第八章 2 猫VSトカゲ
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「見たまえよ、タイチくん。おもしろい入り口じゃないかね~?」
ベルーアの光源魔法によって照らし出された、幹にぽっかりと開いた穴。
まるで、入り口がどこを探しても見つからなかったので、業を煮やしたツングースカさんが「ええい! 貴様ら、どいていろ!」とばかりにご自慢の鉄拳で「 ド ゴ ン ッ ! 」とぶん殴り、見事幹の一部を破壊して、入り口を作り上げたかのような穴だ。
「はっはっは、彼女のゲンコツは、どんな扉の鍵をも開けてしまうようだ。便利だねぇ」
笑ってのけるベイノール卿。流石は肝の据わった貴族だ。俺もベルーアも、呆気にとられているってのにさ。
つか、若干ツングースカさんらしくてなんかほっとするのは何故だろう。
「さて、セルバンデスよ。中に入る前にゴミ掃除を頼まれてくれないかね?」
「かしこまりました、お館様」
ゴミ掃除? 一体何の事だ? そう考えていると、不意に俺達の周りを、うっすらと煙のようなものが漂いはじめた……これは、霧?
「ははは、セルバンデスの『技』だよ」
ベイノール卿が言う。 ブロウだって? この霧が?
と、疑問に思っている間に、辺りは一面の霧状態! ベルーアの魔法の明かりをもってしても、いったいなにがなにやら……と、そんな状況の中――!
「 ギ ャ ア ア ア ア !! 」
男性の悲鳴――と言うより、断末魔が聞こえた! 流石におっかねぇよ。
「自らを霧に変え、敵に忍び寄り、相手に気付かせる間もなく葬り去る技『悪夢の霧』さぁ。雑魚共を屠るにはちょーっともったいない技だよ」
瞬く間に三つの断末魔と、何かが地面に崩れ落ちる音が聞こえた。
そして程なく霧は晴れ、また漆黒の闇が周囲に広がった。
「ゴミ掃除終わりましてございます。統一性無き軽装な出で立ちから察するに、どこぞの野盗あがりの草共でしょう」
「う~ん、情報が漏れた可能性はあるかな?」
「今は無いでしょう。が、じきにばれるかと」
「そうだね、では急ごうか」
「はっ!」
そして、まるで何事も無かったかのように、悠然と巨木の幹にポッカリ開く穴へと、その身を滑り込ませるベイノール卿。
気後れしていた俺も、こうしちゃいられないと急ぎ後を追ったのだった。
巨木の幹の中へと入り、周囲を伺う。
恐らくは巨大な根の中だろうと思われるそこは、まるで木造りの長い下りの廊下を歩いているようだった。
そして歩く事数分、突然空気が変わった。
生臭く、そしてやけに温度が高い。まるでなにかヤバ目な生き物の巣と言った感じ――
「 グ オ オ オ オ オ オ オ ッ ! 」
「うーん、聞こえるねぇ……何かとんでもないモノの雄叫びではないかな?」
「察するに、アスタロスが眠りし剣の番人が、ツングースカ様一行を歓迎しているのではないかと」
ば、番人! ありがちだが、当然無くてはならない存在だ!
まさかドラゴンとかそう言った「宝の番人」が、皆に猛威を振るっているのだろうか!
「い、急ぎましょう! ベイノール卿」
「ああ、そうだね」
駆ける事数分。真っ暗な通路の先に、炎の明るさが見えた。
それはおそらく、剣が眠る場所を照らす篝火と言った照明的な炎などではなく――何者かが攻撃のために起こした火柱と言った、勢いのある炎だ!
「やれやれ……これはまたすごいのを番人として雇ったもんだ」
ベイノール卿が、あきれたと言わんばかりの口調で零す。
辿り着いた先で俺達が目にしたもの――
それは、学校の体育館ほどの広さの石造りの空間に、石組みの祭壇と、刺さった一本の剣。
そこに、ツングースカさん御一行と、大地のグループ。
そして――首が三つある、でっけぇトカゲの親分のような生き物!
「『ベミオベメラッツォ』古に魔の者の手で作られ、命令を受けた『モノ』を永久に守護する頑固者さ」
「うわぁ、すっげぇ! キングギドラだー」
と、俺のマヌケな一言が、大地の……そしてそこにいる全ての者達の視線を集めてしまった。
「なんだベオウルフ、来ちまったか」
大地がため息と共に言う。
「それにセル――お父様まで!」
アメリアスが叫ぶ。
「ベイノール殿か。悪いですが、この獲物は我輩のものであります。願わくば手出しは無用に!」
三つ首トカゲと対峙していたレフトニアさんが、声高らかに言う。
「はっはっは、誰も取りぁあせんよ。存分に戦いたまえ!」
「ハハッ! 感謝の極み!」
「うれしい!」と言った表情で返すレフトニアさん。
彼女の出で立ちは、装備と言うものとは縁遠い、全くの軽装。ツングースカさんと同じく軍服姿だ。
そのスタイルは、我らが師団長閣下と同じく格闘をメインとしたフォームで、更に動きやすくするためか、上着を脱ぎ捨て、真っ赤なビキニブラで包まれた豊満な胸をさらけ出している。
ちくしょう、これじゃ戦いに集中していいやら、胸元の弾みに集中していいやら、気が散って仕方が無い!
「では改めて行くぞ! トカゲの王よ!」
三つの首のそれぞれが、舌をチロチロと出して、まるで品定めでもしているかのように「敵」との間合いを確認している。
そして六メートルはあろうかと言う巨体が――やたらと俊敏に動いた!
「緩い動きだ! そんなものでは――」
と叫んだ瞬間!
レフトニアさんの死角となっていた場所から、巨大な物体が「超」が付くほどの高速で襲い掛かった!
―― バ シ ィ ィ ィ ィ ン !!
強烈な音と共に、横の石壁まで弾き飛ばされるレフトニアさん。
その攻撃は、巨大なトカゲの尻尾による不意打ちだ!
「あいててて……やるなぁ、こうでなくては面白くない!」
まるで尻餅でも付いたかのような、ケロッとした口調。石の壁にめり込むほどの威力だってのに、全くの無傷!
そのガタイの頑丈さは、おそらくツングースカさんと同じかそれ以上?
「さて、反撃に参るか!」
そう一言残して――レフトニアさんが消えた!
いや、目にも留まらないほどのダッシュを見せたのだろう。
その証拠に、レフトニアさんが立っていた地面がえぐれている!
そして気が付けば、三つ首トカゲの背にひょっこりと立っている。まるで瞬間移動だわ。
「まずひとつ! 虎の爪!」
剣のように長く鋭くなった爪が、トカゲの真ん中の首を落とした!
「 ゴ ガ ァ ア ア ア ア ア ッ ! 」
激しくのたうつ巨体に、振り落とされたレフトニアさん。
いや、落とされたってのは語弊があるな。自ら地面に降り立ったと言うべきだろう。
そして、痛みと苦しみに怒り狂った巨大トカゲへと、挑発をするように叫ぶ。
「それ、我輩はここだぞ!」
わざわざ注意を引き、敵へと改めて対峙し、両の掌をすぅっと前方へと向けた。
「食らうがよい! 究極の虎の牙!」
「 グ ワ ォ ォ ォ オ オ オ !! 」
それは普通、俺が撃つティガーファングとは比較にならないほどの大きさを誇る、黄金色の「虎」の一撃だった!
放たれた金色の牙獣は、勢いに乗り、まっすぐに巨大トカゲの喉元へと食らいついた。
――そして、それだけじゃない!
まるで生きているかのように、もう一方の首へと追い討ちをかけ、残る首を見事制圧したのだった。
「いいかね? このトカゲが弱いのではないよぉ? 彼女が強すぎるのだ。そこのところを間違えないようにしたまえよ」
ベイノール卿が俺へ、小さく語りかけた。
「は、はい。よく肝に銘じておきます」
そして、トカゲの尻尾の痙攣が収まり、絶命を知らせる。同時に、役目を終えた黄金色の巨大な虎は、その体を光の粒へと変えて漂い、ゆっくりと闇にとけて行った。
――パチパチパチパチ……
拍手の音がする。大地だ。
「面白い芸当だ。が、そう言ったファイナル・ブロウは隠しておいた方がよかったんじゃないか? 猫娘」
「侮辱するな! 猫ではない、虎だ!」
レフトニアさんが今にも大地へと飛びかかろうとしている。
が、それをツングースカさんが諌めた。
「レフトニア、奴めも手にかけるなどと、少し欲深いぞ?」
「は、はは! これは申し訳ありません、閣下」
まるで借りてきた猫のように……おっと、そんな事おくびにも出そうものなら、今度は俺がターゲットにされちまう。
「まぁ誰でもかまわんが、てっぺん同士の戦いで、この剣の所有者を決めようじゃないか?」
「よかろう。ならば私が相手になる」
大地の挑発的な言葉に、ツングースカさんが名乗りを上げた。
と、その二人の間を割って、ベイノール卿が一言物申す的に、双方へと言葉をかけた。
「待ちたまえよ、諸君。この剣は誰のものにもせず、このまま地中深くで眠らせておいたほうがよいのだよ」
「な、何を仰せです? ベイノール卿」
ツングースカさんが慌てて問い質す。大地はと言うと、ただ腕を組んで、どこのおっさんとも知れない紳士の言葉に耳を貸していた。
「この剣、アスタロスが眠りについていると言うのは間違いではないさ。が、真実は――その剣を握りしものを苗床とし、復活を果たすための罠なのさぁ」
「そ、それは真ですか? ベイノール卿!」
「うん、ホントもホントさぁ。でなきゃこんな所までわざわざ止めに来やしないよぉ」
「顔色の悪い紳士よ。って事はなんだ? 俺達はまんまと誰かさんの陰謀に乗せられそうになってたって事か?」
「その通りさぁ」
その言葉に、ツングースカさんが無念そうな表情を見せる。
「ぐっ! 我々は……踊らされていたのか」
「このまま帰れば――そうなるねぇ。が、この剣をここで破壊してしまえば、話はべつさぁ~」
ベイノール卿の案に、皆の表情が一瞬凍った。
「それが本当だと言う証拠がない。が、本当だったなら、おっさんの言に従ってもいい」
大地が意外な一言を発した。
「強い剣は欲しいが……もう俺自身が強いからな」
己の強さをひけらかす? ちょっと待て、もしかして……もう既に神様と同化しちまったってのかよ?
「ほう、それはよい事だねぇ。だが、私も証拠と呼べるものを持ち合わせてはいない……それでも信じてはもらえないかね?」
「いや、信じるさ。俺だって邪神を復活させたマヌケなんてレッテル貼られるのは嫌だしな……ま、こんな物騒なものは抜きでやりあうってのが一番いい――」
と、突然! そんな大地の殊勝な言葉をさえぎる声が!
「 な 、 何 を 言 っ て い る の ! そ ん な の は 嘘 よ ! 」
声の主に、皆の視線が集まる。
それは誰あろう。遠く北方からやってきたと言うサキュバスのお姉様、レベトニーケさんだった!
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!