第六章 12 羊と蛇
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「ほぉ、実体化か。私怨を媒体に、その身を実体化させるとは……愚かで哀れな娘だ」
神様に憑かれたカオンが、ライトニウスさんの浮かび出た姿を見て言う。
「実体化? 私怨を媒体? なんだそりゃ」
「簡単に言うと、『化けて出る』ってやつです」
解説のチーベルさんが、久しぶりに仕事をこなした。なるほど、「うらめしや~」って事か。
怨みだとか憎しみだとか、そんな感じの「念」で姿を現すオバケさんは怖ぇもんな。
「だが、アレは普通のマテリアライズとは違う。ただの恨み辛みでの実体化ではなく、純粋に『強くなりたい』と願う心の現われなのだ」
流石はレフトニアさんだな。彼女を盟友と呼ぶだけあって、事を万事知り得ている様子だ。
「……我が牡羊座の剣の露となれ」
控え目なトーンの言葉故、その意味に重みが感じられる。
そして一歩、足を踏み出し、手に持つ羊の頭部と巻き角を模した鍔の剣を握り直したその直後――「それ」が眩い光に包まれた!
「黄金の羊となったあの剣に、はたしてあの黒き大蛇はただのミミズと化すだろう」
レフトニアさんが言う。
そして光が収まり、ライトニウスさんの剣が装いも新たな姿を現した!
柄頭から切っ先まで、全てが黄金色で染められているその姿!
なんとも神々しい! いや、レイスである彼女に「神々しい」はないよな。
互いの持っている剣が逆だとマッチするんだろうけど。
「これはよい。我が世界蛇とそなたの子羊、いずれが勝るか勝負と参ろう」
またぞろ嫌な予感満載の展開! 互いを取り巻くなんだか怪しい気の流れが可視化状態で漂ってるよ……これって「オーラ」とかそんなやつなんだろ? って事は、この後はお約束の大爆発を伴った両者激突が!
二人とも、ここは他人のお家なんですよ? 迷惑かかるから外でやりませんか。
「こちらから参るが、よいか?」
「……」
カオンの問いに、無言で左の指をクイックイッと曲げて「かかってこい」の合図。
途端、カオンの剣の刀身に、うねりを伴った禍々しい色のオーラがまとわり付く。まるで「猛毒危険」と視覚で訴えているようだ!
互いの間合いはそれぞれの得物の三倍以上。となると、刀身が伸びるカオンの方が有利。
どうすんだろ? ライトニウスさん。間合いを詰めるのかな……でも間合いの変化する相手に、近付く事すら困難な状況だ。
「見よ、これなるは我が剣の大技、暗黒の死病!」
カオンが動いた!
対象へと勢い良く突き出した黒い剣が、まるで生き物のように伸びる。その剣がまとうオーラが蛇を形取り、あたかも大蛇が獲物を襲う様となった!
間合いが広い上に、先手を取られた。なのに――ライトニウスさん、なんか棒立ち状態!
「ククッ、もらったな」
不敵な笑みで勝利を確信する。が、その表情が瞬時に曇った!
漆黒の大蛇の牙が、目標を捕らえようとしたその瞬間だ。
ライトニウスさんが左腕を手前に伸ばし、掌を「それ」へと向けて――
「 ガ ツ ン ッ !! 」
何かがぶつかるような、鈍い音が響いた。
なんと、カオンの剣の大技を見事弾き返したらしい!
見ると、ライトニウスさんの左手には、何か黄金に輝くモフモフした物体が……あれって、羊の毛?
「いかなる災いも無力化する、黄金羊の毛だ。こうなっては相手の『勝利』は無きに等しい」
「ほほう、おもしろい。『勝利』は無いのだな……ならばそれ以外はあるという事か」
カオンの微笑に、一瞬、ツングースカさんの表情が険しくなった。ヤツの言動に何か気付いたと言った感じだ。
「ヤツめ、一瞬で心を決めるとは――侮れんな」
「え、何を決めたんです?」
俺の間抜けな質問に、師団長閣下がギリリッ! と歯軋りして答えた。
「あの男、こんな己の利や信念無き戦いにでも、一瞬で命を捨てる覚悟ができる。かなり厄介だぞ?」
「命を捨てるって……ま、まさか!」
「ああ、相打ち狙いだ」
ただ技や力が強いだけじゃなく、心の持ち様までもが半端ない相手。流石は頭の中の線が五、六本キレてるヤツだ。
そんな敵の出現に、ツングースカさんの中の「何か」がザワ付き始めたんだろうか? なんだか心穏やかじゃない面持ちとなっているぞ。
「難攻不落こそ攻める価値がある。そしてそれを落とし、世に名を刻もう。たとえ、命を賭してもだ」
ツングースカさんとはまた違った、戦いの中に「楽しさ」を見出す危ないタイプ。
「その目標が純粋に「相手を倒す」だけに絞られている分、厄介だ」
ベミシュラオさんまでもが不安を零す。
ちょ、ちょと待ってよ! こんなとこで、しかも理由もうやむやな戦いで命を落とすなんて、あまりにも不条理じゃないか!
「元々、我々とロキシアとの戦いは不条理なものだ。今更言うてくれるな……」
冷たく言い放つレフトニアさん。
だが、血が滲むほどに握り締められた拳は、裏腹な思いを雄弁に物語っていた。
「行くぞ、幽鬼剣士!」
「……受けよう」
静かな、あまりにも静かな玉座の広間は、まるで二人きりの闘技場のような様相だ。この場の本来の主役である王様ですら、ただの置物と化している。
いつの間にか、互いの意地のみの争いとなっている戦い。
もはや俺なんぞのヘタレ三下戦闘員の計り知る範疇外な世界。きっとアクションゲームなら、一ドットの攻防戦と言ったところだろう。
そして張り詰めた空気の中。
まるで意思の疎通でも起こしたかのように、まったくの同時と言うタイミングで、互いの究極の一手をぶつけ合うため……間合いを詰めた!
――が、その時だ!
「 ド ン ッ !! 」
広間の扉が勢い良く開かれ、現れる三人の人影。
刹那で異変を感じ取り、ライトニウスさんも、カオンも、己に急激な制動をかけて、すかさず互いからの距離を置く。
張り詰めていた空気は、一瞬でその乱入者の元へと向かって開放された……そう思えるほど、皆の視線は、一斉にそちらへと奪われたのだった。
「宴も酣のところだが、許せよ『グラニキサス』」
そこに現れたのは……大地らワダンダール防衛軍(自称)の三人だ!
「我が名を知るもの……貴様も神憑か?」
「つれなきかな、我が声を失念とは。では『ペリデオン』と言う名ではどうか?」
カオンの表情が驚きに変わる!
それは、体に電流が走ったかのような衝撃、と言う面持ちだ。
「貴様、その身を封じられたのでは?」
「さて、我もワケが分からずよ。だが案ずるな? 今は同輩だ、こうしてゲームを楽しんでおる」
神様同士の会話は、もう俺の理解の範疇をとうに超えてしまっていた。
いやまぁ、結果的にだが、二人を止めてくれたのはありがたいけど……。
「なんだ、やけに魔物が増えているな……お、知った顔もいるようだ」
ベミシュラオさんを見つけた大地が、ニヤリと笑う。
おもわず苦笑いを浮かべ、「いやぁ、先ほどはどうも」と言う、なんだか間の抜けた挨拶を交わす。
「それはそうと大地――その手に持っているものは何だ?」
なんだか、ぼろきれに包まれたでっかいゴミと言ったものを引きずってきている事に気がつき、尋ねた。
「なぁに、協力者だ。ちょいと小突いたら、素直にべらべらと語ってくれたぞ?」
と言って、ポイっと投げ捨てるように俺達の前へと寄越した。それは――
「こ、こくまろ王子!」
ちょっと小突いただって? ぼろぼろになり、名前も赤く表示されている。虫の息で今にも死にそうだぞ。
「おのれ……ペリデオン!」
「今回は寛大な心で見逃してやる。とっとと帰れ」
「ぐぐ……そ、そうさせてもらおう」
その一言の後、カオンの神憑状態が解除された。そして普通のロキシアに戻った途端――
「麗しの蒼き君! すまない……勝負は引き分けと相成った。また改めて君を誘いに参上するよ」
場違いな雰囲気の人外スキーが復活してしまった。
「ああ、いつでも来い。私は大魔王軍近衛師団長、ツングースカだ」
「ツングースカ……なんだか大爆発を起こしそうないい名前だ!」
そう言って、瀕死のこくまろ王子の元へと歩み寄り助け起こす――事はなく、手にしていたヨルムンガンドを胸元に突き刺し、トドメの一撃を与えたのだった!
「うぐぅ!」
「これでよし……と。さぁて、かえろ」
光の結晶となって、天に召されるこくまろ王子の姿。咄嗟に驚きと抗議が俺の口を突いた!
「な、なんだって! おい、お前の仲間だろ!」
「だって、連れて帰るのめんどくさいじゃないか?」
「めんどくさいって……このクソ野郎!」
あまりにもやりきれない怒りに、俺は無意識に体を起こしていた。
そしてカオンの前に立ちはだかり、グエネヴィーアを抜いて――吼えてしまった。
「どんなに悪人だろうが、てめぇの仲間だろぉ!」
後先考えない熱血思考の悪い癖が出た。
この癖を一刻も早く直さないと、ハーレムを築く前にゲームオーバー確実だな……まぁ、もう遅いけど。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!