第七章 16 三日ぶりのオッドアイ
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
とりあえず飛んできたベイノール家邸宅前。
俺とチーベル、そしてなぜかやる気満々となった伝令妖精は、急いでその広い邸宅内へと駆け入ったのだった。
とにかく誰かつかまえて、あの森の魔族名を教えてもらわなきゃ。事は一刻を争うからな!
「それはそうと、伝令妖精よ。お前の名前は何てぇんだ?」
駆けながら、横を飛ぶ妖精へと聞いてみた。名無しじゃこの先、呼び辛いからな。
が、返ってきた答えは意外なものだった。
「は? 俺に名前なんかあるワケないやろ」
「無い? それじゃ名前呼ぶとき困るだろ?」
「ハァ? 呼ばれる事無いのに、名前なんか要らんやんけ?」
呼ばれる事がないって……雇い主とか仲間内とか、ご近所さんとの会話はしないのか?
「するかいな! ずっと指輪の中やのに」
「だけどさ、今後お前さんを呼ぶとき、『でんれいようせい~』ってのもなんか味気ないだろ? 何ならつけてやろうか」
と、何気なく言ってみた。
実際名前があったほうが呼びやすいし、(もしかしたら)親しみもわくかもしれないしな。
「お前、ホンマおっかしなヤツやのー? 俺なんかに名前くれるんか?」
「嫌か?」
「いや……いやいや! ホンマの事言うとめっちゃほしい!」
なんだか凄く嬉しそうにはしゃぎながら言う。
なんてーか、この手の妖精ってのは、すっごくぞんざいに扱われてんだろうな。
「な、なぁ! そしたら、俺に名前決めさせてくれへんか? じ、実は前々から決めてた名前があるんよ」
「へぇ、どんなだ?」
「お、おう、えっとな……あーせやけど……なんか恥ずかしいな……言うても笑わへん?」
「あ? ああ」
なんだか、メンドクサイ奴だな。
「ぜ、絶対笑うなや!」
「しつこいな、絶対笑わねぇよ!」
と、俺の一言にもじもじしつつも、伝令妖精は恥かしさを押して言う。
「ラ、ラインハルト・フォン・ローエングラム……とかどう――」
「却下だバカヤロウ!」
食い気味で言ってやった。つか、笑うどころの問題じゃねぇだろ!
「な、なんでや! かっこええ名前やんけ!」
「名前負けしすぎだ! お前なんか食いだおれ太郎で十分だろ!」
「う~ん、まぁそれでええわ」
「……いいのかよ」
と言うミニコントが終了すると共に、前方の部屋から出てくるセルバンデスさんを発見!
「セ、セルバンデスさん!」
「おや、これはタイチ様。いかがなされました?」
食いだおれ太郎とは打って変わって、至って社交的な笑顔が出迎えてくれた。
「突然すいません! 魔族語で『ヴェロニーの地獄森』と言う言葉を教えてくれませんか?」
「ヴェロニーの地獄森? ああ、それなら『レダ・デ・ヘロクレッサ』ですよ」
俺の突拍子の無い質問にも、慌てず騒がず、端的に答えを返してくれるセルバンデスさん、できた人だ。
「レダ・デ・ヘロクレッサですね、わかりました! ありがとう」
礼を見せて踵を返そうとしたとき、今しがたセルバンデスさんが出てきた扉が再び開く音と、俺を呼び止める声がした……ベイノール卿だ!
「やはり君か、タイチくん。一体何事かね?」
「おっと、これはベイノール卿。夜分申し訳ございません」
……って言うのもおかしな話かな? 何せ夜中に活躍なされる方々だもんな。
「実はヴェロニーの地獄森へと行くために、魔族の言葉を尋ねに来た次第で……」
「ほう、それは奇遇だね。今さっき、かの森への捜索部隊を派遣したと聞いて止めに行こうとしたが、一足遅かったらしくてね……どうしたものかと思案していたところなのだよ」
「止めに? それはまたなぜです?」
意外すぎる言葉に、一瞬頭が混乱するさまを覚えた。
ツングースカさん達の任務を止めに行けば、大地や殺盗団の連中に例の剣を奪われてしまうじゃないですか?
「も、もしかして……剣を取りにいくと何かヤバイ事が?」
「そう、それこそが『奴等』の狙いなんだよ」
「やつら、ですか? それはいったい……」
一瞬間をためて後、卿は言うのも憚ると言った口ぶりで、奴等の名を語った。
「我が軍団内にいる、邪神崇拝者共さぁ」
俺に衝撃が走った! やはりいるんだ……裏切り者が!
「彼等は尻尾を出さない。何故なら、上手く身を隠し、他人の力を利用して事を成就させるからさぁ……わかるかね? この意味が」
「じゃ、じゃあ俺達は『利用されている』と!?」
「その通りだよぉタイチくん。我々どころか、例の殺盗団とやらもねぇ……まんまとしてやられたわけさぁ~」
って事は、狙いは……眠っているアスタロスの復活か!
アスタロス、もしくはアスタロトって言やぁ、悪魔ルシファーに次ぐ有名どころであり、高位悪魔の筆頭だもんな。
ラノベや漫画に限らず、いろいろな作品でよく耳にする名前だ。そんな奴が眠ってるんだ、そりゃあ邪教の方々からすれば、復活させて「アスタロスが仲間に加わりました」イベントを目指すだろうさ。
ちくしょう、元々の筋書きからどんどん話がずれていってるぞ?
こいつは誰かの思惑なのか?
ま、まさか大地の……?
あいつが主人公になっちまった故に起こった、イレギュラーな出来事?
それとも、あいつが望んだ展開か? なんだか知らねぇけど、メンドクサイ事しやがって!
「それで、今から止めに向かおうとしていたところなのだよ。で、どうかね? 君も」
「も、もちろんです! 行きます! つーか、俺も行くつもりでここに来たんですから」
「あははは、そうだったね……かの森で、アスタロスが眠る場所への入り口を探すのは至難の業だからねぇ。手分けして探すには、人が多いほどいいというものだよ」
どうやらベイノール卿は、入り口のありかまでは知り得ない様子だ。
「そこでこの伝令妖精――食いだおれ太郎君ですよ! 彼にツングースカさんの気配が消えた地点まで案内してもらうんです。気配を追える伝令妖精ならではの術と言うヤツですよ」
「は、はは……どうも、食いだおれ太郎です。よろしゅうに」
やたらと畏まって挨拶する太郎。
一応、偉い人には礼を尽くすみたいだ……と言うか、ただ卑屈になってるんじゃないのか?
「ほう、なるほどーそれはいいアイディアだねぇ。我々には思いもよらない考えだよ」
「あはは、そうですか。では早速行きましょう――」
「まぁ、待ちたまえ」
と、焦る俺に、ベイノール卿が待ったをかけた。
「もう一人、共に向かう心強い援軍がいるのだよ」
そう前置きしてから、部屋の中から招き寄せた人物。俺はなんだか懐かしさにも似た感情に包まれ、思わず声を上げてしまった!
「ベ、ベルーア!」
「こんばんは、太一さん。やっと調べ物が終わったので、早速報告にあがりました」
そこには三日ぶりに目にする白金の髪のオッドアイ少女、ベルーアがいたんだ。
「ほ、報告って?」
「はい、大地さんに取り憑いている『神の事』、そしてそれを調べているうちに浮かび上がってきた『ある事』についてです」
一瞬、俺に戦慄が走った。アイツの体を乗っ取っている神様とやらの素性か。ぜひ聞いてみたいもんだ。
「ところで、『ある事』ってなんだ?」
「それは、向かいながら順を追っておいおいお話します。まずはヴェロニーの地獄森へ急がねば」
「あ、ああそうだな。じゃあどうやって向かおうか? この大人数じゃ……」
「なぁに、心配は要らんよ。私の呪文で連れて行ってあげようじゃないか」
と、ベイノール卿が胸を張って言う。
「セルバンデス、お前も来なさい」
「はっ、御館様」
畏まった一礼で、命に従う意を見せるセルバンデスさん。
「では、参るよ~。飛翔!」
こうして俺達四人と二匹は、ベイノール卿のテレポート呪文により、ヴェロニーの地獄森へと飛び立った。
どうか、事が嫌な方へと展開していませんように。
そして――皆無事でいますように。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!