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第二章 2 大魔王への謁見

 キャラクターエディットがつつがなく? 終了した途端、足元に光り輝く魔方陣らしきものが浮かび上がった。


「わっ! な、なんだこれ?」

「これからアドラベルガにある、グレイヒネルさまの居城へ向かうんです。光の輪から手や顔を出さないでくださいね、もってかれちゃいますよ?」

「ぶ、物騒だな……わかった、おとなしくしてるよ」


 目の前の光景……と言っても真っ白な世界とチーベルの姿しかないのだが、それらが「ぐにゃり」と歪んだ途端、一瞬で景色が変化した。

 どうやら俺の身体は、いずこかへと飛ばされてしまったようだ。


「はーい、つきましたー! ここが異世界アドラベルガのワゴーン大陸中央に位置する、死人の都市『ゴーンドラド』でーす。で、あちらに見えるのが、グレイヒネルさまがおわす居城『グレイキャッスル』ですよー」


 今にもモンスターが飛び出してきそうな、奇怪な建築物群。

 ベタだが深層心理に訴えかけてくるような、おどろおどろしい空。

 そして、いかにもな古城にいかにもな城門。その城門前には、ゴツい鎧で身を包み、どえらい槍を携えた門番の姿。

 小学生が見ても分かる「あ、これは悪の大魔王のお城だ!」ってな。


 にしても、だ。

 今にして思えば、「モンスターでもいいや」と言う選択肢はどうなんだ?

 あの時は、村娘にあんなことやこんな――もとい、「ゼッテー俺もこの不思議な物語の一員になってやる!」と言う意気込みの元、苦肉の策としてこっちの世界でモンスターになると言う生き方を承諾したけれど……こんな気色の悪い世界に俺一人だなんて、ちょっとばかり気が重いな。

 いや、深く考えるのはよそう。せっかくなんだから、ここにいるときは魔族のキャラとして、それにあった楽しみ方をするとしよう。


「さぁ、ここまで来たら少しくらいはゆっくりしてもいいですよ。なにせ元の世界とは時間の経過が違うんですから」

「でもよ、早く済ませて一旦元の世界に戻った方がいいだろ? こんどは元の体を見られてもいいように、ちゃんと服を着て、夜中あたりにもう一度来ようぜ?」

「それもそうですね、じゃあチャッチャと大魔王グレイヒネルさまに会いに行きましょう」


 うーん、それはそれで気が重いんだよな。

 例のラノベを最後まで読んでいなかったから分からないけど、多分ジジイでご大層な格好して、周囲におっかねぇバケモノ軍団長みたいなの引き連れてさ……俺みたいな新参は、まずそいつらに「こんなヒョッ子になにができる!」とイジられて笑いものにされるってのが定番だろうな。


 


 不気味な城兵の間をすり抜け、薄気味の悪い城の門をくぐり、血の色のような赤いカーペットの上にそって歩く。

 やがてドクロの文様が入った大きな扉の前に出た。そこにはさっきの城兵と同じヤツが、互いの槍を交差させて、扉をガードしてやがった。あ、このキャラってもしかして使いまわし?


「新たな魔族軍団長候補(・・・・・)を連れてまいりました。どうか大魔王さまに謁見のご許可を!」


 チーベルのやけに場慣れした様な言葉に、無言で槍を引く城兵達。これは「通れ」って事なんだよな?


「さ、太一さんいきましょう!」

「お、おうさ」


 荘厳な扉を目いっぱいの力で押し開ける。「ぐぎぎぎぎぃ!」と悲鳴のような音を上げ開いた扉の先には……玉座と思しき椅子に座った小さな人影があった。


(なんだ、やけに小じんまりしたジジイ大魔王だな?)


 そしてその傍らに、紫色した格調の高そうなローブをまとう、威厳と言う言葉が具現化したような顔付きのじいさんが一人。

 褐色の肌に角が生えているところを見ると、どうやらこのジジイも俺と同族とかそんなのみたいだな。


「よう参った。苦しゅうない、大魔王様との面会を許可しようぞ。ささ、これへ」


 重く厳かな声が静まり返った宮殿内に響く。どうやらこの謁見の間には彼らしか居ないようだ。


「あ、はい……じゃあ」


 つい安堵から、間抜けな返事をしてしまった。なんとなくのイメージだけど、こういった悪の軍団って上下関係がめっちゃ厳しいって感じなんだけど?

 とりあえず平伏して、忠犬よろしく臣下の礼をとっておこう。


「ようきた。くるしゅうない、おもてをあげよ」


「は、ははー……(っていえばいいのかな?)」


 が、次の瞬間、目に飛び込んできた光景に、俺は度肝を抜かれた。

 いままでの「それっぽいものたち」をいとも簡単に崩し去るほどの、なんとも間抜けなモノがちょこんと玉座に座ってこっちを見て微笑んでいたんだ。


「えーっと、…………だいまおうさま?」

「うむ、いかにも! 余が大魔王じゃ!」


 そこにいたもの、大魔王と自称するもの。

 そいつはどこをどう見ても、悪魔チックな闇色のビキニに同色のブーツ、そして裏地の鮮烈な赤が印象的な漆黒のマントを羽織った、小学校高学年くらいの……女の子だった!


(おい、チーベル。こいつは何のドッキリだ?)

(ドッキリじゃありませんよ? これもあなたが願った世界の、一つの演出なんですから)

「お、俺が願ったってか!?」


 ついうっかり声を荒げてしまった。

 無理も無いよな、俺は別にちっちゃい女の子に性的興味を持つその方面のお友達チックな性癖は持ち合わせちゃいないんだから。


「何をごちゃごちゃ言っておるか!」

「は、はいすみません! いや……大魔王様があまりにもお若く美しかったものでつい……」

「ふむ……で、あるか。余は正直者が好きだぞ!」


 ごめんなさい大魔王様、おもっくそ嘘つきました。

 にしてもだな。なんでこんなお子様が悪の大魔王なんだ? 元々は俺が主人公で、最終的に仲間達とこいつを倒す事になるって話だったのか……?

 そうか! なるほど。俺の最も苦手、と言うか、大嫌いなタイプ「くそ小生意気な子供」を最後の敵にして、俺的には最後の試練を、そして物語的には大きなお友達への読者サービスみたいな展開になっているのか!

 流石は俺の心を読みきった、神様の作りしラノベだ! ……て、ホントかよ?


「――美をやろうぞ……おい、何をボーっとしておる?」

「え、は、はい! その……申し訳ありません、大魔王様の魅力に、つい心を奪われておりました故……」


 またくだらぬ嘘をついてしまった。


「うむ、そうか……ならば仕方が無いのう。よく聞け、そなたに褒美をやろうと言うておるのじゃ!」

「あ、あはは。それはありがたき幸せにございます!」


 ほれほれと手招きするチビ魔王の命に従い、俺は遠慮がちに傍へと歩み寄った。


「ほれ、これが褒美じゃ! うけとるがよいぞ」

「なんスか……じゃない。なんでしょうか、これは?」

「知らぬのか? それはの、『幸運のタネ(ラッキーシード)』と言う特殊なタネでな。巷では入手困難な代物じゃ」

「こ、幸運のタネ、でございますか?」

「うむ。それを食せば、その方の幸運の数値が上がるのじゃ。ほれ、ためしてみよ」


 と、その小さな手から拝領した、なにやら怪しげな固形物。性格の悪いアーモンドナッツ……と言った印象をもたらすそいつは、なんとなく俺の潜在意識に向けて、暴言を吐きかけている気がした。「食ったらお前の腹ぶっ壊すぞ!」って。


「ほれ、遠慮せず食してみよ?」

「は、ははー! では遠慮なく」


 ええい、ままよ! パクリっ……もぐ……うっ!


 賞味期限を軽くオーバーしている湿気てカビたアーモンドの味が口中にくまなく広がり、さっき干したばかりの雑巾のような香りが、俺の鼻腔をくすぐった。これはその……すごくまずい。


「なんじゃ? 余の賜り物が不味いとでも申すのか?」

「め、めっそうもない!」

「これ、じいよ!」

「ははっ!」


 傍の厳格そうな魔族のじいさんが一旦玉座傍からはけ、黄金で出来た小さな宝箱を小脇に抱えて戻ってきた。なんだか猛烈に嫌な予感がするのう……。


「さあその方! 余の賜り物がマズくないと申すなら、これをみな食してみよ!」

「ええっ!」


 ぱかりと開いた宝箱。その中にはギッシギシに詰まった、性格ひねくれまくってそうなアーモンドさん方!


「それ、はよう食わぬか」

「い、いやそれは……」

「うひひひ、ならば余が食わせてしんぜよう~。ほれ、じいよ! こやつの口をあけてやらんか」

「ははっ、御意のままに!」

「や、やめてくださあがばっ!」


 悪魔のような……いや悪魔だろうけど、それを超越した「何か」と言う表情で、俺の口いっぱいに幸運のタネを押し込む、大魔王様。

 もはやそれは、年に一度親戚が集まったが故にテンションがマックスになり、調子に乗って俺に悪戯を仕掛けるいとこのアホガキと言って等しい。


「モガ……モガ……うう…… ゴ フ ェ ッ !! ……ふぁ、ふぁふい(マ、マズイ)……」


「きひゃひゃひゃひゃ! こいつおもしろーい!」



 薄れ行く意識の中、大魔王様の高笑いだけが俺の耳に響いていた……。



次話予告

生死の境から帰還を果たした太一は、大魔王の腹心「キンベルグ」より大魔王直属の近衛師団への編入を言い渡される。そこで、未だレベルが低い太一を鍛えるべく、一人の少女がトレーナーとして使わされた。

次回 「アメリアスさん」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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