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第七章 9 真相

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 アニィの思いもよらない一言は、俺の小さな疑問を瞬く間に肥大させてしまった。

 そして俺の危惧は、確信へと変化していく……やっぱりベイノール卿は何かを掴み、隠している!


「ア、アニィ! あなたなんて事を」


 マリィの怒声が静かな庭園に響く。

 けれどアニィは、全く表情を変える事もなく、憤る姉に向けて言った。


「ねえさま、私は嘘をつきたくない……」

「な、何を言うの! 嘘だとかそういう問題じゃない――」


 さらに激昂する姉の言葉を遮り、アニィが視線を俺に向け、静かに語る。


「聞いて、おもしろい子。私は嘘を言わない……これから語る事において嘘はつかない。お館様がちちさまははさまを殺したのは事実。けれど、それは仕方のない事」

「し、仕方ないだって?」


 驚く俺に、アニィが事の真相を語りだす。


「……そう、仕方のない事。私達のちちさまははさま……あの人達は邪神ルシファーに魅入られた邪教徒。親友であったお館様自らが手をお下しになったのは、せめてもの情け」


 ルシファーって名前は知ってる。大昔に大天使だかなんだかで、慢心によって神にたてつき、天界を追放され悪魔になったってお話だ。それはもうラノベの世界ではごくごく一般に知られているほどのベタキャラだし、俺の願望が元になってるんだったら出てきてもおかしくはないだろうさ……でも、邪神になって登場だって? 一体どんな設定なんだろう。

 そこら辺を問うために、俺はあえて全く知らぬ振りで尋ねてみる事にした。


「な、なんだよ……邪神ルシファーって?」

「邪神、それは大魔王様に仇なす存在。我等の父様母様は、かの神へ忠誠を誓ってしまったのです」


 マリィがとうとう観念してか、真相の説明に加わってきた。


「仇なす? 一体どういった弊害があるんだ?」

「邪教徒は魂を売り渡し、対価たる『力』を得るのです。そうなると、もうおしまい――自我さえも失い、やがては大魔王様への叛徒として、邪神の傀儡になってしまう」


 そう言えば、ツングースカさんが暴走したとき、邪神がどうこう言ってたな。もしかして、案外簡単に堕ちてしまうものなのか?


「あまりにも激しい憎悪や、錯乱した狂気。それらは邪神の最も好むところ。心に甘言をばら撒き、惑わし、やがては魂をも奪われて……しまいには最下層の幽鬼達のように、ただ負の感情にのみ拠り所を求める存在となってしまうのです」


 マリィの言葉は重かった。

 身内からそんな輩を出してしまった者だからこその言葉の重みだ。ましてやそれが両親だなんて……生半可な同情は、きっと罪になるだろう。俺には口出しできない世界の話だ。


「……本来なら、私達姉妹もその時に討たれて当然だった……でも、お館様は私達を引き取り、あまつさえ最強の戦士へと育ててくれた……そしてこう言ってくださった――いつでも、敵討ちに来なさい――と」


 アニィが肩を震わせて、さらに言う。


「私達姉妹には、お館様に畏敬の念や忠誠心はあっても、敵意の一片たりとも存在はしない……これは真実。どうか理解して……」 

「ああ、判るよ……俺如きが言える事じゃないけど、判るつもりだよ」


 俺はアニィの震える肩に手を置いた。

 敵対者からすれば、この身体は――きっと幾人もの命を奪ってきた、恐怖の武器だろう。でも、今はただ小さくてか細くて、年相応の少女のそれにしか見えない。


「だから……お館様に疑心の目を向けるのは……やめて」


 彼女の瞳には、今にもあふれそうな感情が波を打ってきらめいていた。


「疑心の目なんか持っちゃいないさ。ただ、知りうる事が何かあれば、教えて頂きたいだけなんだ。そうする事によって、ツングースカさんが動きやすくなる――」

「タイチ様。知ってはならない事、知らせてはならない事もありますわ」


 俺の言葉を遮り、意味深な言葉を零すマリィ。

 よくよく考えてみたら、俺だって誰にも言えない秘密をわんさか持っているじゃないか。

 俺の中身は人間だって事、大地との関係、ベルーアの事、実は村娘達を襲ってハーレムを築くのが夢だって事、俺の部屋のベッドの下にエロ本(おっぱい率多し)が隠されている事、などなど……。

 自分の事を棚にあげて、アメパパに真実を語れなんて言えないじゃないか。

 つか、必要な時になれば、きっと卿から適切な指示が出るだろう……今は信頼してお任せするしかないよな。


「ああ、そうだな、卿は信頼おけるお方だ……俺如きが口出しすべき事でもないし」

「おもしろい子……ありがとう」


 にこりと笑うアニィ。

 その拍子に、今まで瞳の中にこらえていたものが、つつっと溢れ出た。

 魔物だか屍鬼だかしらないけど、流れ出る一滴ってのは、人間と変わらず純粋で綺麗なモノなんだな。


「さ、さぁてと! チーベル、ベイノール卿へ回復魔法を掛けに行こうぜ」

「あ、はい。ではお二方、今晩の任務がんばってくださいね!」


 場の空気を誤魔化すように、わざとらしく二人に背を向け、この場からの離脱理由を宣言する。なんてーか、こういった空気って苦手なんだよな。


「タイチ様、ありがとうございました……この後の任務、どうかご無事で」

「あはは、ありがとう。でも、俺なんかの新参者がどーなろうと、大した事はないさ」


 笑って答える俺。

 そんな一言に、マリィが熱い視線を俺に送りつつ、言葉を返した。


「あなた様に何かあれば、少なくとも三人の心が、邪神の餌食となりましょう……お願いですから、そうはさせないでください」

「ん? あ、ああ。だいじょうぶだって!」


 へへへと笑って庭園を後にした俺。もちろん彼女の言葉の意味なんて、ビタイチ理解できてないけどな。





 ベイノール卿への回復措置も滞りなく終わり、卿やお付きの方々から感謝の言葉をかけられる。

 ……チーベルさん。


 一応、俺にもオマケ程度に謝辞が述べられたが……まぁ、俺は何もしてないし、特に感謝されされたいとは思ってないし。

 それより、たまには俺も、チーベルを褒め称えてあげなきゃな。


「いやいや、チーベルがお薬を飲んでくれるよい子になってよかったよ~! ああ、えらいねぇ~、いい子だねぇ~」

「何言ってるんです? 誰かさんが嘘を教えるからじゃありませんか。と言うか、あの嘘がなければもっと早くベイノール卿の容態は良くなっていたんですよ!」

「す、すいません……反省してます」


 と、そんな俺とチーベルのミニコントに、割って入る声がする。


「タイチ、チーベル。どうもありがとう」

「おう、アメリアスか。ま、俺は何もしてないけどな」


 笑って「俺への愛想だけの謝辞はもういいです」と言う意思表示を見せた。

 が、そうではないと……マジで俺への感謝を述べているのだと、アメリアスは言う。


「アニィの心の傷を癒してくれたでしょ?」

「な、なんで知ってんだ!?」

「バーカ、庭園であんな大声出したらすぐ気が付くわよ……またアナタが他所様の事に余計な首を突っ込んでるんだなって」


 うう、反論できない。

 つーか、ちょっと待った!

 って事は、アニィの言った事……アメリアスに聞かれてたって事か?


「聞かれてた、なんて言い方はやめてよね。聞こえた、なんだから」

「お、おう……いや、どっちだっていい。それより二人の事、怒ったりしないよな?」

「はぁ? なんで私があの二人を怒らなきゃいけないの?」

「そりゃ……お前」

「いい、私も『事の経緯』は知ってるわ。それに、あの二人の心の内だってちゃんと理解してるつもりよ? これは同情なんかじゃないし、主従の温情でもない。対等の立場から見た『敬意』なんだから」


 そう言い終えて、ふんっ! と鼻から息を零す。


「そ、そっか、流石はアメリアスの兄貴だな。すっげーカッケーッスよ」

「ば、ばか! あ、アニキとか言うな」


 照れるアメリアスはすごくかわいい。俺の知る、年相応の女の子の仕草となんら変わらないな。


「と、とにかく! お父様の事同様、あの二人の事も感謝してるわ。だから……あ、ありが……とう」

「ん? あ、ああ。どういたしまして……」


 こんなシーンにはいくらがんばっても耐性がつかないらしい。俺の心がソワソワモジモジと騒ぎ始めた。


「じゃ、じゃあ、そろそろ俺、ワダンダールに行ってくるわ」


 と、この場の空気から逃げるように、任務開始を告げる俺。

 時もそろそろ頃合いだし、いくらなんでももう大地達は登城している頃だろうしな。


「そう。あのクソ神と手を組むなんて虫唾が走るけど……これもツングースカ師団長殿の策略、仕方ないわね」

「ああ、二人で奴を仕留めるのはもうちょっと先になりそうだな?」

「そうね。それまでにちゃんと力をつけておくのよ? もしよわっちいままだったら、私があなたの息の根止めてあげるから」


 物騒な叱咤激励を受けて、俺のやる気もちょこっと上がった気がする。

 つか、上げざるを得ないよな……死にたくないもん。


「私はこれからお父様と共に登城して、大魔王様へ謁見し、事の真相を……真相……」


 自分の言葉に躓くアメリアス。それはまるで、誰かの指示により「真相」ってものを心の奥底に沈めてしまったような言い草だ。


「……アメリアス?」

「ううん、なんでもないわ。とにかく、お互いがんばりましょ」

「ああ! 突出しすぎて師団長殿の足手まといになるなよ?」

「ハンッ! 言ってくれるじゃない? あなたこそ、あのアホ神に一人で手を出そうなんて考えないでよね!」

「あはは、間違っても思わねェよ」


 互いに一瞬見つめあう。こんなとき、なんて言えばいいのかワカンネェ。

 けれど口が……いや、脳内会議用に居るたくさんの俺が、一斉にこう言えと叫んだ。


「気をつけてな」

「え……ええ。あなたこそ」


 選りすぐられた面子での行動だ、何の心配がいるだろう。

 俺なんかが懸念を抱かずとも、個々の力量でどんな障害だって排除されるだろうさ。


 ……でも、何だろう。「気をつけてな」と言う、俺の心の声に対するこの胸騒ぎは? 


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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