第七章 12 パレーステナ村
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
ワダンダールから北に位置する国「ドアンド」へ向かう、道の途中のワロケの林道。
その近くにあるひなびた村「パレーステナ」の住人は、俺の一声により恐怖のどん底に叩き落されていた。
「ぐへへへ! 貴様らはもう終わりだ、観念しな」
西の山々へと日が落ち、闇が忍び寄る逢魔ヶ刻。
人々は村の中央の広場に集まり、俺を見て恐れおののいている。
中には手で顔を隠し、あまりの怖さに震えている子供さえいるようだ。
しかし! 俺の勢いは止まらない。
「うりゃー死にさらせェーッ!!」
グエネヴィーアを上段に振るい上げ、真一文字に振り下ろそうとした。
「 だ が 、そ の と き ! 我 ら が ツ ン グ ー ス カ 師 団 長 殿 が や お ら 立 ち 上 が り !! ―――― ヤツに向かってこう言ったんだ!」
「よっ! まってました!」
「だから言ったじゃろ、魔物の隊長さんが倒れたのは、絶対わざとじゃとな!」
「あほう、だまっとれ! 魔物さんの話が聞こえんじゃないか」
「わしゃの、実はヤツの刀は既に折られていると思うがの」
「おいおいじいさん。それ先に言っちゃだめだろーが。まぁいい、おほん――ヤツに向かってこう言ったんだ! 『アホが、気付かんのか』そしてツングースカさんの掌と、魔魂封刀とが交錯する。その瞬間! 一瞬の光が二人を包んだんだ――」
「おおーかっこええのう、魔物の隊長さんは!」
とまぁ、俺の一人芝居に酔いしれる、村人の方々。
出し物は――そう、ヴェロニーの地獄森近くにある洞窟前での戦い。ベミシュラオさんが封じられていた長太刀を持つ、ロキシアの巨漢ハゲ対ツングースカさんの一戦だ。
なんでもそのハゲ、この村から略奪を繰り返していたらしい。
そして若い娘らを攫って……それに業を煮やした男連中が蜂起して戦いを挑んだらしいのだが……その先は、語るも涙な結末だそうな。
それが、この村の活気の無さの理由らしい。
「――こうして、ツングースカ師団長は勝利を収め、逃げる雑魚共に言い放ったんだ。『心に刻めッ! 我が名はツングースカだ!』」
「「「おおー! やんややんや!」」」
拍手喝采が辺りに響き渡る。
悪の所業の限りを尽くしていたハゲ討伐の一席に、皆心から感謝と愉悦を見せているようだ。
「で、わしらの娘っ子はどうなったのかの?」
「ああ! その後、ダンジョンのボスをツングースカさんがひとひねり。そして捕らわれていたワダンダールのお姫様と、若い娘達は、ツングースカ師団長殿の好意により無事解放。ワダンダールへ送られたのさ」
「そうかそうか。じゃがのう、誰一人まだ帰って来ん。どうなっておるのか?」
「そりゃあまだニ、三日前の話だからな。そのうち、あの国にいる男前の傭兵隊長が送り届けてくれるんじゃないか?」
大地の事だ。この件が終わって事情を説明すれば、きっと送り届けてくれるさ。
「だから心配すんな! 今日は収穫祭なんだろ? そんなシケた面してたら、豊穣の神様にそっぽ向かれるぞ?」
一応、皆「うん」とは頷く。
けれど、心配なんだろうな……なにせソースはどこの馬の骨ともわからない魔物の若造の言葉だもん。
「ま、ま、飲んでくだせぇ、食ってくだせぇ! この祭りに訪れた客人には、ご馳走を振舞うのがしきたりなんですわ」
「いやぁ、もうお腹いっぱいだって。あとは子供達に食わせてやれよ」
そんな俺の一言に、目を丸くする村の人々。
「まぁ変わった魔物さんだこと、自分より村の子供達に気を使えですってさ」
屈託の無いおばちゃんの言葉。それを聞いて、皆が一斉に笑う。
「こんな良い魔物さんは初めてじゃ! 何ならずっとここにおってくださってもええぞ?」
「やだよ、こんなじーちゃんばーちゃんしか居ねぇ村。まぁ、若い娘さん達が帰ってきたら、考えてやってもいいけどな!」
俺は地べたに腰を下ろしつつ、笑いながら言った。
「スケベぇさでは、魔物さんもワシらも同じか? わはははは」
「そりゃお前だけじゃ! あひゃひゃひゃ」
村人達の笑顔が、煌々と燃える焚き火に照らされている。
ふと気づくと、村のガキンチョ共が俺の周りに集まり、尊敬のまなざしを送ってきているようだ。
「魔物のおっちゃんもつよいの?」
「おっちゃんってオイ……ま、まぁ強いぞ! 何せダンジョンのボスであるヒロタロウに、トドメを刺したのは俺だからな」
「「「うわぁー、すっげぇー!」」」
まぁ、動けなくなったところにトドメ刺しただけだけどさ。
「ってなワケだ。だからあのハゲデブの野盗連中は、もう襲ってこない。断言するぜ?」
「ありがてぇ話だなぁ……魔物だからっておっかねぇのばっかりじゃねぇんだな?」
「ワシはぜひ魔物の隊長さんにあって、礼がしたいのじゃが……そのお方はおっかないかの?」
村長を名乗るじーさんが俺に尋ねる。
「うーん、かなりおっかないぜ? やめといたほうがいいかもだな」
「そうか、残念じゃのう。魔物さんや、ロキシアの村人如きではあるが、感謝の念を抱いておったとお伝えくだされ」
「ああ、必ず伝えよう」
俺がそう告げると、村長は深々とお辞儀をして最大級の感謝の気持ちを表した。
それに習い、村人達も俺へと礼を見せる。
ちょ、やめてくれ! 俺はそう言った気恥ずかしくなる事には弱いんだよ。
と、そんな照れる俺の前へと、助け舟とばかりに伝令妖精が現れた。
「伝令、チーベルから……おい、そろそろ戻ってこいや。以上」
「お、おう。わかった」
「それからな、指輪をはめてない奴への伝令は、割増料金やからな? ちゃんと払えよ」
「な、なんだよそれ?」
「アホ、わしらは基本、指輪に染み付いた『気』を頼りに飛ぶんや。指輪してへんかったら、気配探すの大変やねんぞ?」
「あ、ああわかったよ。ちゃんと払うって!」
軍部の会計役の人が。
「ほな、伝えたで?」
「ああ、了解」
短い返事で返すと、関西風味の目つき悪い妖精は、さっさとその姿を消してしまった。
「あちゃー、もう帰る時間か。今日はどうもご馳走さん!」
「なんと、泊まって行かれればよろしいではないか?」
村長が引き止めてくれた。村人達も口々に「それがええ」と頷いている。
「いや、任務もあるし。じゃあ帰るな!」
そう言って立ち上がると、今度は子供達が俺の足元にすがって来た。
「べろべろのおっちゃん、もういっちゃうのー?」
「べろうふふのおっちゃん、ずっといてよー!」
「おっちゃーん、ボクもつれてってー」
「あ、アホ! おれは魔物なんだぞ? あとおっちゃんちがう! お兄さんだ! ……また来てやっからさ、そん時まで元気でいろよ、クソガキ共」
なんだか名残惜しいが、与えられた任務も放っては置けないしな。村の出口に向かって歩く俺の後を、ぞろぞろと村人皆でお見送り。
「んじゃまたなー!」
「魔物さーん、またこいやー!」
「まってるでよー!」
手を振る俺に、揃って手を振り返してくれた。
ちくしょう、皆いい人ばかりだな……この任務が終わったら、早速この村出身の捕らわれていた娘さんを送り届けてやろう。
月明かりの中を、のんびり歩くこと二時間半ほど。
林道の待機場所へとたどり着いた俺は、とりあえずチーベルの名を呼んでみる。
「お~い、チーベルさんやー!」
声を聞いたチーベルが、闇の中をこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「ただいま、チーベル! 何か変わった事はなかったか?」
「やっと帰ってきましたか……何も異常はありませんよ」
リングを両手で持ち、午前様の帰りを待つ奥方よろしく、「やれやれまったく」といった面持ちで出迎えてくれた。
「で、いかがでしたか?」
「ん、なにが?」
「首尾ですよ、首尾。いろいろと堪能できましたか?」
「ああ、楽しかったぜ? ちょうど収穫祭やっててさ、最初は俺見て驚いてたけど、話すうちに害は無い事をちゃんと理解してくれてさ……で、そこの村って、例のヒロタロウ一派から略奪を受けてたらしくって、俺がやっつけてやったぜー! って言ったら、もうヒーロー扱いでさ! まるで田舎に帰った時みたく、じーちゃんばーちゃんからこれ食えだのそれも食えだのこれは要らんかだのともてなし受けちゃって、もう参ったよ」
「うふふ。そうですか、よかったですね」
「ああ、よかったよ。チーベルも一緒に来ればよかったのに」
「そうですね。でも、私が行かなかった理由はご存知のはずですよ?」
チーベルが、含み笑いで俺を見ながら言う。
「理由? んん? んー………………あ」
俺、何しに行ってたんだよ……。
「でも、よかったです……やっぱり太一さんですね」
「な、何がだよ?」
「太一さんらしいです……って事ですよ」
「い、いやいや! お、俺は村を襲う気マンマンだったんだぜ? でもさ、村には若い娘さんいないし、老い先短いジジババやガキンチョしかいないんだもんよ。ただ、なにもできなかっただけだって!」
なんだか必死に弁解している俺がいる。だが小さな笑顔は、なんだか安心したと言う表情でうんうんと頷いていやがる。
何だよ? 一人で納得しちゃって。俺は結局メシ食ってきただけの行き損なんだぜ?
「食べ物が何もなかった、って事よりはよほどマシじゃないですか?」
「ん、まぁそうだけどな」
……なんだか当初の目的がだんだんと薄れていくような、そんな気がしないでもないな。
だが見ていろチーベル! 次は、次こそは、魔物らしく村人と戦って力でねじ伏せ、娘達を強奪してくるからな!
「はいはい、期待してますね」
なんかすっごい軽くあしらわれた気がする。
俺、なんだか魔物やってく自信なくなってきたよ……。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!