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第八章 11 最大の危機

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 繰り広げられる二つの激闘。

 だが、それらの戦いに、「決着」という言葉は縁遠そうに見えた。


 拮抗した想像を上回る力同士と言うのは、派手な一発が決まらない。

 繰り出したところで、大きな隙を生じさせてしまう悪手に過ぎない事を、誰もがわかっているんだ……俺以外は。


 「何やってんだよ! ガーンと行ってばばーんとデカいの繰り出せよ大地」と言う俺の野次に、ベイノール卿が前出の解説をくれたお陰で、その事に気が付いたよ……俺、なんかカッコ悪い。


「にしても……あの雑魚の言う通り、ここいらで大きな変化がほしいところ。行け、バロウワイト! 貴様のその射手座のサジタリアスで、あの滞った拮抗を崩してやるのだ」


 ブエルトリクの言葉に反応したバロウワイトのシベリアスが、弓の形を象った鍔と矢を模した柄が印象的な剣を振りかざし、大地へと迫る!


「にゃはは、それはダメですよぉ~」


 暢気で場違いとも思われるかわいい声が、その突進を遮った。マルりんだ!


「それー! そっちの射手座の剣とあたしの『トゥリスタン』、どっちが強いか勝負だ~!」

「ゴガァァァァァアアア!!」


 そして新たに、もうひとつの戦いが生まれた。

 マルりんとシベリアス、互いの剣が激しい金属の衝突音と共に美しい火花を散らし、力を競い合う!


 それぞれの三つの戦いは、どれも緊迫と予断を許さない。一瞬でも気を抜けば、それだけで態勢が崩壊する危険をはらんでいる状況だ。

 そんな戦いに、ここにいる全ての者が気を取られている。無論、ブエルトリクも、そのほかの幽鬼達も。

 もしかして、これっていろいろ動けるチャンスじゃないかな?

 となれば、まずは重症のレベトニーケさんを助けなきゃ!


「チーベル、ついて来い」

「は、はい……でもどこへ?」

「レベトニーケさんを救うんだ」


 と、そんな俺の行動を見て、ブエルトリクが言う。


「雑魚よ、何をするつもりだ?」

「レベトニーケさんの傍に居てやるんだ。何もできない俺の、せめてものできることさ」


 そんな俺の嘘答えを聞いて、幽鬼の貴公子が鼻で笑って言った。


「ははは、魔族の小物にしては殊勝な心構えだ。彼女の傍で、己の無力さを改めて知るがいい」

「フン、笑ってろ」


 俺は至って堂々と、レベトニーケさんの元へと歩み寄った。

 下手にこそこそ隠れて動くと、いらぬ注意を引きかねないからな。

 そして俺は、レベトニーケさんの傍らで途方にくれている二人のサキュバス少女に、小さく声をかけた。


「おい、キューメリー、アルテミア」

「……な、何――ひぃ! お、男!」


 突然、キューメリーが怯えた声を上げる。一体何なんだ?


「あのね、キューメリーちゃんはね、男がキライなの」


 少し舌っ足らずな口調のアルテミアが、彼女の怯える訳を教えてくれた。

 って、お前サキュバスだろ! 男が苦手って……それ、致命傷じゃないのか?


「こ、こわい……ものは……怖いんだから……仕方ないでしょ!」


 震えながら言う……あれま、相当重症なようだ。


「で、お兄ちゃん何のようなの?」

「あ、ああ。これからレベトニーケさんのダメージを回復する。気づかれた場合、全力で敵を排除してくれ!」

「えぇ! か、回復できるの!?」

「しぃ~! 声がでかい」


 えへへ、とばかりに舌を出すアルテミア。

 そしてそんな俺の提案に、キューメリーがおっかなびっくりだが、賛同の意を表してくれた。


「わ、わかった……敵を寄せ付けなければいいのね?」

「ああ、頼むぜ?」


「 ひ ぃ っ ! 」


 返事もろくに返せやしない……ダメだこりゃ。

 それはさておき、だ。早速闇医者チーベルさんに、回復魔法をかけてもらわねば。


「了解です! ではいきますよー」


 チーベルが両の掌をレベトニーケさんへとかざし、漆黒の輝きを放つ。やがて傷口は塞がり、幾分血色も回復してきたように見受けられた。


「ふぅ、あと二回が限度ですね。でもそれを施し終えれば、峠は越えると思われます。その後は、レベトニーケさんの意識が戻るのを待つだけですね?」


 額の汗をぬぐいつつ、チーベルが再度回復魔法を唱えようとした。しかし! ここで俺達の行動が、幽鬼共にバレちまった!


「……きさまら……なにを……」


 宙を舞う半透明なヤツが、俺達の周りを取り囲んだ。どこに潜んでやがったんだ、こんなやつら!


「中級幽体のスペクターだわ! こいつらは普段、闇に姿をくらまし、潜んでいるのよ」


 白いボンテージ姿が戦闘態勢を取りつつ、「奴等」についての知識を語る。


「レベトニーケを回復させたのか? いかなる手段を用いたかは知らんが、雑魚の癖に小ざかしいな。スペクター達、そいつらを食らい尽くしてしまえ!」


 ブエルトリクの一言により、わっ! っと湧き出る幽霊の皆さん。その数……二十体以上は居るぞ!


「お姉さまには指一本触れさせないわ。食らえ、ローザ・パイチェ!」


 キューメリーのムチがしなり走る。標的となったスペクターがそれをモロに受け、悶え苦しみながら地面へと落ちる。

 と、突然青白い炎をまとって燃え尽き、やがて一筋の煙となって消えうせた。


「『悪夢の毒ギフト・アウプトラウム』で、あなた達の『死の記憶』を思いださせてあげるわ。在るべき冥府へとお帰り!」

「あれは恐怖の記憶を呼び覚まし、全身にまで浸透させ、戦闘不能に陥らせる、キューメリーちゃんのブロウのひとつです。下層幽鬼のような精神の弱い子には、かなりおっかないです」


 ロリっ子アルテミアが、キューメリーのブロウの解説を言い終えると、自らも大きなポールアックスを引っさげて敵の中へと躍り出た。


「それぇ! 地龍の一撃グランドドラッヘ・シューラーク!」


「 ヴ ン ッ ! 」と空を切る音とともに、一気に数体のスペクターをなぎ払う!

 中級とはいえ、彼ら幽鬼もそれなりに強い魔物。俺はと言うと、ローエン・ファルケで敵を追い払うのがやっとという有様だ。が、このサキュバス少女二人の前では、ただの雑魚にすぎなくなると言うのは、なんとも頼もしい限り……が、しかし! 如何せん数が多すぎる。

 助っ人を求めてレフトニアさんとライトニウスさんへと目を向けると、二人はどうやら動かない様子。

 いや、きっと動けないでいるんだろう。

 ライトニウスさんにとって、どちらに付くかは思案のしどころ……それを分かっているレフトニアさんも、彼女の動向をけん制する意味で、少し距離を置いて睨みを利かせているんだ。

 が、それこそ敵の思う壺だよな。

 労少なく実り多し……疑心暗鬼の種だけまいて、二人の大きな戦力を凍結させているんだから。


 なるほど、幽鬼のキザ太郎は口だけじゃなく、結構な策士家なんだろう。現に、アメリアスを人質にしてベイノール卿の動きを制御しているし、ツングースカさんに至っては、弟さんなんて飛び道具まで用意してくる周到さだ。

 俺やベルーアなんて雑魚には目もくれないと思いきや、ちゃんと小さなほころびすら見逃さない配慮も見せている。まったくやっかいな限りだ。


 そして大地達の戦いに目を向けると、その成果あってなのか、幾分押され気味といった感じだ。

 やはりアスタロスとペリデオンのタイマン勝負は、大昔からその実力の変化は見られない……若干だがアスタロス有利だ!


 やっぱここはあの時のように俺が助けに――――あれ? なんだ、その思い出は? 俺の妄想? パニくった上で想い描いた、俺の願望なのか?


「うわっ! クソッ!!」


 そんな事を考えている場合じゃない! ふと周囲の状況に目を泳がせた大地が、邪神の素早い突きを右肩に食らい、顔をしかめている。

 ほんの少しだけ見せた一瞬の隙を、アスタロスは見逃さなかったんだ。


「これで均衡が崩れたな――死ね! ペリデオン」

「うぐわっ!」


 左下段から右上段へと、一文字の閃光が走った!

 大地のまとっていた鎧が裂かれ、胸に斜め一直線の真っ赤なラインが走っている。

 間一髪身を引き、致命傷は免れた様子……だが、かなりの痛手!


「ペ、ペリデオン!」


 思わず声が出た。


「「だ、大地さん!」」


 ベルガもマルりんも、一瞬気を取られて叫び声を上げる。流石に大将の被弾には、肝を冷やしたのだろう。

 だが、そんな好機を逃すツングースカさんじゃない!


「くらえ! ロキシア!!」

「グハァッ!」


 ツングースカさんの渾身の左が、ベルガの腹に深々と刺さり込んだ!

 嘔吐物を吐き散らしながら、膝を折るベルガ。

 一角が崩れ、そして連鎖のようにまた一つ勝負が大きく揺らいだ。


「はっはっはッ! いいねぇ、流石だ! 一気に流れが変わったじゃないか……よし、この機を逃さずたたみ掛けよう」


 悪役特有の高笑いを見せた後、ブエルトリクがベイノール卿へと声をかける。


「公爵殿――申し訳ありませんが、一働きしては頂けませんでしょうか?」

「……何をせよと言うのかね?」

「なぁに、簡単なことです。まずはあの雑魚どもを蹴散らし、次いで天主の代行者共を一掃して頂きたい」

「ほう、それは何故かね?」

「なぜ? この現状を見るに、お分かりになりませんかな?」

「さて、わからんね」


 頑として突っぱねるベイノール卿。だが幽鬼のキザ太郎は、そんな卿に卑劣な一言を言い放った。


「お嬢様がどうなっても?」

「…………」


 言葉は無くとも、ベイノール卿のその内の怒りが激しく聞こえてくる。


「お父様! 私はどうなってもかまいません! 邪神を! そしてそのイケ好かないキザな下衆を引き裂いてください!」


 アメリアスの懇願にも似た叫びが響く。


 そして、兄貴は――


「そう、私が死ねば……お父様を縛るものは何も無くなる!」


 と叫び、突き付けられていた魔法威力を漂わせる剣へと、身を捧げようとした!


「ア、アメリアス! よしなさい!」

「ば、バカ! 何やってんだアメリアス!」


 間一髪! 剣を引いた幽鬼により、事無きを得た――クソッ! 人質としての役割を勤め上げろとでも言いたげだ。

 そして身動きを封じられるように、壁へと押し付けられるアメリアス兄貴。

 その力は、彼女のそれをも上回るのだろう……もがこうにも身動きすら取れないでいる様子だ。


「勝手な退場は許しませんよ、アメリアス嬢。もう少し辛抱なさい」

「おぼえてなさい、ブエルトリク! あなたの喉笛を引き裂いてあげるから!」

「まったく……聞きしに勝るお転婆娘だ。では、公爵――申し訳ありませんが、まずはあそこで無駄な足掻きをする雑魚を蹴散らしてくださいませ」

「……」


 ベイノール卿の返答は無かった。

 だが、卿は俺達を見据えつつ、ゆっくりと歩み寄ってきたのだった。


 大地が傷つき、ベルガが膝を折る。更には俺とサキュバス達の周りには、たくさんのスペクター共。

 そしてツングースカさんの助けが期待できない中、最大のピンチが、歩一歩と距離を縮めてくる。

 もう、俺には手段は無いのだろうか……。


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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