表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/461

第七章 4 御前会議 後編

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 突然現れたアメリアスに、一同が安堵の表情を浮かべた。


 大魔王様は一瞬、喜びの声を上げようと身を乗り出したが、そんな自分を律するかのように思い留まり、再び威厳をまとい直した。


「アメリアスよ、良くぞ無事で戻ってきた」


 服は所々破けて泥だらけ、手や足にかすり傷や打撲痕もある状況を見るに、「無事」とは言い難いが……それでも生きて帰って来れた事は、やっぱり嬉しい限りだよな。


「ははっ! 大魔王様、諸侯の皆様方。ご心配、ご迷惑をお掛けした事大変申し訳なく思います」

「お、お嬢! ベイノールは……グランゼリアの野郎はどうした?」


 余程心配なのか、アップズーフ卿が身を乗り出して問いかけた。


「はい、トラおじさま。父はピンピンしておりますわ……ですが、今は日中。少々怪我をした部下も居りまして、日の光は些か毒。捨て置くこともできず、途中の洞穴へと身を潜め、父が彼らを守ってくれております。日が落ちれば、すぐにでも戻ってまいりましょう」

「おお、そうかそうか! 無事か……まったくあの者め、心配ばかりかけよるわ」


 冷静になって周囲の目に気付いたのか、さっきまでの情けない不安顔を急に収め、また厳ついしかめっ面へと戻すトラおじさま。


「左様か……ベイノール卿は無事なのだな? それは良かった」


 大魔王様が、平静を装った顔で静かに呟く。でもきっと内心は喜びに満ち溢れているだろう。


「ははっ! 父に成り代わり感謝いたします、大魔王様」

「だが、卿が来れぬとなると此度の会議は見送らざるを得んか」


 キンベルグさんが思案顔で皆に問う。が――。


「キンベルグ様。私は父グランゼリア・レヴァ・ベイノールより全権を委任されてきております。非才の身なれど、ベイノール家当主代理として、この会議を勤めさせて頂きたく思います」

「ふむ、左様か。諸侯の意見はどうか?」


 キンベルグさんの、その場にいる皆への問いかけに、一同が頷き答える……ただ一人を除いて。


「ラーケンダウン卿、貴殿は反対かな?」


 幽鬼の王様だけが、一人沈黙を守っていたんだ。


「…………」

「ならば、反対の意見を申し述べよ。ラーケンダウン卿」

「…………」


 だが、キンベルグさんの質疑要請にも、幽鬼王は沈黙を崩さずにいた。


「どうした、ラーケンダウン殿!」


 少し語気を荒めたアップズーフ卿の言葉に、やっとその重い口が開く!


「……お、おお……すまぬ、寝ておった……なんじゃ?」


 暢気な嗄れ声が、皆の脱力を誘った。ジジイ、寝てやがったのかよ!


「こ、困りますぞラーケンダウン殿。ベイノール家の息女アメリアスが当主代理として全権を委任されこの会議に舞い戻った故、これを認めるか否かの是非を問うておるのだ……貴殿の意見を伺おう」

「おお、これはベイノールの嬢ちゃん……無事で何より。全権を委任されたのであれば……それは我々が口出しするところではなかろうて……」


 フードの中の闇から、ぼそりぼそりと呟くように述べる。ともあれ、ようやく皆の意見がまとまったようだ。


「オホン。では、これより御前会議を執り行う。議題は『ブェロニーの地獄森に眠るとされる、邪神アスタロスが封じられた剣を巡り、我が軍の今後の動向を如何にするか』である。まずは近衛師団長のツングースカ殿から、事の詳細を説明していただこう」


 やっと始まった御前会議。

 ツングースカさんが机をはさんで大魔王様の対面へと歩み、一礼を見せた後に、威風堂々と語りだした。


「先日、かの森の住人達――ダークエルフ族から伝令妖精にて救援の要請があり、すぐさま向かい見るに、森の中で五十と百ほどの二つの部隊が集落を襲っておりました。彼らの一つはワダンダールなる小国のものであり、もう一つはレネオ殺盗団なる野盗集団のものであるのを確認しております」


 ツングースカさんが、あの日からの出来事を語りだした。


「当初はただの勢力争いかと思われた襲撃ですが、ここにいるタイチなるゲーベルト族の若者の手に入れた情報によると、その目的は――森に眠る封剣アスタロスの所在を知るに必、要なアイテムの捜索にあったということらしいのです」


 そして窓際に立っていた俺を招き寄せ、四家の面々――正確にはトラとオバケの二人にだが――へと紹介を始めた。


「この者が、情報をもたらしたゲーベルトの若者、タイチでございます。我が師団の新参にはございますが、なかなかの逸材。さ、諸侯に説明を」


 と、いきなりの無茶振り!

 説明ったって、何をどう話せばいいのやら……こんな事なら、スピーチの練習とかしておけばよかった。


「え……っと、タイチです。よろしく……」


 お、重い……空気が重い!

 助け舟を求めるようにアメリアスを見たが、冷ややかな目線を投げかけてきている。

 ちくしょう、まるで失敗して恥かけ、とでも言いたげな表情だ!


 いいさ、俺も男の子だ。

 ここは一発気合を入れて、ツングースカさんに負けない威風をまとい、何事にも動じない大人物だってところをみせてやるぜ!


「まず、この種をご覧ください。こいつは先日オークより譲り受けた『鍵となる黄金色の種』でございます」


 おおっ! と、どよめきが上がる中、俺は更に続けた。


「この種を巡る勢力は現在三つ――一つは我々、そしてレネオ殺盗団。さらにはワダンダールが将、『ダイチ』なる天主の代行者であります……現在、この切り札たるカードを持っている我々が超有利――ですが」


 俺には少し懸念があった。「それ」をこの場で言うのは如何なものだろうか? 自問自答して、次の言葉が出せないでいた。

 と、そこへ――!


「この事実、今の今まで知っていたのは、私とこのタイチのみ。なにせこのタイチも、己が「鍵の種」を持っている事に、ついさっき気がついたばかりなのであります」


 ツングースカさんが、俺の沈黙の意を汲んで、代わって発言を買って出てくれたようだ!


「しかるにこの先、この場で発表してしまったが故に、敵方へと知られる可能性があると言う懸念があります」


 ツングースカさんの含みのある言葉を受け、アップズーフ卿がまた語気を荒げて吼えた。


「な、なんだと! 貴様、我が軍団に裏切り者があると言うのか?」

「まぁ、無いとも言い切れないわねぇ……」


 アメリアスが意味深に呟いた。


「どう言う事だお嬢! 我が鉄の結束を誇る大魔王軍団に、そのような輩が――」

「私達、奇襲を受けたのよおじさま。奇襲を仕掛けに行くために、隠密に出撃したのにもかかわらずよ?」

「な、なんと!」


 なるほど、それで合点がいった。

 軍団でも屈指と謳われるヴァンパイア族が、消息を絶つほどの失態を見せた訳はそこにあったのか。


「そうね。ここにいる誰かの差し金か……その配下の者の犯行か。見極める必要がありそうね?」


 レベトニーケさんが、お気に入りのネイルアートをしげしげと見つめながら言う。なんだ、退屈なんだろうか? 不謹慎だな。


「なんだ? レベトニーケ殿におかれては一家言ありそうだな」


 ツングースカさんが、彼女の態度に何かを感じ取ったようだ。


「まぁねー。私みたいに地方へ飛ばされた者からすると、客観的に中央の全体像が見渡せて面白いわよー」


 なんだか意味ありげな発言だなぁ。


「ここは大魔王様の御前だぞ。不名誉な発言は控えろ」

「……そうですわね。申し訳ございません、大魔王様」


 おそらくは形だけの一礼で非を詫びるレベトニーケさん。何があったかは知らないけど、彼女なりの「地方から客観的に見た中央」の言は伺ってみたいものだなぁ。


「それではこうしたらどうか? アスタロスの剣の話は様子を見ると言う事で、先に先日来申し上げておる我が提案『獣族最強の武具、獅子座の剣』の捜索に当たるというのは? かの剣が我が手中に入れば、貴奴らロキシア勢などすぐに屠ってくれようぞ?」


 周囲を伺いつつ、大いに語るトラおじさま。


「その目星が付いておれば、それも良い案だ。が、ないのであろう? 手がかりすら」

「それをこれからだな……」

「そんな悠長な事を言っては居れん状況だ。その件はまたと言う事にしていただこう」


 ツングースカさんの言葉に、ぐうの音も出せずに引っ込む。


「戦いは常に先手必勝! 後手後手は不利を招くだけよ。それに……もう機密漏洩であんな目に会うのはゴメンだわ!」


 いかにもアニキらしい発言だな。なんだか内心ほっとするのはなぜだろう。


「では、ラーケンダウン殿。貴殿の言も承りたい……」


 ツングースカさんの言葉が、幽鬼の王様へと向かう。が、依然沈黙……。

 また寝てやがんのかな? つか、死んでるんじゃねぇかジジイ。


「…………敵に機を与えるは下策。アメリアス嬢の言やよし」


 プルプルと小刻みに震えつつ、アメリアスに賛同する。よかった、どうやら寝てなかったようだ。


「されば、我が大魔王軍においては、アスタロスの封印されし剣の捜索、入手を急務とする事に目標を定め、全軍一致体制を取る意向で参りたいと思いますが……異論のある方は挙手にて発言をお願いいたします」


 ツングースカさんの締めの言葉に、誰も異論は無いようだ。


「では、大魔王さま。斯様に決まりました故、ご認可を賜りたく存じますが……」

「うむ、よきにはからえ」


 涼やかな声が、会議室に響き渡った。


「では必ずやアスタロスの剣、御前に持ち帰る事お約束いたします」


 ツングースカさんの一言の後、四人が一斉に立ち上がり、大魔王様へと深々とした一礼を見せた。

 その礼を受けた大魔王様は、うむと一つ頷き、ぴょんっと玉座から立ち上がり、キンベルグさんを伴って静かに退室していったのだった。


「さて諸侯。これにて我が軍の方向性が定まった訳だが……続いては、かの任務に当たるメンバーの選抜へと移りたいと思う。このプロジェクトに対し、指揮はこの私ツングースカが執り行う。面子について推挙、または立候補があれば意見を承りたい」

「そうだな、あまりぞろぞろと引き連れて、敵の目を引く事もあるまいて。少数精鋭がいいだろう……となれば、我が娘は外せんな?」


 トラのおっさんが、愛娘レフトニアさんを指差し答える。

 次いで幽鬼の王様も、ライトニウスさんをご指名。彼女も一礼で答えて受諾したようだ。


「はいはい! ベイノール家からは私が。それと二、三人活きのいいのを連れて行きます」


 流石はアメリアスだ。今さっき戦いを終えてきたばかりだと言うのに、すぐさま次の任務へと立候補!

 と言いたいところだが……この百合っ子ヴァンパイアめ、きっとツングースカさん目当てだろうな。


「じゃあ、このまま帰るのもアレなんで、私自ら二人ほど連れて行くわね。よろしく、ツングースカ指揮官どの(・・)


 レベトニーケさんも、暇潰しとばかりに立候補。


 で、俺はと言うと……無論立候補!

 なんだか「どきっ! 女ばかりの冒険大会ポロリもあるよ」的なおもしろ風味がそこはかとなく漂っているのを見るに、俺も仲間に入れてほしくなったんだ。


 が――!

 そんな俺の不純な動機を察してか、ツングースカさんの一言は、俺の予想を覆す厳しいものだった!


「タイチ、貴様は今回留守番だ」


 ええっ! そ、そんな殺生な! たまにやる気を出したらこれだよ……。

 だがいいや! その間、俺には自由が与えられるんだ!

 やっとこさ当初の目的を果たせるチャンスが巡ってきたワケだ、キャッホーイ!



「タイチよ。その間、貴様には別の仕事を与えるのでがんばってこなしてくれ。くれぐれもサボって、勝手にロキシアを襲いに行ったりするなよ?」


 ――――――えっ? 読まれてた!


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしよろしければクリックしてあげてください⇒ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ