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第六章 14 忠誠

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 平身低頭で平伏し、床に額をこすりつけるほどの「剛の土下座」を見せる俺。


「貴様というやつは……まったく、なんてことをしてくれるんだ」


 言葉に怒気はないものの、とてつもなく呆れられている。

 そりゃそうだ、なにせ命を賭して戦った瀕死の好敵手を、自分の自宅に連れて来て看病させちゃったんだから、呆れてモノも言えないだろう。

 けれど、ワケも無く連れて来たんじゃない。一応意味はある……とは思うんだ。


「申し訳ありません……ですが、彼女――セフィーアも殺盗団の襲撃に見舞われていて、放って置けばきっと奴等の手に落ち、もしくは辱めを受けて殺されていた事でしょうし……」


 傷つき弱った女剣士を、集団で「アレ」するなんて、陵辱系ストーリーの王道だもんな。

 そんなうらやましい――もとい、人道に外れた行為、見過ごせなかったんですよ。

 と、そんな俺のヤワなハートを察知してか、レフトニアさんの目が光った。

 

「ロキシアに情とは……貴様、不甲斐ないにも程があるぞ」

「あ、いえ。ロキシアに同情したとかそんなんじゃないんです。ただ――」

「なんだ?」

「はい。ただ、そうなると……ツングースカさんの楽しみを、どこの馬の骨ともわからない連中に奪われるじゃありませんか。それはいかがなものかと……」


 そう言い分を述べた途端、呆れ顔で目を閉じていたツングースカさんの表情に異変が!


「フッ……フフ……ククク……あははははは!」


 小さな苦笑から、突如大笑いへと変貌し、やがて満面の微笑となった。


「よく分かっているじゃないか? アレとはもう一度、双方ともに万全の状態で殺り合いたいと思っていたんだ」


 その言葉を聴いて、レフトニアさんがライトニウスさんを見やり、肩をすくめて言う。


「やれやれ、また閣下の悪い癖が出た」


 だがそんな言葉に、今さっき激闘を邪魔された女剣士の幽霊さんが呟き返した。


「我も……もう一度戦いたい」

「なんと、ここにも悪い癖を持つ輩が居たか――まったく、我が師団は血の気が多くて困ったものだ」


 あんたが一番多いだろ。

 そう突っ込みたかったけれど、命が惜しいのでやめておこう。


「まぁ、とにかく頭を上げろ。そんな体勢では落ち着いて話もできんじゃないか」

「は、はい」


 とりあえず立ち上がり、へへへと苦笑い。


「その件は屋敷に帰ってからゆっくり聞こう。それとだ――」


 笑顔を一旦収め、また思案の表情へと戻るツングースカさん。


「あのロキシアのやつ――何といったか、ライトニアスと黒鎧の代行者との戦いに割って入ってきた奴だ」

「ダイチ――ですか?」

「その者、気になる事を言っていたな? 薬がどうとか」


 そう、あの国が極秘裏で製造しているという、ヤバイ系の薬だ。


「もしかしてレカリオン薬ではないのか?」

「は、はい。そうです……そんな名前でした」

「そうか……かの薬、ワダンダール国が裏で動いていたか。なるほど、であるから小国であるにもかかわらず、あの白い女を雇い入れ、殺盗団の襲撃を免れる事ができていたのか……莫大な資金を使ってな。これで辻褄が合った」

「あ、あの……レカリオン薬とは?」


 一応、大体の察しは付いているけど。


「ああ。ロキシアの裏社会で広まっている、死へと誘う快楽を与えるといわれる薬だ。なんでも精神に異常を来たすほどの恍惚や悦楽を与え、しかも常習性があるといわれている……まぁ、我々魔物の関知する所ではないがな」

「では、それを闇の市場で売りさばき、汚れた金を得て傭兵を雇い入れ、国を守ってきていたのですか?」

「だろうな。小国が身を守るための知恵という奴だろう」


 その言葉には些かの疑問がある。ならなぜ、姫を差し出したんだ?

 もしかして姫を差し出したのは、何か裏があっての事?

 俺の足りない頭では、ちょっと無理すぎるな。

 が、レフトニアさんやライトニウスさんの手前、姫様の事をツングースカさんに聞くのもマズイよな。


「いずれにせよ、奴らがどんな事で国を富ませようと、我々には関係がない。放って置いても害はないだろう」

「あっ!」


「関係がない」そう言われて、はたと思い出し、思わず声を上げた!


「またぞろなんだ? 問題児君」


 レフトニアさんが茶化すように尋ねる。


「そう言えば、一つ気になる事があるんですが」

「なんだ?」

「今日の昼に我々がワダンダールを去ってすぐ、王は殺盗団へと使者を送ったそうですが、まるで全てを知り得ていたように、すぐさま軍勢を率いてワダンダールを襲いに来たそうです……これって早すぎやしませんかね?」


 俺の疑問に、ツングースカさんが眉をひそめる。


「確かに解せんな。なにやら最初から我々も踊らされていたのかもしれん」

「ですが、地獄森襲撃の報を受けたのはキンベルグ殿で、閣下への救援命令は大魔王様直々のご采配ですが」

「うむ、そうだ。おまけに、かの地のダンジョンを魔窟に変えよとの御指示も、大魔王様からの勅命だった……他の者が策を巡らす余地はないはず……となれば、余程伝達能力が高いか、それとも――」


 思案の声を漏らすツングースカさん。


「まったく、ヴァンパイア部隊の消息といい、殺盗団の奇妙な動きといい、アスタロスの剣の事といい。タイチ、貴様が来てから厄介な問題ばかりだ。まさか貴様が裏で糸を引いてはおるまいな?」


 ぎぎくぅ! まぁ俺の願望が多々影響しているという点では、一枚噛んでいますけど……。


「あ、あはは! ま、まさか俺みたいなチンピラ魔物にそんな大それた事できるわけないですよ!」

「ふふ、冗談だ。それより貴様、もう今日は我が屋敷へと戻れ」

「な、何故です! せめてヴァンパイア部隊の消息が掴めるまで俺も――」


 どうせこのまま帰っても、気になって眠れないんだ。それならここで……。


「アホウ! 貴様もケガを負ったのだろう、ならばおとなしく寝ていろ! 明日は御前会議なのだぞ、途中で倒れでもしたらどうするのか!」


 傷口は塞がっているとはいえ、ヒットポイントが未だ半分以下の状況。怪我人は容赦なく退場させるツングースカさんの言は、至極真っ当だ。


「わ、わかりました……もし、何か事の進展がありましたら是非お知らせください!」

「うむ、約束しよう」


 大きく頷き、俺に安堵感を与えてくれたツングースカさん。そして俺は一礼を返して、執務室を後にした。





「やっぱりあそこの角を曲がるべきでしたね」

「うーん、その前の角を左じゃなく右に折れたほうが良かったんじゃね?」


 気が付けば、グレイキャッスルの中を、出口を求めてうろうろしている俺とチーベル。

 そう、またもや迷ってしまった。今度はアメリアスん家より大きなお城という事もあり、難易度が上昇しているぞ。


「で、また中庭っぽいところに出ちゃいましたね――まさか、さっきから聞こえてきている水の音に、またお風呂を探しているんじゃないでしょうね?」

「うぐ……た、たまたまだよ!」


 庭園から聞こえる水の音に反応した俺の下心を、軽く見透かされてしまう。

 チーベル、油断なら無い奴だ。


「でも綺麗ですね、この庭園……ステキな花がいっぱい咲いてますよ!」


 薔薇に良く似た赤と白の花々が咲き乱れる庭園は、ここが大魔王の居城だという事を忘れさせてくれるようだ。


「あ、ほらほら、噴水があります。あれの音ですよ」

「ああ、そうみたいだ……」


 ちくしょう残念……と、思いつつ見やったその噴水の縁に、なにやら小さな人影が見えた。


「む、誰だ?」


 思わず声をかけてしまった。

 と、それは!


「誰ぞ……おお、そなたはタイチではないか? 見回りか? 夜分ご苦労じゃな」

「ああいえ……それより、大魔王様はこんなところで何をしてらっしゃるんです? もう就寝時間ではないのですか?」


 傍に寄って跪く。


「う、うむ……姉、いやヴァンパイア部隊の消息がきになっての……」


 そうだ。この大魔王様にとっては、アメリアスやあの父ちゃんは家族。しかもまだ年端も行かない少女だ、心配するなという方が無理だよな。


「大丈夫ですよ、大魔王様。消息は途絶えておりますが、遺体などは見つかってない模様ですし……何よりあのアメリアスがケガする訳がありません! それは大魔王様が一番良く知ってらっしゃることだと思いますが?」


 慰めなんて言葉を知らない俺の、精一杯の言葉だ。


「も、もちろんそうだ! あの者が、怪我などする訳が無かろう。あの強く優しき姉さまが……いや、アメリアスが――」


 一瞬、年相応の少女の顔をした大魔王様。そのどんぐりまなこからは、今にも大粒の涙が零れ落ちそうだ。


「だが、最近あの者は余を避けておる……嫌われておるのかの? だからどこかへ行ってしまうのかのぅ」


 そんなチビスケの言葉に、俺の中の何か熱いものが反応を見せ、勝手に口を動かした!


「ば、馬鹿な事言うなよ! アメリアスがどれだけ『お前』の事を心配していたか! つれなくしたのは、ただ妹であるお前に一人前の大魔王様になってもらうため、涙を呑んで距離を置いているんだぜ?」

「そ、そうなのか?」

「ああ! 俺に話してくれた。里心が付かないようにと、幼いお前の前ではつれない素振りを見せているって――自身辛そうに語ってた――」


 おい、ちょっと待て俺! つい熱くなりすぎて、とんでもない事を口走っているぞ!


「だ、大魔王様! つ、つい心が熱くなりご無礼を申し上げた事……平に、平にご容赦を!」


 もし側近の誰かがいれば、その場でぶっ殺されていただろう言動。振り返るに背筋が凍る思いだ。


「そう……そうか。余にしっかりせよとの叱咤であったか」


 が、大魔王様は、俺の失言なんぞには全く関心が無いようで……。


「うむ。あの者達の身に、ヴァンパイアの者達の身に何かあろう事などありえぬ話。そうだな?」

「そ、そうです。もちろんです!」

「アメリアスもベイノール卿も、余を見捨てて行くような不忠の輩ではない。そうだな?」

「当然です! 皆大魔王様に絶対の忠誠を誓っています!」


 うん、と頷くちっこい顔に、笑顔が戻った。


「のうタイチ、そなたも余に忠誠を誓ってくれるか?」



「…………もちろん、俺の――いえ、我が身、我が心は、大魔王様へ永遠の忠誠を誓い、忠義のために全てを捧げる所存です」



 片膝を着き、深々と一礼を捧げる。


 きっと後で恥ずかしさのあまり悶え死ぬだろうかも知れない言葉。

 けれど今の俺の心は、紛う方なくこのチビスケを助けたい、守り立ててやりたいと一心に感じているんだ。


 どうせ俺は、魔物で雑魚で下っ端舎弟のモンスターだ。


 そんな安い俺の命を、大魔王様が直々に「くれ」と言ってるんだぜ?

 喜んで差し出さない方がおかしいよな?


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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