第八章 9 リベンジ
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「 き 、 貴 様 ら ァ ! 我 が 弟 に 何 を し た ァ ァ ァ ァ !! 」
ツングースカさんが、烈火の如く猛り狂う。無理もない、これはひどすぎる!
「誤解無きよう。我々は、黄泉と此岸の狭間を彷徨っていた彼の魂を救ってやったまでの事。まぁ、そのための器たる体を肉体再生の秘術にて用立てしたのは、死者への冒涜かもしれませんが……」
いけしゃあしゃあと詭弁を打つ、ブエルトリクなる幽鬼。
その言葉に、怒り心頭なツングースカさんが我を忘れて飛び掛った!
「おのれ! 霊魂の一カケラ残さず滅殺してやる!」
が! ブエルトリクの号令一過、蒼黒きバロウワイトが、素早い動きで彼女と命令者の間に割って入った!
「ウガァッ!」
力任せに振り下ろした剣が、ツングースカさんをかすめ、地面へと突き刺さる。その衝撃で、石造りの床に大きな穴が開いた!
機敏な動きと馬鹿力もさる事ながら、手に持つ剣の威力のすさまじさが、この場にいる全ての者を驚かせた。
「くぅ……シベリアス! 私だ、お前の姉、ツングースカだ! わからないのか?」
その問いに答えはなく、ただ真っ赤な瞳がらんらんと「目標物」を視界に捕らえているだけだ。もはや命令者であるブエルトリク以外の言葉は通じないのだろう。
「ツングースカ師団長。我々は貴女と戦う意思は毛頭ありません。この若者も、我々の『善意』にて復活させたものであり、決して敵意や冒涜から現世へと舞い戻らせたものではないのですよ?」
「何ィ? 貴様、いい加減な事を言うな!」
「貴女の弟君は、この世に未練を残し命を落とされた……しかるに、死んでも死にきれずにいたところを、我々が救いの手を差し伸べたまでの事……なに、今はこのような姿ではありますが、先程も申した通りベイノール卿のお力添えさえあれば、ヴァンパイアとしての新たな道もあり、そして我々に組していただければ、レイスとして現世に返り咲く事も可能なのですよ?」
「ぐ……ぐぐ……貴様! …………わ、私に何をせよと言うのか?」
「流石は聡明な方だ、話が早い。『何もしない』で、良いのです――ただ、それだけ」
「見て見ぬ振り……か」
「左様です」
ツングースカさんが両膝を付き、力なく項垂れた。まるで迷いと葛藤と言う重石に押しつぶされているように肩を落とすその姿は、普段の彼女からは想像もできない姿だった。
「ツングースカ殿、目を覚まされよ! 彼はもう君の弟君たる魔族ではない。別の魔物だ! 心を、平常に戻したまえよ」
ベイノール卿の言葉は、ツングースカさんの耳には届いていない。もはや、誰の言葉も通じないだろう。
「私が動けぬ以上、君だけが頼りなのだよ! ツングースカ!」
「わ、私は……私は……」
わなわなと震えるその肩が、彼女の心の内を表している。
こんな心を弄ぶかのような、卑劣で破廉恥な行為を平然とやってのけるブエルトリクなる幽鬼、オバケとしてバケて出る際に「ロキシアとしての心」を全て取り払ったとしか思えないヤツだ。
こんな非道、許すわけにはいかない……「人」の心を持ったものならば、許しておく事はできない!
そんな思いは、どうやら俺だけじゃないらしい……。
「やれやれ、またぞろ魔物同士の仲間割れか? おい、ベオウルフ! 俺達はどっちの味方すればいいんだ?」
大地が俺に問う。
あいつらしいや……大義名分を得た上で、俺達側に助力してやろうと言う考えだろう。
んな、回りくどい事するなよな。
「 つ か 、 そ ん な 事 聞 か な く っ た っ て 判 る だ ろ ! 『 正 義 の 味 方 』 を し ろ ! 」
俺の受け答えを聞いて、大地が肩を震わせ、笑い始めた。
「ブッ……ブハハハハハ! そう、そうだよな! 俺達は正義のミカタなんだよな! 流石はタ……ベオウルフだ、そんな馬鹿みたいなアツさ、大好きだぜ?」
褒められたのやらバカにされたのやら……だが大地の心にも、ツングースカさんへの仕打ちを是としない感情があるのだろう。
それに――邪神の復活を手をこまねいて見ていた責任。そんなモノも感じているのかもしれない。
「てぇな訳だ、オバケ野郎。お前達の痴話喧嘩なんて俺には関係ない。ちゃっちゃと邪神アヌス太郎とやらをブッ飛ばして、お前らも片付けてやる」
「アスタロスですよ、大地さん」
流石は我が盟友大地だ、俺に匹敵するほどのなかなか良いボケっぷり。
そんなヤツへと、ベルガきゅんがお約束のツッコミを入れる。
どうやらチーム「ダイチーズ」は、邪神を前にしても余裕を見せているあたり、その実力にかなりの底上げがなされたのだろう。
「ハッ! ロキシア如きが何の寝言だ? 貴様が天主の代行者なる輩としてもだ、アスタロス様に害を成す事など――何!?」
明後日の方向を向きながら悠々と語るブエルトリクが、突然何かを感じ、一瞬言葉を飲み込んだ。
「な、なんだと? この力の沸き立ちよう……代行者の中に、もう完全同化を果たしたヤツがいるのか!」
「正解。そんなやつが三人もいるんだ、しかも上位ランカーだぜ?」
やはり大地は神様と完全な同化を果たしてやがった!
しかもベルガきゅんも同化を果たしていると言う。
おまけにマルりんが言ってた「神威ランク」なる力の、優劣順位の上位ランカーだ……なるほど、その力をいち早く感じ取り、ベイノール卿は大地達を警戒していたってのか!
「まったく……なぜ私の計画には、斯様な邪魔立てをするものが現れるのか? 私の完璧なる計画に、なぜ貴様ら如きイレギュラーが発生するのか!」
「さぁね、日ごろの行いが悪いんじゃないか?」
「そうですよ~、悪いことばっかりしてるから、お化けになって出てきちゃうんじゃないかなぁ~?」
大地とマルりんが茶化す。まったくもってその通りだ!
喧嘩ばかりする悪い子は、おばけになって口が大きくなったり爪が伸びたりするんだって、昔絵本で読んだ事があるぞ。
「おい、邪神アスタロス! お前だって俺達と戦いたいだろ?」
いつの間にか祭壇に腰掛け、事を傍観しているアスタロスに向けて、大地が言う。
「……そうだな、あの時のように遊んでやってもいいぞ? ペリデオン」
「おぉ~! こいつはうれしいね。過去の大戦での事を、まだ覚えてくれているのか?」
「貴様こそ……一度私の前に這いつくばった事、忘れたとは言わせんぞ?」
ギリリッ! と大地が歯噛みする。神の記憶を有しているが故の苛立ちだろう。
そう、あの時は俺が応援に駆けつけてアイツを間一髪――
―― ド ゴ ォ ン ッ !
不意に、爆発音が響き渡った! どうやら機嫌を損ねた大地が、苛立ち紛れに真空波系の魔法だかブロウだかを邪神へと繰り出したようだ!
だがそいつは、アスタロスの側をかすめ、祭壇を吹っ飛ばしたに過ぎない……あくまで威嚇、脅しの類だ。
が、眉一つ動かさない邪神を見るに、それは脅しにもならず、ただ悪戯に祭壇を破壊しただけに過ぎなかった。
まぁ大地としても、そんな事は小指の先ほども期待してはいないだろうけどさ……。
「来いよ、アスタロス。あン時のリベンジだ!」
「おもしろい、今度はアポルディアの助けはないぞ?」
「ぐっ! だまれェッ!」
挑発合戦は、どうやらアスタロスに軍配が上がった様子。大地が憤怒の表情で、祭壇で寛ぎ座る邪神との間合いを詰めたのだった!
「なめるなァッ!」
振りかざした大地の剣が、薄っすら黄金色に光る。どうやらあれも神威武器の一つらしい。
「雷光の闘士!」
大地が叫ぶ! まるでイカズチをまとった様な刀身が、邪神へと襲い掛かった!
雷の落ちる音が炸裂し、この場の空気を震わせた。天井から小さな落石が起きるほどの衝撃音だ!
――しかし! 大地が繰り出した攻撃箇所の煙が晴れ、結果をさらけ出すが――その場には誰もいなかった!
邪神も、おまけに大地もだ!
そして、その代わりのように、大地が持っていた剣が打ち転がっている……どうやら刀身が粉々に砕かれている様子!
「け、剣が破壊されてる!」
思わず声が出た。今の大地の一撃をかわし、瞬時に武器を粉砕するアスタロス。底知れない実力の持ち主だ。
だが二人は一体どこへ――?
と、反対側から激しく何かがぶつかる音! 振り返り見ると、いつの間にか二人が「そこ」にいた!
しかも互いの繰り出した鉄拳が双方の頬を的確に捉えている。そしてまるで磁石が反発するかのように、二人が後方へと弾き飛ばされ、岩の壁へと身をめり込ませたのだった!
「やっべぇ! 相打ちか!」
「んふ~、違うねぇ。アスタロスがカウンターを取ったようだよ」
ベイノール卿が、興奮しながら一瞬の優劣を見抜き、解説をくれた。って事は……大地がやられた?
「ぐはぁっ! いってぇな!」
埋もれていた岩の中から、ムクリと起き上がる大地。よかった、まだまだ元気なようだ。
「何だアスタロス! かくれんぼか? いつまで瓦礫の中に隠れているつもり――」
アスタロスが吹き飛ばされた場所に気を取られていた大地が、一瞬しまったという顔を浮かべた!
「……相変わらずだな、お前は」
「くそっ!」
いつの間にか大地の背後にアスタロスが! そして強烈な蹴りが繰り出され――
「うぐぁっ!」
大地が天井へと叩きつけられた!
そして、まるでピンボールのように跳ね返り、地面へとめり込んだのだった。
「だ、大地さん!」
ベルガが心配の声を上げる。
この戦い、流石の大地も分が悪いのだろうか?
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!