第七章 1 早い登城
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「おきてくださいませ、タイチ様」
「ううん……俺は美少女のキスでなきゃ起きないんだ……だからもうちょっと寝かせてくれ」
「……わ、私のキスではだめなのでしょうか?」
「うーん、姫のキスなら起きちゃうよ、むちゅー…………どわっ! ひ、姫! い、いったい、なにがどうしたんだ?」
「うふふ、おはようございます。タイチ様」
「お、おはよう……ございました……」
不意打ちの一撃を食らう事の無い穏やかな目覚め。しかも美少女からの優しいモーニングコール! こんなの生まれて初めての経験だ。おかげで一気に眠気が吹っ飛んだよ。
「おはようございます、太一さん、お姫様」
どこで寝ていたのか、チーベルも目をこすりつつへろへろと飛んできた。
なんとも暢気な案内役だな。
「すでに朝食の準備が整っているそうです。お目覚めになってくださいな?」
「あ、ああ……お姫様に起こしてもらえるなんて、なんだかまだ夢を見てるようだ」
むくり、と起き上がると、そこはベッドの上。
そうか、昨夜大魔王様と別れた後、ベイノール家の邸宅までテレポートして、そこからツングースカさんの邸宅まで帰って来ると言う力技で迷子を脱出したんだっけか。
一応ベイノール邸宅内を覗いてはきたけれど、バタバタしていてなんだか声を掛けられる状態じゃなかったんだよな。
それでここに帰って来てから少し横になろうとして、そのまま電源オフ状態で爆睡こいちまったのか。
……誰だよ、アメリアス達が心配で眠れそうに無いとか抜かしていた奴は。
「そうだ、ツングースカさんは? それとセフィーアは? ヴァンパイア部隊からの連絡は?」
尋ねたい事が堰を切ったように、口から溢れ出てきた。
「はい、ツングースカ様はまだお帰りになっておられません。セフィーア様……ですか? あの白き鎧の方は、今安静にしておいでです。それから……ヴァンパイア部隊の消息は未だ掴めていないとか」
一つ一つの質問に慌てる事無く簡潔丁寧に語ってくれたあたり、流石は聡明な姫様だなぁ。
「タイチ様、わたくしも一つお伺いしても宜しいでしょうか?」
「あ、ああいいよ?」
何の気なしに答える。
「昨夜、我が国で何があったのでしょう?」
ぎくりっ! やっぱ気付かれていた!
「う、うん。殺盗団の奴らが攻めて来てね……」
「やはり……そ、それではお城は! 父上様は!?」
「だーいじょうぶ! 俺と数人の代行者、そしてツングースカさん達も加勢してくれて、門前で追っ払ったよ! 被害らしいものは全くないさ」
笑顔を作り、親指を立てて安心を誘う。
現に被害らいい被害はあまり無かったようだし……ただ、あのヤバイ薬の調合書を奪われたのがこの先どう影響するか不気味だ。
「そ、そうですか安堵いたしました……タイチ様、本当にありがとうございました」
「い、いやいや、礼には及ばないさ!」
俺はほとんど何もしてないし……。
「では、朝食をお済ませになってください。お昼からは会議なのでしょう? ツングースカ様から、少し前には登城しておけとのお言葉がございましたよ」
「あ、ああ。そんじゃご飯食べて早速登城するかな? 行こうか、チーベル」
「はい、太一さん」
「では私はデオランスに、お国は無事ですと伝えてやりにいってきます」
「ああ、どうもありがとうエリオデッタ姫」
まぶしいくらいの微笑が、俺を見送ってくれた。ちくしょう、なんで俺はロキシアじゃないんだよ!
「おはようございます、ツングースカ師団長殿」
扉の前にたむろする出待ち魔物少女達を押しのけ、早々にやって来たツングースカさんの執務室。そこには一人で朝食をほおばる彼女の姿があった。
「おう、おはよう」
「あれ、お一人なのですか?」
「ああ、奴ら二人には昼前まで仮眠を取らせた。今頃どこぞで転寝している事だろう。私もあれから少しだけ仮眠を取り、スッキリしたよ――まだまだ五、六日くらいなら、徹夜しても平常心を保てる自信はあるがな」
笑いながらに言う。
「そ、そうですか……あ、昨夜はその……いろいろと申し訳ありませんでした。あと、セフィーアは現在安静に寝ています。一応報告までに」
「そうか」
一言零して、それ以上は何も言わない。
「だが早いな、まだ登城時間になったばかりだぞ?」
「は、はい。ヴァンパイア部隊の消息が気になって……」
爆睡こいてたけど。
「はは、そうか。斯様にアメリアス嬢が気に掛かるか?」
「いえ、そ、それは……同僚としてです!」
「ああ、わかっている。私とて心配だ」
物憂げに語る師団長閣下。
配下部隊の失踪なんだ、戦略的、戦術的に考えて、俺以上に気を揉んでいる事だろう。
「そう言えば、あの『伝令妖精』でしたっけ? アレは一体どう言うものなのですか?」
ふと、気になっていたあの便利グッズの事を尋ねてみる。できれば俺もほしい!
「ああ、あれか。エルフ族の連中が作り出した、瞬間移動を得意とする精霊を『この』指輪に封じたものだ」
そう言って、右薬指にはめられているキラリと輝くゴールドリングを俺に見せてくれた。
「へぇ。精霊を、ですか? それは誰の所にでも飛んで行ってくれるんですか?」
「いや、飛んでいってもらいたい者の『気』を覚えさせる必要があるからな」
「そうなんですか……でも、便利ですよね。で、おいくらぐらいするのでしょうか?」
「高いぞ。指輪と精霊のレンタル料が基本、ゴーンドラド発行の銀貨百枚だ。そこから一定の期間で使用料を精霊に渡す事になるのだが、それも出来高払いでな。私などはよく公務で使うから、銀貨十枚ほどを要求してくる。しかも私は自宅ではこいつをはずす癖が付いていてな……相手側の妖精が邸内で私を探すのは別料金だとか抜かしている始末。便利だが金食い虫だ」
ふん。と溜息を零し、指輪を左人差し指でピンと弾く。うーん、高いのか安いのかわからん。
「太一さんのお給料が銀貨二十枚ですから……推して知るべしでしょうね」
「うわ……俺の給料、低すぎ……?」
思わずどっかのネット広告のキャッチフレーズが飛び出した。
って、俺って給料安いの? それこそ良くわからん。
「でも、元の世界の大卒の初任給より少し多いですよ? なんたって近衛師団ですからね。あの伝令妖精を売るエルフがボリすぎなんですよ」
「なるほどな……俺じゃ買えそうに無いや。でもなんでツングースカさん、指輪をはずすんです?」
「ああ、自宅くらいそんなものに縛られたくないじゃないか」
わずらわしいのが嫌いというツングースカさんらしい、なんとも男前な発言だ。
「じゃあ、その指輪を失ったか壊されたか……それは誰が付けていたんでしょうか? まさか、ベイノール卿やアメリアスが……」
「いや、高貴なお方はあの指輪をするのを嫌がってな……どうにもこのリングの下卑た金色が下賎だとさ」
「では、通信役的な誰かがはめていて……狙われたとか」
「で、あるかもな」
最後の一口だったサンドイッチ的な食べ物を、エレガントなカップに入った、おそらくは「紅茶」で流し込む。
今朝俺が食べてきた緑のばーちゃん特製の朝食と同じだ。きっとばーちゃんズの一人がここまで運んできたのだろう。どうでもいい話だけど、俺は紅茶よりコーヒーの方が良かったなぁ。
「それはそうと貴様、昨夜大魔王様専用の薔薇の園へと侵入し、大魔王様へ無断謁見した挙句、えらい事を言ったそうじゃないか?」
「え!? あそこって一般魔物進入禁止だったんですか!」
「禁止という訳ではないが……大魔王様がいらっしゃる時は、控えるものだぞ? 死にたくないからな」
い、生き死にの問題!?
「そ、それは知りませんでした。迷子になって、気が付けばあそこに……。でもなんでツングースカさん、それをご存知なんですか?」
「む? 気が付かなかったのか? あそこには大魔王様警護のスペクター等が徘徊しているのだぞ? よく入れたものだと感心しているくらいだ」
ちょ、ちょっと待って! ってことは何か? あの時あの場所には、たくさんの魔物の方々がいらっしゃったと?
今思い出しても恥ずかしい、あの時の言葉の数々。それを聞かれていたって事か! くふぅ……し、死んでしまいたい!
「で、一応私の耳にも入った訳だが――貴様のその馬鹿みたいな優しさのおかげか、大魔王様は少し安堵なされた様子だ。この功に免じて、咎めはせんそうだ。まったく、貴様は不思議な魔物だな?」
「あ、ありがとうございます……」
とりあえず、お叱りはないって事か。そう言えば大魔王様に不用意に近づいたんだもんな、即殺されてもおかしくなかったんだ。
でも……じゃあなんで俺があの庭園に入るまでに、そのスペクターさん達は止めなかったんだろう?
「とにかくまだ時間がある、その辺で遊んでいろ」
「は、はぁ……遊んでいろといわれましても……あ、もし許されるのであれば、ワダンダールへの出張許可を頂きたいのですが」
そんな俺の案に、ツングースカさんの目が光る。
「またあの国へか? 貴様はテレポートする度、面倒事を引き起こすだろう」
「い、いえ! 今回はあの協力者に会って、なにかしら情報をもらえたらすぐさま帰ってきます」
「まったく。いいか、忘れるなよ? 昼前までには必ず帰って来い!」
「はい、必ず」
これと言って、情報は無いのはわかってるさ。でも、かの国へ行って手に入れたいものがあるんだ。
「では行って参ります」
「ああ、今度遅くなったら……もう知らんぞ?」
年長者が子供へ言い聞かせるように、笑みを見せながら小さな脅しをかけるツングースカさん。
とりあえず何かあったら即行で逃げよう。そう考えつつ、心にあの場所を描き、俺は行き先を唱えた。
「ワダンダール!」
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!