第六章 10 小癪な男
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「あれ、ここは……ベイノール家のお屋敷前じゃないですか!」
何の説明もなく、テレポートで連れて来たチーベルが、この状況に戸惑いの声を上げた。
「ああ、ここしか飛んで来れる場所の名前を思いつかなかったんだ!」
「咄嗟の事でしたからね、それはわかります。でも、何故この人まで?」
そう言ってセフィーアを指し示し、俺に説明を求める。
「わ……判んだろ? 言わせんなよ」
照れとも恥ずかしさとも言えない表情を、ぶっきらぼうな言葉で誤魔化す。
「ま、まさか――太一さんの性奴隷要員第一号ですか!」
「あ、アホ! まぁそれもいいけど……いやよくない! つか、ケガしてる人にエロい事するような、俺はそこまで卑屈でも変態でもないぞ!」
……願望は少しあるけど。
「とにかくこの人を――セフィーアを安静にできる場所へ連れてかなきゃだろ!」
「で、ですが……ベイノール家ではまずいんじゃないですか? ロキシアの、しかも代行者ってバレたら……ただでさえ今ベイノール家の屋敷内は殺気立っているでしょうし」
「ああ、そんな事ぁ判ってるよ」
俺は手に持っていた少し歪になった白い兜を、彼女の頭に被せた。そして肩を貸すような体勢で無理やりに立たせ、背負える状態へと持っていき――
「ふんすっ!」
気合と共に、背中へと負ぶってやった。
お、重い……華奢そうな体躯だが、如何せんフルアーマーと言うハンデ付き。しかも鎧がゴツゴツしていて背中が痛いの何の。
だが、そんな事は言ってられない! セフィーア女王様にちょっと特殊な体罰系ご褒美を頂戴しているのだと無理やり脳内変換させつつ、ダッシュで死人の都市の石畳を駆ける、駆ける、駆ける!
目指すは、この世界でもう一軒だけある、俺の知り合いのお宅……ツングースカ邸だ!
「おい、チーベル! すまないが一足先に行って、緑のばーちゃんに事の説明をしてきてくれ」
「はい、太一さん!」
普段はへろへろとしか飛ばないチーベルが、えらい勢いで飛んで行き、あっという間に見えなくなった。
全力疾走で後を追う事、二区域――やっとの事で見えてきた、デカイお屋敷。
見ると、チーベルと緑色の小さいのが、門の前で俺の到着を待っていた。
「ゼェー、ゼェー……ば、ばーちゃん、こいつ怪我して意識がないんだ! すまないが俺の部屋で寝かせていいかな?」
「あらまぁ、これは大変! ささ、こっちへ!」
完全にどこにあるのか忘れてしまっている自分の部屋。
それを知ってか知らずか、ばーちゃんは俺を誘導するように前を歩く。
つか、ばーちゃん歩くの早ぇ! 俺、走ってるのに追いつけねぇ! もしかして、ばーちゃん昔は名のある戦闘要員だったとか?
「タイチ様、どうなさいましたの?」
俺の部屋の前で、心配そうな表情の姫様と侍女ちゃんが待っていた。
「ああ、怪我人で意識がないんだ! 横にしてあげたい。悪いがドアを開けてくれ!」
侍女ちゃんが素早く応じてくれた。部屋へと入り、とりあえずベッドへ。
「よっこらせ」とセフィーアをベッドへと寝かせる。
なにはともあれこの甲冑を脱がせなきゃな。
「あらまぁ、これはロキシアの女性……今日はロキシアの女の方がよくお見えになる日ですねぇ」
兜を取り去ったセフィーアの顔をみたばーちゃんが、冗談めかして言う。
「ごめんな、ばーちゃん。こいつはものすごく怪しいやつ……なんだが、一応はツングースカさんの『友』みたいなものなんだ」
「はいはい、かまいませんよ」
笑って返してくれた。
「悪いけどばーちゃん、こいつの怪我の手当て、お願いできないかな?」
「いいですとも――ですが、タイチさんは?」
「俺はまだやらなきゃいけない事があるんで戻る。姫、侍女ちゃん、こいつは君らにとっちゃ味方だ。看病してあげてくれないか?」
「はい、もちろんです!」
侍女ちゃんが張り切って言う。姫も笑顔で頷いてくれた。
「じゃあ後はよろしく! 行くぞチーベル」
「はいはいー」
小さな案内人が俺の肩に止まるのを確認し、ワダンダールを思い浮かべて叫ぶ。
「ワダンダール――っ!」
と、俺の体が光の結晶となる間際の一瞬、「しまった!」と言う思いに駆られた。
俺の慌てぶり、そして今の「ワダンダール」と言う行き先名。
姫と侍女ちゃんが、何か気付いたって表情を見せたんだ。
……そう、「国で何かあった」って。
再びワダンダールの玉座の間へと舞い戻る。
うーん、しかしここがテレポートアウト先ってのは、どうにかならないものかな?
「王様、またまたお邪魔しますよ。何せここしか飛んでくる場所しらないもの――で?」
へコヘコと頭を下げつつ移した視線の先に、何か違和感。王様や大臣達は、どうやら俺なんぞ眼中に無く……重く張り詰めた空気が、広間を圧迫している様子だ。
「王様?」
改めて呼ぶ。
と、その声に振り向く、一人のロキシア男性の姿。
長身の体躯に、不気味さ漂う黒地マントを羽織ったフルアーマーの出で立ち。
シルバーの装飾豊かな漆黒色の甲冑が、「悪」や「強さ」をイメージさせる。
もしかしてこいつ――
(くっ――レベル128、カオン……こいつかな? 大地の言う「小癪な男」ってのは)
「魔物……? この城にはどうやら低級魔物が巣食っているようですなぁ? 閣下」
ニヤけた表情と、もって回った言葉。
一人で乗り込んできている辺り、どうやら城下町に潜入してきた奴らさえも、囮だったようだ。
「お前は……殺盗団の幹部か?」
「ん~、その質問には答えられないな。なにせ上層部からレネオ殺盗団の事は口外するなと言われているものだからね」
余裕? それともバカ? いや、絶対これは余裕だろうな。俺のようなゴミには目もくれない、そんな態度だ。
目もくれないついでなら、何したって怒らないでいてくれると嬉しいんだけどな。
「ところで君、ここへ何しに来たの?」
「こ、この国を守りに……って言ったら……やっぱ笑うかな?」
俺の言葉に、プッっと噴き出す黒鎧の男。
「あー、いやいや失礼。あまりにもかわいい事を言うものだったからさ……」
「ああ、冗談が上手いってよく言われるよ」
やっぱこう言う手合いにはムカっとくるよな。
一矢なりとも報いてやるか? いや、今回はそうも言ってられない……何せ俺一人だし、事によっちゃ、ここでゲームオーバーだ。
が、俺を弱小魔物と油断している今の現状って、何かチャンスに生かせるんじゃないのか?
――よし、ここはひとつ!
「あの、あんたらはすごく強いな。ロキシアの光ってやつか?」
「そうだよ、よく知っているね?」
「いやぁ、そんな奴らに出会ったらすぐ逃げろって言われているものだからさ――逃げていい?」
「ああいいとも」
いともあっさりと交渉成立。では俺はこれにて――と踵を返した矢先!
「ボクから逃げられたら、ね」
――ズムリッ!
俺の脇腹あたりに、背後から微かな衝撃。そして、一瞬の間を置いて襲い来る、灼熱にも似た激痛!
「グ、グアアアアアアアッ!!」
「た、太一さん!」
チーベルの叫び声が、俺の持っていかれそうになった意識をかろうじて留めてくれた。
「ごめんごめん、痛かったかい? でも、今外に行かれちゃまずいんだよ。だって、せっかくのボクの作戦がパァだからね?」
激痛に膝を折って蹲る俺に、カオンなるそいつはケリを見舞ってきた。
ちくしょう、ヒットポイント制ってのは、なかなか死ねないもんなんだな?
(ス、ステータス表示……HP250がいきなり残り50ってお前……)
まだ三分の一以下だけど、かろうじて残ってるよ。
ああ、ヒロタロウもこんな思いでツングースカさんの恐怖を受けていたのか? でも、あんな死に方だけはごめんだぞ。
「そこでボクの用事が済むまで寝ていてくれ。なァに、運良く事が済んでも生きていられたら、命は助かるよ?」
しめた、奴は俺の事をその辺の三下モンスターと思ってくれている!
……いやまぁ三下には変わりないけれど。
だが、命は取り留めたって事だよな?
なら死にかけているフリをして、事の成り行きを見守りつつやり過ごせば、何か情報を手に入れるチャンスにもなるんじゃないか?
「う……うう……」
とりあえず、瀕死のフリのうめき声を上げてみる。
「うんうん、生死の境を彷徨ってるね? ボクは好きだな、そう言うタイトロープのような、不安定な立場に置かれた者を見るのって。だって、そいつの真価が試されてるんだからね……さて、君はどうかな? このまま死ぬか、生への執着を見せるか?」
楽しそうに笑って言う。なんてクレイジーな奴だ! でも考えようによっちゃ、そのお陰で助かれるんだ。ありがとうカオン、君が頭おかしい人で良かったよ。
「さて、王様――邪魔が入ったけど、改めて話をしようじゃないか?」
「う、ううむ……」
「何も魔物のように取って食おうってんじゃないんだよ? この国が握る『例の薬』の販売権利、それだけでいいんだ。それさえ譲ってくれたら、今回の事は水に流すって、そう言ってくれているんだよ? しかも上の連中は今後、この国には手を出さないと誓ってくれるそうだ……あの剣探しだって手伝わなくって済むんだよ?」
「だ、だが……」
「ほら、早くしなよ? でないとあなたが雇った傭兵くん達が気付いて、こっち来ちゃうじゃないか……まさか、それが狙いって訳じゃないよね?」
「も、もちろん違う――」
「じゃあ早くしろ! 薬の調合秘伝書! いますぐにここへ持ってくるんだ!」
な、なんだかスッゲーやばそうな話だ。
って事は何だ? この国はその「薬」とか言うもので国益を得ているって事なのか?
「陛下、もはややむなしかと……」
「ううむ、仕方ない」
大臣の言に、王様が頷く。そして家臣の一人に目配せをして、何かを促す合図を送る。
一礼を見せた家臣が、そそくさと広間からはけ、しばらくして戻って来た。
その手には、一冊の書物が握られており――
「ほれ、それなるが我が王国秘伝の『レカリオン薬調合書』じゃ……」
「どれ、拝見――――んー、確かに。じゃあ頂いていくね」
満面の笑顔で王様に礼を見せるカオン。そしてテレポート魔法で去ろうとする仕草を見せ――思い留まった。
「あれ、君まだ生きてるの?」
――どきっ!
「とっくに死んだかと思ったんだけど、今の聞かれちゃったらまずいんだよねー」
き、聞こえないフリだ! さっきから俺は何も聞こえてませんでしたよ、ええ何も!
そう無言の意思表示を見せたけれど……やっぱ許してくれないのが、こう言う場面のお約束だよな。
「ごめんなー、予定変更だわ。今すぐ死んで?」
そう言って俺の頭を、左足で押さえつける。
スラリッ! と剣を鞘から抜き出す音が響き、それを大きく振りかざしたと思われる甲冑の音が耳に届く!
ちくしょう、もうダメか!
―― ド カ ッ !
そう観念した矢先。
けたたましい音と共に、俺の頭はカオンの足から開放された!
何事? と見上げたそこには、見覚えのある、そして最も頼りになる「あの人」のご尊顔が!
「遅いと思って来てみれば……まったく、貴様は何をやっているんだ!」
凛々しいお声の叱咤も、今だけは神の福音に等しい心地よい調べに感じるよ。
やっぱ主要キャラのピンチに主役級のキャラが颯爽と現れるのが、こう言う場面のお約束だよな。
そう!
トレンチコートを肩に羽織い、腕を組んでこちらを睨む師団長閣下が、レフトニアさんとライトニウスさん、そしてベミシュラオさんまでもを従えて、俺を救いにやって来てくれたんだ!
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!