !!



「ペリデオン、言っただろう? お前は戦いの最中、優位に立つとすぐ気を抜く癖があると。前回同様、今回もそこをアスタロスに突かれたんだ」

「な、何……?」

「前に戦った時もそうだったが……ヤツめ、戦いのペースとスピードを、お前に悟られないレベルで徐々に落とし、お前が優位に立ったと勘違いさせたんだ」

「ぐっ……!」


 まるでその通りだと言わんばかりに、大地は言葉を詰まらせる。


「まぁ、それはそれでいいさ。しばらく休んでな」


 そして今度は、アスタロスが埋没している瓦礫の山へと向き直り、次の説教相手に声をかける。


「何だアスタロス! かくれんぼか? いつまで瓦礫の中に隠れているつもり――」

「……相変わらずだな、お前も」


 いつの間にか、俺の背後にいるアスタロス。

 ――だが!


「分かってるよ、後ろだろ!」


 まるで後ろにも目があるような感覚だ。

 微かな音、微弱な匂い、空気の揺れ、見なくとも気配だけで十分だ。

 そして無意識のうちに繰り出していた、右足での蹴り!


「何ッ! うぐわっ!」


 それは、忍び寄って俺を蹴り飛ばそうとしていたアスタロスにカウンターで決まり、見事な返り討ちを見せたのだった。


「何度も同じ手を食うかよ! もっかい瓦礫に埋もれてろ」


 けたたましい爆砕音が響き渡る。

 今度はなかなかの手ごたえ……いや、足応えと言ったところか?


「な、なんだとっ! 奴は……あの雑魚魔族はあんなにも強き力を有していたと言うのか!」


 ブエルトリクが、わなわなと震える声で言う。

 思いがけない伏兵に、またぞろ自分の策を邪魔されて、悔しいのだろう。


「こ、こうなれば! バロウワイトよ、ヤツを、あの魔族をアスタロス様と共に葬ってみせよ! 」

「うぐっ……うがぁぁぁぁぁああああ!」


 マルりんと対峙していたシベリアスが、命令に反応し、目標を俺へと変えて、ゆっくりと迫ってきた。


「そしてツングースカ師団長よ! 愛しき弟君と共闘できる機会を与えてあげましょう。さぁ、ヤツを弟と共に倒すのです!」

「な、何……し、しかし!」

「さぁ、ぐずぐずしないでいただきたい! あなたの愛しき弟君が、あの茶色い魔族めに倒されるかもしれないのですよ!」

「そ……それは……駄目だ!」


 暗示にかかったような空ろな目をしたツングースカさんが、俺へと襲い掛かってくる。


「すまない……弟が……弟のためなのだ!」


 ツングースカさんの左拳が、俺へと飛んで来た!

 が、俺は避けずに、それを無防備なまま受け入れたんだ。


「 ゴ キ ッ ! 」と言う鈍い音が、俺の右頬から体中へと駆け巡る。

 けれど、感じたのは普通の痛みじゃない。

 師団長殿の迷いと哀惜が伝わる、悲しい痛み。


 そのツングースカさんの左の鉄拳は、まったく精彩を欠いていた。

 普段の彼女のゲンコツは、こんなものじゃないさ。

 こみ上げてくる憤り。俺の知ってる師団長閣下は、こんな方じゃない!


「いい加減目を覚ましてください、ツングースカ師団長!」



 ―― ド ガ ン ッ !



 そんなやり切れない思いと、いつもの彼女へと戻ってほしいと言う懇請を込め、俺は――ツングースカさんを思いっきりブン殴ったのだった。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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