最終章 急 11 さらば三頭団2
「「「食らえ、邪神! 魂の終焉・究極形!!」」」
ルシファーを中心に、三方向から襲い来る、剣戟の真空波・鋼鎚の衝撃波・攻撃魔法の波動力。
それらが、尋常でないというくらいに、見た事の無い勢いと破壊力を秘め、中心地点へとめがけ――そして、炸裂した!
「 「 「 ド ォ ン ッ ! 」 」 」
三つの大轟音が、一つに重なり、周囲を薙ぎ払うかのように駆け抜ける。
距離を置いていた俺達ですら、立っているのがやっとという現状だ。その衝撃の中心にいるターゲットの被害状況は、推して知るべしだろう。
「レイチェルさん! ネルさん! オルステッドさん!」
俺の叫びは、彼らが起こした暴風にかき消され、ただ空しく散ってしまった。
「やった……のか?」
俺の横にいる大地の声が、うっすらと聞こえた。
それ程までに、大爆発の余韻が、激しく、そこいらを騒がせ、荒らし、視界も音も掻き消している。
だけど。
俺達に伝わる情報は、酷く期待を裏切るモノであふれていた。
「ちくしょう。ルシファーの闘氣がまだ、これでもかって程に伝わってくる」
そう。それは、邪神王の生存を意味し――いや、ダメージの一端すらも伺えない、厳しい現実を物語っていた。
「虫けら共よ……何かしたのか?」
地獄の底から湧き上がるような声。というのは、まさにこの事だろう。
闇と絶望を音にしたような「声」が、三人を、いやいや、俺達を嘲笑うかのように聞こえた。
どうやらルシファーには、こんな大規模な攻撃も児戯に等しかったらしく、子供のちょっとした悪戯に目を細める大人といった余裕を見せ――
「おいおい、ルーシーよォ。おめェのとっつぁんは、どうにもせっかちでいけねェな」
ネルさんの声だ。
爆煙の向こうから、彼の「まだやれるぜ」という、元気な声がした!
「そう。俺達はまだ、これが最終的攻撃技だなんて、一言も言ってないぜ」
オルステッドさんも、まだまだ健在という口調で、邪神へと語る。
「まぁ、いっこも効いてなかったのは、ちょい残念だけど」
レイチェルさんが、残念そうに語る。が、それほどの悔しさは感じられない。
って言うか、三人共、「まだまだ奥の手を隠してます!」と言う、余裕に満ち溢れてんじゃん!
「さ、三頭団のみんな!」
俺は嬉しさに、思わず声を上げた。
きっと、今のは準備運動か何かで本番はこれから。そして、とんでもない奥の手を使って、俺達六雄神をサポートしてくれる――いや、俺達を凌ぐような活躍で、邪神の野郎に封印の引導を渡す役目をこなしてくれるのだろう。
なんて事を考え、安堵していた俺は……爆風によって起こった砂塵が晴れた瞬間、愕然としてしまう。
「こ、これは……三頭団のみなさん!」
目の良いチーベルが、彼等に襲い掛かっていた出来事に、最初に気付いた。
「こ、こいつは大変だ!」
大地もソレに気付き、声を上げる。
勿論、俺も思わず、言葉にしてしまう。
「み、みんな……いつの間にか、攻撃を食らって……だ、大丈夫か!?」
そう。
三人は、それぞれが全身傷だらけで、至る所から血を噴き出している。という、とんでもない状況だ!
「あんだけの攻撃のヒットと同時に、それを防ぎ、尚且つ反撃する。底が知れねぇな、邪神ってのは」
ヤマノさんには分かっていたらしい。そう呟きながら、拳を強く握りしめている様子は、口惜しさの表れなのか。それとも強さへの畏怖なのか。
「なァに、大した事ァ無えよ」
「こんな傷、オロナインつけときゃ治るって」
「そういう事。でもね、今ので……ウチらにも、火が付いちゃったよ?」
もう、立っているのが不思議だというボロボロの身体で、まだまだ強気の発言。
だがそれは、強者が覚悟を決めた。という瞬間の具現化なのかもしれない。
「よォタイチ。俺達ぁオメェより年上なのに、何一つ大人っぽい事をしてやれなかったなァ」
「逆に。タイチちゃん達年下にさ、色々としてもらっちゃって。私達、お姉さんお兄さん役、失格だよね」
「タイチ。それにダイチ。せめて最後くらいは、年長者としての威厳ってーのを見せたい」
「 「 「 よ ぉ っ く 、 見 て て く れ 」 」 」
「な、何言ってんだよ三頭団! もういい、もういいってば!」
そんな俺の言葉に、三人のお兄さん(外見上は一人お姉さん)は、微笑だけ返した。
「よっしゃァッ! これからが本番だぜィ、ルーシーパパ」
「へへ、舞台は整ったな。俺達の本気、ビビッて腰ぬかすなよ」
「ほんじゃあ、まぁ。いっちょ行きますか」
「「「GOッ!」」」
三人が一斉に駆け、ルシファーとの距離を縮める。
その瞬間!
俺の目に、とんでもない光景が映ったのだった!
「あ……あの三人。身体から、黄金の腕が生えて……」
「ああ。三頭団の奴等、いつの間にか、神憑の第三段階まで……切り札として隠してたんだな」
大地が、俺の零した言葉を拾い上げ、補足するかのように言う。
三人に、絶大な力が宿っている。と言う証明にはなるんだけれど――邪神から言わせれば、「だから? それがどうした」と言わんばかりの、相変わらずの無表情、ノーリアクションだ。
「オララララらァッ!」
「でりゃあっ! つぇいッ!」
「そりゃああっ!」
三人の、6本プラス6本、合計12本の腕が、マシンガンのように邪神・ルシファーへと炸裂する。
流石に、その全てを防ぐ事は難しく、邪神へのヒットが見て取れるのだけれど……如何せん、効いていない。
「それが……攻撃と申すか」
そして、「鬱陶しい!」と言わんばかりに、
「攻撃とは……このようにするのだ!」
ルシファーの、腕の一振りが、三人を弾き返す!
「「「うわっ!」」」
まるで、小学生と大人程の力の差。
その差は、リミッターの付いた神様の力では、どうやったって埋める事は出来ない。
「やれっか? ネルさん、レイチェル」
「おう、当然だぜィ」
「もち! あったまってきたところ」
「オッケー。ほんじゃ、リアル世界でまた会おうな」
「「了解!」」
三人は、また懲りもせずに、邪神へと挑む。
手数では、遥かに上回って入るものの、その一発一撃は、さしてダメージが無いのは、分かり切っている。
それでも、彼等は攻撃の手を緩めない。
もしかしたら、その攻撃回数の分、ラッキーな一撃が一発でも入ればいいや。的な考えで、ただがむしゃらに攻めているのかもしれない。
いや、俺はアホか? 違うだろ。
あの三頭団が、そんな運任せの攻撃をする筈無いじゃないか!
あの人達は、命を賭して戦ってんだぜ? その意味するところはぜってーあるに決まっている!
そんな事を自分自身に言い聞かせている最中の事。
大地が、とある異変に気付き始めた。
「……タイチ」
「な、何?」
「気付いてるか?」
「え? な、何をさ」
「三頭団の奴等……黄金の腕を、神様の腕を……引っ込めている」
「う、うそん! そんなことしたら手数が……それに、まだああやって、現に黄金色に輝いた腕が……」
言われて、俺もようやく気が付いた。
三人の12本の腕が、何時しかその数を減らし、6本へと逆戻りしているじゃないか。
そして、それと同時に、彼等の腕が、黄金色に輝いて……
「いいか、タイチ、ダイチ。あの三バカ達が、命を賭してお前らに何かを教えようとしてんだ。よぉっく目に焼き付けとけよ」
ヤマノさんが、俺達へと小さく零した。
すると大地は、三人の「生きざま」を凝視しつつ、一つ頷き、
「たった今……スッゲェ大きな財産を受け取ったよ」
と、目に涙を浮かべながら、言葉少なに返したのだった。
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!




