第六章 11 幽鬼少女、滾る!
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「み、みんな来てくれたんですか!」
たすかったぁ~、安堵の溜息が無意識に漏れたよ。でもなんだってベミシュラオさんまで? あなたは自宅療養中なんじゃないですか。
「いやぁ、宿に着いた途端にお呼び出しを食らってね……テレポートにてワダンダールに来れるのは小生のみだからしょうがないさ」
毎度の如くに頭を掻きつつ、にへらと笑う。
「それに、我が命の恩人であるチーベルくんの一大事だ。寝ている場合じゃないさ」
なぁ? とばかりに、チーベルへと笑顔を見せるベミシュラオさん。
「えへへ、命の恩人とは言い過ぎですよぉ」
お、こいつ一丁前にテレてやがる。案外シャイなんだな……俺以外には。
「まったく。君の帰りが遅いものだから、閣下がそわそわなさってね。どうしてもワダンダールに行くときかなかったんだぞ」
「よ、余計なことを言うな! レフトニア」
テレを誤魔化すように、声を荒げる師団長閣下がちょっとかわいい。
「いちち……なんだよ、急に現れていきなりぶん殴るとは、魔物ってのは礼儀とかマナーとかを知らないのかい?」
そんな和気藹々とした魔物たちの会話を遮る声。
広間の両脇に並んで立つ石柱の一本をへし折るほどにぶっ飛ばされていたカオンが、抗議の言葉を吐きつつ首を振り起き上がった。流石にツングースカさんの鉄拳制裁を受けてもなお、軽口をたたける余裕があるらしい。
まったく、ツングースカさんとレベル100以上の代行者との戦いは、どっちがモンスターだか分かりゃしない。
「で、なんだ? あのアホは?」
「は、はい。レネオ殺盗団の――」
途端に、ツングースカさんの右目がギラリと光った!
「ほう、これはこれは……どうやら本当に、タイチのお陰で私の運勢が開けてきたようだ」
一瞬で殺気を全放出する師団長閣下。その尋常ではない殺意に気が付いたカオンが、条件反射のように一瞬身構えた。
「おっかない気だねぇ? べつにボクは君の恨みを買った覚えはないよ」
「ほう、トボけているのか? それとも記憶喪失なのか? ウラジオストの魔蒼の民を滅ぼしただろうが!」
「いや、知らない……ボクは最近入団ばかりなんだ。諸先輩方が何をしたか知らないけど、そこまでは責任もてないなぁ」
体中の埃を払い身だしなみを整えつつ、トボけた感じで語る漆黒の剣士。
「そうか、残念だ。では貴様の言う、その諸先輩方とやらの居所を教えてはくれまいか?」
「ダメだよ。そんな事したら君、彼らを皆殺しに行くだろ? そうするといろいろとマズいんだ……よ?」
改めてツングースカさんを視界に収めたカオンが、一瞬固まった。
なんだろう、驚きの表情でツングースカさんを凝視しているようだが……彼女の立派な角かおっぱいかに目を奪われたか?
「き、君ィ!」
「何だ? 己の悪事を思い出したか? 今更謝罪の言葉を吐いたとて、許しは――」
ツングースカさんも身構える。一触即発な空気が、二人の間に漂い――そして弾けた!
「か、かっこいい! そして美しい! いやぁ、好みのタイプだよ、君!」
一瞬、広間の中の時が止まったような錯覚に見舞われる。
チーベルの羽音だけが、はたはたと聞こえる中、呆然としていたツングースカさんが、止まった時間を再び元に戻した。
「……貴様、打ち所が悪かったか?」
小首を傾げるツングースカさん。レフトニアさんもライトニウスさんも、互いの顔を見て肩をすくめている様子だ。
なんだろう、これってこちらを油断させる作戦か? もしそうなら、まんまとはまっているとしかいえない状況なんだが――ベミシュラオさんへと目配せで尋ねるも、「はて困った」と苦笑いを浮かべるだけだし。
「その軍服姿、キマっているね! そして左目の黒い眼帯、すごくイカシてるよ! 何よりそのトレンチコート姿、超クールだ! 蒼い肌、燃え上がる色の瞳! 黒くしなやかな髪! ああ、神様! 突然こんな出会いを与えてくれて感謝いたします!」
天を仰いで胸元で十字を切る仕草。何? クリスチャン? つか、神様は自分の中にいるだろうに。
「ねぇ君、今すぐボクのお嫁さんになってくれないか? 誓うよ! 生涯大切にするって」
「あー……、貴様をいきなりぶん殴って、クルクルパーにしてしまった事は謝ろう。見逃してやるから、すぐ医者に診てもらえ」
「ボクは至って正常さ! 君が魔物だからって、ボクは構わない。この想い、どうか分かってくれ!」
そんなカオンの熱心なアプローチに、レフトニアさんが割って入る。
「寄るな下郎! この方を誰と心得るか!」
同時にライトニウスさんが、無言のうちに腰の得物をスラリと抜いていた。
「なんだい、君たち? ボクの恋路の邪魔をしないでくれないかな」
なんだろう、至極真面目な表情で二人に言い放てるけど。
大丈夫か、カオンの中の人? まぁ、ツングースカさんに惚れる気持ちは分からないでもないけどさ。それにしても、いきなり初対面のモンスターに求婚って、どんな性癖なんだよ。
「閣下、ここは我等にお任せください。この下郎の口、鎮めてご覧に入れましょう」
「それは構わんが……殺すなよ? こいつからはいろいろと情報を聞き出さなければいかんからな」
「承知!」
レフトニアさんが野獣の闘争本能むき出しにして、変態黒鎧と対峙する。が、そんな彼女を無言で制する人影が……。
「ライトニウス、なんだ? 貴官がやると申すか?」
目深に被ったフードが、コクリと一度頷きを見せた。
既に抜かれ行き場を無くしていた彼女(?)の剣へ、活躍の機会を与えてやりたいと言った意思が伺える。
「ふぅん、そっちの幽鬼剣士がボクの相手って事? いいけど、もしそいつに勝てたら……麗しの蒼き君、このあとデートしてくれるかい?」
「ああ、いいとも。その代わり、ライトニウスが勝てば、殺盗団の知りうる情報を提供してもらうぞ?」
師団長閣下が余裕の表情で答える。
「オーケェイ!」
それが開戦の合図の様に、カオンが己の相棒を握りなおし、戦闘体勢を取った。
奴が持つ、刀身まで真っ黒な妖刀――まるでそれ自体が、生き物のような殺気を放っている。俺にとっては両者の力が未知数の戦い。どう転ぶやら想像も付かないぜ。
「太一さん、今のうちに回復魔法をかけておきます!」
「あ、ああ。すまないチーベル」
そういえば、分かっている事が一つある。
まったくのゼロ距離から力を入れる事無く、ズブリッ! っと刀身を俺の体に差し入れる事が出来るほどの切れ味。そしてそんな手心を加えても、一気にヒットポイントを二百も持っていく威力。
それらを鑑みるに、ただの剣技の応酬に留まるとは思えない……この広間、大丈夫かな?
「それじゃ、小手調べ」
軽く言い放つカオンが、「軽く」どころじゃない疾風のダッシュで間合いを詰めた!
そしてまだ己の間合いではないであろう位置で、ブンッ! と空を切る一振り。
――と! 暗黒色の刀身が、まるで生きているかのようにうねり伸びた! 獲物を狙う蛇のように走る切っ先は、予想だにし得なかったであろうライトニウスさんを襲う――っが、間一髪! 彼女がかろうじて避けた!
だが、ローブの端を貫かれ、ビリッといやな音が響いた。
彼女がまとっているそれは、元より端がぼろぼろの、少しみすぼらしいものではあった。が、それが彼女の風体と相俟っていて、どことなくカッコ良さを醸し出してはいたんだ。
しかし、新たに空けられた斬撃のあとは、無理に破いて作ったダメージジーンズのように浮いた存在となっていて……どこと無くかっこ悪い。
「……おのれ」
つまりは、ライトニウスさんの怒りを買ったという事!
押し殺すようにつぶやき聞こえた言葉。初めて聞いた、彼女の肉声! それほどまでに、怒りの感情が押し寄せているのだろう。
「ライトニウス、ほどほどにな!」
レフトニアさんが叫ぶ。が、その言葉は宛先人の受け取り拒否により、地に落ちて消え去ってしまった。
「 ド ン ッ ! 」と、激しく爆発するような音が響き渡る! ライトニウスさんが、赤いじゅうたんが敷き詰められた床を蹴り立て、まるで弾丸のようにカオンへと迫った音だ。
床の敷物が、周囲で見守っていた幾人かの兵士が、その勢いのあまり吹き飛ばされる。これはソニックブームか? まるで音速を超えたような疾駆だ!
―― ガ キ ィ ィ ィ ィ ン ッ !!
ライトニウスさんの剣撃を、カオンの剣が受け止めた音が響き渡った!
もし「音」が物質的なものだったら、その効果音だけで人を吹き飛ばし、あるいは刺し殺せただろう。それくらい、鋭利で重圧的な音が、そこに居た人たちを襲ったのだった。
「いてぇ……手が痺れたよ」
思いがけない剛の太刀筋に、困り顔で零すカオン。そしてそのまま鍔迫り合いへとなだれ込む。
「思ったよりやるもんだなぁ……」
感心と困惑の入り混じった顔。しかし、次の瞬間……それが不敵な笑みへと変わる!
「でもさ、ボク……まだ神憑を起こしてないんだよね」
「……ッ!」
ライトニウスさんが、一瞬息を呑んだ。いや、彼女だけじゃない! 俺も……そしてここにいる全ての魔物が、その言葉の意味に戦慄を覚えただろう。
「では逝ね、忌みたる魔の子よ!」
カオンの表情が、髪の色が、声が変わった!
ライトグレーの髪の毛が黒く染まり、まるで禍々しい黒い炎のように逆立ち揺らぐ。
その途端、まるで大人と子供の力比べのように、力任せに押し切られる鍔迫り合い。
弾かれる様に後退るライトニウスさん。
ちくしょう。このままじゃツングースカさんとのデート権が、こんな変態黒男の手中に落ちてしまうじゃないか!
「騒ぐな愚か者よ! 我が盟友が力、この程度だと思わぬ事だ」
レフトニアさんが、俺のうろたえる姿に一喝を入れる。
「久しく見ていなかったが……やつめの本気が見れるぞ? その眼にとくと焼きつけよ」
彼女に目を移す――ライトニウスさんの目が、フードの奥底でらんらんと輝いているのが見えた。
そして、鋭角的なデザインの黒鉄色したガントレットが、自らのフードに手をかけ――それを剥ぎ取った!
「あ、頭が無い――目だけが輝いてる!」
「これからだ、しかと見よ」
そしてうっすらと、頭部の辺りに何かが浮かび上がり……やがてそこには、スカイブルーの髪色をしたハーフ・ボブの美少女の「首から上」が浮かび上がってきた!
「おお、私も久しぶりに見た。ライトニウスめ、本気だな」
ツングースカさんも感嘆の声を上げる。
「覚醒完了――殺す」
鈴の音のような清らかな声が、物騒な一言をつぶやいた。
多分だが――この広間、もう使えなくなるだろうな。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!