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第二章 3 アメリアスさん

「う~ん……まだ気分悪い」

「大丈夫ですか? 一時は生死の境を彷徨ってたみたいですけど……まぁ気持ちを切り替えていきましょう!」


 俺がマジでヤバい状況にあったと言うのに、あっけらかんな態度でスルーしようとするチーベル。もうやだこんな案内人。


「にしても、我らゲーベルト族の回復力は流石であるな」


 さっき大魔王様の傍らにいた腹心らしきご老体――キンベルグさんと言う名らしい――が、あいかわらず苦虫を噛み潰したような顔つきで俺に言う。

 なんでも俺と同じ種族らしく、さっき俺が泡を吹いて倒れたとき、すぐさま手当てをしてくれて、この部屋……キンベルグさんの執務室まで運んでくれたそうな。

 魔族の人とは言え、仲間には結構思いやりとかあるんだな。


「そなたら若き戦士を失うは、我が帝国の未来の光明を損ねるに等しい愚行故だ。気にするな」


 そう言うと、ほんの微妙にではあるが、キンベルグさんの表情に「喜色」が浮かんだ。


「それはそうと……この城には、他のモンスターや軍団長なんかは居ないんですか?」


 俺の質問に、また苦虫を噛むキンベルグのじーさん。


「今、男どもは皆、軍団を率いて出払っておる。最近この大陸に現れた『ロキシアの光』なる輩達と戦うためにな」

(ろきしあ? おいチーベル、それってなんだ?)

(あ、はい。ロキシアとは、言わばこっちの世界の人間族の事ですよ。その光、つまりは魔王軍と戦い、人々を救う者達……主人公の大地さんみたいな人の事ですね)


 ふぅん。魔王軍の方では、人間はそう呼ばれているのか。こっち側からの描写なんてなかったから初耳だ。


「元来この世界では、大魔王の軍勢と人間達との住み分けが成されていたんですが、神夢起現書記の効力により、ロキシア達へ大々的な神託がなされ、蜂起が起こったようです」


 そうか。って事は、例のラノベがこの世界を創造したって訳じゃなく、元からあった異世界を物語の土壌にしてるって事なのか。

 なんだか元から居た人達に、ものすっごいご迷惑をかけてんじゃないのか? 俺。


「だが心配は要らぬ。派遣された軍勢は先々で勝利を挙げ、我が軍の勢いは留まる所を知らぬ。そしてこの大魔王様の居城を守る兵士達、更には大魔王様の近衛集団も、益々意気盛んである。まもなく勝利は我が方へと自然擦り寄って来ようぞ」


 うーん、なんだか死亡フラグ全開な語り口調ですな。本当に大丈夫なのか? この軍勢は。

 けどまあいいさ、どうせ俺は物語の端役下っ端その他大勢がお似合いの敵モンスターだ。やりたい事やってこの世界を楽しもう。


「で、俺はこれから派遣軍の一団に加わり、敵であるロキシア勢と戦うんですね?」

「いや、そなたの所属は派遣軍ではない」

「は? ……と、いいますと?」

「そなたは――大魔王様直轄の近衛師団と決まった。心して仕えよ」


「え? 近衛師団?」


 近衛師団とか言えば、なんかすごそうな連中が大魔王様を命懸けて守ったり、大魔王様直々の指揮の下、ワンランク上の破壊活動やら暗殺やらの悪事を働く組織なんじゃないのか? 俺なんかがそんな重要な役職に付いちゃっていいのかよ?


「あ、ありがたく拝命させていただきます……けど、何で俺なんかがそんな大任を?」

「大魔王様から直々の指名だ。光栄に思え」

「あのチビ……いえその……大魔王様のご指名ですか?」

「そうだ。あの大魔王様が、そなたを大層気に入られてな。是非とも我が手元に置きたいと申したのじゃ」


 うわぁ……ありがたいやらありがたくないやら……。


「わしも長年大魔王様に仕えてきたが、あのような楽しげなお姿を拝見した事はなかった。そなた、これからはしっかりとお傍にお付きし、大魔王様のために励むのだぞ」


 それはアレですか? あのちんちくりんのおもちゃになるのを励めって事ですか?


「よかったですね、やりがいのある仕事じゃないですか」


 やりがいのある仕事? お前、この先俺がどうなるか分かって言ってるだろ。


「であるが、その前に。そなたの現在の戦闘経験レベルでは些か心許ない。よって、当面は少々実戦を経験して、己の鍛錬に励むのが仕事となるのだが――遅いのう、アメリアスのやつめ」

「アメリアス?」

「そなたの鍛錬を指導するために呼んだ、近衛師団の部隊長なのだが――」


 アメリアス……アメリアス。あれ? なんか知ってるぞ、その名前。


「私なら先ほどからずっとお傍に居ますわよ? キンベルグ様」


 不意に、俺達以外の声がする。どこと無く気取ったような、でもまだあどけなさが残る少女の声だ。


「おお、流石はヴァンパイア族の俊才よ。わしをもたばかる隠密の業、見事だ!」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


 振り向くと、黒で統一されたゴシック調の編み上げワンピースに身を包んだ、十六ほどの年頃の美少女がそこにいた。

 そう、外見は普通の人間の少女となんら変わらない、(胸以外は)華奢な体躯の可憐な少女だ。

 例の物語には序盤から登場して、主人公を(特に胸の魅力で)手こずらせる、敵幹部の一人だっけ。

 そうそう、それにこの子は……。


「なぁ、チーベル。たしかこの子だよな? 後々敵である主人公にホレてデレるのって」

「はい、たしかそうでしたね」

「はぁ? なに言ってんのよ! 私が何で敵にホレなきゃいけないのよ! もしかして私に喧嘩売ってんの? この間抜け茶色!」


 アメリアスとか言う少女が、金色のツインテールを振り乱しながら血相を変えて怒り出した。

 いやま、それにしても間抜け茶色ってアンタ……。


(太一さん、物語は私達しか知らぬ事なので、迂闊な事は言わない方がいいですよ?)

(おっと、そうか。なんだかあの本って、未来の預言書的な存在になってるんだな)


「いやぁ、ごめんごめん! あ、あんまり君がかわいいから、ついつい妄想の世界とごっちゃになっちゃったよ。へへへ……」


 咄嗟にでた言い訳だが、流石に無理があるだろう……


「……まぁ私のかわいさに正気を無くすのは無理もないけど……以後気をつけなさいよ?」 

「……え? は、はい」


 なんか魔族とかモンスターの人って、純朴な心の人が多いのか? それともすごいバ……まあどっちだっていいや。扱い易いのはありがたい事だよな。


「あー……とにかくである。そなたら二人でどこぞ弱い敵の出やすい地域に出向き、手当たり次第に暴れて参れ。だがくれぐれも無理のなきよう」

「えっ! この者を連れてですか、キンベルグ様? こんなのまだひよっ子もいいところじゃありませんか!」


 うわ、出たよ……先輩幹部の初心者イジメ発言。

 俺もどっちかってと、こんなヤツに指図されるより、自由奔放に悪い事してレベルを上げたいもんだけどな。


「アメリアスよ。これは大魔王様の勅命なのだぞ? 謹んで受けよ」

「うっ、グレイヒネル……いえ、大魔王様直々のお達しですか。ならば致し方ありませんわ。おい、そこの茶色いの! これからこの私がビシビシしごいて、お前を一人前の魔族にしてあげるから覚悟なさい!」


 どうせなら「別の意味」でビシビシしごいてもらって、一人前の魔族にして欲しいところなんだけどな。

 なんたって俺が望んだ容姿の登場人物なんだもん。これはこれで案外好みなんだが……でもそんな事口にしたら、今度こそぶっ飛ばされるだろうな。


「ちょっと、ちゃんと聞いてんの? バカ茶色!」

「は、はい……あーでも、ちょっと待ってくれないかな? いったん落ちてログアウト――」

「ほら、なにグズグズ言ってるの? 大丈夫よ、私があなたに『適正なレベル』の村まで送ってあげるから、さっさと行くのよ!」


 いや、今すぐ行きたいのは山々なんですがね……なにせ俺達の身体は元の世界で無造作に転がっているらしいので、それだけでも直さないといけない訳で……あ、そう言えば!


(なぁチーベル。ログアウトしてから次にログインするときは、こっちの時間はやっぱ大分過ぎてるのか?)

(いえ、それは大丈夫です。現実世界回帰した時点で、あなたのその身体は時間の狭間に一時格納封印されるので、次に異世界へと訪れた時は、そこからの再開となりますね。これはご都合主義極まるあなたの願望に答えるべく、時間の神様(クロノス)のお力添えがあっての賜物なんですよ? ありがたいことですよね)


 いちいちそんな軽く死にたくなる事言わんでいい。


(あ、でも気を付けてください。一度現実世界回帰してから丸一日以上異世界参入が無い場合、物語の続行の意思無しとみなされて、参加権を抹消されてしまいますので)

(あ、アホ! そんな大事な事は最初に言っとけ――)


「茶色いの! ブツブツ言ってないでさっさと来るの! この私を手こずらせないでよね! ――ではキンベルグ様、行ってまいりますわ」

「無理せずにな」

「わっ! ちょ、ちょっと! だから一旦ログアウングェッ!」


 アメリアスは俺の首根っこをむんずと掴むと、問答無用とばかりにぐいっ! と引っ張り、何かしらの呪文のような言葉を唱えた。


マリクスの平原(ハンサ・デ・エレカ)!」


 途端、俺達の体は宙に浮き、光の粒子へと変化した。

 そして瞬時に高速で昇天したような感覚に見舞われた後、気が付けばどこか見知らぬ草原へと舞い降りていたのだった。


「さぁ、着いたわよ? ここがロキシア達が言う、マリクスの平原よ」


 天高く晴れ渡る青い空に、三百六十度見渡す限りの大平原。あるのはただ、草、草、草、死体、人、すごい死体、もはや肉片、草、草、くさ……え?


「な、なんかえらいところに出くわしたみたいなんスけど?」


 だだっ広い平原に、ポツンと人が一人立って、その足元に人型モンスターらしき三体ほどの躯が転がっている。

 見ればそいつは、手にポールアックスを握り締め、返り血にまみれた、フルフェイス髭も渋いなかなかゴツいおっさんだ。

 その返り血の主達のうちの一体は、首をはねられていてその頭部がどこにあるのか分からないけれど、どうらやらキャラクターメイキングの時に見たオークと同じ姿をしているのが伺える。その他のご遺体は……もう何がなんだか。


 つか、相手めっちゃ強そうなんですけど……もしかして俺、いきなり詰んだか?



次話予告

初めてのバトルを強いられる太一。あからさまに強い敵との勝負の行方は?

次回 「初めての戦い」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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