第七章 13 マルりん
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
自分の持ち場へと戻ってきたあと、チーベルと交代で仮眠をとりつつ見張りを続ける。
何もせず、ただ気を張っているだけってのも結構疲れるもんらしい。
その後、休息のおかげで目も冴えて、新たな「暇」と言う敵の襲来に悪戦苦闘する俺とチーベル。
そんな苦境に立たされていた二人に、なんとも心強い援軍が現れた!
「こんばんわ~うるふちゃん!」
「だ、誰だ! ……って、なんだ、お前か」
「いらっしゃいませ、マルりんさん」
不意にテレポートアウトしてきたのは、やたらと明るい少女マルりんだった。暗い雰囲気の現場が、一瞬でパァっと明るくなった気がするよ。
「差し入れもってきたよ~」
その手に携えていたバスケットケースを、誇らしげに見せるマルりん。ありがてぇ、なんとなく小腹が空いてきてたところなんだ。
見ると、中身がチーズとハムのサンドイッチに、ワインと……あとはリンゴか。ごくごくありふれた感のある西洋系のピクニック弁当だな。
なんだか無性におにぎりが食いたくなってきたよ……もちろん中身はシャケの切り身な。
「ところでマルりん……むしゃむしゃ……今何時ごろか分かるかい?」
「えーとね、さっき食堂でこれ作ってくれたおばちゃんが、『もうじき日付が変わる時間だってのに、大地さんに起こされた』って言ってぼやいてたよ」
って事は、そろそろ十二時か。作戦決行の時間だな……大地には悪いけど、ツングースカさん達、例の剣を上手く持って帰ってきてくれるといいな。
「ははは、夜中に起こしてまで作ってもらったのか? これ」
「うん、大地さんが持ってってやれって。で、あたしが持ってくねって言ったの」
俺の分のワインをカップに注ぎながら、マルりんは笑顔で答える。
なんだ、大地もマルりんもなかなか気が利くじゃないか……う~ん、ちょっとだけ罪悪感……だが裏切り御免、所詮俺はそんな奴なんだ。
「で、そっちはどうなんだ?」
「ん? なにがー?」
「何がってお前な……敵だよ敵! そっちの持ち場は攻めて来そうな気配はないのかって話」
「あ、そうだったね……えへへ。ぜんっぜん平気だよ?」
「そっか、ならいいが」
何がいいのか自分でもよくわからないけど、まぁこうやって差し入れを持ってきてくれるんだから、他の部署は大丈夫なんだろう。
ん、ちょっとまてよおい! じゃあ危ないのはここってことになりはしないか? なら俺一人じゃなく、援軍をよこしてもらわなきゃダメじゃないのかよ?
「あ、うんそうだね。じゃああたしもしばらく一緒にいたげるね!」
なんてアバウトな指揮系統なんだ。ま、これで暇が少しは解消されるだろう。
「それよりワイン飲みなよ。おいしいよ?」
「一応俺は未成年者なんだぜ? 飲酒は流石に――」
「あはは。魔物なのに? もしかしてお酒飲めないんだー」
「ば、バカ言うなよ! 飲めるさ。い、いただきます」
お屠蘇以来の飲酒だが……俺、酒ってあんまし飲めないんだよな。
ええい、ままよ! ――ゴクリッ。
カッハーッ! やっぱ酒ってのはキッツイなぁ。
ぶどう酒って言うくらいだから、もっとぶどうジュースのようなものを想像していたんだが……一口だけで口から喉まで焼けるようだぜ! やっぱ俺にはまだまだファンタがお似合いだわ。
「うえぇ~……と、ところでさぁ、マルりん。君もロキシアの光って奴だろ?」
「うん、そうだよ!」
「じゃあ、なんで神様が憑依しないんだ?」
酔った勢いって訳じゃないけど、以前から気になってた事を尋ねてみる。
「うん、完全同化しちゃったからね」
「完全同化? なんじゃそら」
「えっとね、神様とあたしがパーフェクト合体したの」
余計にわからん。
「でもねでもね、あたしも最初の二、三時間は神様に取り憑かれてたんだよ? へんなおばちゃんみたいな声でおかしかったんだよ~」
「って事は、何だ? 取り憑かれている状態ってのは不完全で、今は完全体だってのか?」
「そだね。最初に神様の記憶が同化して、そんでずっと神様の力が使えるようになるの。それでやっと一人前なんだよ?」
「そ、それって……力も強くなるとか?」
「うん! 意思は自分のままで、神様の力全解放みたいな感じ? 自由に使えるようになるんだよ? しかも時間制限なくねー」
「つまりはドラゴンボールのセル完全体のような設定なんですね?」
チーベルが、また変なとこから例えを引用してきた。
「あははは。うん、ちょっと違うけど、まあ大体そんな感じ」
それで通じるほうもどうかと思うけどな。
「でもなんでマルりんだけなんだ? そうなったのって」
「わかんなーい。でもほとんどの人がなるらしいよ? なんだか個人差とかあるみたいだけどね。あ、でも大地さんやベルたんは、もうそろそろ記憶の同化が完了するみたいだって言ってたー」
うっ、あいつら更に強くなるってのかよ。それってなんかヤバくないか?
「でもね、ずっと同化できない人もいるんだって」
「って事は、あれだな。逆に最初っから同化して現れる奴もいるって事か……でも、だからって、何にどう影響するんだ?」
「うん、『神威ランク』って強さランキングに影響するんだって。上位者には特典とかもあるんだってさー。なんかわくわくするね!」
いや、しねぇよ……一応俺、敵だしな。つか、あったなそういう設定。
「今ね、あたし3位なんだよ? すっごいでしょー」
「へぇ、じゃあ上位二人は大地とベルガか?」
「ううん、なんか知らない人」
おいおい、ちょっと待ってくれよ! こいつらよりまだ更に強い敵がいるって――そうか、ベイノール卿と戦ったって奴かな!?
「でもねー、大地さんとベルたんが完全同化すれば、1位と2位は変わっちゃうよ」
「そうかもな……でもそうなれば、マルりんは五位だな」
あははと笑って言うと、マルりんのかわいいほっぺたがぷくっと膨れた。
「どーせあたしは弱いですよーだ」
まるで小学生のように「べー!」と舌を出し、怒る仕草。ちくしょう、妹属性のない俺でもちょっとときめいちまったじゃないか!
「 あ あ っ ! 」
突然! 何かに気がついたように驚くマルりん。一体どうした!
「しまったぁ! これって内緒の話だったんだっけ」
……そ、そうなのか。全部しゃべって気がつくあたり、この子の「トラブルメーカーなドジっ子ロリ系後輩設定」は生きてるらしいな。いや、どっちかってーと、おバカキャラかな?
「うるふちゃ~ん、今の事みんなには内緒ね、ね!」
顔の前で手を合わせ、ぺこぺこと頭を下げつつ懇願するマルりんを見ると、何でも言う事を聞いてしまいそうな自分がいる。うう、俺にもそんな属性があったとは……新たな発見だ。
と、その時。マルりんの失態を察知したかのように、伝令妖精が不意に現れた。
この一見ツンとしたおしゃまさんな妖精は……そう、大地のだっけ?
「伝令、大地さまより。キュロドヘレス、至急現場に戻るように。以上です」
「おっけ~! わかった」
マルりんがそう言うと、伝令妖精が一度丁寧なお辞儀をしてから、その姿を消し去った。おい、どこぞの妖精とは、礼儀とか品位とかが格段に違うじゃねーか。
「じゃあ、あたし帰るねー! うるふちゃんもがんばってー」
「お、おう。差し入れありがとなー!」
笑顔で手を振り、光の結晶へと変化して空へ駆け上がるマルりん。
なんだかんだ言って、元気をくれるいい子だよな。
「太一さん、気になりませんでしたか?」
「ん? 何がッスか、チーベルさん」
「今さっきの会話の中で、マルりんが言った事ですよ」
「んー? 神威ランクの話か?」
「いえ、もっと前。サンドイッチを作らせた件です」
名探偵チーベルさんの灰色の脳細胞が、何かに気がついたようだ。
一体なんだ? バカな俺にはさっぱりだ。
「サンドイッチ作ってくれたおばちゃん、起こされたっていってましたよね? って事は、大地さんお城にいるって事じゃないですか?」
「ああ、まぁそうなるよな。でもたまたまじゃね? 何かの用事で城に帰ってきた時に、ついでに作ってやってくれって頼んだとか。もしくは城から命令を出しているとか」
「でも、マルりんが『あたしが持ってくねって言ったの』と言いましたよね? これって彼女もその場に居たって事ですよね」
「うーん。大地に呼ばれたか、もしくはヒマそうにしてたから城に戻ってたとか?」
「百歩譲ってそういう事にしましょう。でも、それなら至急現場に戻れっておかしくないですか? 『何かあった』とは思えませんか?」
「うむむ、それもそうだな……」
なんだか腑に落ちないと言うチーベルの言葉に、俺もだんだんと疑心暗鬼に陥っていく。
そんな不安を払拭させるためにも、大地からのちゃんとした弁明なり説明がほしい。そう思い、俺は大地へと伝令を飛ばす事にした。
「伝令、大地宛てに」
指輪に向かって声をかける。
「あ、なんや?」と、かなりめんどくさそうに現れた妖精……大地の妖精さんの爪の垢を直接飲ませてやりたいよ。
「そっちで何かあったのか? 返答を乞う」
「そんだけか?」
「ああ、早速行って伝えてきてくれ」
「おう、ほなな」
態度はアレだが、仕事はきちんとこなしてくれるようだ。
そして待つ事一分ほど。帰ってきた妖精が、なんだか機嫌悪そうに俺へと言う。
「なんもないとよ! いちいち伝令飛ばしてくんなって、俺がキレられたわ!」
「そ、そうか……わるかったな。やな思いさせて」
「あ? ……べ、別に。ほな、帰るで」
そう言うと、またそそくさと指輪へ戻る関西妖精。なんだろう? 大地のやつ荒れてんのかな?
「なんだか態度が豹変しすぎじゃないですか? なにかあったんですよ、きっと」
「うーん、そうだよな……いちいち伝令飛ばすなって、何か邪魔されたくない事でもあるのか――あっ! 判ったぞ! あの野郎、寝てやがったんじゃね?」
俺の名推理に、チーベルさんはいまいち同意しかねると言った表情だ。
「とりあえず、私は一度空を飛んで、周囲を見渡してきます。もしそれで何も異変がなければ、一度お城に戻ってみてはどうでしょうか?」
チーベルの意見に、反対する要素など微塵もない。早速よきに計らってもらう事に。
「にしても……なんだかすごく眠くなってきたなぁ。おまけに体もだるいし……あの野郎、自分だけふかふかお布団で寝てやがったら、枕元で怪談語ってやっからな」
一体どんな怖い話を語ってやろう? そんな想いをめぐらせている俺の元へ、チーベルが慌てて戻ってきた!
「た、た、たいへんです! 夕方太一さんが行かれた村の辺りで、大きな火の手が上がってます!」
「な、なんだって!」
一瞬でマックス状態の胸騒ぎが押し寄せた。
ジジイ共、もしかして――焚き火の火を消し忘れたか!
「と、とりあえずチーベル! 村へ向かうぞ。来い!」
「は、はい!」
おちゃらけた想像で逃避しても、バンバン襲い掛かってくる「不安要素」。
どうか、どうか「真夜中のキャンプファイヤーしてました」ってクソくだらねぇ理由の火の手でありますように。
「パレーステナッ!」
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!