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第六章 9 白き天使

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 後悔先に立たず。

 眼前のローブ男「こくまろ王子」が、俺に向けて戦闘体勢を取った。

 レベルが違いすぎる! それにこっちは、神様や悪魔を憑依させるなんてズルはできねぇんだぞ!


「どうした、臆したのか?」


 だが挑発を仕掛けたのは俺の方からだ。

 好きで売った喧嘩じゃないけれど、それなりの結果は見せないと大地の手前かっこ悪ぃし……。


「来ぬならこちらからいくぞ、魔物よ。ゲルプ・カノーネ!」


 さっき見た電撃砲が俺へと一直線に伸びてきた! 咄嗟に避けつつ、間合いを詰めようとダッシュする。


「甘いわ!」


 だが、そんな行動は相手に読まれており、既に二撃目が放たれて、俺へと迫っている! 逃げ切れない! ええい、ままよ!


「アイス・アードラー!」


 せめて軌道よ、逸れてくれ! そう願いつつ氷魔法の一矢を放つ。

 しかし! ビームの軌道はちょっと下に逸れただけで、結局は俺の傍の地面に着弾し、同時に地を這い伝う稲妻が、逃げる体勢の俺を捕らえたのだった。

 広範囲に余撃を与える、かなり強い魔法だ!


「うっぎゃー! ビリビリする! ビリビリするって!」


 足元からの痺れが頭の先っちょにまで届く――電気風呂の何倍もの痛みを伴う感電に見舞われ、きっとビジュアル的に俺の姿は、ガイコツが見えるエフェクトが描写されている事だろう。

 これだけでも、普通の人間なら戦闘不能に陥るかもしれない威力。

 ああ、そこそこ強くて助かったよ。


「はっはっは! 相変わらず逃げるのだけは一流だな? ベオウルフよ」

「あ、ああ。お褒めに預かり光栄だよ、大地さん」


 しかし、逃げてるだけじゃ何の解決法にもならない。ここは一発、打って出るしかないよな。


「ほう、ベオウルフよ。まだ懲りずに向かうか?」

「あったぼうよ! まぁ見とけって」


 そうだ、まだやれる。まだやり残してる事はあるんだ。試しにアレを使ってみるか!


(ゲシュペンスト!)


 小声で言う、今まで使っていない魔法。「幻影」だってからには、目くらましにはなるんだろう。


「むっ!」


 こくまろ王子が俺を見て一瞬反応を見せる。

 そりゃ驚くだろうさ……ヤツに向かって駆け迫る俺が、急に二人になったんだ――俺もちょっとびっくりしたよ。いきなり俺の横へ、すごいハンサムさんが現れたんだからな。


「さぁて、俺はどっちだ!」

「あほが! 今叫んだ方に決まっているだろうが。ゲルプ・カノーネ!」

「うわ、ばれた!」


 調子に乗って叫んでしまった俺の方へ、黄色い閃光が襲い迫った!


「バカめ! キジも鳴かずば撃たれまいに――うん?」


 確実に俺を貫いた、敵の攻撃魔法。

 が、その瞬間、俺の姿は霞のように消えうせる。


 そう、そいつは幻影! ニセモノは一つだけじゃない。

 瞬時にもう一つ出して入れ替わったんだ!


「うおりゃあ! もらったあ!」


 勝ち誇り油断しているこくまろ王子に、上段から切りかかる!

 「ヴンッ!」と空を切る音が響き、手ごたえが無いほどに、相手の身体を一文字に切り裂いた!


 ……いや、本当に「手ごたえ」がまったく無い。


 切れ味云々の問題じゃない……そこには何も無く、ただ空を切っただけ。

 ちくしょう、こいつも「幻影」だった!


「稲妻のブリッツ・ハント!」


 いつの間にか俺の傍らに立っていたこくまろ王子の手から、幾本もの稲妻が迸る。

 それはまるで、雷光で出来た巨大な手のように、俺を握り包み、電撃の苦痛を与えてきた。


「うわあああああッ!」

「まさかゲシュペンストなどと言う初歩の魔法で挑んでくるとは……意外すぎて少しばかりあせったぞ」


 電撃で俺の動きを封じながら、こくまろ王子は不敵な笑みで語る。

 くっそ、体が痺れて動けねぇ! 大地は――腕組んで様子を見てやがる。

 神様の憑いてない大地はまだ優しいが、憑依したアイツはスパルタ教官の鬼軍曹だ!

 あくまで自分で切り抜けろってか? にゃろう、上等だ!


 ……とは言うものの、身動きが取れない状況じゃ、何も出来ない。

 このまま座して死を待つしかないのか……ちくしょう、相棒グエネヴィーアよ、お前に心あらば、この状況を打破するのに手を貸してくれ。


 頼む!


「他愛も無い魔物だ。どうした、そこの者? こやつを助けぬのか?」

「バカが、そいつをよく見ろ。助けが必要か?」


 大地の言葉に、こくまろ王子の視線が俺へと移る。

 と、その瞬間――!


「ん? おお! こ、これは……よい生贄の乙女じゃ」


 感嘆の声と共に、敵の電撃が鳴りを潜めた。

 感電の苦痛から開放された俺は、蹲る体を引き起こして残された力を振り絞り、手にした得物を左から右へ、一線に薙ぎ放ち――


「ぐぉぁっ!!」


 嫌味ったらしい奴のローブを切り裂く、満足の一太刀を与えてやった! 


「今度は手ごたえあり。へへへ、こんなもんじゃまだまだ倒せないだろうけれど、せめてもの一矢は報いたぜ!」

「うぬぬ、今貴様が乙女に見えたのは幻覚か……こしゃくな真似を!」


 俺に受けた胸元の傷口に手を当て、訳の分からない事を口走るおっさん。何が乙女だ? 俺のどこ見りゃ乙女に見えるんだよ。


「不貞な姫君め、もう新しい男に気移りしよったか……おい、今貴様が見たのは、我が剣グエネヴィーアが見せた甘き誘惑フェアズーフング・ズュースだ。それがどんな意味を持つのか、少し考えればわかるだろう?」

「……な、なに、グエネヴィーアだと? まさか!」


 こくまろ王子が急にうろたえだした。一体どんな意味があるってんだ?


「まったく、貴様の相方同様、処女の生贄に目がない悪癖は治らないようだな? アスロドテスよ。未だ生娘らを貪り食うておるのであろう?」

「いや、そんなはずはない……『貴様等』は先の大戦後に――」

「主神と『あの者』に封じられた、と言いたいのだろう? さて、我も不思議なのだ……だが、現にこうしてまた戦いに興じている」


 なんだかお知り合いの様子だが――こくまろ王子の怯え様から察するに、まるでいじめっ子といじめられっ子テイストな仲のように思えるな。


「ベオウルフよ、貴様の出番はもう仕舞いだ……さっさと舞台袖にはけよ」

「なっ! てめぇ大地! オイシイとこ横取りするってのか!? ――どうぞどうぞ」


 うん、やっぱこういう場面は主役さんに譲らないとな!


「さぁ、主神の技を盗みし者――偽雷神アスロドテスよ。以前のように、我が裁きで幾千もの苦しみを与えてやろうぞ?」

「じょ、冗談ではない。貴様の相手など御免被る……我が使命は陽動、もうその責務は果たした! これにて失礼させていただく」

「陽動――だと?」


 陽動? つまりは本来どっか別に目的があるって事か。と、ちょうどその時、チーベルがえらく慌ててすっ飛んできた!


「大変です、お城が攻められていますよ!」

「な、何?」


 振り返り城に目をやると、城門あたりに火の手が! し、しまったぁ!


「あいかわらず小賢しいな、いや……貴様ではなく、あの『小癪な男』の差し金か? マルりん! ベルガ! ベオウルフ! 貴様らは城に戻り、害虫退治に勤しめ! が、気をつけよ? もしやあの厄介者が居るやも知れん」

「御意!」

「あいあいさー!」


 殆どの雑魚を片付け終えていた二人が、城へと取って返す。俺も急がなきゃ――でも。


「おい大地、お前一人で大丈夫なのかよ?」

「魔物ずれに我が身の心配をされるとは――我を誰と思うておるかッ! さっさと行け!」


 大地の中の人が誰かはよく知らんが、まぁほっといても大丈夫だろう。


「んじゃ任せたぜ! チーベル、行くぞ!」


 そう言い残して、俺も城へと取って返す。

 走りつつ、途中でグエネヴィーアの鞘を拾い、ふと闇に溶け入る大地の姿を見る。やっぱ主人公ってのはツエーしかっこいいよな。

 考えてみりゃ、本来あそこに立っていたのは俺なんだ。今みたいな脇役的存在ってのは、なんだか惨めだよ……。





 やっとこさ城壁までたどり着き、舞い落ちる火の粉と灼熱を我慢しつつ、燃え盛る城門へと突入する。


 ――が!


「……あれ? マルりん、敵は? 数体の遺体はあるけど……みんなやっちゃった?」


 そこには門を守る衛兵の亡骸と、数体の殺盗団らしき者達の躯が転がっている。

 街の所々に火の手が上がってはいるが、大きな被害はまだ見受けられない様子。

 それにしても、だ。城下町に敵が忍び込んだってのに、城兵も軍隊も出て来てないってのはどう言うこった? 放たれた火も、市民らしき人々が懸命に消火活動にあたっているし……王様やる気あんのか?


「あ、うるふちゃん! 敵が十数人、街中に四散したのー。ベルたんは右に行ったから私は真ん中行くね、うるふちゃんは左行って敵を探してー!」


 マルりんの気の抜けた声の指示が飛んできた。

 見ると、城へと向かう大通りのほかに、右と左に分かれる道がある。


「あいよ、じゃあちょっくら行って来る」

「気をつけてねー!」


 ありがとよ! と返して、左への道をひた走る。

 はて? あの子は代行者じゃないのか? 神憑の現象が起きてない様子だけど……素で強いんだろうか?


「ずっとあんな調子ですよね、何故なんでしょうか?」

「お前が知らん事、俺が知ってるとでも思うか?」

「ですよねー」


 笑いながら返すチーベルを軽く無視して、とにかく俺も、逃げたって言う殺盗団の残党を探すことに。


「つってもさ、こんだけ広いと、どこにいるか分かんねぇよな――」


 と、零した矢先の事!


「どんがらがっしゃん!」と言うけたたましい音が響いた。


「な、何の音だ?」


 その騒動の方へと足を向ける。そこはとある屋敷の裏手にある、小さな納屋から発せられたようだ。

 一体何が? 恐る恐る近付き伺う。

 すると!


「ドガンッ!」とドアをぶち破る音と共に、何かデカいモノの影が飛んできた!


「どわっ! な、なんだ!」


 月の薄明かりに照らされたそれは、どうやら「人」……殺盗団の一員らしく、奴等とお揃いの鎧をまとっている。

「ううう……」と、悶絶の一声を残し、それは動かなくなった。


「い、一体中には何が?」


 納屋の中の闇に目を凝らす。そこから三人の同じ装備をまとった連中が、怯えながら後退ってきた。

 次いで、ユラリ……と、なにやら白い人の影!


「ひぃ、おばけだ! オバケがでた!」

「な、何を仰っておいでですの……? わたくしはこれでも、まだちゃんと生きております……わよ」


 入り口の壁に手を着き、剣を杖代わりにした、今にもフラリと倒れそうな白い甲冑の人物。

 その人が、息も絶え絶えに言う。

 いや、ちょっと待ってくれ? その声、そのボッコボコにされた鎧姿……あんた……セフィーア!


「あらあら、あなたは昨日の……参りましたわね、弱り目に祟り目とはこの事……どうやらわたくしも年貢の納め時かしら」


 と言ってふらりと体勢を崩し、片膝を着く。

 そんな弱りきった彼女に止めを刺さんと、殺盗団の連中が剣を抜いた。


「あ、あぶない、セフィーア!」


 叫ぶと同時に、俺はグエネヴィーアを抜き、男達の背後から切りかかっていた。


「ぎゃあああ!」


 一人、二人と切り捨てたところで、残りの一人が「ひぃぃ!」と情けない声を上げ、脱兎の如く逃げ出した。

 後を追うか? そう考えたけど、目の前の「敵だった人」の方が心配だ。


「セフィーア! おい、大丈夫かよ?」

「あ……あらまぁ、敵に情けをかけられるとは……わたくしも落ちたものですわね」

「いや、あんたが落ちたかどうかはどうだっていいんだ。それよりなんだ? なんでこんなとこでくたばりかけてんだ?」


 そんな俺の問いに、兜を脱ぎ去り、無理な笑顔で答える。


「あ……あなたのお仲間さんにやられた傷……ですわよ」

「傷って……あの時は颯爽と去って行ったじゃないか?」

「ちょっと強気に、いい格好をしたまでですわ……と言うより、弱みを見せれば、あなたにやられていたでしょうから」


 んな事しねぇよ、そう心で呟く。

 そこまで卑怯じゃないし、なによりツングースカさんが許さないだろう。


「今朝、やっとの思いでここまで逃げてきたのです。そしてこの屋敷の主に救われ、先ほどまで寝ていたと言うのに……」

「な、なんで城に戻らないんだ? そんな怪我だとしても、城の誰かを呼んできてもらって――」

「勿論呼んでもらったのですが……その後、眠ってしまってどうなったやら」


 そうか、結構ドタバタしてたから忘れられちゃったのかもだな。


「でもまぁ、生きていてよかったよ。でなきゃ、ツングースカさん決着付けられなくて残念がるだろうからさ」


 冗談交じりで言う。けれど、彼女からの反応がない……。


「ちょ、おい! セフィーア、セフィーアさん! セフィーアちゃんよ!」


 気を失ってる。やっべぇ、無理して喋らせすぎちゃったか?


 と、そんな問題を抱えた俺の元へ、次の問題が舞い込んできた!


「太一さん! さっきのヤツが仲間を呼んできましたよ!」

「なに! な、何人だよ?」

「結構多いです! 五、六人くらい」


 戦える自身はある。が、気を失ったままのセフィーアが心配だ!


 ええいどうするよ? 

 敵だし、このままほっといても死んじまうだろうし、見捨てちゃうか?


 見捨てる……ねぇ。

 できるのか、俺?

 

 やっぱ出来ないよなぁ……あーもう、どうにでもなれ!


 こうして俺は、もうヤケだとばかりに彼女の兜を拾い上げ、心に「とある場所」を想い念じ、叫んだ!



「ゴーンドラド・デ・ベイノールパレス!」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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