第七章 10 ワダンダールへの出向
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「よっ、おはよう大地、ベルガ、マルりん。んで……おはようございます、王様」
毎度の如くに、突然ワダンダール城内にある謁見の広間へと飛んできた俺。
大地達にはフランクでフレンドリーな、そして王様には畏まった素振りでの挨拶を見せる。
一応しばらくこっちにご厄介になる予定だし、席次順位を気にしたり、王族様への敬意だとかは払わなきゃな。俺だって中身は常識人なんだぜ?
「あー! うるふちゃんだー! おっはよ~!」
「おはようございます、べオウルフさん」
「おお、これはベオウルフ殿。今日も早き顔見せじゃな?」
やはりと言うべきか、大地からの挨拶はない様子――と思いきや!
「よっ、おはようベオウルフ」
意外や意外! こっちに来てからはじめて見るような、さわやかな挨拶!
と言うよりは、俺の知っている大地がそこに居た!
「お、おはよう大地。やけに機嫌がいいようだが?」
「ん? これが普通さ」
確かにそうだ。
いつもはこんな感じのさわやかさんで、クラスの女子からも人気が高く、それ故俺は、良く引き合いに出されていたっけな。
「毎度毎度、朝からご熱心ですね。今日の御用は何です?」
ベルガきゅんの清廉な口調の問いに、俺は一瞬戸惑った。そうだ、なんて言おう?
まさか「スパイしに来たよ」とは言えないし、「鍵の種」の話をするにもまだ時期尚早だし。
「あ、今日から大魔王軍からワダンダールへの左遷となりました。どうぞよろしく」
またチーベルのスキル、口先八寸が炸裂……ってお前、左遷はないだろ。せめて出向とかにしてくれよ。
「あははは、左遷か! 何した? もしかして俺と通じている事がバレたか?」
「いや、その……俺はパイプ役だろ? だからこっちとの連絡係を兼ねて、ワダンダールへの助っ人として遣わされたんだ」
不意に、無難な言い訳が口を突いた。最初っからそう言えばよかったよ。
「そうか。って事は、今日から俺達と同じワダンダール専属傭兵って事になるな。俺の配下になってもらうが……ま、ひとつよろしく」
「あ、ああ。こっちこそよろしくな」
「ほほ、奇妙なものじゃな? 魔物とロキシアの混成部隊とは」
王様が、白髭を撫で触りながら笑って言う。
国王や普通のロキシア達からすれば奇妙だろうが、俺からすれば、大地とやり合わなくって済むという、ありがたいシチュエーションだ。
しかし、大地達はこんな俺の行動をどう思っているんだろう?
「国王様、何にでも臨機応変に対応できないと、これからの時代生きていけないですよ?」
「ううむ、そのようなものかのぅ?」
「そうですよ、国王様。言い方は悪いですけど、使えるものは何でも使わないとね」
一応は納得の様子だな。
確かにベルガの通りだよ。でも「使えるもの」って言葉になんか引っかかるよな。
「とにかく、俺の指揮下に入ってもらうんだから、命令はちゃんと聞いてくれよ? ベオウルフ」
「まぁな、魔物討伐以外なら役に立ってみせるぜ?」
お気楽に大地へと返す。俺だって役に立つところを見せて、ある程度は信用されないとな。
「じゃあ、早速で悪いんだが――一つ仕事を頼まれたい。いいか?」
「なんだ、事によるけど……」
「なぁに、そんなに難しい事じゃないさ。ただ、例の殺盗団か? 奴らが再侵攻してくる恐れがある。というのも、ここに居た奴らのスパイをとっ捕まえてさ、締め上げてやったんだ。そしたら、再度急襲の要請を送ったと言いやがってな」
「なっ! なんだって? それじゃ早速防衛準備を――」
と、慌てる俺の言葉を遮り、大地は笑って言う。
「いいんだ、あんな奴ら俺一人で十分だから」
む、俺の知ってる大地は、こんな己の力をひけらかすような子じゃなかったのに。なんだか嫌味なほどの余裕を感じるぞ!
「そうかい、んじゃ俺は何を?」
「そこでだ、敵が攻めてくるであろう進行ルート上で伏せて、奴らの動きを警戒、偵察して欲しい。できるか?」
「いやまぁ、できるけどさ……じゃねぇな。はい、やらせていただきます! 上官殿」
「うん、期待しているぞ!」
元の世界ではよくやってた、ちょっとおふざけ口調でのやり取り。なんだか軍隊のミニコントだな。
あれこれこコキ使われるかと心配したけれど、楽な仕事でよかったよ。
「で、だ。俺達に連絡するためのアイテムを……って、なんだ、もう持ってるんだな」
大地が俺の指を見て言う。その視線の先にあるものは――ツングースカさんから支給された伝令妖精の指輪だった。
「あ、ああこれか? 昨日もらったばかりさ。まだ使い方とかわかんないけどな」
「暢気な奴だな。じゃあ教えてやる……つっても、そんなに難しい事じゃないけどな。いいか、まず妖精を呼び出すときは『伝令』の掛け声を指輪に向かってかければいい」
「ふむふむ……」
「そしてあらかじめ、送りたい奴の気配を、自分の妖精に感じ取らせなきゃだめなんだ」
そう言って、大地は自分の左薬指にはめたリングに向かい、声をかけた。
「伝令。ベオウルフの気配を覚えろ」
大地の指にはめた指輪から、まるでホログラムのようにすぅっと小さな人影が現れる。そいつはトンボの羽根のようなものが背中に生えた、一糸纏わぬ少女のような出で立ちの妖精だ。
でも、ツングースカさんの奴とはまた違った、別固体なのだろう……大地の指輪の妖精さんは、ポニーテールに髪をまとめた、ちょっとツンとした感じの顔つきだ。
「気配記憶完了」
その一言の後、また指輪へと戻る妖精さん。なんだか理由なく外には留まりたがらない様子だな。
「な、簡単だろ? じゃあお前もやってみなよ」
「ああ……それじゃ。『伝令』っと。お、出た出た!」
ふわり、と現れる俺の妖精さん……って、あれ? 何? 男? つか、なんか目つき悪!
「なんや、呼んだか?」
何故に関西弁?
「え? あ、ああ。とりあえず大地の気配を覚えてくれ」
と、大地を指差して言う。
「ん、分かった……おう、覚えたぞ」
そう一言告げると、さっさと指輪の中に消える関西風の妖精さん。
やけにガラ悪いな。なるほど、俺にタダで貸してくれるだけの事はあるわ。
「じゃあ、早速現場に向かってくれ。場所までベルガに送らせるよ」
「了解。では早速参りましょうか、べオウルフさん」
「おう。じゃ、何かあったら連絡するよ」
「ああ、たのんだぜ?」
そして俺とベルガは、彼の唱えたテレポートの呪文により、きらめく光となって宙を舞い、瞬時にその場から姿を消したのだった。
たどり着いた先は、どこをどう見ても片田舎にある林の中を通る一本道。
周囲は鬱蒼とした木々に囲まれ、しん、と静まり返っている。
時折聞こえる、なんかワケの分からない生き物の悲鳴にも似た鳴き声が、不気味さを加速させる感じがするよ。
「ここはワダンダールの北、ワロケの林道です。奴らの進行ルートで、一番可能性のあるところですよ」
「こ、こんな寂しいトコを通るのか、奴等」
「はい。奴等は人目をなるべく避けて行動するようで……で、このあたりが臭いかと」
なるほど、言われてみればそうかもな。
でも、こんなとこで一人で待つってのは何のイジメだ?
「ははは、使い魔さんがいるじゃないですか」
「チーベルと喋ってろってか。まあいい、で、いつまでここにいればいいんだ?」
「そうですね、夜になれば交代要員なんし追加要因をまわします。それまでは」
それまではこの拷問を受け続けてくださいね、って事だよな……まぁ仕方ないか、下っ端のお仕事なんてこんなもんさ。
「でも、僕だって別の場所を任されているんです。お互い様ですよ?」
「なんだ、そうなのか……じゃあ大地は? あいつだけ王宮でのうのうと遊んでやがんのか?」
「いえいえ、大地さんも王宮から少し離れた場所で待機しているはずです。何せウチは総力戦ですからね」
ふぅん。他人ばかりに仕事を押し付けない、大地らしいっちゃらしいやり方だよな。
「そういえばさ……おたくの大将、今日は機嫌がいいよな? 何かあったのか」
「いえ、いつもあんな感じですよ? あ、でもベオウルフさんがいらしてから、ちょっとテンション上がった感じもあるかな?」
「な、なぜに?」
「それはあれですよ。大地さんって、あなたの事が気に入ってらっしゃるからです」
「お、俺を?」
それは俺にとって、なんだかうれしい言葉だった。
俺の名「太一」を伏せていても、俺と大地はなんだかんだで分かり合えるんだな。
「あーでも、こうも言ってましたよ? 『反面、俺の手で八つ裂きにしてやりたいほど不愉快でもある』って」
な、なんでそんな事まで言うかな?
斯様なお話は、相手には内緒にしておくものですぞ! ベルガきゅん。
まぁ、二度も引き分けに終わったうえ、大事な愛刀を奪った相手だもんな。それは仕方ないか。
――でも、なんだか気に掛かるんだよな……あいつのあの愛想のいい表情。
俺の勘違いでなければ……大地の奴、何かたくらんでいるかもしれないぞ。
「じゃあ、僕はこの辺で……何かあったらすぐ連絡してくださいね!」
「お、おう……お互い気をつけような」
「はい! では――」
小気味よい返事と共に、ベルガの体は光の結晶となって、天へと伸びていった。
昼前だと言うのに薄暗い林の道に、いよいよもって二人ぼっち。
今にもモンスターか山賊あたりが、木の陰からひょいっと出てきそうな雰囲気だ。
つか、正直言って野盗とか出てきてくんないかなぁ? これはヒマで仕方がないぞ……。
まったく、安請け合いするんじゃなかったよ。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!