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第六章 4 エリオデッタ姫

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


「……んぁ? ここは……?」


 気が付くと、そこは見慣れない一室。

 俺はどうやらベッドに横たわり、眠っていた様子。

 酷い気だるさと軽いめまい、そして記憶の混濁。なんだ、俺なんでこんなとこで寝てんだろう?


「あ、気が付かれましたか?」


 その聞き慣れぬ声に視線を移す。

 そこには、ぶかぶかの服を着た少女……そうだ、この子は侍女ちゃんだっけ。

 むくっと起きあがると同時に、額の上に置かれていた濡れタオルが、ぽとりと落ちる。なんだ、風邪でもひいたのか、俺。


「姫様、チーベルさん、ようやく気が付かれたようですよ!」

「んー……おはよう、みんな」

「まぁ、それは良かった。ひとまず安心ですわね」


 姫様の声がする。

 ……そう、ワダンダール国の姫様だ。

 侍女ちゃんの声に、ベッドへと駆け寄って来た姫様が、まぶしいような微笑で俺を見て、安堵のため息を零している。


「でも何でだ? なんで皆ここへ? つか、ここはどこだ?」

「ここはツングースカ閣下のご邸宅の一室。あなたはお風呂場で倒れて、意識をなくしておられたのですよ? きっと湯あたりでもなさったのでしょうね」

「風呂……意識……あっ! 姉さ――いや、ツングースカさんは?」

「師団長殿は突然の召集で、お城へと出かけていかれましたよ」


 どこからとも無く飛んできたチーベルが、俺の頭にちょこんと座り、あの人の行き先を告げた。


「俺、気を失ってたのか……も、もしかして、あの体験は夢? ど、道理でうわっついた展開だったよ……」

「夢じゃありませんよ? 太一さん」

「な、何! じゃ、じゃああの感触もあの肌触りも……本物?」


 こみ上げてくるニヤニヤをかみ殺しながら、かけられていたシーツをどかせて、ベッドから出る 


 ――と、なにやら下半身に違和感。

 

 つか、一部だけめっちゃ熱くて、その他はそこはかとなく涼しいんですけど?


「「……!」」


 途端、姫様と侍女ちゃんが顔を背け、俯き黙る。これってまさか……?


「だああああああ!! こ、これはとんだ粗相を!」


 慌ててシーツを下半身へとかけなおす。そう、今の俺は生まれたまんまのはだかんぼ状態だったんだ!

 しかも股間のタイチ二号はアルティメットフォームに変化してるし!


「……いえ、こ、こちらこそ……申し訳ありません」


 その言葉、表情には、恥ずかしさよりも、怯えが見え隠れしている……当然だ、「あんな目」にあった少女にこんなもの見せたとあっちゃ、そりゃ絶対マズイよな。

 自分で言って悲しいけど、たとえこんな粗末なものであってもさ……。


「そ、そうか。風呂で倒れていたんだもんな、裸なのはしょうがないよ。でも、俺ぜんぜん濡れてないけど?」

「それはですね、師団長さんが太一さんをここまで運びこんだ後、緑のおばあちゃんが身体を隅々までフキフキしてくれたんですよ」


 な、なんだと! またまた知らぬ間にばーちゃん攻略ルートが進展してしまったってのか!

 こ、これはいかん! 何とか回避しなければ。

 などと考えつつも、とりあえず下半身がお留守とは些か落ち着かない。ましてや一国のお姫様のおん前だ。事によっちゃ斬首確定な振る舞いだよな。


「わ、悪いけど、ズボンを取ってくれないか? あと、ちょっと後ろ向いてて……」

「は、はい……タイチさま、ズボンをどうぞ」


 侍女ちゃんが震える手で、俺に手渡してくれた。

 どんなに怖くったって、甲斐甲斐しく働く健気な子だ。


「安心しなよ。俺は何があったって、二人に危害は加えないさ。約束する」

「お気持ち、感謝いたします……タイチ様が怖いのではありません、どうぞ誤解なきように」


 ズボンを履き終え、もういいよと声をかける。振り返った姫様の表情は、まだなんとなくぎこちない。


「そうかい? ありがとう。その言葉に、なんだかちょっと救われたよ」

「救われたとは?」

「ああ、俺は魔族だろ? こんなナリしてるから、それだけでもあんたらをビビらせてるんじゃないかって思っててさ」

「そんな事はありませんわ……わたくしの中では……ロキシアよりもはるかに……」


 言葉を詰まらせる。

 無理もないさ……今の彼女の価値観の中では、人間よりモンスターの方が上だって事なんだろう。 それを言葉に出したせいで、無意識に持っていたそんな感情に気がついちゃったんだ。これって、あまりいい傾向とは言えないよな。


「ぐへへへぇ……でも俺、実はメッチャおっかねぇモンスターなんだぜ? なんてったってアミューゼル寺院の奴らを皆殺しにして、秘蔵の剣を奪った張本人なんだからさー」


 なんとか少しでも狂った価値観を払拭させたい。その気持ちが口を突いた。

 けれど姫様は、そんな俺の言葉に恐れを抱くより、クスクスと笑みを零した。

 芝居染みたセリフがまずかったかな?


「お気持ち、大変うれしゅうございます。大変失礼を申し上げるようで恐縮なのですが……タイチ様は一端のロキシアよりも、よほどロキシアの心をお持ちなのですね……尊敬に値する事ですわ」

「ば、バカいうなよ! お、お、俺は悪逆非道な魔物なんだぜ? そ、そ、そ、そんな俺を、中身がロキシアだとか変な事言ってんじゃねぇよ!」


 思わず否定の口が出る。が――おもっきし逆効果だったのは、この際認めるとしよう。


「ふふ、まあおそろしい。はい、そうですわね……これは失礼いたしました」


 クスクスと笑いながらの肯定。逆効果ではあったが、場の空気は少し変わったようだ。


 まぁこれで一段落。立ったままの会話ってのもどうかと思い、一度仕切りなおしとばかりに、姫様達に椅子への着席を勧め、俺はベッドへと腰を下ろした。


「ときに姫――」

「エリオデッタですわ……そうお呼びくださいまし」

「あー……ああ、エリオデッタ。君の歳はいくつなんだ?」

「はい、十六となりました。そこにいる侍女デオランスは十五にございます」


 じゅ、じゅうろく! しかも侍女ちゃんはじゅうご!

 エリオデッタは年相応に幼さを残しながらも、そこはかとなく大人の気品をまとっている感じだし、侍女ちゃんは歳の割りにしっかり屋さんだ!

 日本の女子達も、どうか是非この子達と同じ教育を受けてもらいたい!


「タイチ様はおいくつでいらっしゃいますの?」

「お、俺? 俺はその……記憶をなくしちゃって、いろいろ覚えてないんだよ」

「まぁ、それはお可愛そうに……」

「あー……でも、覚えている事はまだ結構残っているからさ、不自由はしてないぜ」


 哀れみの目を投げかけられ、思わず取り繕う。


「お強いのですね……タイチ様は」


 俺を哀れむ面持ちが、尊敬を示す表情へと変わった。

 や、やめてくれ! 俺は尊敬とか受けるような人間じゃないんだ。

 クズでエロでお人よしな、ラノベでよくいる主人公の引き立て役を担う友人Aがお似合いのキャラなんだよ。


「誰がなんと言われましょうとも、あなた様はわたくし達の救い主……この後は如何様にされても、不満の声を上げたりいたしません……そうでしょう、デオランス」

「はい、姫様」

「ああ大丈夫だよ、その辺は心配は要らない。ロキシアに情をかける度量のある魔物もいるって事さ……そう、あのベミシュラオさんも――俺と一緒にいた冴えない風体のおっちゃんね。あの人だって俺と考えは同じだ。いや、もっとロキシア寄りなのかもしれない。なにせあの時逃がした少女達を、わざわざ上官に嘘をついてまで、街へと送り届けに行ったんだ。魔物や人買いに攫われないようにさ」

「まぁ、あのおじさまが?」


 侍女ちゃんの少女チックな瞳がキラリと輝いた。

 むむ、これは……おじさまLOVEってやつなのか?


「そう、だから安心しな。それになにより、我等が師団長閣下が付いているさ」

「はい、よく存じ上げております……ですが……」

「ん? ですが、何?」


 少し考える素振りを見せた姫様が、意を決した表情で俺をまっすぐ見つめ、言う。


「ただ、気がかりなのは……我が国の行く末と――国の父上様の事。いえ……いえっ! もはや国がどうなろうとかまいません! どうせわたくしは、国に居りましても皆の気を使わせるだけの腫れ物なのです。わたくしは……わたくしは老いた父上様が、この先も無法の徒の言いなりとなり、苦しむ姿を見たくはありません! いっそのこと、国など滅べばよいのです。そして父上様と二人、恥を忍んで逃げ出し、どこぞの平和な地でひっそりと暮らせたならば……どれほどよいのでしょう」


 突然、エリオデッタの思いのたけが、堰を切って流れ出した。今まで積もり積もったものが、小さなほころびと共に、一斉に吹き出てきたのだろう。


「姫様……うう……さぞお辛うございましたでしょうや……」


 おまけに侍女ちゃんまでもが涙を流し始める……俺に要らぬ心配をかけまいと、かなり無理してたんだろうなぁ……そりゃ気を張るのも限度ってものがあるよ、にんげんだもの。


「姫……エリオデッタ。逃げちゃだめだ! なんて言わないさ。そう、逃げちゃってかまわないんだ。そして力を蓄え、チャンスを見つけて、また返り咲けばいいだけの事。ツングースカさんなんかの力ある者は「逃げるな、戦え!」と言うだろうけどさ、力のない者が戦うためには、逃げる事は何も戦いを放棄する事じゃないし、それに恥なんかでもない。立派な戦法だと思うんだ!」

「タイチ……様」

「ただ、責任は放棄しちゃだめだ。君は……君や王族の人達は国民を守る義務がある! それを放棄する事こそ、最も忌むべき行為じゃないか?」


 ああ、また俺の恥ずかしい黒歴史台詞ノートに、新たな一ページが!


「責任……責任ですか」

「ああ、それは持って生まれたものなんだ。君が責任を放棄する事は、君自身を放棄するって事なんだぜ?」

「そう……そうですわね……ですが、この先この身がどうなることやら判らぬ存在。正直に申しますと……一人で居りますと不安で胸が張り裂けそうで――」

「俺達が……少なくとも俺がゼッテー姫様を守ってやる! だから安心しろって!」


 どん! っと胸を叩き、見得を切る俺。

 たぶん今夜あたり、顔を真っ赤にして「ハズい……死にたい」と言いながら枕を濡らすんだろうな。


「タイチ様……」

「だから今は、逃げる時期なんだ。不安に泣いたっていいさ、喚いたっていい。でも、時が経てば絶対に立ち直れるって……君は俺なんかより――そう、誰よりもずっと強い心の持ち主なんだからさ」


 そう思うんだ。最初に会ったときから、ずっとな。

 気丈で、芯が強くて、聡明で。

 そりゃ弱さを見せるときもあるだろうよ、人間だもん。

 でもきっと、すぐに前よりもずっと強くなって立ち上がる。そんな気がするんだよな。


 だって、モンスターを向こうにして威勢を保つなんて、普通の少女にできるこっちゃないぜ?

 俺なら即、泣きながら土下座ゲザるだろうなぁ。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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