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第七章 6 アメリアスの涙

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 程なくして、ベイノール邸へツングースカさんがやってきた。


「ああ、彼女は信頼の置ける人物の一人だ。お通ししなさい」


 と、ベッドの中からセルバンデスさんに告げるベイノール卿。

 一応、俺は席を外した方がいいかな? と、気を利かせてみた。けれどアメリアスパパは――


「いやいや、君も信頼を置ける一人だ。居てくれてかまわんよ~」


 と、笑顔を見せてくれた。

 命がけの世界での「信頼」、その言葉に覚えた不思議な感覚。

 なんだか気恥ずかしいような嬉しいような……それは本来の世界で味わった事が無い、おそらく味わう機会も無い、特殊なものだろう。


「おお、ツングースカ殿。いつも娘がお世話になっております。無様な姿でちと礼を欠くが……どうか許してくれたまえよ」

「ベイノール卿、これは一体?」


 まだ回復量が少ないのだろう。ベッドの上で身を起こすのも人手を借りて、という有様に、不甲斐ないという面持ちを見せている。


「いやぁ、今回はしてやられたよぉ~。油断していたとは言え、あんなに強く、統制の取れた奴等は久しぶりだったねぇ」

「卿のお手を煩わせるほどでございますか?」

「ツングースカ殿、世の中は広いねぇ。この私と互角を張れる奴が居るとは驚きだったよ。で、些か年甲斐も無くハッスルしまくったらこの様さ~」


 暢気に語っているように見えるけど、こめかみ辺りに浮き出た血管を見るに、このかた味わった事が無いであろう感情が押し寄せてきているに違いない……。


「素性は判りませんでしたか?」

「そうだねぇ、残念ながら……だが、銀製の武器を用意していた辺り、明らかに我々をヴァンパイアと知っての不意打ちだったよ」

「という事は……」

「いやいや、ヴァンパイアの街を襲撃に来た連中かもしれない。そこはそれ、まだ確定事項ではないのだから、勇み足はよくないぞ?」

「はっ。これは失礼」


 そうは言うけど、待ち伏せにあったって事は、ほぼ罠で確定じゃないのか? もしかして……ベイノール卿はまだ何かを隠している?


「しかし、ベイノール卿が後れを取るなど……にわかには信じられません」


 ツングースカさんの疑問に、いままで押し黙っていたアメリアスが、堰を切ったように語りだした。


「師団長殿。父は調子に乗って突出し、ピンチとなった私に気を取られ、対峙していた……天主の代行者に一撃を見舞われました。私の不甲斐なさが招いた、とんでもない失態です……父は……ちちは……」


 肩を震わせながら言うアメリアスの頬を、「その年齢の少女が見せるには、至って普通過ぎるもの」が、伝い落ちた。

 そんな彼女を強く抱きしめ、ツングースカ師団長が語気を強めて言う。


「泣くな! アスタロスの一件が済んだら、私が仕返ししてきてやる!」

「は、はい……」


 まるで喧嘩に負けた小学生を励ます、中学生のにーちゃんのような光景だ。

 なんつーか、男前すぎますぜ師団長閣下!


「それではベイノール卿、私はこの辺で……どうかお体をご自愛くださいませ」

「うん、そうするよ。何せ体は一つしかないもんね~……それはそうと、ツングースカ殿、分かっておいでだね?」

「ははっ! この事、必ず内密にいたします。では、これにて」

「あはは、なら結構! 悪いがこのまま見送らせてもらうよ~」


 陽気な言葉でツングースカさんを見送るアメパパ。が、彼女が退室した後、スイッチがオフになったかのようにハタリとベッドに沈み込んだ。


「お、お父様!」

「いやぁ、心配ないよ。ちょいと疲れただけさぁ~」


 心配かけまいと、空元気を見せる。家族想いのいいお父さんじゃないか。


「さぁ、チーベル。俺達も席をはずそう」

「はい、太一さん」

「じゃあアメリアス、何かあったらすぐ呼んでくれ。チーベルに無理やりイモリの黒焼き食わせるから」

(えっ……! マジですか!)


 こっちの世界に来て、初めてチーベルから一本取ってやった。


「うん……ありがとう、チーベル」


 俺に、じゃないのかよ……まぁ、アメリアスらしいっちゃらしいよな。ともあれこれで一安心だ。


 そんな考えにニヤつきつつ、邸内の廊下を歩く。

 と、前方を歩くツングースカさんからお声が掛かった。


「おっと。タイチ、忘れるところだった」

「は、はい、なんでしょう?」


 ニヤニヤ顔を瞬時に収め、真剣な表情で向き合う。


「お前に与えるものが二つある。一つはこれだ」


 そう言って、彼女が手に持っていた皮製のベルトを受け取る……これは?


「ばーさまと姫が丹精込めて作った、貴様のその剣を納めるソードホルダーだ。腰に巻くなり背中に背負うなり、使い易いようにしろ」

「こ、これはありがたいです! ずっと手に持っての移動だったから面倒で面倒で……後でお礼言いに行ってきます!」


 俺のはちきれんばかりの笑顔に満足して、うんと頷くツングースカさん。 


「二つ目はこれだ」


 次に手渡されたもの。それはなんと! あのお高くて手が出がないとあきらめた伝令妖精の指輪だった!


「こ、これは?」

「軍からの官給品だ。使用料も軍が持ってくれるそうだ……ただし、出世したらちゃんと自分で払うんだぞ?」

「うひゃあ! なんかお金持ちのステイタスを手に入れたみたいな感じッスね!」


 と、浮かれた俺に、ツングースカさんが手を出して言う。


「代わりに、というわけではないが……鍵の種を渡してくれんか? 今から行って植えてくる」


 そうだ、こいつを植えて一日経たなきゃ、入り口はできないんだっけ。


「あ、じゃあ俺が送りましょうか? ブェロニーの地獄森の魔界語を教えてくだされば、先日行ったオークの砦でもダークエルフの村でも一瞬で行きますよ? ……迷う事無く」


 俺が最後に付け足した皮肉に、ちょっとムッとした顔を見せるツングースカさん。


「お、大きなお世話だ! それより貴様は、アメリアスの傍に居てやれ」

「あ、はぁ……」

「傷心の乙女の心を癒す。貴様には容易き事だろう?」


 さっきの返礼とばかりに、にやけ顔で言う。そ、それこそでっかいお世話ですよ!


「ふふ、そうかまあいい。これは無いだろうが……奴の性格からして、このまま黙って引き下がるかどうか。明日の任務もある、それまで貴様は言わばお目付け役だ」

「お、お目付け役ッスっか? なんだかどえらい猛獣を押し付けられたような……」

「私のお目付け役のレフトニアやライトニウスに比べれば、楽な仕事だぞ?」


 ……普段あんたどんな無茶な事やらかしてんスか?


「それにな……見えぬ敵の存在もある。むしろそっちから卿やアメリアスを守るのが、貴様の役目だ。気を引き締めろ?」

「うくっ……は、はい!」


 師団長殿の言葉を受け、俺の中に緊張が走った。


「にしてもですね、ツングースカさん……」

「なんだ?」


 俺は声のトーンを少し落として、師団長閣下へと思うところを述べた……そう、ベイノール卿が何か隠し事をしているんじゃないか? と言う懸念だ。


「ふむ、貴様もそう思うか?」

「では、ツングースカさんも?」

「ああ、あの場で問うは卿のお身体に障りかねんからな」


 そう。それになにより、俺があの場で口を挟むことじゃなかったしな。


「まぁ、それはおいおい卿の口から真実が語られよう。だが、今はその時じゃない。それに我々にはアスタロスの剣の事もある。一点集中で事に当たらねばな」

「そうですね……ではお気をつけて、師団長殿!」


「この魔物の人達に限って、心配はないだろう」そんな常識の一片が瓦解した今となっては、ツングースカさんも、是非注意を払ってほしいものだ。

 そう思いを込めて、深々とお辞儀を見せる。


「なぁに、レフトニアとライトニウスも同伴するんだ。何かあろうはずもないさ」


 笑いながら颯爽と去って行ったツングースカさん。

 ああ、この人が言うとマジで100パー大丈夫なんだろうなって思ってしまうよ。


「タイチ、師団長殿はもうお帰りになられたの?」


 後ろからアメリアスの声。

 アメパパが寝ている部屋の扉から、ひょっこりと頭だけ出して俺に尋ねる。


「ああ、今お帰りになられた……アメリアスによろしくと。ほら、明日の日付け変更と共に作戦だろ?」

「そう、そうね。しっかりしなきゃ……ところで今日はどうするの? うちに泊まってくんでしょ?」

「あー……い、いいのか?」

「あなたはどーだっていいけど、チーベルにはお世話になるんだから、それなりのおもてなしはしなきゃだもんね」


 あーはいはい。どうせ俺はオマケですよ。


「で、明日の作戦には誰を連れてくんだ? 活きのいいのばかりだろ? この屋敷は」

「そうね、セルにはお父様を診ていてもらわなきゃいけないから、マリィとアニィかしらね」

「あはは、やっぱし……そう言えば、その二人も連れて行ってたんだろ? 昨夜の襲撃に」

「ええ、獅子奮迅の活躍だったわよ」

「じゃあさ、あの二人とアメリアス、そしてベイノール卿とでまとめて掛かってたら、その代行者は倒せたんじゃなかったのかな?」


 と、俺の何気ない質問に、ちょいとムキになって答えるアメリアス。


「アナタ、本気で言ってるの? 我がベイノール家の当主たるものが、女子供の手を借りてまでの勝利を欲すると思って?」


 あー、俺にぁわからん世界の話だな。貴族とかってのはメンドクセェもんだ。


「ま、私の先走りが無ければ、お父様はお勝ちになられていたに違いないわ」

「そうだな。きっと……いや、ぜってーそうだよ!」


 ちょっとオーバーな物言いだったかな? でもコイツを勇気付けるためだし、事実そうなんだろうと思う。だってあのツングースカさんが強さを認める人だもんな。

 

「ま、それはいいとして……もうすぐディナーの時間だからね。それまでにお風呂に入って、体を綺麗にしてちょうだい。そんなババッチィ姿のまま食堂に来たら、ご馳走が腐っちゃうわ」


 うぐぐ、俺のどこがババッチィってんだ! まぁ上半身裸だからみすぼらしく見えるのは仕方が無いが。


 でも風呂か……なんかこっちの世界に来てから風呂ではロクな目に合ってねぇなぁ……今回は大丈夫だろうか?


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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