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第二章 1 キャラクターメイキング

「う~ん……こ、ここは?」


 転生や召還後にありがちな定型句を零しつつ、周囲を伺う俺。

 いや、やっぱ言ってしまうよな? いつもそんな感じの作品を読むと「もっと気の利いた事言えないのか?」とか思ってしまうけど……いざ自分がその立場になると、そんな精神的余裕は無いもんだ。


 しかしながらここはどこだろう?

 なんだか真っ白な空間が延々と続いているようだが……もしかしてアレか、精神と時の部屋とか五億年ボタンの世界とかそんなのに迷い込んだんじゃねぇのか?

 大丈夫なのかな、俺。


「あ、やっと目が覚めました?」


 これまた常套句をかけてくる声。ベルーアだ。


「あ、ああ……お前、毎度毎度あんな眠らせ方させられたら、こっちの身がもたねぇ……って、お前誰だー!」


 声のほうを見ると、そこにはホムンクルスチックなコスプレをした手乗りサイズのベルーアが、微笑みながら宙を舞っていた。


「ああ、この姿ですか? これは私の分身です。本体は大地さんのところへ行かなきゃいけないですからね? なにせ彼が主役だし。大丈夫ですよ、ナビならこの分身で事足りますから」


 いちいち癪に障る言い草だ。

 モブの、更にはモンスターのナビゲートには、こんなちっこいサイズで十分ですかそうですか。

 と、そう言えば、俺はモンスター役としてあっちの世界に行くんだっけか。はてさて、どんなモンスターになっていることやら? ふとそう思って、自分の体を見た。


 が――!


「な、な、なんだこりゃ! 俺の身体が無いじゃないか! はっ!もしかして俺透明人間役? それともオバケのQ――」

「何言ってるんですか? さっき幽体離脱ハンマーで殴った事により、今のあなたは思念幽鬼体として存在しているのです。で、こちらの世界の器たる身体を、これから決めようと言うのですよ」

「はー……そ、そうか、よかった」

「でもあんまり時間がありませんから、もうオークとかトロルとかそんなのでいいですよね?」

「よかねぇよ! ほかにどんな種族があるか教えろ」

「もぅ、わがままなんだから……まぁ仕方ないですね。じゃあどうぞ」


 そう言った途端、俺の目の前にズラリと並んだ、モンスターの種族一覧……その数五十ほどだ。

 しかしまぁろくなもんが無いなぁ。オークにゴブリン、ガーゴイルに……半漁人に……ミイラ男? そんなのまであるのかよ。

 まぁどれもこれも、よくあるRPGに出てくるヒューマンタイプのモンスターばかりだな。もっとこう、かっこいいというか目を引くというか……


「ん? なぁ『チーベル』」

「チーベル? それって私の事ですか?」


 小さい案内役が尋ね返す。


「ほかに誰がいるよ。ちんこいベルアゼール、略してチーベルだ」

「な、何ですかそれー……って、まぁ本体との区別に新たな名前も必要かもしれないし、じゃあそれでいいです」


 ええんかい! 案外淡白なヤツだな。


「で、何ですか?」

「ああ、そこの……シークレットってなってる黒いシルエットは何だ?」


 一覧の中、全身黒で隠された影だけのモンスターがいる。


「へぇ、それ出たんですか。太一さん、あなた結構ラッキーですよ?」

「なんじゃそりゃ?」

「人によって出る時と出ない時がある隠しキャラです。初期値が結構強いとか何とかって話を聞いたような……」

「じゃあそれで」

「早! ってか、ちゃんと決めたんですか?」

「ミイラ男のように年中怪我してるヤツとか、半漁人みたくヌルヌル系の生臭いのよりかはなんぼかマシだろ? 他のもろくなの無さそうだし、もうそれでいいや」

「めんどくさくなったんですね……」


 図星を突かれて、無意識に恥ずかし笑いがこみ上げた。

 けれどまあいいさ、シークレットと言うからには、他のウホウホ系ゴリマッチョなモンスターよりは、見栄えはいいんだろう――


「じゃあこの種族ですね。シークレットだからどんなのが出るか分かりませんけど、ニャルラトホテプやマーラみたいな、放送禁止寸前のえげつない容姿の種族でも文句言わないでくださいね?」

「え、おい、ちょっと、やっぱやめ――!」


 俺の叫びを無視して、周囲に光がまとわり付く。


 一瞬激しい輝きを放ったあと、またさっきと同じ、真っ白な世界が姿を現した。

 いや、ちょっとだけ違うところがある。それは俺の身体が実体化して現れたって事だ!

 俺の視界に入ってきたソレは、皮っぽい黒のレザーパンツとブーツをまとったスラリと伸びる足。 引き締まった腹は褐色に彩られ、なかなかのスタイルだ。手は……やはり褐色で、結構なリーチがある。

 あと、爪がちょいと長いかな? いかにも魔族って感じだな――魔族? そう、魔族だなこりゃ! ――ほっ、良かった。


「は、はは……ちょっとだけスタイルが良くなったかな?」

「はい、結構いいガタイしてますよ」


 チーベルの言葉に、嘘偽りは無さそうだ。

 もしそれが嘘なら「いいガタイしてるわよ」のあとに「プーッ! クスクスッ」とか笑うだろうからな。


 にしても、だ。問題は顔だな。はたしてどんな顔になってることやら?


「顔? 本来のあなたそのままの顔ですよ? ただ、いい色の褐色で、キバが少し伸びてて、髪の毛が銀髪で、瞳の色が燃えるような緋色で、耳が悪魔っぽくちょこっと長いくらいでしょうか。あ、あとおでこに角が生えてるくらいですかね?」


 いや、結構変わってますがな。


「大丈夫ですよ。よっくよく見ると『あれ? もしかして太一さん?』って思うくらいしか変わってませんから」


 えら変わりじゃねぇか。

 いやまぁ、その方がいいのかもな? なにせ俺は今、モンスターなんだからさ。フィールド内でもし大地に出合ったとしても、俺と分からなければ、学校で気まずくなる事も無いしな。


 ……ちょっと待て。学校で?

 てか、元の世界には戻れるのか?

 よくある転生もので、死んで蘇ったからログアウト不可なんて設定じゃあるまいな?


「大丈夫ですよ、現実世界回帰ログアウトを念じれば、ちゃんと帰れますから。あ、それと、アドラベルガ内の一日は、元の世界の時間で一時間程度ですから。間違えないでくださいね」

「ほう、じゃあ一週間そっちに滞在したとしても、元の世界じゃ七時間程度ってことか」


 それは中々良い事かも知れない。へたにリアルタイム進行だと、やりたい事もできずにログアウトする可能性だってあるもんな。おっと、それも大切だが、もっと大事な事があった。


「肝心なことを聞き忘れてた! 死んだら? 死んだらどうなる!」


 俺の問いに、チーベルが少し目を伏せた。


「そ、それはですね……」

「ま、まさか? ――ゴクリ」


 そして意を決したように、一言――


「別にどうにもならないですよー! びっくりしました? ねぇびっくりしました?」


 びっくりしたわ……お前のバカっぷりに。


「あ、でもですね。死んじゃうと、もうこの物語ゲームに参加できなくなるんです。それだけですね、死亡ペナルティーは」


 それはもうペナルティーの域超えてアカウント抹消じゃねぇか。


「じゃあもし、大地がこの世界で死ねば?」

「はい、この物語自体が終わっちゃいますね。たぶん」


 それはちょっと複雑だな。

 この後、俺は大地の敵として出会う事もあるだろう。

 もし戦う事にでもなれば……そうなると、その時点で詰み――この世界とおさらばって事か。


「そうですね、そうなると逃げちゃった方がいいかもしれませんね?」


 主人公から逃げつつ、いろいろと悪事を働くゲームか。なんだか難易度がちょこっと上がったような気がするよ。


「ほらほらそれより! 早くステータスの振り分け決めてください! さっきも言いましたけど、あまり時間が無いんですよ?」

「なんだよ、キャラメイキングに時間制限とかあるのか? 大体こういうものはだな、一時間ほどかけてじっくりと吟味するもんだぜ?」

「あのですね、私達の身体は今、あなたの部屋で気を失った状態で転がってるんですよ? しかも私はバスタオル一枚。こんなとこお母さまに見られちゃったらどうするんですか?」


 チーベルが、本気の眼差しでせかし立てる。

 でも、この世界は今さっき言ったように、一日が本来の世界の一時間程度なんだろ?


「キャラメイキングのこの場所は、まだ向こうの世界じゃないんです。ここはアドラベルガの入り口の手前なんですよ。だからまだ現実世界との時間軸は同じなんです」

「そ、それを先に言え! えっと……ステータスボーナスの振り分けは……っと。どうやってきめるんだ?」

「ステータスウィンドウを呼び出して。普通に念じれば出ますよ」

「へぇ、便利だな。じゃあウィンドウ出ろ」

 

 言われた通り念じると、目の前に半透明なウィンドウが現れ、そこには日本語で俺のステータス表記が成されていた。


「数値は……体力20の防御力20の俊敏性が20の攻撃力が20で魔力が20と……あと運が30か。なんだかバランスいいと言うか、運が突出しているというか……当たり障りない種族なんだなこれって」

「そう、そこへあなたの今回のボーナスポイントである10ポイントを振り分けるんです。やり方は数値を上か下へなぞれば変わります。簡単でしょ?」


 タッチパネル式か。神様も案外新しいもの好きなんだな。

 にしてもだ、これをどう振り分けるか……。

 運はもうそのままでいいとして、だ。

 体力を増やして死ぬ確立を少しでも低くするか。

 俊敏性を増やして敵の攻撃を避ける確率を上げるか。

 はたまた防御力を上げて、生き残る確立をちょっとでも高めるか。

 もしくは魔力や攻撃力を強化して、敵へのダメージを多く与え、力による延命を図るか。

 ……悩む所だなぁ。


「あーもうじれったいですね! こんなもの適当でいいんですよ!」

「あっ! なにしやがる!」


 あろう事か、チーベルが勝手に数値を変動させ、決定ボタンを押してしまいやがった!


「ホラ、これでけってー! さ、つぎつぎ~!」

「な、なんてことしやがる! う、う、運が40ってお前! そんなに運ばっかに入れてどーすんだよ! 俺にラッキーマンになれってか?」

「たった運が40くらいで、そこまで変わりませんよ。クリティカルの数値が2パーセントから3パーセントに変わる程度です」

「なお悪いわ! もっぺんじっくりキャラエディットさせろ!」

「もういいですから、ぐだぐだ言わずに先に進みましょう! とりあえずグレイヒネルさまに会いに行きますよ? うるさくしたり、お行儀悪くしないでくださいね」


 え? 何で俺怒られてるの?

 勝手に数値いじられて、抗議して、それは俺が悪いのか?

 いや、それよりグレイヒネルって誰だっけ? どこかで聞いたような名前だな……「さま」って付けるくらいだから俺の上司か何かだったかな?


「グレイヒネルさまは上司じゃないですよ? 言わば社長さんですかね……だって大魔王さまなんだもの」 

「だ、大魔王……そ、そうだ! まだ描写は無かったけど、噂でめちゃくちゃおっかねぇヤツって書いてあったような記憶が!」

「らしいですね。私も直接はまだ見てないからよくは知らないんですけど……なんでも、すぐキレるかなりおそろしい人らしいですよ?」


 そんなバケモノに謁見なんて、大丈夫なのか? 俺。

 なんか機嫌を損ねるような事でも言っちゃったら、即ぬっころされるんじゃないのかな?


 猛烈に嫌な予感しかしないのは、きっと俺の気の迷いなんかじゃないだろう。


次話予告

つつがなくキャラクターも決まり、いよいよ大魔王との面会に望む太一は、その恐ろしい姿に度肝を抜かれることになる。

次回 「大魔王への謁見」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!


悪い点、気になったところ等ございましたら、是非お申し付けください。

今後の作品展開において、改良・参考とさせていただきます!

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