第八章 4 邪神復活
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「なんだよ、乱破達から連絡ネェから来てみたら、こんな事になってたのかよ? お前らだけでズリィぞ」
「殺盗団か? よくここが判ったな」
ツングースカさんの問いに、チャラいのが左指のリングを見せつつ、自慢げに言う。
「この指輪のお陰でよ、会いたいヤツんコト念じれば、ソコヘ瞬時に行けるんだわ。で、乱破の一人ん事念じて飛んできたら、いきなり死んでやがんの。超ウケたわ」
「何がウケたんだ?」と聞きたい気持ちをぐっと堪える。しかし便利なもん持ってるなぁ……俺も欲しい。
「つーワケでよ、俺らも仲間入れてくれよ?」
ニヤついた顔がいけ好かない。
レベル110ヤーク・ザ・ゴクドー、レベル99前田慶次朗、レベル80ラビ美たん☆ミ、か。よくもまぁこんな奴がここまでの高レベルになれたもんだよ。
つ~か皆、もうちょっと考えて名前付けようぜ?
「みてみて、やっちゃん! なんかキモいのが死んでるぅ~!」
三つ首トカゲの無残な亡骸を見たバカそうな女・ラビ美たん☆ミが、リーダー格のヤーク・ザ・チャラ夫に、これまた頭悪そうな口調で言う。なんだかある意味、すごくお似合いのカップルだわ。
「うっはぁ、マジキモいんスけど? 流石に引くわー!」
俺は君らの言動に引くわ。
「ってか、ゴクドーさん。あいつらまだ剣取ってないみたいだし、ここは一つ、俺に取らせてくれませんか?」
見てくれとはかけ離れた名前の前田慶次朗が、チャラ夫へと尋ねる。
「あぁ? ん~そうだな。つか、お前剣運なさ過ぎなのに、まだ懲りてねぇのか?」
「たまたまっすよ~。昨日拾ったこいつ、見てくれはかっこいいのにまったく威力がないんだもんな」
そう言いながら、腰のモノを抜き去り、掲げ見せた。
確かにかっこいい。だが……薄闇でもその存在感をありありと見せ付ける、切れ味激しそうな刃や、王者の貫禄すら備えている鍔や柄頭の部分の装飾は、この前田慶次朗君には分不相応すぎる。
と、なんだか不思議な事に、俺の心へと奇妙な感情が湧いてきた。
「あれ? それ……って、俺んじゃね?」
不意に、心に浮かんだ言葉が口をついた。
「な、なんだよお前。ちょっとかっこいいからって、初対面の人の物を自分の呼ばわりするなよな! お前はジャイアンか」
慶次朗が言う言葉、いちいちごもっともです。
「まぁ、いいんじゃね? 俺もラビ美もそれなりの剣持ってっし、お前抜けよ」
「いいんすか? あざーす!」
喜びのあまり小躍りするデブ慶次。
そんなアホ共に、ツングースカさんが呆れて言った。
「なんとまぁ、もう奪った気でいるとは……天主の代行者というのは、余程のバカ揃いなのか?」
「あぁ? んだとコラ! 青ねーちゃんよォ、その立派な角へし折ってやろうか?」
「殺盗団だと言うだけで、貴様らは万死に値する。喜べ、我が拳で屠られると言う名誉を与えてろう」
正に殺りたくて仕方がないと言う念を撒き散らしながら、ゆっくりと歩み出る師団長殿。
と、そんな時、俺に一つのひらめきが! 一応ダメ元とばかりに、代行者を狩る気マンマンなツングースカさんへ、待ったをかけてみた。
「ま、待ってくださいツングースカさん! 一つ提案が……」
「なんだ? 貴様がこいつらをブチ殺すと言うのか?」
「いえ……ただ、そいつらに剣を引き抜かせてみてはどうかな? と」
「なにぃ?」
その場に居る皆が、そして大地達も、驚きの表情を見せた。
「な、何言ってんのよアナタ! 頭おかしくなったんじゃない?」
アメリアスが興奮気味にまくし立てる。
「い、いや……こいつらに剣を引き抜かせてだな、その上で、こいつらにトドメ刺した奴が剣を自由にする権利を得るというのはどうかな? と思ってさ。それなら剣を抜いた後の様子も見られるし、俺達の誰も傷つかないし、殺盗団も掃除できるじゃないか」
と、アニキに、そして皆へと説明をする。
「ほう、それはいいアイディアだな。よかろう、異存はない」
ツングースカさんが、俺の意見に賛同を見せてくれた。
「……まぁ、師団長殿がそう仰るのなら、私も異存はないわ」
次いでアメリアスも。そして小さく頷き、肯定するライトニウスさんと、「おお、また戦えるのか!」と喜ぶレフトニアさん。
「いいわ。ボウヤの意見、取り入れましょう。ただし、後腐れないようにね……ツングースカ師団長」
「貴様もな、レベトニーケ辺境伯婦人」
反目の言葉を掛け合う二人。
けど、互いにどことなくゲーム感覚で挑む気構えが見えるのは、俺の気のせいだろうか?
「やれやれ、なんて事を言い出すのかね、君は~」
おっと! しまった。
つい調子に乗って、ベイノール卿の意向を無視した発言をかましてしまった事に気付く。
「も、申し訳ありません! ベイノール卿。けっして、この場を丸く治めるべくと尽力なさっていた卿のお心遣いを、蔑ろにしたわけでは――」
「んん? 何を言っているのかね~。こんなに面白そうなイベントを催されたとあっては、私の血が騒いでしまうじゃないか、と言っているのだよ~」
にやりと笑って、ノリノリで上着を脱ぐベイノール卿。
それを、一礼と共に受け取るセルバンデスさん。あぁ、この人も実は血が騒いで仕方がなかったのか。
「オイオイ、何勝手な事ぬかしてんだ? オメーらがオレタチ天主の代行者に勝てるとでも思ってんのか? アァ?」
「思ってないとでも思っているのか?」
ツングースカさんが返す。その静かな迫力と圧倒的な威圧感を受けて、流石に気圧され気味となるチャラ夫くん。そこで、半分忘れかけられていた存在の三人のロキシアへと目を移し、さも当然の如くに、共同戦線を申し出たのだった。
「おい、おまえらもあいつらと戦ってたんだろ? なら俺らが剣を手に入れっからよ、一緒に戦おうぜ?」
「断る」
そんな虫のいい提案を、大地がきっぱりとはねつけた!
「残念だが、俺達三人は、ワダンダール防衛軍だ」
「ワダンダール? じゃあ味方じゃネェかよ!」
「この地は我々の領土、そこでの勝手な振る舞いは、敵対行為とみなし、これを全力で排除する。つまり、お前らは敵ってワケだ」
「ちょ、ちょっと待てよ! わかった。じゃあこうしようぜ? 剣はお前らにくれてやっからよ、とりあえず共同であいつら魔物を倒して、その上でまたナシ付けようぜ?」
愛想笑いと、いかにも譲歩してますよと言わんばかりの口ぶりで、大地へと交渉をもちかけるチャラ夫。
だが、大地の答えは――いや、それよりも、交渉自体が既に無意味な事態となっていた。
「ちょっとばかり遅かったな。後ろ、見てみろよ?」
「あぁ? ちょ、ま、オイッ! ブタ! 何やってんだよっ!」
「え?」
――すぽん!
そんな音が聞こえてくるような気軽さで、剣を抜き去る前田慶次朗さん。
あ~あ、とうとうやっちまいやがった! 同時にそれは、アスタロスの剣争奪戦開始の合図ともなったようだ。
「さぁて、一暴れするかな?」
その一言と共に、ツングースカさんがご自慢のトレンチコートを脱ぎ始めた。
それ、俺の出番だ! 早速コートをお預かりして、この厄介なバトルロイヤルから距離を置こう。
「ツングースカさん、コートをお預かりします!」
「ん、すまんな――ではいくぞ!」
俺にコートを手渡した直後。我等が閣下は、まるで弾丸のようなダッシュで、前田慶次朗との距離を詰めた!
「うわ、こいつ早ぇ! ケイジ、逃げ――」
ツングースカさんの力量を見抜いたチャラ夫が叫ぶ! が、慶次朗はその場から動かず、ただ、剣を一振りした。
―― ヴ ン ッ !
空間をも切り裂いたかのような音が、石造りの広間を駆け抜けた!
「なにッ!?」
同時に、ツングースカさんが立ち止まり、咄嗟に防御の姿勢を取ったのだった。
「クソ、刃の威力を空に走らせたか!」
そう零すツングースカさんの袖口が切り裂かれ、蒼い肌に鮮血が滲み出ている。なんと、俺達の師団長殿に傷を負わせただと!
「おお、スゲーぞケイジ! その剣はアタリだな? ステータスとかメッチャあがってんじゃね?」
「まじすごいっすよ! これ。ステータス軒並み100以上あがってるし! 俺まだ神憑してないのにこの威力って。ヤベェ、超ヤッベェっすよこれ!」
興奮しながら叫ぶデブ。そして腰に携えていた見てくれのいい剣を打ち捨て、更に続けた。
「もうこんな役立たずいらねーや。やっぱこれ引っこ抜いて正解っすよ!」
「おお、マジ正解だな! つー事はよ、俺が神憑起こしてその剣持ったら、最強伝説の始まりじゃね?」
もはや勝ち誇った顔で、デブに歩み寄るチャラ夫。そして挑発的な放送禁止ハンドサインを見せながら、大地らに向かってがなり立てた。
「オラァ! ワダンダールのクソ共ォ! お前らも血祭りに上げてやっからヨォ、覚悟して――」
――ドスッ!
不意に小さな、そして鈍い音が聞こえた。同時に、チャラ夫の耳障りな声が止まる。
「あ、あれ? 何? おいケイジ……なんでお前、俺刺してんの?」
ヤーク・ザ・ゴクドーの腹に突き立てられた、アスタロスの剣。それは体を、そして特別頑丈そうな鎧をも貫通し、その威力を誇らしげに物語っていた。
「い……いてぇ……いってよ! このブタ! 何トチ狂って俺刺してんだよ!」
「ヒ、ヒィッ! や、やっちゃん!」
前田慶次朗がチャラ夫を足蹴にして剣を抜き、駆け寄ってきたラビ美たん☆ミを、返す刀で袈裟切りにした!
「きゃあああああ!」
見事な一刀両断の後、二つに分かれたその体が、光の結晶となって天へと舞い上がっていく。こ、これは一体どう言う事だよ?
「そうら、言わんこっちゃない……奴め、アスタロスに魂を奪われ、おまけに目覚めの鮮血まで与えてしまったようだ。久しぶりに血が騒ぐねぇ」
まるで強敵に巡り合ったような喜びを語るベイノール卿。あなた、つい先日強敵に巡り合ったばかりでしょ?
「おっと、そうだったねぇ。ともかく、これ以上あの剣に血をすわせると、厄介なことになるよぉ」
見ると、刃にまとわり付く赤い液体が、瞬時に乾いていくのが見て取れた。まるで乾いた地面に水が吸い込まれていくようだ。
「ハァァァァ……血ダ……血ヲヨコセ……マダ足リヌ」
口から墨汁色の澱んだ息を吐き、目をらんらんと輝かせる前田慶次朗の姿は、いつか見た暴走するツングースカさんのようだ。
こいつは邪神に……飲まれたのか!
「足リヌ……貴様ラガ生贄カ……」
「おい邪神よ! 我等の血が欲しくば自ら取りに来い!」
ツングースカさんの挑発に、狂気を孕んだ瞳が動き、彼女を捕らえ――そして吼えた!
「 ウ オ オ オ オ オ オ オ オ ッ !! 」
「さて、これからが本番だな? 滾れ! 我が血よ!」
「ティガーナーゲル! 閣下に遅れを取るなよ、相棒!」
「覚醒完了――参る」
邪な凶悪さを漂わせる前田慶次朗に、別の意味での「三つの凶悪」が襲い掛かる!
はたして、この三人で決着が付いてくれるのか……それともまだ一波乱あるのか?
コートを抱える俺の手には、もう既に大量の汗が滲んでいた。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!