第八章 6 喧嘩番長、出陣
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
剣をへし折られ、アスタロス慶次朗は更に憤怒の表情を浮かべた。
「雌メ、ヨクモ……」
「フン、そんなガラクタ後生大事に持ってんじゃないわよ! どうせ役に立たないんだから、壊れて清々したでしょ?」
これで迷いは断ち切れたんだ。清々したのは、むしろレベトニーケさんの方だろうな。
「さぁ、キューメリー、アルテミア、やっておしまい!」
「「了解! おねえさま!」」
まるでどこぞの悪玉トリオの女ボスのような口調で指示を出す。そんな姿がやたらと似合っていると感じるのは、俺だけではあるまい。
「受けなさい! 桃色の鞭!」
キューメリーの電光石火のような鞭が飛び、慶次朗の腕へと絡み付いた。
そこへすかさず、アルテミアが長い柄の斧を一気呵成に振り抜いた!
「にゃあああ! 地龍の一撃だぁ!」
小柄でかわいいその体躯からは想像もし得ない程の、俊敏且つパワフルなバトルスタイルに、きっと初見者はコロッと騙される事請け合いだろう。
おまけに、右腕に絡みついたキューメリーのパッションピンクの鞭により、敵は動きに制限をかけられている。これはチャンスだ!
「 え い 、 し ん で く だ さ ぁ い ! 」
気合の篭ったかわいい声とともに、鋭利な刃の戦斧が走る!
――バィンッ!
見事! 右から左へと一直線に走る一閃が、ムチの絡まる右腕を切り飛ばした!
「 グ ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ! 」
火がついたように叫び狂う慶次朗。無理もない、右腕を落とされたんだ。普通の人間なら、この時点でもうゲームオーバーだろう。
普通の人間なら…………そう、こいつは普通じゃない!
「オノレ、雌共メ!」
程なくして、一頻り咆哮を上げていた慶次郎が、息を整え、また平静を取り戻す。
俺は一瞬目を疑った。あれ? 切り落とされた腕が――また生えてきてる?
それだけじゃない! アイツ、ライトニウスさんから受けた剣の傷跡が……綺麗さっぱり無くなってるじゃないか!
「驚くほどの自己修復能力だねぇ、いいよぉ~気に入った!」
アメリアスパパが、暢気に敵の優秀さを語る。
つか、いいんですか? このままじゃ、見せ場の無いままあの三人においしいところ持ってかれちゃいますよ?
「ん~、まだまだだねぇ。彼はまだ、私と手合わせできる『資格』を得ていないからねぇ」
資格? なんとなく嫌な予感を匂わせる台詞だ。
「え、それは一体……?」
「はっはっは。まぁ、それより見たまえ。アスタロスめ、武器を失ってどう出るか? 楽しみじゃないか」
しかも笑ってごまかす辺り、また何か隠し事ですか……ほんと、貴族の人って何考えてっか分かんネェよ。
まぁ、今はまだ俺が知るべきではない事……後のお楽しみ、と言う事なんだろう。
……ぜんっぜん楽しみじゃないけど。
「バカみたいにタフなのね! あっちの方ももさぞかしタフガイなのでしょう……いいわぁ、ゾクゾクしちゃう♪」
きっと慶次朗も、憑依される前に言ってほしかっただろうという、エロい言葉。
流石はサキュバスさんだ。男たるもの、彼女に全てを搾り取られて朽ち果てると言う死に方も悪くないだろうな。
……と考えた矢先の事。突然俺のお尻に激痛が!
「いででででっ! な、何だ?」
見ると、俺のケツをつねり上げるベルーアさんの姿が!
「いってぇな、何するんだよ!」
「いえ、今なんとなくサキュバスさんの魔法にかけられていたようでしたので、目を覚まさせてあげようと」
無表情でさらりと訳を語る。
そ、そうか……俺、変な誘惑光線の余波を食らってエロそうな顔になってたのか……って、んな訳ネェだろ!
まったく、アメリアスといいベルーアといい、ある意味セルバンデスさんも、どいつもこいつも俺のケツを狙ってきやがって!
「さぁ、まだまだ楽にはイかせないわよ? たっぷりとかわいがってアゲルからね」
女王様のありがたいお言葉が、慶次朗へと飛ぶ。
まるで「のぞむところです!」と言わんばかりに、がっついて飛び掛る奴隷豚! なんとも絵になる構図だ。
「殺ス!」
「お預けもできない駄犬にはキツーイお仕置きよ」
女王様の性奴隷に対する定番のお言葉を放ちながら、左手を襲い来る慶次朗へと差し向けた。
「受けなさい! 我が苦痛の愛を!」
ピンク色の光線が、レベトニーケさんの左掌から迸った!
「ウガァッ!」
見事右足に命中し、勢いのあまりもんどりを打って倒れこむ慶次朗。
そこへ、キューメリーの桃色の鞭が飛んできた!
瞬く間に捕縛成功! 身動きが取れなくなった敵が、必死にもがく。が、アスタロス慶次朗の力を以ってしても、その鞭から逃げ果せる事ができないでいる。
「どう? キューメリーの『愛の拘束』の味は。それに巻きつかれたら、どんな男も、その鞭の中から抜け出せないわよ」
まさに勝負あったと言った感じだ。
これじゃ、ベイノール卿はおろか、大地達の見せ場がまったくない。
そしてこのイベントの勝者は、レベトニーケさん率いる、チーム「ビッチガールズ」になってしまう。
これはどうなんだ? 商品としての剣はもう無い訳だし、ただ名誉だけを受け取ると言った事になるのかな?
まぁ、一度は裏切りを考えた彼女だ。これはこれで大魔王様への贖罪になるかもしれないよな。
「さぁ、邪神とは名ばかりの豚奴隷ちゃん。どんな風にお仕置きしてほしいの?」
レベトニーケさんが、腰をくねらせつつ、エロさ満点な表情でにじり寄る。
世の中には大枚をはたいてでも、この状況を望む人がいるという話だ。慶次朗も、さぞや本望な死に方だろう。
――が、そんな時。「ヴンッ!」と言う風を切る音と共に、アスタロス慶次朗の首の辺りを、きらめく一閃が走った。
直後、慶次郎が項垂れるように前のめりに倒れこみ……「ドサリっ!」と地面に突っ伏したのだった。
その拍子に、地面を転がる何か丸い物体……そいつは――
「げげ、あ、頭が! 首を落とされた!」
思わず驚きの声を出してしまった俺。
だっていきなり首を跳ねられたんだぜ? その実行者は誰あろう……。
「――もういい。つまらんお遊びはそこまでにしてくれ」
大地だ!
なんと痺れを切らしたのか、大地が持っていた剣で横に一閃、慶次朗の首をなぎ払ったんだ。
「ちょ、ちょっと! 何すんのよこのロキシアの坊やは! 邪魔しないで頂戴」
「もういい加減本題に入ろうぜ? 魔物のおねーさん」
大地が挑発して言う。
「まったく、かわいい顔して、私のいた~い愛が欲しいの? ボク」
「いや、俺は年下好みなんだ。悪いねオバサン」
「お、オバサンですってぇ!」
トサカに来た様子のレベトニーケさん。よほど気にしているのか?
と、そんな一触即発な状況に、ツングースカさんが割って入った。
「ロキシア、弱いうちに少しでもダメージを与えておいた方が良かっただろうに?」
「いや、あんまりうだうだやってると、こいつらの仲間が邪魔しに来ちまう……そうなるとメンドクサイもんな」
「フン、まぁ一理ある。が、いきなり本題に入るからには、それ相応の覚悟があるのだろうな?」
「そっちこそどうなんだ? オバサン達」
「口の減らない小僧ね! そんなに私のお仕置きが欲しいの!?」
乙女座の剣を構えて、レベトニーケさんが大地を威嚇する。
真性の女王様らしく、煽り耐性がまったくないらしい。
「やめろ、レヴィ。今はそんな事している場合じゃないだろ」
苛立ちながらプイっとそっぽを向く、妙齢のサキュバスさん。
なんか仕草がかわいいなぁ。あ、俺は年上でもぜんぜんオッケーなんですけどね!
と、そう考えた瞬間。誰かに右ケツと左ケツを思いっきり蹴り上げられた。
「いってぇ! な、何だよ!」
「「いえ、別に……なんとなく」」
いつの間にか忍び寄っていたアメリアスと、ベルーアのダブルキックだった!
「な、なんとなくで、人のケツに絶妙のコンビネーションキックをかますのか? おまえ達は!」
「フン、緩みきった顔してたから、気合を入れてやったまでよ!」
アメリアスがなんだかプリプリしながら言う。ベルーアに至っては、知らん顔してやがるし!
「まぁまぁ、緩んだ顔は生まれつきだから仕方ないですよね?」
「お、おう! そうだ、緩んだ情けない顔は生まれつきだから仕方ないんだ――」
チーベルが弁護を買って出てくれ……おい、それって弁護か?
「うるさいぞ、貴様ら! 何を喚いているのか!」
ホラ見ろ、んな事言うからツングースカさんに怒られちゃったじゃねーか!
「この大事なときに、まったく暢気な奴等だ……」
「大事? え、もう事は済んだんじゃないんですか?」
相当間抜けな質問なんだろう。大地が頭を振り、呆れるように答えてくれた。
「お前は本当に暢気だなベオウルフ。これからが本番なんだぞ?」
「本番って……何? まさか!」
おいおい、ちょっと待てよ!
さっきベイノール卿が言っていた「彼はまだ、私と手合わせできる資格を得ていない」って含みを持った言葉――それを鑑みるに、もしかしてボス戦のお約束……第二形態登場?
「フハハハハ、そのとお~り! そして『ゴーンドラド一の喧嘩番長』と謳われた、我の出番でもあるのだよ!」
アメパパがフルテンションで言い放った!
その途端、死んだと思われた慶次郎の体が「ビクンッ!」と一度痙攣を起こす。
「さぁ、下がりたまえ! もはや諸君らでは歯が立つまい」
そう言いつつ、つかつかと慶次朗の躯へと歩み寄るベイノール卿。
その表情には、敵に対する恐怖だとか躊躇いだとかは一切なく、ただ強い奴と殺りあえるという、ご満悦の喜色が満ち溢れているだけだった。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!




