第八章 7 トリオ・ザ・最高幹部
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「さぁ、いつまで寝ているのかねアスタロス。早く起きたまえよ!」
ベイノール卿が、ピクリ……ピクリと痙攣を起こす首のない慶次朗の亡骸を前に、仁王立ちとなって挑発を投げかける。
「貴様ら、下がれ! 卿は本気で戦うおつもりだ。巻き込まれても知らんぞ?」
ツングースカさんが、俺とベルーアに声をかける。そんなに激しいバトルが巻き起こるんですか!
「ああ、とにかくベイノール卿は一度暴れだすと手が付けられん。まさに喧嘩番長だ」
「その昔、まだ我輩の父が若かりし頃。卿とは大魔王軍士官学校の同輩だったらしく、卿と我輩の父は共に『男の教科書』と並び称され、覇を競い合った仲らしいのだ……その時の渾名が『喧嘩番長』らしい」
レフトニアさんが自慢げに言う。魔物世界にもそんな熱い呼び名があったんだ。つか、あのトラのおっちゃんの渾名も知りたいな……「肉密度1000パーセント男」とかかな?
「とっとと起きないと、こちらからいくよぉ~?」
痺れを切らしたベイノール卿が、地面に転がる慶次郎の頭をグシャリッ! と踏みつけて言う。
その途端だ! さっきまで小刻みに震えていた慶次郎の体が一瞬硬直し、動かなくなった!
そして、うつ伏せ状態の背中に、一本の亀裂がぱっくりと入り……そこからまるで脱皮でもするかのように、モゾリモゾリと身を這わせ、「何か」が出てきたのだった!
「ハアァァァァァ……」
まがまがしい吐息を吐く、黒い体の物体。それは漆黒の闇色に、幾本もの血の赤のラインが入った、不気味な甲冑をまとっている。
そいつがユラリ……と、身を起こし、頭をもたげた。
その顔や体躯は、さっきまでの宿主だった慶次郎とは打って変わっての凛々しい男前――まるで芋虫から蝶への変体を思わせる。
「あら、いい男じゃない? やっぱり私、邪神に鞍替えしようかしら?」
レベトニーケさんの言葉は、冗談とも本気とも取れる、きわどいものだった。
まぁ、目が本気だったのは見なかったことにしよう。
「やぁ、おはようアスタロス! 気分はどうかね?」
「…………悪くない」
まるで友人同士の挨拶のような会話が交わされる。
「寝起き早々悪いがね、また眠ってもらうよぉ? 永遠にねぇ」
アスタロスの涼やかな目が、ベイノール卿を射抜く。まるで、「やれるものなら、どうぞ」と言った意味を含んでいるようだ。
「では早速いくよぉ。因みに小手調べは抜きだからねぇ」
突然、ベイノール卿が消えた! 俺の目では追いつけねぇ!
けれど、他の人達には見えているのか? この程度では驚かない様子だ。
「消えるほどの高速移動ではない、実際消えたのだ……ベイノール卿は闇と同化なされたのさ」
ツングースカさんの解説が入る。そう言えば、セルバンデスさんも、そんな技を使っていたっけ。
「そして夜陰に乗じて敵を仕留める。ヴァンパイア族の古式正統戦法よ」
次いで、アメリアスが言う。なるほど、吸血鬼を陰業の種族とはよく言ったもんだ。
「私達ヴァンパイアは、蝙蝠や狼や猫、そして霧や闇に姿を変えることができるのよ。そしてそれを応用した技が――」
「悪夢の影!」
ベイノール卿のブロウ名を叫ぶ声がした!
同時に、さっきから微動だにしないアスタロスの右頬側から、いきなりにょきり! と現れた、シルクの白いシャツをまとった右腕。
あれは――そう、ベイノール卿の腕だ!
が、しかし! その咄嗟の攻撃を、瞳すら動かさずに、間一髪でかわすアスタロス! 洒落にならない反応だぞ。
「ほう、やるねぇ。技の掛け声をわざと別方向から発し、フェイントをかけたつもりだったのだが――こいつぁまいった」
「その技は視覚は惑わせても気配はごまかしきれぬようだ……ヴァンパイアの長よ、小細工は無しにしたまえ」
とんでもない事を、いかにも簡単な事かのように言う。本当に寝起きの人なのか? この人。
「よかろう! では一撃必殺のぶん殴り大会を始めようではないか」
ベイノール卿の体が、闇からスゥーと現れる。そしてファイトスタイルで身構えるなり、気合一発の怒号で大技の名前を叫んだ!
「 食 ら う が い い ! 殺 人 拳 骨!!」
激しい輝きが、ベイノール卿の右拳を包む。そして腕を思いっきり振りかぶり――
「 冥 府 へ と 戻 り た ま え ! 」
「 ド ゴ オ オ オ オ オ オ オ ン ッ !! 」
激しい唸りとともに、必殺の一発が一直線にアスタロスの左頬へと炸裂した!
「うわっ!」
俺達にまで襲い来る衝撃波。
近くにいれば、きっとその衝撃だけで雑魚は一掃されるだろう……そんな狂気の一撃。
流石の邪神アスタロスも、後ろの岩壁まで吹き飛ばされ、壁にでっかい穴を空けて埋まってしまった様子。
――――だ が !
「かなり痛いじゃないか……ヴァンパイアの長よ」
ぶん殴られた邪神が身を埋めていた岩を吹き飛ばし、まるで何事もなかったかのような表情でむくりと起き上がった!
「おやまぁ、これを食らってそのような態度をとったのは、アップズーフ以来、君が二人目だよ~」
トラのおっさんに効かなかったものが、この邪神に効くはずもない……って事は、遊んでいるのか? ベイノール卿。
「さぁて、お次は君の番だ。私も君の大技を食らってあげようじゃあないか」
ほれほれと手招きするアメリアスパパ。かんっぜんに遊んでるな。
「まぁ、それもあるけれど……お父様は邪神の力量を測ってらっしゃるのよ!」
「測る? な、なんでまた?」
アメリアスの言葉に、ギモンを抱く俺。いきなり100パーの力でガガー! ってやってドーン! ってやって、早く終わらせちゃえばいいじゃないか?
「それはあれですね、大地さん達ロキシアを警戒しての事ですよ、きっと」
ベルーアが大地達に視線を移しつつ言う。な、なんであいつらに警戒を?
「恐らくは――邪神を封じた後の、最大の障壁となる可能性があるからです」
「あ、あの三人が?」
「はい。きっと、ベイノール卿は察しておいでです。彼らの内には……とんでもない存在がいる事を」
「そ、そりゃあ『神』だもんな……」
「そう、だからよ。下手に自分の奥の手であるファイナル・ブロウを見せちゃったら不利になっちゃうじゃない」
「って事は……ベイノール卿は勝つ算段で戦っているってのか?」
「フン、当然だ。負ける事を考えて戦う馬鹿はいない!」
ツングースカさんが、どこかのプロレスラーみたいな事を言う。いやまぁ、まったくその通りですけど……。
「あの方は、私と違って綿密な計算の上で動かれるのだ。そして、勝利の算段を常に考えていらっしゃる。安心してみていろ」
「は、はい」
と、ベイノール卿の凄さの確認を拝聴しているうちに、アスタロスが卿へと近づき――
「 バ キ ィ ィ ィ ィ ン !! 」
全くのノーモーションからの、拳の一撃を与えたのだった!
「うわっ! こ、これもまたすげぇ!」
その衝撃たるや凄まじく、ベイノール卿の殺人パンチに引けを取らない程の余波を、俺達へも食らわせてきた!
見ていた俺でこのザマだ、当の本人はと言うと――
「あいててて。いいねぇ~、いい拳骨だねぇ~! こんな骨の髄まで痺れるような一発は、アップズーフに殴られた時以来だよぉ」
卿もまた、壁にめり込むほどのダメージを受けてなお、至って平然と立ち上がる。まるで悟空とベジータの戦いだ……このまま二人が戦ってたら、この場所、跡形もなく崩れるんじゃないのか?
「さて、致し方ないな。ギアを二、三上げていくか――」
と、卿が楽しげに呟く様を見て、大地が――
「おっさん。お楽しみの所悪いんだが……早く始末してもらえないか? また新たな客が来ても知らないぞ」
そうマジ顔で述べた。それは嫌味や煽りで言っている訳じゃないようだ。
「ふぅむ、私としてはもっと楽しみたいところなのだが……君の意見ももっともだ。仕方がない、早々にケリを付けよう」
そして、ベイノール卿はくるりと邪神に背を向け、スタスタとこちらに歩み寄ってきた。
「ツングースカ殿、レベトニーケ殿。ひとつ、禁忌の大技に手を染める大罪を犯す気は無いかね?」
小さく語るその言葉に、二人が一瞬硬直した。
「そ、それは――なぜです!」
「聞きたまえ、ツングースカ殿。あの天主の代行者、只者ではない……出来うる事なら、こちらの手の内を見せたくないのだよ」
「大魔王軍最高五幹部のうち三人以上が集い、一体となって放つ技は、大魔王様に匹敵する力になる恐れがあるとして、固く禁じられているはず! その禁を破れと?」
「そう。我々の今持ちうる最高の力で、邪神を廃し、更にはかの天主の代行者達への威嚇とするのさ。流石にこのような技を見せられたとあっては、きっと彼らも二の足を踏むだろう?」
思案するツングースカさんへと、ベイノール卿が諭す。
「私はいいわよ? どのみち大魔王様への反意って大罪を犯したんだし……それに、大魔王様の権威をお守りするための禁忌破りじゃない? それなりの言い分にはなるわ」
レベトニーケさんの言葉に背中を押され、とうとうツングースカさんがコクリと頷いた。
「よぉ~し! では決まりだ。大魔王軍最高幹部の三人が、トリオチームを組んで戦うのだ。皆は下がっていたまえ」
俺とベルーア以外は、固唾を呑んでこの三人の一挙手一投足に見入っている。恐らく、最高幹部達が共闘すると言うのは、余程の事なんだろう。
「まったく……誰か、よい言い訳を考え付いたらあとで教えてくれ」
「いいじゃない、ツィンギー。仕官学校時代のように、一緒に仲良く断罪されましょ♪」
「暢気なやつだな……」
ふと、仲の良い二人に戻る、ツングースカさんとレベトニーケさん。
もしかしてベイノール卿は、そこまで計算に入れて……なんとなく、そう思いたい気持ちがこみ上げてきた。
「さぁて、では邪神よ。この技を受けて立っていたら――以後、好きにしたまえ」
その言葉を受けてもなお、微動だにしないアスタロス。受けきれる自信があるのか? それとも……何か策があるってのか。
「では行くぞ! マーキシマム・クローフィ・ザキパーィエト!!」
「受けなさい、シュメルツ・リーヴェ!!」
「勝負だ、本域の真紅色の巨砲!!」
三人それぞれが、持ち技の名を叫んで気を高める。
地面が揺れ、空気が震え、意味のわからない恐怖が辺りを支配する。そして、三位一体の気が最高潮に達したその時!
「「「三つの怒れる猛襲!」」」
三人が同時に叫ん――
「――そうはさせません」
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!