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第八章 5 レベトニーケさん

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 戦いに覚えのある者なら、その瞬間に自分の置かれた状況を呪うだろう。


 なんたって魔物最強クラスの三人が、同時に己の命を消す事のみのために迫ってきているのだから。

 だが、邪神アスタロスに魂を奪われた「前田慶次朗」なる天主の代行者だった(・・・)者は、まったく動じず、ただ棒立ちのまま薄気味の悪い笑みだけを湛えている。



「 邪 神 め が 、 永 久 の 眠 り に つ か せ て や る ッ !! 」



 ツングースカさんの腕から伸びる真っ赤な迸りが、そしてレフトニアさんの鋭く長い爪が、左右から同時に襲い掛かった!

 一瞬でナマス状態決定! かと思われた瞬間、慶次朗が消え失せた!


「む?」

「なんと!」


 視力ではなく、感覚的に察知したのだろう。

 二人が目を移した先……そこには、鎧の重さのためか、一瞬出遅れたライトニウスさんと、瞬く間に間合いを詰めた慶次朗が居る。

 そして既に、奴は下段からの切り上げを狙っている――あぶない、ライトニウスさん!


「 ガ ツ ン ッ !! 」


 カオン戦の時を思わせる、鈍く大きな衝突音が響いた。

 そうだ、彼女にはいかなる災いも無力化するゴールデン・フリースがあったんだ!

 そして攻撃を受け止められ、動きが鈍った慶次朗へと、二つの影が迫る。それはもちろん――


「かかったな!」


 ツングースカさんが叫ぶ! どうやらハナっから、これが狙いだったらしい。ライトニウスさんによって動きを封じられた慶次朗は、まんまと自ら包囲網の中へと飛び込んだようだ。


「いつみてもすばらしい、息の合った三重奏トリプルプレイだ。だが――」


 ベイノール卿が呟く。恐らく誰が見ても、ツングースカさん達の勝利は揺るぎ無かった。が、ここでまさかの――!


「何ィッ!」


 慶次朗がライトニウスさんの頭上を瞬時に飛び越え、逃げを打った!

 いや、逃げたんじゃない。タイミングを計り、二人から攻撃される寸前の、一瞬のライトニウスさんの気の緩みを狙っての事。

 彼女のがら空きの背中へと回り込んだんだ!


「血ヲ……ヨコセ!」


 その瞬間、ライトニウスさんの体がのけぞり、悲痛な表情を浮かべた!

 お腹の辺りからニョキリと現れた剣先。ちくしょう、背後から刺されたんだ!


「ぐふぅ!」

「「ライトニウス!」」


 瞬時にピンチをチャンスに変える判断力。そしてそれを行える力。どれも侮れない実力を見せ付ける、アスタロスに憑かれた前田慶次朗。

 だが一つだけ、奴にも想定外の事があった。


「ム……コヤツ……」


 明らかにおかしいと言った表情を浮かべる慶次朗。そして気の緩みは、何もライトニウスさんばかりではなかった事に気付かされる。


「……嘘だ。バカめ」

「死人カ……!」


 黄金の羊(クリュソマロス)へと変わった牡羊座の剣を後ろへと突き立て、背後に居る敵の脇腹へ深く差し込む。


「グフォッ!」

「幽鬼である我に、魔法効力の無い封印の剣如きで挑もうなどと笑止」


 たまらず逃げる慶次朗。そうか、オバケさんには普通の武器では歯が立たないのか!


「はは、先ずはワンポイントゲットだな。準備運動はこんなものだろう……さぁ、次は誰が行く?」


 と、腕から伸びる赤い迸りを収めたツングースカさんが、周囲を見渡して言った。


「えっ? 追加攻撃で追い込まないんですか!?」


 思わず尋ねる俺。だって今、めっちゃチャンスじゃないッスか?


「あほう。こんな楽しいイベント、我々だけで独り占めすれば、皆から顰蹙を買うだろうが」

「師団長殿の言う通り! 今度は私達が行きまーす!」


 と、次に名乗りを上げたのは、アメリアス率いるチームヴァンパイアだ。……なんか趣旨変わってきてるけどいいのか?


「さぁ、アスタロス! 覚悟なさい。マリィ、アニィ、行くわよ!」

「「はい、お嬢様!」」


 三人の美少女ヴァンパイアが、残像を残して敵へと駆け迫る。

 流石、「夜の私達は普段の数倍の強さなのよ!」と豪語するだけの事はある。

 瞬時に間合いを詰め、鋭い爪で一気呵成に攻め立てるその戦いぶりは、三人ともに遊び無しの真剣勝負だ。

 だが、アスタロス側も負けてはいない! 六本の迫りくる腕をかわしつつ、時折隙を見つけては、剣を薙いで間合いを改め、炎の魔法を打ち出して三人を牽制している。

 まるで、さっきの脇腹への一撃がまったく効いていないかのような、まだまだ精彩な動きだ。


 だが、流石に勢いのある三人相手では不利なのだろう。

 時折アメリアスが入れてくるトリッキーな攻撃を、数度もらっている様子。

 流石にたまらず、持っている剣で大きく振り払い、距離を取る慶次朗。

 ――が、逃げた場所にはマリアニ姉妹が先回りしていた!


「グッ!」


 両腕を姉妹によってむんず! と捕まれ、身動きが取れなくなった慶次朗。

 そんな両手に花状態のところへ、空中へと身を置いていたアメリアスが、渾身の魔法での一撃を放たんとしていた!

 これまたツングースカさんチームに引けを取らないコンビネーションだ。


「くらえ、邪神! 真紅色の巨砲シャルロッハロート・カノーネ――」


 と、今にも大魔法を放とうとした瞬間!


「きゃッ!」


 突然、アメリアスが空中でバランスを崩し、地面へと落下したのだった!


「お嬢様!」


 一瞬アメリアスに気を取られたマリィとアニィ。

 そんな隙を見逃さなかった慶次朗が、至近距離から炎の魔法を二人へと同時に撃ち放つ。

 双方共にカスリはしたものの、咄嗟に距離を取ったため、それ程の被害は受けていない様子だ。


 が、慶次朗を取り逃がしてしまった事は痛い……チャンスを失い、また一からのスタートとなるが、もう同じ手は通用しないだろう。

 しかしそんな事より、二人にとっては「主人」であるアメリアスの事の方が心配の様子――逃がした事への感情は一瞬で拭い去り、何らかの理由により地面へ突っ伏してしまっているアメリアスの元へと駆け、自らを盾として立ちはだかるのだった。


「な……何をするんです! レベトニーケ様」


 怒気を込めて叫ぶアメリアス。見ると、その言葉の意味が彼女の足首辺りに巻き付いていた。


「ム、ムチ! レベトニーケさんがムチでアメリアスの邪魔を? なんで!」


 あまりもの混乱に、俺はつい叫んでしまった。


「何で? 私は既に決別の意を見せた裏切り者よ、ボク」

「何言ってんですか! あなたはそそのかされたんですよ? この状況を見てもまだ分かんないんですか!」


 少しキレ気味に叫んでしまった俺。そんな俺に、レベトニーケさんはまるで自分へと言い聞かせるような口調で語った。


「ボク、私は唆されてここに来たんじゃないの。自らの意思で、ここに来たのよ? そして、もう一度アスタロスを剣に封じ、見事御してみせるわ! 我が一族の繁栄のため、そのためには……容赦はしないのよ!」


 俺は言葉が出なかった。レベトニーケさんから発せられる「執念」に気圧されたのかもしれない。


「いい加減にしてよね、このオバさん!」


 と、今度はアニキがキレた!


「お、おばさん?」


「アナタの一族が権威を手中に収めようが没落しようが、どうなろうと知ったこっちゃないわ! でもね、アナタは仮にも魔族の最高貴族でしょ……いえ、大魔王様――そう、大魔王ハーデス様に忠誠を誓った『誓約の者(シュヴーアント)』でしょ! それなら大魔王様に仇なす邪神は、闇へと屠り帰すのが我らの使命ではなくって?」

「…………」


 何も言わず、何も言えず。ただ瞳を伏せるレベトニーケさん。何か思いに耽っている様子……そして、


「グランゼリア・レヴァ・ベイノール公爵!」


 突然、レベトニーケさんが瞳をくわっ! と見開き、ベイノール卿の名を叫ぶ。


「……何かね?」

「貴方のご息女は躾がなっていないわ! 私のような美の代名詞を、口に出すのも汚らわしい言葉で侮辱したのよ!」

「ああ、そうだねぇ……後で叱っておくよ」

「小娘! 私を誰だと思っているの! 私は大魔王ハーデス様のシュヴーアント、最高五幹部の一人、サキュバス族のレベトニーケ・キール・バイツェルよ!」


 威厳を湛えた瞳で、アメリアスを睨み言う。

 そんなレベトニーケさんを見て、アメリアスが深々とした一礼で返した。


「申し訳ありませんでした、レベトニーケ様」


 言葉には出さずとも、「目を覚まさせてくれてありがとう」と言うレベトニーケさんの想いを、アメリアスはちゃんと汲んだのだろう。


「キューメリー、我が剣を!」

「はっ!」


 レベトニーケさんの言葉を受け、サキュバス少女が何も無い空間から一振りの剣を生み出し、それを差し出した。

 純白の鞘に納まったそれは、美しい少女を模した柄と鍔の彫刻がすばらしい一品だ。


「いいねぇ、乙女座の剣(バルゴー)。些かレベトニーケ嬢とはかけ離れている、そのギャップがたまらないねぇ~」

「お、おだまりなさい! ベイノール卿。さぁ、キューメリー、アルテミア、いくわよ?」

「「はい、おねえさま!」」


 既に完全にゲームと化してしまっている感のある戦いに、新たな三人の魔物が挑む。

 ゆっくりと間を楽しむように慶次朗へと歩み寄る三人。それぞれが持つ得物も三様に違うようだ。

 レベトニーケさんは、先に手渡された乙女座の剣。

 そしてキューメリーなるサイドテールの白ボンテージ少女はピンク色の鞭を。

 更にアルテミアってスク水お団子頭少女は、身の丈以上もあるポールアックスを、それぞれ空中からポンッっと生み出すように出現させ、戦闘準備は完了となった。


「アスタロス、攻撃を受けてるんでしょ? ハンデをあげるわ。まずは私とタイマン勝負よ」


 そう言うと、右手を差し出して「カモォ~ン」と言わんばかりの手招きを見せた。

 このお誘いに応じない、健全な男性はいないだろう。それ程妖艶で、魅力ある彼女の「誘惑」に、流石のアスタロス慶次朗も勝てなかった様子だ。


「ガァァァッ! 雌ヨ……血ヲヨコセッ!」


 脇腹の傷なんて無いかのような、猛烈なダッシュをみせる。

 一瞬で間合いは縮まり、互いの剣での攻撃範囲となった!



 ―― バ キ ィ ィ ィ ィ ン ッ !



 二人の剣が交差した瞬間、何かが激しく折れ砕ける音がした! それは、慶次朗が持っていた、封印の剣だ!

 刀身の中ほどあたりから真っ二つに折ている……いや違うな。きっとレベトニーケさんが故意にへし折ったんだ。


 恐らくそれは、「もう貴様を封じ、御する意思無し」と言う、無言の決意表明なのだろうな。


 そう、心強い味方が戻ってきてくれたんだ。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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