第八章 3 職務と友情
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
思いがけないレベトニーケさんの言葉に、やれやれと肩をすくめるベイノール卿。
「何を言い出すかと思えば……一体全体どうしたと言うのかね? レベトニーケ嬢」
「そうよ! 父上はそのような嘘など申されません! 言葉を取り消してください、レベトニーケ様」
アメリアスも語気を強めて反論する。
だが、レベトニーケさんはまるでそれを無視するかのように続けるのだった。
「卿は嘘を申しているのよ! 遅れてきた不利を、お得意の口先三寸で丸め込み、破壊するなどと申してあわよくばアスタロスの剣を我が物にしようという腹なのだわ!」
う~ん、確かにベイノール卿の普段の言動からして、なんだか怪しいという気はしないでもない。
けれど、卿ほどの力も権力も持っている人物が、そこまで卑屈な謀をするだろうか?
――いや、するかもしれない! ……なんたってアメリアスのとーちゃんなんだもんな。
あいつが大地との初戦で見せた騙まし討ちを思い返せば、さもありなんだ。
「まったく、困ったお嬢ちゃんだ。ならば止めはしまいさ……そしてアスタロスに魂を奪われ、生涯……いや、死ぬ事も許されずに、邪神の傀儡と成り果てるがいい――さぁ! あの剣を抜きたまえよ!」
少々オーバーな振る舞いで、声も高らかに語るその言葉に、レベトニーケさんは二の句が継げないでいる。
「ほれ、どうした? 早く抜きたまえよ? 『奴等』に何を吹き込まれたかは知らないが、抜いて、目先の利を貪るがいいさぁ!」
と、卿のその言葉へ、「聞き捨てならない」とばかりに声が響いた。
「お待ちくださいませ! いくらベイノール卿とて、我が主君に恥を強いるような言動は、我等夢魔族への敵対行為とみなし、しかるべき対応を取らせていただきます!」
レベトニーケさんに従って付いて来たと思われる、これまたやたらとかわいい女の子魔物が、サイドテールの髪の毛を揺らしつつ、まくし立ててきた。
背格好はアメリアスと同じくらいかな? でもこっちのほうが、だんぜん胸が大きいぞ。
身にまとう白のボンテージがはちきれんばかりのボリュームは、きっとレベトニーケさんにも引けをとらないだろう。
「えっと……えっと……で、ですわ!」
次いで、その影に隠れていた少女が、おっかなびっくり意見を合わせる。
お団子頭に低い身長、おまけに小学生かと思わせるような口調とろりろりフェイスだ。
一応、レベトニーケさんや先出の女の子と同じく、角と蝙蝠のような羽が生えているところを見ると、彼女もサキュバスさんなんだろう。
でも……どこからどーみても、まるでスクール水着と言った着衣につるつるぺったんなおっぱいでは、男性をたぶらかす事なんて出来なさそうな感じがする。
いや、逆に!
そっちのほうが、とある特殊な性癖のおおきなお友達に大人気なのかもしれないぞ!
俺は残念ながら、守備範囲外だけど。
「な、何を言うのよキューメリー、アルテミア! 先に喧嘩吹っかけて来たのはそっちじゃない!」
勿論、それを聞いたアメリアスの兄貴がだまっちゃいない!
マリアニ姉妹を従えて、「やんのかコラ!」と言わんばかりの気構えを見せている。
もはや一触即発! このままじゃヴァンパイア族対サキュバス族の戦い――フレディVSジェイソン、もしくは往年のジャイアント馬場対アントニオ猪木と言った、プラチナクラスの好カードじゃないか!
……っと、いやいや、そんな事に期待を込めてどーすんだよ、俺! 早く止めないとだな――。
「おいおい、この忙しい時に魔物同士仲間割れか? 大魔王軍ってのも大変なんだな」
と、そんな二人のやり取りに、割って入る声。大地だ!
だが、それが返ってよい結果を生んでくれた。
どうやらその呆れた口調が、二人の貴族間を冷静にしてくれたようだ。
「おっと、これはお恥ずかしい……ロキシアに諭されるとは、私もまだまだであるな」
襟を正し笑って言うベイノール卿の言葉に、大地が鼻を鳴らす。
まるで「しまった、ほっとけばもっと面白くなってたかもしれなかったのに」と、後悔するような素振りだ。
「ベイノール卿……先ほどの言葉は少々聞き捨てなりませんぞ? レヴィが『何者かにそそのかされた』とは、どう言う意味か説明していただけませんか?」
大地の一言で、収束を見ようかとしていた場面ではあった。
だが、流石に大魔王様への忠誠心厚いツングースカさんは、レベトニーケさんへのきな臭い疑惑を聞き流してはくれないようだ。
「いやなに、他愛も無い事だよ」
「他愛もないどころか、我が主レベトニーケ様を陥れる讒言に過ぎませんわ!」
「 貴 様 に は 問 う て い な い ! 口 を 慎 め 、 キ ュ ー メ リ ー ! 」
ツングースカさんの一喝が飛んだ! 流石にこれには、サイドテールのサキュバス子ちゃんもタジった様子だ。
「困ったねぇ、今ここで話すような簡単な事ではないのだよ? しかしながら、もうここを出るときは、魔族連合と――あぁ、少なくとも夢魔族と我等大魔王軍とは、事を構える事になるだろうからねぇ」
大魔王軍の分裂! 一瞬、ここにいる魔物達が息を呑んだ。
大地達は、三人が互いに顔を見合わせ、肩をすくめて失笑を浮かべている。
きっと面白い見世物が見れるとばかりの、物見遊山気分なのだろう。
「いいか、レベトニーケ、キューメリー、アルテミア。貴様達は長旅で疲れているんだ。即刻本国へと帰り、十分な休暇を取れ。これは円滑に任務を遂行するための命令――」
と、ツングースカさんなりの気を遣った言葉を遮り、レベトニーケさんが憤って言う。
「ツィンギー、あなたのような辺境育ちの小部族の出の者には判らないでしょうね。辺境伯へと位を落とされ、中央を追われた我が一族の無念さは……」
「レ、レヴィ……」
「やめたまえ、レベトニーケ嬢。それ以上の発言は、自白とみなされてしまうよ? 折角のツングースカ殿の厚意を無駄にするべきではないさ」
ベイノール卿が止めに入る。流石にこれ以上の揉め事は起こしたくない……いや、ともすれば、無かった事にしても良いと言った意図の発言だとも伺える。
けれど、一度火がついたレベトニーケさんの感情は、なかなか鎮火の方向へは進まないようだ。
「自白? 私は何も咎を受ける謂れはないわ! 我が血統の再興のため、魔族の更なる地位向上のための『正しい選択』を取ったまでよ!」
「やめろ、レベトニーケ! それ以上は――」
「いえ、問わせて頂戴ツングースカ! こっちへ戻ったあの夜、私はあなたに我々魔族として、そして『親友』として、あなたを迎え入れる話をしようと思っていたの。けれど、ヴァンパイア部隊の行方や、あのボウヤの帰りが遅い事が気になって仕方がないと言った素振りに、つい聞きそびれてしまったわ……でも、今改めて問う! 我が友ツングースカ、あなたは我々魔族と行動を共にしてくれるわよね?」
その質問に眦を吊り上げ、考える余地もないとばかりの即答で返すツングースカさん。
「貴様、私に大魔王様を裏切れとぬかすか?」
「裏切りではないの! ちゃんと、ちゃんと大魔王様への忠義は果たすわ! でも、私が力をつけ、中央への返り咲きを果たし、無能な奴等を廃し実権を握るのよ。全ては我等魔族のため、そしてひいては大魔王様のためよ! 分かって頂戴、ツィンギー」
ツングースカさんが今まで見せた事のないような、無念極まりないといった表情を見せた。
「愚かな……もはや友と呼ばれる事すら汚らわしい!」
「な、なんですって!」
「一体誰にそそのかされた? それを言えば、今の戯言は聞き流してやる。さぁ、誰だ!」
「バカ言わないで! これは私の考えよ。いい? この私、魔族の最高貴族たるサキュバス族のレベトニーケ・キール・バイツェルが、どこぞの奸賊の矮小な謀に乗せられたなどと、夢にも思わないで頂戴!」
毅然とした態度で、ツングースカさんへと向き直し、見得を切る。
それはまるで、長年培われてきた友情が、音を立てて崩れ去る様でもあった。
「わかった……レベトニーケ。今後貴様は……」
言葉を詰まらせる師団長閣下。
職務と友情、彼女の心の内にある、万物を推し量る天秤が傾き知らせる答え。それは――
「お、なんだぁ、まだナントカって剣は奪われてなかったんだ、ラッキー!」
その瞬間! 重く沈んだ空気を、いきなりの超軽薄な口調が切り裂いた!
突然の新たな来訪者に、皆の視線が集まる。
と、それは――言葉使い通りのチャラい男と、その子分的な背の低いデブ。そしてチャラ夫のガールフレンドと言った感じの頭の悪そうな女の三人だった。
いずれも名のありそうな得物を腰に携え、鎧装備に身を固めているあたり、代行者に間違いないだろう。
と、言う事は――殺盗団!
こんな厄介な時に厄介な者達が現れるなんて――収拾つかないぞ!
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!