第八章 1 ベルーア・リポート
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
俺達四人が降り立った場所。
それは、周囲のどこを見渡しても鬱蒼とした木々しか見当たらない、緑の大海――ヴェロニーの地獄森。
ベイノール卿が言うには、ここはその中心部なのだそうな。
一寸先も見えない闇の中を、ベルーアの結晶の光なる光源魔法で照らし歩く。
ヴァンパイアのお二方はこんな漆黒の空間でも目が見えていらっしゃる様子で、逆にこの明かりがまぶしいと、俺達の少し先を歩いている。
「ええ場所に飛んできましたな、ここからやと結構近いですよ?」
「そうかね。もし皆がツングースカ師団長のテレポートでやってきたとしたら……如何様にも動ける中心部がいいだろうと思ってねぇ」
案内役の食いだおれ太郎が、ツングースカさんの気配を感じつつ先頭を飛び、その後をセルバンデスさんが、手刀と長く伸ばした爪で木々をなぎ払い、道を作っている。
ベイノール卿が歩きやすくするためとは言え、あまりにも自然に優しくない行為だな。
だが、立ちはだかる大きな樹木も、爪の一閃でなぎ倒す辺り、その威力ってのはハンパ無いんだろうなぁ。
「いえいえ、この程度のお役にしか立てない駄芸でございます」
謙遜して言う。その奥ゆかしさに惚れてしまいそうだ。
「ところでベルーア。君が持ってきてくれたって言う、大地についての情報なんだけどさ……ぶっちゃけヤツは操られてるんだろ?」
そんな俺の願望が混ざった問いに、ベルーアは少し躊躇った表情で返してきた。
「結論から言うと、操られてはいません……彼の、大地さんの意思です」
「ぐっ、聞きたくなかったな……その答えはさ」
でも、知らなきゃならない事なんだ……俺の心を固めるためにも。
「そして天主の代行者に選ばれる条件なのですが……ロキシアの都『ワーデンガード』の王立図書館にある、神の偉業や所業を書き綴った書物によれば、それぞれの神と相性の良い人物が選ばれているようです。これは遥か古に行なわれた『古の神々と邪神との戦い』において、よく似た現象を記す記載がなされていました」
「あ、相性が良いだって? 大地はあんな暴力的なヤツじゃないぞ?」
思わず声を荒げて気付く。しまった、ベイノール卿やセルバンデスさんもいるんだっけ! 迂闊な事は言えないな。
「い、いやまぁそう感じただけなんだけどさ……もちろん根拠とかそんなのはまったく無いぜ?」
慌てて言い繕う。だが、前を歩く二人は、まったく関心が無いと言った態度で、ずんずんと進んでいるようだ。
「で、その大地にくっついてる神ってのはどんなヤツなんだ?」
「はい。彼に憑いている神『ペリデオン』は、主神『ゼルス』でさえ指揮系統に組み込めない『裁きの六雄神』の一人で、『断罪』を司る神です」
「裁きの六雄神? またぞろ俺好みのネーミングだな……」
「それは天界での秩序を守る、絶対不可侵な神の機関。言わば神様の監査役ですね」
監査役か、なるほどな。だがそんなまともそうなヤツが、何故に大地とタッグを組んだんだろう?
「更には、こうも書かれていました――断罪の神ペリデオンは、その権威と力に酔いしれ、いつしか主神ゼルスの怠慢さに憤りを感じるようになり、ヴェロニキサス・ローニトベケー・キュロドヘレスの三神を率い、ゼルスに弓を引いてしまったようです」
うわぁ、よくある神様同士の争い物語だなぁ……ちくしょう、大好物だぜ!
「恐らくですが、大地さんの内に眠っていた『罪や罰を憎む心』が、ペリデオンの主義と合致したのではないでしょうか?」
「むむ、そう言えば……昔から不正や悪徳には怒りを覚えるタイプのやつだったかも……って言っても人並みくらいだぜ?」
「でも内面までは推し量ることはできないでしょうし……もしかすると、太一さんが思うより、はるかにそれに近い信念を持ってらっしゃったのかも知れませんよ?」
言われてみればそうだ。
けれど……俺の前では見せた事が無いってのは、なんだか釈然としないな。
「ですが、太一さんだってそうでしょう? 大地さんには見せない一面を持ってらっしゃるでしょうし……例えば、魔物になって村娘を――」
「そそそうだね! 人には言えない事っていっぱいあるもんね!」
なんか、俺の心の奥まで見透かされていそうで怖いですよ、ベルーアさん。
「ところで――大地達の神様を調べているうちに浮かび上がってきた『ある事』ってのは?」
一瞬、ベルーアの表情が曇った。
もしかしてベイノール卿らには聞かれちゃマズイ事かな?
(いいぜ? 当たり障り無い事でお茶を濁してくれ)
と言うアイコンタクトを送る俺。
が、ベルーアは(大丈夫、わかってます)と微笑で返してくれた。
「これは憶測ですが……大地さんの目的は、ご自分の力でロキシアの――いえ、アドラベルガの制圧、統一が目的ではないかと思われるのです」
その言葉を聞いて、流石にベイノール卿も足を止めた。
「天主の代行者がそんな大それた事を目論んでいるのかね? おもしろい、それでこそ阻み甲斐があると言うものだよ~」
笑いながら、暢気な事をのたまう。
だけどこの人こそが、一番心の内で何を考えているかわからないもんなぁ。
「ペリデオンはその後、主神に弓引く反逆者として、とある神様の力で封印されてしまったのです」
「へぇ。そんなすげー神様がいたのか……もしかして、そいつがマルりんが言ってた、今一番強いとされる神威ランク1位か2位のプレイヤーなのかな?」
「それはどうかわかりませんが……きっと違うでしょう。何故なら――」
ベルーアの言葉に、俺は一瞬ドキリとした。
「それは、とある出来事以降より、天界の辺境の地で外界とは一切の接触を絶っていると言う神『アポルディア』なのですから」
そう、そのキーワードには覚えがある。
おそらくは……いや、絶対にそいつは、俺が本来主人公だったとき、俺に憑依するはずだった神様だ。
という事はだ、その神様ってのは、今回のこの騒動には関わってないって事か?
「それはわかりません……が、何者かがペリデオンらの封印を解き、今回のような一連の天主の代行者達が覇を競い合う、まるで『ゲーム』のような展開を望んだと言う事でしょう」
「ゲームか……そう言えばマルりんが言ってたな。神威ランク上位者には、なんらかの景品とかが送られるってさ」
「では、その品を与える側の者が――首謀者となるのですね?」
俺が願った物語とはちょいと違うな……まぁ、好みの話ではあるけれど。
しかしながら、俺が読んだ例の「本」の中には、一切出てこない設定だ。
俺が読むのを断念した場所はまだ途中だったから、もしかしたらその先にあるかもしれない設定なのか?
――いや、そうなると、チーベルやベルーアが知らない設定が多すぎる。って事は、ごく最近付け加えられたか、改変されたかの設定なんだろう。
って事は、大地が願った世界観なのか?
今思えば、そう考えるに至る裏事情が多いのも頷ける。
この世界を統一したいと願うためには、まず世の中を正し、まとめ上げるための大義名分が必要だ。
そこを考えると、ワダンダールがヤバイ薬を売って世界中にばら撒いていたり、それを狙って各国が虎視眈々と謀略を巡らせたり、果ては殺盗団なんてわっかりやすいワルモノ軍団まで登場している。
これらをぶっ飛ばし、正しい世の中を作り上げるヒーロー的存在……うん、合点がいく。
けれど――邪神や神々の戦いなんてのはどこの誰が生んだ設定なんだ?
それも大地が考えたのか? ベオウルフなんて名前を好んで使う辺り、神話系にも強かったしなぁ。
でもそうなると、いちいち『ワゴーン大陸の覇者』なんてチンケな設定じゃなく、ストレートに神々の戦いに加わる役だったろうし……もしかして第三者の可能性?
「あ、太一さんの頭から、あまりもの情報負荷による熱煙が!」
チーベルが俺の異変に気付き叫んだ。
う~ん、俺のファミコン並みのCPUでは、全く処理出来んゲーム内容だ!
「はっはっは、タイチくん。ちょうど良かった、しばらく考え事はお預けだよ?」
そう言うベイノール卿が指差す方向。
そこには、まるで俺達の行く手を阻む壁のような、太く雄々しい巨木の幹がズッドンッ! と突っ立っていた。
「だんさんがた、あそこですわ! あそこで気配が消えてますわ!」
高さはそれほどあるわけではないが、その太さたるや、俺の家が丸々一軒入るほどの幹周り! これでは上空から見た限りじゃ、発見は難しいだろうな。
「食いだおれ太郎、よくやってくれたな! 礼を言うよ」
「いやいや、こんなん軽い軽い! またなんかあったら呼んでくれや」
照れ笑いと共に、食いだおれ太郎は俺の指輪へと帰っていった。
「では、皆気を引き締めて掛かりたまえよ?」
「「「はっ!」」」
ベルーア、セルバンデスさん、そして俺が、気合の篭った返事を見せる。
ここからは全くの未知の領域。大地とその神達の話も気になるが、今はそんな事考えてる場合じゃない。
ベイノール卿が仰る通り、気を引き締めていかないと、その時点でゲームオーバーになって、この先の展開すらお拝めなくなってしまうもんな。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!