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第七章 8 イモリの黒焼き煎じ薬

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 最上級の目覚めとはいかないが、そこそこに爽快な朝を迎える事ができた。

 これも風呂場でブッ倒されて意識を無くし、そのままベッドへと担ぎ込まれ、夕飯も食わずに今の今まで眠りについていたおかげだろう。


 ベッドから飛び起き、ズボンを履き、昨日緑のばーちゃんや姫様達がこしらえてくれたって言うソードホルダーを腰に装着して、具合を確かめてみる。


「うん、こいつはいい! ベルトが長くて背中に背負える事も出来るようになってんだな? いろいろと気遣いのあとが伺えるよ」


 まるでクリスマスか誕生日に、プレゼントをもらった気分だ。


「よし、外に出て剣を振るってみっかな?」


 嬉しさのあまり、そう一人呟いて部屋のドアへと向かおうとしたそのとき――ノックも無しに、いきなりの侵入者が! 

 すわ、敵か! 暗殺者なのか! そう思って身構える俺! 


 ――が、そいつは暗殺者よりもおっかない人、アメリアスだった。


「わっ! な、何よ! 起きてたの?」

「な、なんだアメリアスかよ。ノックもなしに脅かすなって」


 俺がそう言うと、急にプイッっと背中を見せ、今入ってきたばかりのドアを出て、バタンッ! と閉めやがった。

 なんなんだ? そう思った次の瞬間――「コンコン」と、ノックの音が部屋に響いた。


「は、はい? どぞ……」

「失礼……するわよ」


 と、少し仏頂面のアメリアスが、わざわざ入り直してきた。何やってんだ? コイツ。


「な、何よ。ちょっと失礼だったかな? と思って入り直しただけよ! 文句ある?」

「いえ、ありません」


 ここで茶化せば昨日の二の舞だ。いや、もしかしたら明日と言う日が永遠に来ないかもしれない。


「それよりも……き、昨日は……その……わ、悪かったわね」

「ん? 何だよ、急に改まって……ああ、風呂場で俺に百烈拳を食らわせた事か。なかなかいいゲンコツだったぜ?」

「ば、バカ、茶化すな! ちゃんと謝ってるのに」

「あ、ごめん……そうか、わざわざすまないな、ありがとう」


 一応は後ろめたさとか、お詫びの心とかあったんだ。ちょっとびっくり。


「もう、いいの?」

「ああ! 一晩寝たらこの通り。あれだな、ゲーベルトって回復がめっさ早いんだってな? 俺自身驚いてるよ」

「そ、そうよかった。で、でも! 昨日見たものは忘れなさいよね! 何なら私が忘れさせてあげるわ」


 ものの数秒で俺への対応が方針転換されるのは、ある意味すごい事だよな。


「そ、それより! 食事の用意が出来てるわ……食堂へ降りてらっしゃいよ」

「おう、わざわざすまない。つか、なんでお前が起こしに来てくれたんだ? こんな事召使いさんにでも頼めばいいじゃないか?」


 そう言うと、アメリアスは顔を赤くして、まるで何かを誤魔化すように慌てて言った。


「う、うちは貧乏だから、あなたを起こすためとか雑用を頼めるお手伝いさんがいないのよ! そんな事どーだっていいから、さっさと降りてくる!」

「へいへい、そういうことにしときますよ。んじゃぁ、行くか。チーベル、起きろよ……って、あれ、いない?」

「ああ、チーベルはもう既に起きてお父様の治療に向かったわ。おかげでだいぶ良くなったみたい」

「そうか、そりゃよかった!」


 ほっ、と胸をなでおろしつつ、チーベルの成した偉業を心の内で一人褒め称える。


「ほんじゃ行こうぜ、アメリアス。昨日夕飯食ってないから腹ペコだ」

「だ、だからゴメンって言ってるでしょ!」


 深い意味無く言った言葉にも、過敏に反応している。まさか余程気にしていたのか?


「だーかーらー、もう気にしてないっていってんだろ? つか、風呂で気ぃ失うのは日課になりつつあるからな。嫌な日課だけど……」


 と、何気なく言った冗談に、アメリアスが一言――。


「……知ってる」


 は? 何で知ってるんだ、このお嬢様は。まさか俺の周りに偵察用の蝙蝠とか飛ばして――


「昨日、会議の途中の休憩で、師団長殿と少しおしゃべりしたの……」


 はぁ、なるほど。そのときに昨日俺が風呂でぶっ倒れた事を聞いたんだな。

 それで、わざとマリアニ姉妹が入る時間帯に俺を風呂へ入れて、強引に俺と一緒に入る事を強要したってのか。


 ――俺が風呂で倒れやすいと言うキャラ付けを定着させるって嫌がらせのために。


「そ、そうだ! アニィはどうした? 彼女も風呂でふらついていただろ?」

「大丈夫、なんでも無いって。ただ足を滑らせただけって言ってたわ」

「そ、そうか……なんともないか。よかったよかった」


 なんとも無いか。

 あんな強靭な女の子でも、足を滑らせたりするもんなんだ。

 とにかく、あとで声でもかけてみるかな。





 朝食をご馳走になってから、腹ごなしにチーベルと二人で庭園を散策する。

 と、チーベルが浮かない顔を見せ、一つため息をついた。


「なんだ? チーベル。元気ないな?」

「あ、はい。実は朝からの回復魔法連発で、ちょっと疲れが……」

「なんだ、それなら部屋で寝てりゃ良かったのに」

「ええ、ですが……気を使ってくれたセルバンデスさんがお薬を下さって……飲もうかどうか迷っているんです」


 そう言えば、さっきから小脇になにやら包みを抱えている様子。


「薬? その包みがそうか……って事はその中身はアレか?」

「ええ、アレです」


 俺の口の中に、あのときの悲劇が蘇る。そう、オークに両腕をつかまれ、アメリアスに無理やり食わされた「アレ」だ。


「アレはまっずいぞ~。正露丸一瓶イッキくらいのインパクトだったぞ?」


 と、いつもの仕返しとばかりに嘘を教える。正直気持ち悪かっただけで、味はそんなにしなかったんだ。


「やっぱキツイですよねー。でも、これを渡されたって事は、飲んで元気になって、また魔法かけろって事ですよね?」

「うーん、そうだろうなぁ。なんなら俺が飲ませてやろうか?」

「け、結構ですよ! そんな事したら化けて出ますからね!」

「死亡確定かよ」


 と、チーベルがアレを飲むかどうか思案しているところへ、マリィとアニィの姉妹がやってきた。

 少し緊張したような面持ちを見るに、きっと昨日の事のお詫びなんだろう。


「タイチ様、昨夜は大変申し訳ございませんで――」

「いいっていいって! 気にすんなよ。それより、アニィ。足滑らせたって言ったよな? 大丈夫なのか」


 俺の問いに、無表情の顔がコクリと一度頷く。


「ま、まさかさ……昨日の戦いで、意外と深い痛手を負ってるとか無いだろうな?」

「……ない」

「ほ、ホントか?」


 またペコッと頷く。


「な、ならいいけどさ」


 しっかりとした否定を聞いて、一応俺も安心した。

 けれど! どうにもベイノール家のヴァンパイアてのは、隠し事がお好きに思えるんだよな。


「アニィ、ちょっとこっちへ」


 俺はヴァンパイアの妹さんを、花壇横に積まれてある煉瓦へと招き、座るように指示した。

 無言で俺の言葉に従うアニィ。そんな彼女の膝へ手を伸ばすが、ピクリと反応して手で防ぎ、触らせようとしない。


「アニィ! 邪魔すんな、じっとしてろ!」


 少し怒った素振りで、語気を荒める。そして観念したのか、アニィは俺のされるがままになった。


「右足……は、大丈夫そうだな? じゃあ左足は……っと」


 一瞬、アニィの瞳が揺らぐ。ゆっくりと膝を曲げると、無表情な顔がほんの少しだけ動いた。


「痛いんだろ? 左足の膝」

「……痛くない、くすぐったいだけ」

「バカ言え、俺はこう見えても医者を志してるんだ! 触診だけでわかるよ、膝を壊してるな?」


 もちろん大嘘だ!

 だがこのハッタリに、アニィはまんまと降伏――程なく「うん」と小さく頷いた。


「アニィ、本当なの? そういえば銀製の鈍器で殴られていたわね?」

「……大丈夫、問題ない」

「問題ないじゃないぞ! 今日の深夜、アメリアスに従って地獄森に行くんだろ? こんな足でおまえらの大事なお嬢様をちゃんと守れんのか?」

「大丈夫……命に代えて守る」


 どこまでも戦闘マシーン振りを固持するアニィに、少し俺の感情が昂ぶりを見せ始めた。

 やばい、またとんでもない中二台詞を口にしそうだ……落ち着け、落ち着くんだ、俺!


 ――が、一度溢れ始めた言葉は、なかなか止まらない!


「んな事言って、アイツの足手まといになったらどーすんだ!」

「そのときは……自らの命を絶つ」



「 ア ホ か ! ン な 事 し て 誰 が 喜 ぶ よ ! 」



 アニィが俯き黙ったまま、小さく首を振った。


「誰も、悲しまないから……いい」



「 良 く ね ぇ よ !! 」



 腹の底から力の限りの声を出し、アニィの意思をねじ伏せるように否定する。


「いいか、もしお前やマリィに不幸が襲ったなら、アメリアスが悲しむだろ! それに何より……俺が悲しむわ! お前は俺達を悲しませたいのか!」


 熱く語ってしまったけれど、本心だから仕方がない。しかしながら……彼女はあいも変わらず押し黙って俯いたままだ。

 どうやら俺の言葉は、鉄壁の無表情に全て弾き返されたらしい。


 ――と、思った瞬間。


「おもしろい子は……やっぱりおもしろい」


 ポツリと小さな声。

 そう零したアニィが、俯いていた顔を上げる。そこには、可憐な一輪の花を思わせる笑顔が咲いていた。

 大丈夫だ、アニィは俺の気持ちを判ってくれた。

 なんとなくだがそう思えた。


「仕方がないわねアニィ、今日のところは大事を取ってお休みなさい。お嬢様には私から言っておいてあげる」


 それでも流石に煮え切らないと言った仕草を見せるアニィ。マリィの服の裾を指で掴んで、待ったをかける。

 と、そんな彼女を見て、俺の横の小さいのが一大決心を固めた!


「だ、大丈夫です! 私が治してあげます!」


 チーベルのやつ、薬を飲む決心をしたのか? イモリの黒焼きを煎じた、アレを!


「わ、私だってやるときはやるんですよ! えーい、なむさん!」


 おお、行った! 勢いで包みをあけ、脇目も振らずに一気に流し込む! どうだ、吐くのか? 気絶するか!


「あ……ちょっと苦いけど案外普通味ですね?」

「あ、そう?」

「誰です? マズイとか言ってたの」

「さぁ? そんな事より、どうだ? 気力は回復したのか?」

「あっ! なんか持ち直した感じです! これってすごい薬ですね」


 そう言って、元気に飛び回るお調子者。わかったわかった、元気アピールはもういいから、早くアニィの膝、治してやれって。


「えへへ、つい嬉しくって……ではいきますよ~」


 チーベルの両の掌から、いつもの黒い輝きが迸る。きらきらと降り注ぐ漆黒が、なんだかアニィの膝に染み渡っていくようだ。


「どうだ、アニィ。足の痛みはまだあるか?」


 俺の問いかけに、小さく首を振って平気と言う意思表示を見せた。


「よかった、これで一安心だな……あとはベイノール卿に施術すれば一件落着か」

「はい、きっとベイノール卿も、これで元気になられるでしょう」


 まったく、胸のつかえが取れた気がする。けれど、ベイノール卿の事に関して言えば、まだ少しスッキリしない点があるんだよな。


「そう言えばさ、君達の村が襲われたとき、ベイノール卿が助けに来てくれたんだよね?」

「はい。そのおかげで私達姉妹は救われ、現在に至っております」


 じゃあ、やっぱり俺の考えすぎだったのかな?

 きっと「貴族って輩は、利がなければ平民を助けない」なんてのは、俺の勝手なイメージでしかないんだろう……ちょっと考えを改めなきゃ、あまりにも失礼だよな。


 なんて、一人納得している俺の耳に、アニィの声が漂い届く。


 それは――一瞬ですべての考えが崩壊するような、とんでもない一言だった!


「私達のちちさま、ははさまを殺めたのは……お館様」


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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