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第一章 4 異世界へ行こう!

「ベルーアちょっと聞きたい事がある! お前とタイトルも作者名も無いラノベと佐藤大地という俺の友人との関係性についてなんだが…………あ」


 二日連続で脳内会議を繰り広げながら帰宅した俺は、母ちゃんの「今日の夕ご飯はカツカレーよ」と言う魅力的な報告を耳に入れ応対する事も無くただひたすら二階に駆け上がりベルーアの部屋を視界に入れたとほぼ同時にノックも無しにドアを開けて息継ぎなんか関係無ぇ! とばかり聞き出したい事をまるでマシンガンのような剣幕で浴びせかけたのはいいがそこにいたのはお風呂上がりと思しきホクホクと湯気だったバスタオル一丁姿のベルアゼールさんだった。


 一瞬の間がこれ程長く感じた事は無かった。いや、本当に長かったのかもしれない。

 きっと俺は、時間と言う物の存在が無い空間に迷い込んだのだろう。


 少しぎょっとした表情で、ベッドに腰掛けて髪を解かす仕草のまま固まったベルーアと、ドアノブを手にしたまま彼女を凝視する俺。

 バスタオルに包まれたその素肌はとても生白く滑らかで、胸元の結構なボリュームが「苦しいよ! 早く開放してくれ!」と自己主張していた。


「…………なんですか?」


 まるで石化呪文を受けたかの様な俺に金の針を刺してくれたのは、ベルーアのいたって気にも留めていないという平然とした口調の一言だった。


「あ……いや……その……ししし失礼しましたぁ~!」


 いやいや本当に失礼したと、この時ばかりは反省したよ。

 身内になったとはいえ、思春期の少女の部屋をノックもなしに開けるとは、俺も大胆な行動に出たもんだ。きっと訴えられてもいいレベルの事だろうな。


 ベルーアの部屋のドアを勢いよく閉め、ダッシュで隣の俺の部屋へと駆け込んで、ベッドの上へとへたり込む。

 心臓のバクバクは未だ収まらない。もしかしたら未来永劫収まりが付かないのではと言う気さえする程だ。


 にしてもいいスタイルだったよベルーアさん、偶然にも福眼を頂戴しましたよ。瞼を閉じると、今でも網膜に焼き付いているさっきまでの情景パラダイス


 少々湯だって紅みの差した顔がまた良かった!

 特に大きく見開いた目が特徴的だったなぁ。左目が茶色で右目がブルーのオッドアイ少女かぁ~、風呂上がりの外人さんは瞳まで色が変わるんだねぇ~。



 ……そんな訳あるか!



 ちょっと待ってくれ、俺の見間違いか? イヤイヤ、きっと俺の見間違いだ。そう、見間違いに決まっている!

 もしそれが俺の見間違いでなく事実であったとしたら……80パーセントくらいだったベルーアと謎のラノベとの関係の可能性が、99パーセント――いや、限りなく100パーに近くなってしまう。そんな非常識極まるビンゴは嫌だ! 何かの間違いだ!


 ――こんこん。


 不意にノックの音が響いた。

 誰だ? もしかして母ちゃんが夕食できたわよ~と言いに来たのか? いや、生まれてこの方、あの人がそんな気の利いた事なんてした事があるか? そうだ、来るとするならば、彼女だろう。


「あの……ちょっといいですか?」


 思った通り、ベルーアが扉をちょいと開けて、ひょっこり頭だけ出してこちらを伺いつつ言う。

 やはりと言うべきか……右目がアクアブルーで、左目はチョコレートブラウンのオッドアイだ。


「あ、ああいいよ」

「では、おじゃまします」


 突然の訪問にしどろもどろに答える俺。

 けど、さっきベルーアの部屋を閉めてから、そんなに時間はたってないぞ?


 そう思った瞬間、俺の目に映ったのは、激しいほどのデジャヴュだった!


「べ、ベルーア! お、お前服ぐらい着て来い!」


 そこにいたのはさっきと同じく、バスタオル一丁のベルーアさんだった。


「あ、ごめんんさい。でも、一刻も早くお話ししたい事があって」

「う、うん。何?」


 一応紳士を気取り、顔を背けながら答える。


「実はさっき、あなたが仰った事なんですけど」

「ああ、変なラノベと俺の友人の事?」

「そう、どこまでお気付きに?」

「ど、どこまでって……それ以上は何も。だからこそ君に聞いてるんじゃないか? 何か知ってるかって」

「……その程度しか分からなかったんですか?」

「……ああ」

「…………」

「…………」

「ア、ワターシナニモシリマセーン……デワシッツレイシマース」

「待てやコラ」

「ナニ? ワカリマセン」

「ウソ付け。余裕で何か隠してんだろ!」

「あ、やっぱり分かりますか?」



「なめんなよ、アホでも分かるわい!」



 そう言うと、ベルーアはやれやれと頭を振って一言。


「バレちゃいましたかー。ま、いずれは分かる事だし、いいか」


 なんだかおやつのつまみ食いを見られたかのように、舌を出してテヘっと笑う金髪少女。いやいや、もうそんな笑顔に騙されねぇぞ!


「まさかとは思うが――お前、あの奇妙なラノベに出てきた白金色の髪のオッドアイ少女か?」

「はい、そうですよ」


 あっけらかんと答えるなぁ……まぁ下手に隠されるよりマシだろう。


「で、なんで俺ん家に? その本の主役は大地なんだろ?」

「んー……成り行き上はそうなんですけどー」

「なんだよ、成り行き上って?」

「あ、気付いてなかったんですか? 本来の主役はあなた『だった』のですよ、アレ」

「へ?」

「ほら、書いてありませんでした? 『これはあなたの物語です』って」



「な、な、なんだとぉー!」



 俺の頭の中で、いろんなものが交錯する!

 あのラノベの物語は俺のためのもの? ハーレムも? 異世界も? チート性能も? ついでに言うと、このベルーアも恋愛の攻略対象だったって事?

 おいおい、それはどういう事だよ!


神夢起現書記しんむきげんしょきって知って……って知るわけないですよね。要は私の上司である奇跡を司る力天使ヴァーチュース様が、人間にラッキーサービスしてあげるために作った本なんです。それを与えられた人間の、心の奥の願望を物語にして、実現させるってのが神夢起現書記の力なんですけど……」

「お、おう……そ、それで?」

「で、あなたの願望をそのまま物語りに起こしたものが、あのコッテコテの中二病全開ラノ――」


「ちょ、ちょっとまった! その先は死にたくなるから言わないでくれぇ!」


 嘘だろ! あのこっぱづかしい内容の物語、あれは全部俺の願望だったってのか! そんな、そんなッ!



 …………ごめんなさい、白状します。正直に言うと「はい、その通りです」としか言えないわ。



 え? お前言ってる事と願望がぜんぜん違うくないかって?

 だ、だってさー、俺のようなお年頃の男の子は皆、「そんなガキっぽい事興味ないぜ!」みたいな事言いたいじゃないか? そんなの誰にも責められないよな!?


「それでですね。本の内容上では私、あなたの家に居候するって設定だったじゃないですか?」

「あ、ああそうだな。でもそれなら大地の家にでも――」

「ところが、既に居候先はこの家って決まってたものだから。今更変えられなかったんですよ」

「そうか、だから母ちゃんも父ちゃんも、あんなに都合よくお前の身を引き受けたのか」

「いいえ、あのご両親の性格は天性のものですよ?」


 ……じゃあなにか、俺の両親はものすごい天然のノーテンキって事か? 超バカなのか? 死ぬのか?


「あんなすばらしいご両親を悪く言うもんじゃないですよ!」


 本気の目で怒るベルーア。それってお前に都合がよかっただけじゃねぇのか?


「で、それはそうと……だ。何で俺が主人公であるハズの物語なのに、主人公が変わっちまったんだ?」

「ん?」

「『ん?』じゃねぇ! どーして俺が主人公じゃ無いのかと聞いてるんだ」

「あ、やっぱ気になります?」

「むちゃくちゃ気になるわ!」

「えへへ、やっぱごまかせきれませんねー」


 この女、やっぱ何かごまかそうとしてやがったのか。


「実は私、ヴァーチュース様の使役天使で、最近この本の案内役ナビゲーターを仰せつかったんですけどー……」

「おう、それで?」

「何せ初めてなもんだからー……間違って『佐藤大地』を主人公認定しちゃったんですよねー。テヘ♪」


「…………ハァッ?」


「ほんっとゴメンなさい! だって、向こうの方がかなり男前だし、かなり頭いいし、かなり運動能力も高いし、誰がどう見たって主人公っぽいじゃないですか? そりゃあ新人ナビゲーターだったら誰でも間違えちゃうってモノですよね、うんうん」


 一般企業なら一発でクビってレベルの失敗を、一人ウンウンと納得で済ませるベルーアさん。


「ちょっとまてよ、じゃあなにか? お前の勘違いで、俺のところにくるはずの幸運が、大地の所に行っちまったって事か?」

「うーん、そうとも言いますね」

「ふ、ふ、ふざけんなぁー! ハーレムだぞ! チート能力だぞ! ファンタジーだぞ! 世界中の夢見る男の子が求めてやまない願望なんだぞ! それが俺の元にやってきて、バラ色の人生を送れるはずだったのに! それなのに……それなのに!」

「まぁ、過ぎちゃった事は今更言っても仕方が無いじゃないですか。忘れてください」

「人事みたいに言うなぁ! お前がやらかしたんだろーが! お詫びに主人公で無くっていいから、俺もその世界で活躍させろ!」

「うーん、無理ですね」


 笑顔で手を合わせてゴメンナサイをするベルーアに、殺意すら覚えそうだ。


「な、何で無理なんだよ?」

「それはですね……他のモブ的キャラはもう決まってて、人数いっぱいなんですよ。あ、最初に訪れる村の入り口付近に立って、ずっと『ここは○○の村じゃぞい』って言う村人Aの役ならありますよ?」

「アホか! そんなもんなにが面白いんだよ!」

「あ、ならモンスターならどうですか? 今ちょうど一人空きあるんですよ」

「いい加減にしろ、どうせスライムか何かで、ソッコー2ポイントか3ポイントの経験値にされる役だろ?」

「いいえ。人間タイプのモンスターで、キャラクターを倒せばちゃんと経験値が入ってレベルアップもしますよ。レベルが上がると魔王軍の幹部とかにもなれるかもしれませんし……あ、初期設定でキャラエディットもちゃんと出来ますよ、条件は悪くないと思いますけどね」


 んー……ちょっと魅力。


「で、でも悪役だろ?」

「はい、何か問題でも?」

「いやその……そういったモノって、やっぱ正義の味方とか、世界を救うとかさ――」


「でも、村とか襲っていろいろ出来ますよ?」


「え?」


「やりたい放題ですよ? なにせ『悪』だから」


「…………」


 人間タイプのモンスターで、村を襲えて、村にはもちろん若い娘とか……。


「ま、まぁそこまで言うんなら、なってやらないでもないけどさ」

「んー……あ、でもやっぱこの役はマズいかなー? やっぱやめましょう、別の人を探して――」

「いや、イヤイヤ! 俺がなってあげよう! その悪役に!」

「そうですか? でもいろいろとお嫌(・・・・・・・)でしょ? この役――」


 やばい、このままじゃ俺完全無視で物語が進んじまう!


「まぁ嫌は嫌だけどさ……でもこれ以上ベルーアに、余計な負担をかけさせたくないし。俺がなってやるよ、そのモンスター役ってのをさ!」

「う~ん、じゃあお願いしちゃおうかな? ごめんなさいね、私のせいで主人公になれなかった上に、しかも悪役にさせてしまって」

「いやまぁ、困っている人がいたら見過ごせない、損な性格なんでね」

「……そんないい人じゃ、悪役は無理じゃないですか?」

「いやできる! できるともさ! 俺ってこう見えて、実は悪逆暴虐血も涙も無い人間で、所詮モンスターのような生き方がお似合いな無法者アウトローなんだ。つかさっさとやらせろ!」


 このチャンス、逃がすもんか! とばかりに詰め寄る。てか、俺にもいい思いさせろ!


「わ、わかりました。落ち着いてください……じゃあ早速、古の神々による戦いの祭典・アドラベルガへと旅立ちましょうか」

「お、おう! まったく異存は無いぜ」


 と、どこから出したのか、ベルーアの両手にでっかいトンカチが握られているのが俺の網膜に飛び込んできた。


「まて、それは一体……?」

「殴るんです」

「誰を?」

「あなたの頭を」

「何故!」

「まぁ、モンスター役の人があっちの世界へ行くための儀式? みたいなものですよ。大丈夫、痛いのは最初だけですから!」

「痛いんかい! あ、ちょ、まってれぼぐっ!」


 幾つもの星達が弾け飛び、俺の意識は地の果ての深い暗闇へと吸い込まれていった。



次話予告

異世界の入り口にある、キャラクターメイキング会場へと飛ばされた太一。そこで「シークレット」と明記されたレア種族を選択する。こうしてキャラクターは決まり、いよいよ異世界への旅が幕を開けた!

次回 第二章 「キャラクターメイキング」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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