第八章 10 神々の戦い
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
アスタロスの蹴りによる一撃は、大地を沈黙させてしまった。
――が、地面に埋もれて、動く気配すら感じられないというのに、まだ邪神は戦闘態勢を解いていない。
って事は……。
「いい加減にしろ、いつまで地面の中に隠れているつもりだ……かくれんぼのつもり――」
大地がめり込んだ場所へと声をかけるアスタロスが、一瞬しまったという顔を見せた。
「上か!」
「正解ッ!」
いきなり上天井から降ってきた大地が、アスタロスの頭部を、まるでサッカーボールのように地面へと蹴り付けた!
「ぬぐわっ!」
あまりの衝撃に、アスタロスが右手と右膝を地面へと着いた。
そしてその拍子に、アスタロスの周囲の地面が見事に「ドゴッ!」っと陥没する! あいつ、いつの間に上に逃げてやがったんだ?
「ハハッ! 地面に落ちたのは、『幻影』に初歩の爆発魔法を重ねた合わせ技だ。意外と騙せたな」
「なるほど、初歩の魔法や技ほど見逃しやすい……ひとつ勉強になった。礼を言うぞ」
「あんまり効いてませんよ!」とでも言いたげな言葉を返す邪神。まだまだ序の口の戦いだというのに、まるでドラゴンボールの中盤あたりの戦いのようだ!
「これ以上殴り合いのケンカしたって埒があかねぇ……おい、べオウルフ! 悪いがお前の剣――グエネヴィーアを貸してくれないか?」
大地がこちらを見て言う。
か、貸したらそれっきりになるんじゃないのかよ!?
でも、元はといえば、こいつは大地の所有物だ。返さないってのもなんだか気が引けるし……。
「わ、わかった……終わったら返してね?」
「ああ……気が向いたらな」
ああ、やっぱり返す気ナッシングじゃねぇのか?
が、今はそんな事言ってる場合じゃないし――大地に賭けるしかないもんな!
「よし、久しぶりに俺の元へ帰ってきたか……この浮気者め」
大地が不敵な笑みを零す。まるで悪巧みの細工が隆々と完成し、ご満悦だと言うような表情だ。
「ほう、その剣……グエネヴィーアか。なつかしいな? ロキシアの血で大いなる力を得ているじゃないか」
「まぁな。不貞の女王様が他所でさんざ浮気しまくったお陰で、薔薇の月の威力は、十分に増大しているよ」
ローゼン・モーント! そう言えば、グエネヴィーアのステータス画面にそんな名前の技名があったっけか! 一体どんな威力の技なんだ?
「お前ってホント暢気だよな……ローゼン・モーント――初歩にして最大の技。『人間』の血を啜り、この剣自体が力をつけ、使用者にその恩恵を与える技だ。気付かなかったか? この剣を使っているうちに、どんどんと切れ味と威力が高くなってきていただろう?」
「あ、ああ……確かに!」
「この剣は、人の生き血を啜って成長する珍しいタイプの剣でな……そう、剣自体が生きているんだ」
「い、生きているだって!」
「ああ、剣自体に意思があるのは珍しくはない。が、成長するのはごく限られている」
なるほど、やたらと切れ味がよくなってきていたり、こくまろ王子との戦いの時に、俺を救ってくれたのはそのおかげだったのか。
「元来の浮気者でな、よほどべオウルフの事が気に入っていたらしい……俺が所持していた時より生き生きとしてやがる」
「ちょ、ちょっと待て! 人の――ロキシアの生き血って……自分でロキシアを殺すのは都合が悪いから、そのために俺へと剣を託したのかよ!」
「それもあるさ……つか、お前は魔物だから、人間殺したって後ろめたさとかないだろ?」
「そ、そりゃまぁ……」
い、一応は良心の呵責とかはあるんだぜ。立場上言えないけどさ。
「だが、俺を利用したってのはちょっと納得いかねぇ!」
「まぁそう怒るなよ、これでも一応は親切心で貸し与えていたんだぜ?」
うぬう、どこまで本気なのか……でもグエネヴィーアの事情からして、それが効率上一番いい手段かもしれない。
「わかった……まぁ信じよう。だが、手荒に扱ってやるなよ? 中の人がかわいそうだ」
剣自体が生きてるってんなら、DVの旦那みたいに粗暴に扱うのはやっぱ許されないもんな。
「ああ、わかってるよ」
本当に分かっているのかどうか……。
「ならば……私も得物を頂くとしよう」
そう言うと、アスタロスはゆっくりと瀕死のヤーク・ザ・ゴクドーの元へと歩み寄り、その腰からヤツの剣をスラリと抜き取って振りかざした。
「ほぅ、良き剣だ。なぜにこのような雑魚が持っていたか不思議ではあるな」
それは、蟹の爪を象った鍔を持つ、見事な一振りの剣だ。あれってもしかして……
「蟹座の剣とは……分不相応な得物を持つと、それに運命を食われてしまうという……なるほど、剣が主を変えるために、あのロキシアをこの場所へと導いたか」
ベイノール卿が淡々と語る。その直後、まるで前所持者との絆を断ち切るかのように、アスタロスが虫の息のチャラ夫にキャンサーの剣を突きつけ――
「お……オイ……ちょ……やめ……うぐっ!」
無情にトドメを刺したのだった!
「さて、準備は整った。では参ろうか?」
「相変わらず、なんでも強引に自分の物にしちまうんだな」
「世の半分くらいは私の物だ……おそらくこれも私の物だろう」
「おいおい、違ったらどーすんだよ?」
「そのときは……あとの半分の所持者のもの、つまりはルシファーのものだ。さして問題はない」
すげぇ理論だ、なかなか言えるこっちゃないよな。だが、それほどに戦いへの余裕があるのだろう。
「そんじゃま、お前ブッ飛ばして、その世界の半分とやらを戴くとするかな?」
「よかろう、参れ」
小さく零した言葉が合図かのように、一瞬で二人の距離が縮まり、「ガキィイイインッ!!」と言う衝突音と共に、刃同士が激しくぶつかり合った!
「まったく、神々の戦い好きにも困ったものだ……」
ブエルトリクが、やれやれと首を振って言う。
「ツングースカ師団長、すまないが手を貸してくれませんか?」
と、虚無の彼方へと落ちそうになっているツングースカさんへと声をかけた。またぞろ何か汚い事をしでかす気なのだろう。
「アスタロス様に手を貸し、あのロキシアを葬ってください」
「何……だと?」
「ただで、とは言いませんよ? この戦いが終われば、すぐにでも貴女のかわいい弟君を、最高のレイスとして蘇らせて見せましょう」
「……お、弟を……蘇らせる」
空ろな眼差しのツングースカさんが、ふらりと立ち上がる。
「我が弟の復活のため……クローフィ……ザキパーィエト」
途端、両の腕から赤い迸りが溢れ出し――大地へと駆けた。
――しかし!
「只今は神々の戦いの最中、いかなる手出しも無用!」
「ぐっ! な、何だ」
瞬時にベルガがツングースカさんの前へと立ちはだかった!
「この僕がお相手いたしましょう!」
「おのれ、邪魔するな!」
ベルガの上段からの切り下げを、右手の赤い閃光で受け止めた。
「弟のためだ、死ね!」
「悪いですが――」
ツングースカさんの左腕が、ベルガのがら空きとなった腹部を襲う!
だが、まるで「待ってました」とばかりの余裕とも取れるベルガのその表情に、師団長殿は一瞬の躊躇いを覚えたのか、咄嗟に攻撃を変更。
「チッ!」
―― ド カ ッ !
「くはぁっ!」
強烈な蹴りを見舞って、ベルガとの距離を置いたのだった。
そして両腕の迸りを収め、拳を握りしめる肉弾ファイトスタイルへと切り替えた。
「あはは、見抜かれた……かな?」
「その赤き鎧。『ザ・サン』か」
「バレてましたか」
テヘッと舌を出し、カワイコぶって笑うベルガきゅん。
「あの鎧も何か曰くがあるんですか?」
俺はベイノール卿へと尋ねた。
「あぁ、二十二の神威の鎧のうちの一つ。いかなるブロウをも弾き返す、赤き太陽の鎧『ザ・サン』。私も言い伝えだけしか知らないがねぇ……なるほど、よい逸品だ」
って事は、魔法かガチバトルでしかベルガには通じないって事なのか?
じゃあ、ツングースカさんがあまりにも不利!
「そうでもないよぉ~。君は彼女をあま~く見すぎだ」
そうベイノール卿が言った瞬間――ツングースカさんがベルガへとダッシュで襲い掛かる!
「ならば、拳でねじ伏せるまでのこと!」
まるで弾丸のような――いや、ミサイルのようなパンチが、ベルガの腹部を襲った。
そう、セフィーア戦で彼女の鎧をボッコボコにした、あのえげつない拳骨でのガチバトルの再現だ!
「ぐほっ! だ、だが僕だって!」
お返しとばかりに、細身の剣で無数の突きを繰り出す。
「ツッ! 中々良い太刀筋だな」
致命傷は取られてはいないが、流石に体中傷だらけのツングースカさん。
ちくしょう、俺は一体どっちを応援すりゃいいんだよ。
俺に力さえあれば……応援なんかじゃなく、このバカな争いを止められるのに!
ちから――くっそ! 俺の頭の中の会議場の連中が、よからぬ事を議題にして、脳内会議を始めてやがる……バカヤロウ、それに手ェ出したら……俺、即ゲームオーバー――いや、さっきの前田慶次郎を見ただろ? あんなんになっちまうんだぞ!
下手すりゃ元の世界に戻れない、戻っても廃人確定じゃないのか?
だが、この事態……一体どうやって収めればいいんだよ。
誰かいい方法があったら教えてくれ!
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!