第六章 2 お風呂場にて
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
食事の途中、分身したもう一人のばーちゃんが現れた。
「……そうか。ああ、わかった」
「ばーちゃんB」がツングースカさんになにやら耳打ちし、礼と共にそそくさと退出する。
そしてナイフとフォークを置いたツングースカさんが、膝に置いていたナプキンで口を拭き、俺に言った。
「タイチ、話すべき事が二つある。そのまま聞け」
「は、はい!」
些か緊張がみなぎる。きっと作戦行動的な話なんだろう。
「まず一つ……先ほど伝令妖精にて、大魔王様に直接『アスタロスの剣』の話を伝えたところ、明日正午より御前会議が招集される運びとなった。今、その旨の伝令が届いたそうだ」
「そうなんですか、いよいよ本格的ですね」
「そこでだ、お前も出席しろ」
「お、俺もっすか!」
「当然だ。なにせお前が仕入れた情報だからな。ついでにほかの幹部連にも面通しさせてやる」
「ははっ……て、良いんですか? 俺なんか下っ端が、そんな大それた会議に出席しちゃって」
「かまわんさ、貴様はウチのルーキーだからな。ゴタゴタ抜かす奴がいたらぶっ飛ばしてやるさ」
なんだかえらく信頼されてるようだけど、大丈夫なのか、俺?
「そしてもう一つ。これは言い忘れていた事だが……昼前にアメリアスから伝言を頼まれていてな」
「アメリアスからですか?」
「うむ。帰城してすぐに、ヴァンパイア族への急な出撃命令が出てな……これからロキシアの軍勢に対し、夜間急襲を仕掛ける任に就くらしい。で、今日はその辺で雑草でも食って野宿しろと言う事だ」
「の、野宿っすか! つか雑草って!」
はははと笑うツングースカさん。こ、こうしちゃいられない! 今のうちに食いだめしとかなきゃ。
「まぁそれはきっと、冗談で言ったのだ。聞き流してやれ」
「いや、あいつの事ですし、きっと九割九分マジですよ!」
「いやいや。ちゃんとベイノール家の執事に貴様の事をよろしく頼むと、連絡を取ろうとしていたんだ」
「そ、そうですか……え? 取ろうと『していた』ですか?」
「ああ。私が止めた」
「な、なんでですかぁ~!」
「心配するな。今日は我が家へ泊まらせればいい、と言ってやったんだ」
な、なんと! ツングースカさんのお宅へお泊り決定?
「そ、そうですか! それはありがとうございます」
「ああ、今日はもう任務も無い。ゆっくりしていけ。だがアメリアスの奴、貴様を私の家に泊まらせるから心配するなと言ったら、貴様に野宿せよと伝えてくれと、なんだか必死になっていたが……なんだ、貴様は野宿が好きなのか?」
「と、とんでもない! 俺はあったかお布団でしか寝れないひ弱な子なんです!」
「そうか、まぁいい。部屋も用意してある、気兼ね無く寛げ」
「はっ! ……でも、アメリアスの奴大丈夫かな?」
なんとなく心配になる。
「なぁに、我が軍団でも最強を誇るヴァンパイア軍団だ。たとえ天主の代行者が現れようと、ベイノール家当主グランゼリア殿なら容易く伏せてくれるだろう」
あの変なテンションのアメリアスのとーちゃんか。あの人、そんなに強いんだ?
「伊達に最高貴族の四家を名乗ってはいないぞ、心配するな」
それならいいのだけれど……俺の虫の知らせって、結構高確率で何らかの結果を出してるんだよなぁ……。
「私はこれから、明日の打ち合わせの伝令を飛ばす準備がある。貴様らはゆっくり食事をしてくれ」
「はい!」
「ツングースカ閣下。お心遣い感謝いたします」
立ち上がり、深々と頭を垂れる姫様と侍女ちゃんにつられて、俺も直立不動でツングースカさんをお見送り。
そして姿が見えなくなると同時に、またまた戦闘開始! 目の前の敵を残らず平らげる作業へと取り掛かる。
と、姫様の食が進んでいない事に気付き、思わず尋ねた。
「姫さま、どうした? 食が進んでないようだけど」
「あらまぁ、お口に合いませんでしたか?」
緑のばーちゃんが心配そうに伺いを立てる。
「いえ、どれもおいしゅうございます。ですが……今は……」
消え入りそうな声。気丈に笑ってはいたけれど、やはり色々と気に病んでいたのだろう。
当然だ。ここはロキシアに対して敵意渦巻く、魔物の首都のど真ん中。いくらツングースカさんの庇護がるとは言え、一寸先は闇状態だもんな。
――だけど!
「姫様よ。気持ちは痛いほど判るが、今は悩んだってどうしようもない。それより、目の前にこんな幸せな気分になれる食事がたくさんあるんだ! まずはそれをしこたま腹の中に詰めて、気力を充実させるべきじゃないかな? そして、俺達が味方になるにせよ、敵になるにせよ、来るべきチャンス到来の時へ向けて、体力をつけておかなきゃ、イザッて時に困るぜ?」
少し複雑な表情を見せる、エリオデッタ姫。が、そんなお姫さんの後押しをするように、侍女ちゃんが急に目の前のシチューをがっつき始めた。
「ああ、おいしい! 本当においしゅうございますわ、姫様。魔物様の――タイチ様の仰る通り、心身ともに健康でなければなりません。そのためには……たくさん食べてたくさん笑ってたくさん寝て。あ、でも――太ってしまったら困りますわね?」
侍女ちゃんのおどけて言うその言葉に、姫様が嫣然として微笑んだ。
「そう……そうですね。せっかくのおいしい食事がもったいない。これではおばあさまの苦労も報われないことでしょう。無理にでも食事を取る、これが今のわたくしの使命なのでしょうね。タイチ様……お心遣い痛み入ります」
そう言って、シチューに口をつける。お上品な口が食べ物を求める度、俺の気持ちに安堵の色が染みてくるようだ。
「動けん……今、動いたら100パーの確立でリバースする」
「昨日もこんな光景を見た気がしますが、きっと私の記憶違いなのでしょう」
緑のばーちゃんに案内された部屋のベッドで、冷凍されセリにかけられるマグロのように横たわる俺。
そんな姿を哀れみの目とため息でチーベルが責める。
だってしょうがないじゃないか! あんなにおいしい食事なんだぜ? しかも、姫様の食が回復したら、嬉しくなってついつい俺も食い物を口に運んじまったんだよな。
「舌の根も乾かないうちに同じ過ちとは……流石は太一さんですね」
「ははは、そんなに褒めるな」
既にチーベルの嫌味も軽く聞き流せるようになった。その程度じゃ、俺のハートはまったく傷付かないぜ?
と、そんな他愛も無い会話の最中、ドアをノックする音が響いた。
「はーい、誰?」
「お風呂の準備が整いましたよ、おはいりなさい」
ばーちゃんの声だ。風呂か……ベッドでゴロゴロするより、何ぼかましだな。そう考え、「はーい!」と返事。
メタボチックな身体をよいせ! っと起こし、リバースの兆候が無いことを確かめ、いざ風呂へ!
ばーちゃんの案内の下、やってきたお風呂場。
そこには総大理石で、一度に二十人ほどが浸かれる様な絢爛な広々とした浴槽のある、アメリアスん家の風呂に匹敵するほどの豪華さだった。
「くはぁー! 極楽極楽。これって湯船に浸かるだけで二、三年は長生きできるんじゃね? そんぐらいゴージャスだわ」
「そうですね。あ、見てください! ジャグジーのお風呂もありますよ! 私ここに住みたいです」
そう言って、豪快に湯船へと飛び込むチーベル。このやろう、ちゃんと身体を流してから入れよ、マナー違反だぞ!
「大丈夫ですよ。私はほ太一さんと違って、ほとんど汚れてませんから。(心とか)」
なんか最後に小さく酷い事を言われた気がするけれど、まぁそんな細かい事はこのお風呂の前では些細な事だ。お湯をぶっ掛けてやるだけで許してやろう。
「きゃー! やりましたね? えい、お返しですよ。あはは、それそれー!」
余程この風呂が気に入ったのか、やけにチーベルがハイテンションで楽しんでいる。
――と、そんな入浴タイムを楽しむ俺達へと、どこからか不意に声がかかった。
「何だ? やけに楽しそうだな。私も混ぜてくれ」
と、無意識に声の方へと視線が走る。
湯気の向こうから近づいてくる人影に、俺の心の臓は核爆発を起こしかけた!
「ちょ、ちょっとツングースカさん! な、な、な、なに入ってきてるんですか!」
えらいもんを見ちまった!
蒼くすべすべな肌!
豊満な胸!
ぎゅぎゅっと引き締まった腰!
そして安産確定のヒップライン!
そう、無修正ですよお客さん!
モザイクはおろか、タオルで前を隠そうともしていない!
つーか、タオルを肩に小粋にかけた、めちゃくちゃ男前な入浴スタイル!
「なんだ? 別にいいだろう、減るもんでもないしな」
減ります! つか減りました! 俺のライフは残り1です!
「ん? タイチは意外と純朴だな。まぁ、裸の付き合いもいいものだぞ?」
「いやもちろん良いですとも! いやよくないですよ! 男同士の裸の付き合いじゃないんですから、いろいろとその……」
「なんだ、貴様は男の方が好きなのか?」
「天地神明に誓って女性の方が良いです!」
「あははは! ならいいじゃないか、気にするな――では失礼するぞ……うい~、よっこらせっと」
おっさんだ、乳のでかいおっさんが横にいる……そう思わせるほど、豪放磊落にもほどがあるツングースカさん。
だが現実は……俺の横に裸の女性!
魔族ではあるけれど、肌が青い意外はまったく普通のお姉さんと……いや、超ナイスバディーなお姉さんと変わりは無い!
いくらツングースカさんが気にしなくとも、俺の下半身の早期警戒衛星がアラートを鳴らしまくってる状況に、自分自身が気になって仕方が無いッスよ!
「あ~……風呂は良いなぁ。そうは思わんか、タイチ」
「うぇっ! は、はい! そう思います」
これは……何かの試験か?
ツングースカさんは俺の何を試そうと言うのだろう?
誰か答えを知っていたら教えてくれ!
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!